転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第二十六話 下っ端

奴隷市場で魔乳美女である牛人キャトルの奴隷購入を一度諦めてエルフ達を助けに行く俺達なのだが、道中でジャンヌが呆れたように息を吐いた。
「まったく貴方は…………胸が大きかったらなんでもいいの?」
「否定はしない」
「そこは嘘でも否定して欲しかったわ…………」
ジャンヌはどっと疲れたかのように溜息を吐くも俺にもそれを求める理由というものがある。
「ジャンヌ。お前は小さい頃に母親に抱きしめられたことはあるか?」
「え? そ、それはまぁ、あるけど…………」
「その時、安心感を得られたり、心が安らいだか?」
「あるけど…………それがどうしたのよ?」
怪訝するジャンヌの肩を掴んで俺は全ての男性代表として告げる。
「男の子にとっておっぱいはまさにそれなんだ。だから男の子はおっぱいを求めてしまうんだよ」
「え、えぇ…………?」
「そこに性欲が絡んでいないとは言わない。大なり小なり欲情しているのは認める。けど、それは子孫を残そうとする男の性というものでどうしようもないんだ。けれど男の子にとって女性のおっぱいで癒しで、それこそ幼い頃に体験した母の温もりそのものなんだ。それが大きければ大きいほどに本能が癒しを求めて手を伸ばしてしまう。それが男という生物だ」
俺はジャンヌに男がおっぱいを求めることについて力説する。
俺の会心の言葉にジャンヌは――
「それで本音は?」
「大きいおっぱいが大好きです。ハッ」
「やっぱり変態じゃない」
うっかり口を滑らせてしまい汚物を見るかのような目で見てくる。
くっ、伊達に一緒に暮らしているだけあって俺の事を理解してきているようだな…………。
なら、俺にも考えがある。
「ということで今回の一件が解決したら俺はあの牛人キャトルを買って俺の奴隷にする」
開き直って前向きに奴隷を購入する。
「何がというわけよ!? 騎士が奴隷を買うなんて恥知らずもいいとこだわ!」
「俺は騎士じゃありませーん。鍛冶師だからいいのでーす」
「私が恥ずかしいから止めなさい! というかそんなお金がないでしょうが!?」
「そんなもんこれから対峙する盗賊の盗品を売り払って金にする。なかったら盗賊を肉体奴隷として売り払う」
「そんなの盗賊と同じじゃない!? 恥を知りなさい!」
「因果応報。むしろ殺さないだけ感謝して欲しいぐらいだ」
「どうしてそこまでして女性の胸を求めるのよ!?」
「男の本能と言っておこう」
「そんなにおっぱいを触りたいのなら私のを触らせてあげるわよ!!」
「へ?」
「あ?」
「あらまぁ」
「………………………………不潔」
ジャンヌの大胆発言に一同固まる。そしてジャンヌは少し遅れて自分が何を言ったのか理解して顔を赤くしていく。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ」
「おっと、よしよし」
手綱を握っているリリスに飛びつくように抱き着くジャンヌを片手で受け止めて慰めるリリス。
なんだよ、お前も好きなんじゃないか。おっぱい。
しかしジャンヌのおっぱいか…………。背中の感触は生涯忘れることはないけどそれを自分の手で体験できる言質は獲得したし、これを理由に触れるか挑戦してみるのも一興だな。
リリスのおっぱいに顔を埋めるジャンヌを見ながら俺はジャンヌが落ち着くまで魔剣でも研ぐとするか…………。からかう相手もいなくて暇だし。
俺は鞘から魔剣を取り出して持って来た砥石を使って研磨する。
待っていろよ、もうすぐお前に血を吸わせてやるからな…………。
魔剣を研ぎながら街道を進んで行く俺達。だが、馬車が急に動きを止めた。
「どうした?」
「ご主人様。あれを」
リリスに促されて前を見ると数人の如何にも盗賊の恰好をした男性達が通行止めをしていた。
「おっとここから先は通行料がいるぜ?」
「痛い目に遭いたくなければ金目のものを渡しな」
「そこの上玉の女をくれるでもいいぜ?」
これ以上にないぐらいわかりやすい盗賊達に俺は逆にどう反応すればいいのか悩んだ。
すると後ろにいたセシリアが男性達を見て表情を怒りで歪ませる。
「貴様等は…………私の里を襲った盗賊共ッ!?」
セシリアの言葉に男性達はエルフの里を襲撃した盗賊の一員だということがわかった。
「おっ、あの時逃げたエルフじゃねえか」
「わざわざ俺達に捕まりに来るとはな」
セシリアがエルフだと気付いて笑みを深める盗賊達にセシリアは短剣を抜いて突貫する前に俺は魔力弾マジックバレットを乱射させた。
「がっ!?」
「ぐぁ!?」
「ぐほっ!?」
魔力弾マジックバレットは見事盗賊に当たって吹き飛ばされ、俺は続けて魔力糸で盗賊達を拘束する。
「よし、捕獲成功」
手際よく捕獲を済ませる。
盗賊も剣で接近か魔法で詠唱かのどちらかで攻撃してくると思っていたのだろう。それに俺以外は全員女だからご褒美でも来たと思って油断していたんだろ。だから予想外な攻撃に不意を突かれて攻撃を受けた。
ふっ、愚かなことだ………………………。
兎に角捕獲に成功したんだ。こいつらから情報でも聞き出すとするか。
盗賊達から情報を聞き出そうと馬車から降りる。
「エルフ達はどこにいるの?」
「ハッ、誰が答えるかよ」
ジャンヌが険しい顔で問いかけるもこの盗賊達からは余裕そうに答える。
「俺達にこんなことしてタダで済むと思うなよ? 俺達のボスは強力な悪魔を使役しているんだ。そいつを使えばお前らみんなお陀仏だ」
なるほど。こいつらの余裕の正体は自分達の後ろに強い味方がいるからなのか。
ちょっと揺さぶってみるか………………………。
「そのボスにとってお前達は助けに来るほどの価値があるのか?」
「あぁ? どういう意味だ?」
「わざわざ手間をかけてまでお前達を助けに来るのかって聞いているんだよ。考えてみろ、捕まったお前等を助ける為に徒労する価値がお前達にあるとは思えないが?」
「………………当然だ。ボスは必ず俺達を助けに来るに決まってる」
少し迷いがあったな。向こうから来てくれるならわざわざこちらから出向く必要はないけどエルフのことについても知っておきたいし。
「拷問するか」
「「「「「「え?」」」」」」
ぽつりとでた俺の言葉に俺以外の全員が目を丸くしたけど俺は気にせず魔剣を抜いて炎を放出させる。ジャンヌの剣から出す聖なる炎とは正反対の禍々しい漆黒の炎だ。
「あの、トム……………?」
「お前等知っているか? 人を拷問する時にもっとも使用されるものを」
魔剣の炎を見せながら俺はそれを教える。
「火だよ。出血する刃物や骨を砕く鈍器と違って火は人の皮膚の表面を焼くだけで済む。モンスターや動物にはそこまで効果はないけど人は痛みと熱に敏感だからとっても効果があるんだ。おまけに中々死ねないから拷問官は火を好んで使う」
口角を上げながら縛り上げている盗賊に近づく。
「火は人間に激しい痛みを与え、気絶することだって許されない。皮膚はグズグズに、火が肺に入れば肺が焼けて叫び声もあげられないか試してみようか?」
「「「ひぃぃぃいいいいいいいいいいっっ!?」」」
後退りする盗賊達。だけど縛り上げているのは俺の魔力だから逃走は許されない。
「情報を聞き出すだけなら一人だけで十分だし、後は最後に残る人が正直に話して貰えるように見せしめになってもらおうか。それでも喋らないのなら少しずつ切り刻んで喋りたくなるようにしてやる」
「アチ! アチチチチチチチチチチチチ! やめ、やめてくれ!」
「やめてくれ? 可笑しなことを言うな? お前達盗賊は相手がやめてくれって言ったらやめたのか? していないだろう? 何かをするなら何かをされる覚悟を持たないと」
「わ、わかった! 話す! 俺達の知っている事を全て話すから! だから、命だけは、命だけは助けてくれ!!」
拷問を始めようとした瞬間一人がギブアップしたので俺は魔剣から炎を消す。
「いいだろう。命だけは助けてやる」
俺の言葉に安堵する盗賊達。
「だけど嘘の情報を教えたら即座に焼くからそのつもりでいろよ?」
顔がもう青を通り越して白に染まり、首を縦に振る。
うむ。俺のハッタリも中々上手くいくものだな。流石に拷問はしたくないし、けど情報が必要だったからそれらしいことを言ってみたけど効果覿面だ。
情報を聞いたら木にでも縛り付けて帰りに奴隷商人に売り払うか。
そして俺達はその盗賊からアジトの居場所とエルフ達が今もそのアジトにいることを知ってその場所に向かうけど。
「流石はご主人様。見事な脅し文句です」
「ねぇ、トム。貴方は過去に何かあったの……………?」
「………………………………」
リリスからは褒められ、ジャンヌからは哀れまれて、セシリアに至ってはこっちすら見ていない。
え? なにその反応? ちょっと漫画の真似をしてみただけじゃん。

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