転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第二十二話 エルフ

俺の魔剣を盗んだ盗人の正体はエルフ。それに驚きながらも俺は彼女を背負って部屋に連れて帰ると彼女をベッドの上に寝かせて二人にそのことを話した。
「エルフがどうしてトムの魔剣を…………?」
「そうですね。高潔で有名なエルフが盗むを働くとは………………」
二人もエルフである彼女の行動に怪訝している。
「というよりこの都市でエルフはいないよな? というか人間以外の種族って少ない気が……………」
都市を何度か歩いたことはあるけど殆どが人間。獣人や他の種族は数えるほどしか見ていない。
「この都市は人間の力で発展してきた都市だからどうしても人間の方が発言権が強いの。だから獣人やドワーフなどいった他種族は生活がしにくいのよ。この国の王様も人間だしね」
「この国のように人間を中心にした国や私の故郷にように魔族を中心とした国。それぞれの種族を中心とした国はこの世界に多数存在しています。南東には多くの種族が住む共和国がありますが」
それぞれの種族を代表にした国があるのか……………。でもその共和国には一度は行ってみたいな。
「しかしエルフの国はありません」
「え? なんで?」
他の種族はあるのにどうしてエルフはないんだ?
「ご主人様。こちらの方を見てどう思いますか?」
「胸が控えめなのは少々残念だけどそれを差し引いてもめっちゃ綺麗な顔をしている」
「変態」
「正直な感想だ」
嘘偽りのない、な………………。
「ご主人様の言う通りエルフは眉目秀麗の者が多く、不老長寿の為にエルフに老いは存在しないと言っても構いません。その精神は高潔で純潔。ですからお金になるのです」
「それって………………」
「はい。奴隷です。エルフは奴隷として非常に人気が高く、お金になります。ですのでエルフは他種族を嫌悪して森の奥で閉鎖的な生活をしているはずなのですが」
「そのエルフが人間が生活している都市にいるのはおかしいか」
「はい」
にしても奴隷か……………。流石は異世界と言うべきか人権がないものだな。
俺も気を付けておかないと………………………。
「…………………うっ、ここは……………………?」
「おっ、起きたか」
目を覚ましたエルフは瞼を開けて空色の瞳で俺を見ると目を見開いてベッドから跳び起きて俺達から距離を取ると後ろに手を回すがそこに武器がないことに気づいた。
「お探しのものはこれか?」
「くっ…………!」
自分の武器が俺の手にあることに気づくと周囲を見渡して椅子を武器の代わりに構える。
「私をどうするつもりだ……………?」
警戒心Maxで問いかけてくるエルフに俺は溜息が出る。
「人の剣を盗んでおいてどうするつもりはないと思うけど? あるとしたら謝れだ」
「……………盗むつもりはなかった。目的を果たしたら返すつもりでいた」
「盗む人は皆そう言うの。第一これがなんかわかるのか?」
「魔剣。それも強力な魔剣だ。その力は私には必要だ」
「ならわかっているだろ? 魔剣は持ち主を選ぶ。お前が選ばれるとは限らない」
「それでも私にはそれが必要だ」
頑なに魔剣を欲するエルフにジャンヌが声をかける。
「あの、とりあえず落ち着いて話をしませんか…………? 事情があるのでしたらそれを話していただければ………………」
「人間に話すことなど何もない。我々同胞を攫い、奴隷にする人間など信用できるものか…………ッ!」
俺とジャンヌに嫌悪を剥き出しに睨む。
リリスが言っていた通り、人間がエルフを攫って奴隷にしていたのか。そりゃ人間である俺達のことを信用できないのはわかる。
だけどこのままじゃ話が進まない。どうしたものか………………………。
「まったくこれでは話が進みませんね」
リリスが嘆息しながら一歩前に出る。
「貴女なら私が人間ではないことぐらいわかるでしょう?」
自分の胸に手を当ててそう尋ねるリリスにエルフは心底驚いた表情を見せる。
「魔族………………? なぜここに魔族が人間と?」
「私はここにいいる主であるトム様の魔法、召喚魔法によって召喚された召喚魔の身ではありますが、こちらにいるお二人は他種族に偏見を持ち合わせてはいないということは私が保証しましょう。そしてお二人共困っている人を放っておけない心優しい方達だということを」
な、なんかちょっと、そうはっきりと言われたら照れるな……………。
「そしてご主人様は召喚魔の私に対して一度も命令を行うこともなく、主従ではなく対等の関係として接することができるお方です。我が家、サタンの名に誓って貴女に危害を加えないことを約束しましょう」
自分の家名を出してまで誓いを宣言するリリス。それだけ俺達のことを信用してくれているのがわかる。エルフもリリスの話を聞いて椅子を下ろした。
それでもまだ警戒はしている所から見て話はしてくれるようだ。
流石はリリス。説得もお手の物か。
「…………………私の里は人間に襲撃された」
エルフは事情を俺達に説明してくれた。
彼女は森の奥で家族や同胞である仲間達と共に生活をしていたある日、その里に人間が襲撃してきた。家を焼かれ、金目の物を奪われ、仲間が奴隷として捕まっていく。彼女は両親のおかげで運よく逃げ切ることができた。
そこでリリスがある疑問を投げる。
「エルフが人間に? いくら奇襲されたといえどエルフが人間に負けるはずが」
エルフは精霊に愛された存在。
人間よりも魔力が多く、魔法に秀でた種族。人間が最低一つある魔法適性もエルフは四属性の全てに適性を持ち合わせている。
だから人間に奇襲されたとしても容易に鎮圧できる筈なのだが………………。
その疑問をエルフは声を震わせながら答えた。
「奴等は悪魔を使役していた………………。それも普通の悪魔ではない。私達の魔法すらも通じない高い魔法耐性を持つ悪魔を」
悪魔か…………人間が悪魔を使役できるものなのか? それとも俺の召喚魔法によって召喚された召喚魔なのかもしれない。
「恐らくは番外の悪魔エキストラデーモンでしょう」
リリスが顎に手を当てながらそう口にする。
番外の悪魔エキストラデーモン?」
「はい。悪魔には下位から上位の悪魔が存在しています。しかしそこから外れた悪魔のことを番外の悪魔エキストラデーモンを呼び、その悪魔は魔法のような攻撃手段はありませんが圧倒的な膂力と高い物理・魔法耐性を持っています。魔法攻撃を主体とするエルフにとっては天敵とも呼べる相手でしょう」
「なるほど。つまり人間がその悪魔を使役し、里を滅ぼされて仲間が奴隷として捕まって仲間を取り返す為に力を求めて俺の魔剣を盗んだってことか?」
「はい。この都市の学院には強力な武具があるという風の噂を頼りに忍び込み、偶然にも貴方が魔剣を打っている姿を目撃し、予定を変更したのです」
ほう? 今度この学院を探索でもしてみるか……………?
是非とも見つけて俺のコレクションにしたい。
まぁ今はそれは置いておいて………………………。
「ですので改めてお願い申し上げます」
エルフは頭を下げて懇願する。
「盗むを働いたことは謝罪します。ですが私にはどうしてもその剣が必要なのです。どうか私にその剣を貸して欲しい」
頭を下げて懇願する彼女。嫌悪している人間に頭を下げてまで懇願する彼女がどれだけ必死で仲間を助けようとしているのか伝わってくる。
「馬鹿ですか? 貴女は」
だけど、そんな彼女にリリスは言う。
「ご主人様がどれだけ丹精込めて魔剣をお打ちになられたとお思いですか? それを貴女は奪ったのです。貴女にどのような事情があるにしろお貸しする理由はない筈です」
「リ、リリス………………?」
「それでもご主人様は寛大な御心でお貸ししたとしても貴女に魔剣が使えなければ何の意味もありません」
「だったらどうしろと言うのだ!? 他に、他にどうしたら…………ッ!」
「まったくそれもわからないのですか?」
やれやれといった感じに呆れるリリスはエルフに言う。
「そういう時は助けて下さいとお願いすればいいのですよ。私は申し上げた筈ですよ? こちらのお二人は困っている人を放っておけない心優しい方達だと」
微笑しながらリリスはそうエルフに教える。
「エルフである貴女にとって嫌悪している人間の力を借りるのは不本意かもしれません。ですが、あなた一人の行動が多くの仲間を救う結果にもなりえます。そして断言しましょう。ここにいる人達は必ずや貴女の仲間を救ってくださると」
リリスの言葉にエルフは何度も俺とジャンヌの顔を交互に見比べて意を決したように言った。
「助けて、ください……………」
その言葉に俺とジャンヌは顔を見合わせて笑む。
「学生でも騎士の身。助けを求められてそれを拒む理由はないわ」
「男として困っている女の子を助けない訳にはいかないしな」
ついでに魔剣の力も試してみたいし。
俺のジャンヌが助けに応じたことに動揺をみせるエルフだけど薄っすらと瞳に涙を流す。
「ありがとう……………………」
ぽつりと呟かれたお礼の言葉に俺達は笑みを溢す。
それにしてもリリスの説得力は凄いな。あんなに警戒心を抱いていたエルフをここまで言い包めてしまうなんて。本当に頼もしい限りだよ。
「さてそれではご主人様」
「うん?」
自分の頼もしい召喚魔であるリリスがエルフを指して告げる。
「ご主人様の大切な魔剣を盗んだ罰として耳責めの刑をしましょう」
「うぅん?」
とてもいい笑顔でリリスがなんかぶっ飛んだことを言ってきた。

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