転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第三十話 ハーフ

「パーティー? 勿論いいよ。君達と一緒なら試験にも余裕で合格できるし」
試験に向けてパーティーメンバーとしてテイクを誘ってみると一発OK。これで三人だ。
「そういえば試験って何をするんだ?」
「聞いてないの? 都市の外で一週間のサバイバル生活だよ。将来騎士になるのならモンスター討伐で長期間の遠征もよくあるから今の内にサバイバル知識と技術を身に付けておくんだ」
へぇ、思っていたのと大分違うな。てっきり筆記や剣の腕前を見るだけかと思ってた。
まぁそれでも苦ではないな。
「他のパーティーとの協力は禁止。自分達のパーティーで一週間モンスターがでる森でのサバイバル生活をしないといけないから結構厳しいんだ。死人も出たことあるって」
「おいおい、それでいいのかよ?」
「この学院は実力主義だからね。そうなっても学院は何の責任も取らないんだ。あくまで死んだその人が弱かったのが原因として処理されるからね」
流石は異世界。命の値段が軽い。
「貴族や王族は最初のこの試験で根を上げて実家かそれに関わる仕事をするようになるらしいよ? 相当腕に自信がある人や強い意思がある人は別だろうけど。君達みたいに」
そりゃ俺はスキルがあるしジャンヌは騎士になる為にこの学院に入った。俺はともかくジャンヌが一週間程度のサバイバル生活でそれを諦めるわけがない。
「それでパーティーメンバーを申請するとしても後一人はどうするの?」
「そこが問題なんだよな。二人は他にメンバーに候補はいるか?」
「………………………………いるにはいるけど」
「誰も入りたがらないのよね。貴方のせいで」
「俺?」
なんでそこで俺が出てくる?
「トムとジャンヌさんがいるパーティーならきっと誰も入りたいとは思うけど、その代わりトムが何を要求してくるかわからないから皆尻込みしているんだよ」
「何も要求する気ねえよ」
「トム。貴方、自分の噂知らないの?」
「噂? アレか? 悪魔とかそういうのか?」
「それもあるけどこの学院で貴方の噂を全員は耳にしているはずよ」
「悪魔の如き所業と剣を打つ為にドラゴンまでも材料にする狂人。種族問わず女性を手籠めにする鬼畜外道。他にも色々と凄い噂が流れてるよ?」
「尾鰭付けすぎだろ!? 俺はそこまでイカれてねぇ!!」
それに誰も手籠めにした覚えはねぇっての!! そういうのはリリスが考えているぐらいだぞ!
「そんな噂が流れているから皆貴方に怯えているのよ。次は何時自分が狙われるんじゃないかって」
「その噂を流した奴を連れてこい! 剣の錆にしてやる!!」
だから皆俺を避けるようにしていたのか!? ようやく納得できたわ!!
「入学の時から知っている僕はともかく他の人達でトムがいるパーティーに入る人はそうはいないだろうね」
「………………………………なんかごめん」
俺のせいでこの二人に迷惑をかけてしまうなんて………………ちょっと反省。
でもそうなると三人で試験を受けるしかないか。
「おぉ、トム。ここにおったか」
「カイドラ先生……………?」
そう思っていると先生が俺に声をかけてきた。
「お主、試験のメンバーはもう決まっておるのか?」
「いや、後一人足りなくて……………」
「それなら話が早い。こやつをお主のパーティーに入れてやって欲しいんじゃ」
先生が横に動くと小柄な少女が姿を見せる。
小学生ほどの背丈をした白髪の少女。人見知りなのかすぐに先生の後ろに隠れてしまう。
「ほれ、挨拶ぐらいせんか」
「………………………………………………………ナンです」
小声で名前を教えてくれるナンという少女に先生は息を漏らす。
「すまんのぉ。こやつは儂の娘でな。実力は保証するが……………なんというか」
「訳アリですか?」
言葉を濁らす先生に俺はそう尋ねると先生は神妙な顔で頷いた。
「見た目はこんなんじゃがこやつは人間とドワーフのハーフでな。嫌われとるんじゃよ」
「え、こんなに可愛いのに?」
どう見ても美少女だぞ? ロリコンなら一発KOだな。
するとテイクが耳打ちする。
「ハーフは半端な存在だから毛嫌いする人が結構いるんだ」
ああ、嫌われているってそういうことね。まったくこんなに可愛い女の子をハーフだからという理由で毛嫌いする奴の気持ちがわからん。
「お主ならそういうのを気にせんと思って声をかけてみたんじゃ。どうじゃ?」
「俺はむしろ歓迎ですけど……………」
後ろにいる二人を見る。
「私も構わないわ」
「僕も」
二人共ハーフだからといって気にしていないみたいだ。
「なら決定だな。えっとナンでよかったよな? よろしく」
挨拶として手を伸ばすも酷く怯えられた。だけど怯えながらも手を伸ばして俺と握手した。
見た目以上に小さい手だな…………。
悪い子ではない。けど、試験から一週間は一緒に行動するから早く慣れて欲しいものだ。
そして試験に向けてのパーティーメンバーが決まった。


「お帰りなさいませ」
「ただいま」
家に帰るとセシリアを始めとするエルフ達が出迎えてくれる。美女美少女エルフ達の出迎えとはいいものだけどもっとフレンドリーにしてもいいんだけどな……………。
「お帰りなさいませ、ご主人様、ジャンヌ様」
「ああ、ただいま」
奥からリリスが懐かしい深紅のドレス姿でやってくる。そういえば初めてリリスを召喚した時もその恰好だったな。
「私は庭で剣を振ってくるけどトムはどうするの?」
「そうだな。今日は特に何かする予定もないからさっさと風呂にでも入るか」
「そう思いすぐにでも入浴は可能です」
「そっか。なら俺は風呂に行くわ。汗もかいてるし」
俺はさっさと汗を流す為に風呂場に向かう。
新しい家の風呂場は広い。十人以上は一度に入れるほどの広さを持つ風呂を俺一人で使えるとは日本にいた頃では想像もできなかった。本当にリリスには感謝だな。
俺は軽く汗を流して広い浴槽に身体をいれて浸かる。
「はぁ~~~」
異世界に来て最初はお湯で身体を拭う程度だったからこうして風呂に入ると自分が日本人だということがよくわかる。一般家庭でも風呂に入れる現代社会はある意味幸せなことかもしれない。
「失礼します」
風呂のありがたさに感慨深くなっているとセシリアが入ってきた。
「お~どうした?」
残念なことに全裸でもタオル一枚だけでもなく、普通に服を着たまま入ってきたセシリアに声をかけるとセシリアは袖をめくる。
「お背中を流しにきました」
「よろしく頼む」
それを断る理由は俺にはなかった。理由? そんなものはいらん。
俺は椅子に腰を掛けて背中をセシリアに向けるとセシリアは早速俺の背中を洗ってくれる。
なんというかエルフって真面目というか義理堅いというか、もっと自由に動いてもいいと思うんだけどな…………………。
「貴方は不思議な人だ」
「はぁ?」
不意にセシリアがそんなことを言い出した。
「私は貴方の事を信用しているとはいえ警戒していないわけではない。にも関わらず貴方は我々に何かを強制させることもこの身を辱めることもしなかった。貴方ほどの実力者ならそれぐらい容易い筈なのに」
「いや、無理矢理は趣味じゃないし……………」
「それどころか食事も掃除も私達に任せて警戒しないとは。もし、我々の誰かが食事に毒を盛ったり、部屋に罠でも張っていれば死んでいてもおかしくはなかった」
「え? してたの?」
もしかして給仕をやる理由でそれだったのか!?
「いえ、人間に対する嫌悪感のあまりそういう暴走をすることも考えられるという話です。我々もいくら嫌悪している人間相手とはいえ恩を仇で返す真似はしない」
それを聞いてほっとする。
「我々を奴隷としても商品としても扱わず、それどころか対等な関係を築こうとしている貴方に私は恩義と同じくらいに感謝もしている」
そう思われていたのか…………。俺的にはもっと親しみやすい関係になりたいんだけどなぁ。
「ですのでそんな貴方になら純潔を捧げてもいいと思っている」
「ホワイ?」
思わず英語を発して顔を後ろに向けると茹で上がったタコのように顔を赤くしているセシリアがいた。
「シュティアさんとは比べるまでもない貧相な身ではあるも異性を喜ばせることぐらいはできると思います。それに男の方は我慢ができなくなる時があると聞く。そういう時に他の同胞に手を出すぐらいでしたら私に一声かけてください。きちんと相手を務めます」
………………………………………………これはアレか? いつでも襲っていいってことか?
頼めばやらしてくれるというのか? それとも他のエルフに手を出すぐらいならこの身を犠牲にしてでもという自己犠牲精神なのか?
いや誤解がないように言うけど俺は大きい方が好きなだけであって小さいのが嫌いというわけではない。女性の胸には小さいのから大きいのまでそれぞれの魅力があるからな。
だからそんなことを言われたらドキリとしてしまう。
ここは男の見せどころか? 今日の夜にでも早速相手をして貰おうか? エルフで童貞卒業というのも全然問題はない。いっそのことここで………………………。
俺は振り返ってセシリアと向かい合って抱き着いてみる。一瞬凄く驚いたけど俺の背中に腕を回して抱き返してきた。
貧相と言っていた身体もちゃんと柔らかくて女の子特有に匂いがする。
キスしてそのまま一気に………………………。
童貞卒業。そう思った時、風呂場の扉が開いてタオル姿一枚のシュティアと目が合った。
「え~~~~~と、お邪魔だよね? ごめんね」
苦笑しながらそっと扉を閉めるシュティアになんとも言えない空気のなかで俺は心の中で叫ぶ。
どうしてあと一歩のところで邪魔が入るんだよ!!
俺の童貞卒業はまだまだ先になりそうだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品