転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第二十五話 奴隷市場

セシリアの仲間であるエルフ達を救う為にレギュレーンにやってきた俺達は自分達の知らない街、人々、店に新たな刺激を感じながら流れるように武器屋に入ろうとして。
「目的が違うでしょうが」
「ハッ!」
ジャンヌに阻まれて俺は自分の足が自然な流れで武器屋に入ろうとしている事に気付いた。
「俺、どうして初めて来た街なのに息を吸う様にここに入ろうとしたんだ……………?」
「そんなの私が聞きたいわよ」
まるで蜜に吸い寄せられた蜂のように動いていたぞ、俺…………………。
ここまで来ると俺の武器好きももはや病気の類だな。
「ここよりも先に行くところがあるでしょう? 全部終わったら後でまた来ましょう」
「そうだな。まずは奴隷市場からだったな」
まずは既にエルフ達が奴隷商に売り払われていないかどうか確認する為にこの街に入ったんだ。
リリスの推測通り、盗賊達がこの街にやってきてエルフ達を売り払っていたら既にこの街にいる。そうでないのならまだこの街の外か別の街だ。
どちらにしろまずは確認する必要がある。
「でも、もしいたらどうするの…………? どうにかしてはあげたいけど………………」
「そんなのこの魔剣を売って金にする」
奴隷の強奪は犯罪だから一番平和的な解決方法は奴隷であるエルフを買う。しかしエルフは高いから大金が必要になるからいざという時はこの魔剣を売り払って金にしよう。
交渉すればそれなりの金にはなるだろう。
すると、全員が驚いた顔で俺を見ていた?
「どったの?」
「………………………………貴方は本物の馬鹿なのですか?」
「え? 何でいきなり罵倒されてるの、俺」
「だってそれ、貴方が打った剣なんでしょう? それを売るなんて………………」
…………ああ、そういうことか。
自分の手で打った魔剣を売ってもいいのかってことか。
「確かにこの魔剣も俺の渾身の作品だけど剣なんてまた打てばいい。まだ素材だって残っているしな。それよりもエルフ達の方を助ける為には大金が必要だ。それならこの魔剣を売るしかないだろう? 俺達金がないんだし」
俺だってできれば売りたくはない。だけど剣はまた打てる。けれどエルフはそうはいかない。
魔剣かエルフか、どちらを優先するかなんて決まっている。
「ですが、私にそれだけのお金を返す当てなど…………」
ああ、そっちを気にしているのか。
「別にそんなの―――」
「身体で返したらよろしいではありませんか?」
気にするな。という前にリリスに遮られた。
って身体って返すって…………凄いこと言っているな、リリスさん。
「か、身体って…………」
リリスの言葉に顔を赤くするジャンヌ。ふっ、何を想像しているんだ、このむっつりめ。
いや想像通りだとは思うけど。
「高潔で純潔であるその身をご主人様に捧げるのです。貴女のお仲間の為に魔剣を売り払った代金分をその身を持って清算するのです」
「うっ………そ、それは」
「おや、できないのですか? 魔剣を売ってまでエルフをお救いしようとするご主人様の優しさを踏み躙り、ありがとう、助かった、そんな上辺だけの言葉で済ませるおつもりですか?」
「そんなことはしない! エルフは受けた恩義は必ず返します!」
「それを聞いて安心しました。ではその時は是非ともその身を持ってご主人様を悦ばせなさい」
そこにはまるでリリスが見えない首輪をセシリアに嵌めたように見えた。
怖い、リリスが怖い…………。ジャンヌはともかくとしてリリスだけは絶対に怒らせない様にしよう。
隣を見るとジャンヌも顔を青ざめている。きっと同じことを考えていたのだろうが、安心しろ。リリスにとってもお前は大切な存在だと思うし、大事に可愛がられると思うぞ? 保証はできないけど…………。
でも実際にその場面がきたら「身体は好きに出来ても心までは好きにできると思わないでください」的な言葉を言いそうだ。まぁ、嫌がる女性を無理矢理は俺の趣味じゃないからしないし、するならお互いに楽しくしたい。俺も初めてなんだしいい思い出にしたい。
そんなこんなで俺達は奴隷市場にやってくる。
ここから先は現代社会では見たことのない人権を失った人達が商品として売られている場所。その場所に俺は足を踏み入れる。
「へ?」
そこは俺が想像していた薄暗く、小汚く、異臭が漂うような場所ではなかった。
中は清潔で奴隷は首輪を嵌められ、牢屋にいるけど身綺麗で見た感じ健康そうに見える。あ、奴隷がこっちに向けて手を振ってる。
奴隷から客に愛想を振るうってどうなんだろう? 奴隷って言ったら絶望に染まった感じだと思っていたけどこの世界の奴隷ではこれが普通なのかな?
「へいいらっしゃい。どのような奴隷をお求めで?」
店の入り口で突っ立っている俺達にこの店の主人だと思う男性が声をかけてきた。
「な、なぁ、奴隷ってもっと雑に扱うものじゃないの?」
「それはまぁ店にも寄りますけど、うちは清潔さがウリですぜ。汚いのはお客さんも嫌でしょう?」
「まぁ、そうだな………」
買うとしたら汚いより綺麗な方を選ぶ。そういう意味も込めて清潔にしているのか?
まぁ今はそれは置いておくか…………。
「俺達はエルフを求めているんだけどいるか? もしくはどこかの奴隷商が買い取ったって話はないか?」
「エルフですかい? うちは取り扱っておりませんねぇ。そもそもエルフは数も少ないですから滅多に市場には出回りませんぜ?」
「じゃ、買い取った話も?」
「ありませんなぁ」
男性の言葉に少しは希望が持てた。売られていないのならエルフ達はまだ街の外にいる。それがわかっただけでも収穫だ。
「珍しい種族をお求めですかい? うちで人間以外の他種族といえば牛人キャトルぐらいですぜ?」
牛人キャトル?」
「牛の獣人ですわ。性格は基本的に温厚。体力や忍耐力もあるから肉体奴隷としても有効ですが…………お客さん、大きいのはお好きで?」
「勿論」
「ほう? ならお客さんの期待を応えることができそうだ」
「巨か? 爆か?」
「魔だ。それも処女だぜ。借金の為にここに来たからな」
男性の言葉に俺は戦慄する。
魔…………だと!? 二次元にしか存在しない爆乳を超えた存在がここにいるというのか!?
それも処女!!
これは是非ともゲットしたい!! …………いや待て早まるな、俺。胸がでかいだけでなく腹もでかければ意味がない。なんたって牛なんだから。
「ちなみにあそこにいる奴隷がそうですぜ?」
男性が指した牢屋には確かに牛の角と尻尾をした獣人の女性がいる。茶色のロングヘアに同じ色の瞳。その胸部はこれでもかと強調されている魔乳がそこにある。
しかも腰回りもすらってしていて見事なボン、キュ、ボンを体現している。
だがしかし、今の俺達にはエルフを助けに行かなければならない。ここで油を売る暇はないし、なにより金がない。
だから俺は男性に言う。
「この魔剣を担保にあちらの魔、いや、奴隷を―――」
「ふざけたこと言ってないでさっさと行くわよ」
「あでててててて! 耳、耳を引っ張るな!!」
魔剣を担保に奴隷を購入しようとしたけどジャンヌに耳を引っ張られながら店の外に連れて行かれる。
クソ、滅多にお目にかかれない魔乳美女がそこにいるというのに…………あ、待てよ? 盗賊の盗品を金にしたら買えるんじゃないか? エルフがいるんなら他に盗みに働いていてもおかしくはない。そこに賭けるしかないな。
「店主! 後でまた来るからその奴隷を取って置いてくれ!!」
「ほいよ~」
よし、言質は取ったからな!
「痛たたたたたたたたたたたたたたたッッ!! 千切れる! 俺の耳が千切れる!!」
「うるさい! 本当に引き千切ってあげるわよ!!」
ひぃぃぃぃ!! お怒りだ! ジャンヌ様がお怒りだ! 俺はただ男の夢をお金で買おうとしただけなのに!! どうしてそんなに怒るんだ!?
「リリス! 助けて!」
リリスに助けを求めるもリリスは微笑ましい笑みで見ているだけだった。
こんな時にドSを発揮しないで助けてくれよ!! 俺の召喚魔でしょう!? ならセシリアは――
セシリアに視線を向けると俺に侮蔑の眼差しを向けて自分の胸を触りながらため息を吐いていた。
こうして俺は奴隷市場から離れてレギュレーンを出た。



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