転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第二十一話 盗人

青春の猛りを発散させて賢者になってから眠りについたいつものように目を覚ますと魔剣がないことに気づいた。
確かに昨夜はテーブルに置いてそのままだったはずなのにいつの間にか消えている。
慌てて部屋中を探してみるもどこにも見当たらず、焦った俺はジャンヌの部屋に向かう。
「俺の魔剣がない!!」
「きゃあ!?」
「おはようございます。ご主人様」
ジャンヌの部屋の扉を開けるとちょうど着替え中だったのか、二人共下着姿だ。
ジャンヌは純白な下着に対してリリスは色気のある黒。うん、二人共朝から眼福です。
いや今はそうじゃない!
「大変なんだ! 魔剣がなくなった!?」
「そんなことよりさっさと出ていきなさい!!」
「あぐっ!?」
ジャンヌの投擲が見事に俺の顔にヒットした。


二人が着替え終わると俺は二人に魔剣がなくなったことについて話した。
「別の場所に置いただけじゃないの?」
「昨日はそんなことする暇はなかっただろうが」
「そういえばそうですね……………」
昨日はジャンヌとリリスの誘惑勝負に夢中で終わったら俺はすぐに高まった性欲を発散させて賢者になったから持って帰ってから指一本も触れていない。
「ぅぅぅ~~~私、なんてあんな恥ずかしいことを……………………」
昨日の事を思い出したジャンヌは膝を抱えて悶絶していた。
うん、お前のおっぱいの感触は今も俺の背中が覚えているぞ。
「でしたら盗まれた、という線が高いでしょうね」
「やっぱりそうか…………たくっ、ここのセキリティはどうなってんだ」
まぁ、異世界だから防犯システムや監視カメラとかないからな。どうしても穴がある。
だからといって人が丹精込めて作った剣を盗むとは…………………許せん。
「それなら急いで探さないと。まだそう遠くには行っていない筈だ」
見つけたらただじゃすまさん! 男ならボコボコにした後で全裸にして縛り上げて吊るして晒し刑。女なら二度とこんなことができないようにエロいお仕置きをしてやる。
早速探しに行こうとする俺だけどリリスに止められる。
「お待ちください。当てもなく探したら見つかるものも見つかりません」
「だったらどうしたら―――」
「私にお任せください」
そう言ってリリスはベランダに出て外を見渡す。その後姿に俺とジャンヌは首を傾げる。
まさか目視で探しているのか? いやいやそんなことできるわけない。
いくら魔族でも建物の死角や細い路地など透視能力でもない限りは見えないだろう。
「見つけました」
そうそう見つけれるわけ……………………え? 見つけた?
「マジで?」
「マジです。あそこのフードを被った人の背にご主人様の魔剣を背負っています」
ベランダに出てリリスが指す方向を見てみるけど俺にはどこに誰がいるのかさえわからない。
え? マジでどこ? というかどうして見えるの? どんな視力してんの?
「これをどうぞ」
どこぞから取り出した双眼鏡を手渡されて俺はそれを使って見てみる。
というか、この世界に双眼鏡ってあるんだな………………………。
改めて見てみると確かに黒い外套を身に付けた人が俺の魔剣を背負っている。あれは間違いなく魔剣ドラゴニック・ソードだ。
外套を身に付けた人の体格から見て女性か? 身体の線が細いから女性だとは思うが見つけたぞ。
俺は魔力操作で肉体を強化してベランダから飛び降りる。
よくも人の剣を……………ッ! 絶対に許さん!! とっ捕まえてお持ち帰りして全身をペロペロしてやる!!
屋根伝えで盗人がいる場所まで一気に駆け出す。そして俺の目で盗人が目視できた。
「そこか!!」
「!?」
俺の声に反応したのか俺に背を向けて駆け出す盗人。意外にもその足は速い。だが――
魔力弾マジックバレット乱れ撃ち!!」
それなら攻撃して動きを止めてやればいいだけの話。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!! くたばりやがれ!! そしてさっさと剣を返しやがれ!!」
盗人も大通りで攻撃してくるとは思っていなかったのか動揺が伝わってくる。
しかし中々素早い。結構連射しているのにどれも紙一重で躱して細い路地に入った。
チッ、逃げ足が速い。ならこれはどうだ?
魔力探索マジックサーチ
自分を中心に魔力を薄い膜のように放出させてそれを魔力操作で周囲に広げていく。
この前思いついて軽く実験してわかった。魔力は自分の身体の一部。広げた魔力に魔力があるものが触れるとその存在を感知することができる。広げた魔力に盗人が入ったことを認識すると、盗人に魔力をマーキングさせて狙い撃つ。
魔力弾マジックバレット!!」
放たれる魔力弾にまたも避けようとする盗人だけどこうはそうはいかない。
俺の魔力をマーキングした以上は放たれた魔力弾は磁石のようにどこまでも追尾する。
避けたと思った魔力弾が急に方向転換。予想外の一撃に流石の盗人も驚いたのか、直撃した。
「シャ! どうだ!?」
命中したことにガッツポーズを取る俺は屋根から跳び下りて地面に倒れている盗人に近づくと、盗人は短剣を取り出して斬りかかってきた。
「っと、危ねぇ…………」
躱すも盗人は逃げることを諦めたのか俺をその短剣で仕留めようとしてくる。
まずいな、急いで出て来たら武器を持ってきてないんだよな。ならしょうがない………………。
物は試しにやってみるか。
俺は手に魔力を棒状になるように放出させてそれを魔力操作で形を整えて剣にする。
魔力剣マジックソード
「魔力で剣を…………ッ!?」
魔力で剣を作ったことに盗人は驚きの声をあげた。
やっぱり女性だったんだな………………………。
短剣を振るう盗人の攻撃をカウンターの要領で斬り払う。
「ば、かな…………」
地面に伏せる盗人。胴体を斬っても血が一滴も出ていない辺り、どうやら魔力で作った剣は肉体にダメージを与えないみたいだな。捕獲に使えるかも。
まぁ何はともあれ……………。
「俺の剣。返して貰うぞ」
俺は盗人から魔剣を取り返すという目的を達成すると本命、いやいや悪いことをした子に罰を与える時間だ。いくら女性でも盗みは盗みだ。警察には突き出さないかわりにその身にしっかりと罰を刻み付けてあげないといけない。
罪には罰を。いい言葉だ。
とりあえずは短剣を回収して他に武器を持っていないか調べないと……………。
外套の中に手を入れて物色。他に武器を持っていないかを確認する。
ふむ、スレンダーないい身体だ。これは後の楽しみもといお仕置きをしっかりしないといけないぁ…………。さーてとそろそろお顔を拝見っと。
俺は盗人である彼女のフードを取り払って目を丸くした。
薄緑…………いや翡翠色と言えばいいのか? その髪を肩辺りの長さにした女性。顔の作りはまるで造形しているかのように綺麗に整っている。いや整い過ぎていると言ってもいいぐらいの美形だ。だけど問題はそこじゃない。
「………………………………エルフ?」
長く尖った彼女の耳を見て俺はそうぼやいた。
「………………………………とりあえずお持ち帰りするか」
俺は彼女を背負って部屋に帰る。


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