転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第十九話 魔剣

筋肉痛から解放された俺は早速ドラゴンの素材を使って剣を打っている。
だけど、これが予想以上に難関だ。
あのドラゴン、灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの鱗はもちろんのこと爪も牙も鉄とは違って熱に強くてなかなか思う様にならない。
かなり高温の炉の中でしっかりと熱して槌で力の限りで叩かないと形にならない。
おまけに僅かでも熱が下がるとまた炉の中に入れて熱しなければ叩いても意味がないときた。
流石はドラゴンの素材なだけあって一苦労ではない。熱が籠る工房のなか極限まで意識を集中させなければいけない。
もはや全身を焼かれながら槌を振るっているようなものだ。
ここで一休み。そう思ったけどそういうわけにはいかない。何故なら伝わってくるからだ。
俺が倒したドラゴンの怒りが、憎しみが、憎悪が。
素材となってでもまるで魂だけでも俺を喰らおうとしてくる。
ここで手を止めたら俺はこのドラゴンに食い殺される気がしてならない。だからこそ俺は槌を振るう。お前なんかに負けてたまるか。食い殺せるものなら食い殺してみろ。
まるであの時の再戦をしているかのように俺と灼熱竜ヴォルケーノドラゴンは戦い合っている。ただ槌を振るって剣を打っているだけだというのにその一振り一振りが命懸け。
だけど俺はそれがどうしようもないぐらいに楽しい。
なんとなくだけどわかる。
このドラゴンは怒りや憎悪以外にも俺を試しているということが。
屈服させれるものなら屈服させてみろ、という気迫が伝わってくる。だからこそ俺も全力の全力でお前を打つ。そして新たな姿に変えてやる。
俺が打つ最高の一振りにしてやる!
俺と灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの戦いはそれこそ永遠と思える程に続いた。
執念深く戦い続けるドラゴンの意地を感じながら俺はその最後の一振りを振るう。
そして灼熱竜ヴォルケーノドラゴンは納得したかのようにその瞼を下ろした。
「………………………………できた」
気が付けばいつもの工房。そこにはもちろんドラゴンの姿はいない。けれど、俺の手にはそのドラゴンの魂が込められた一本の剣がある。
それは禍々しい剣だ。
剣の部類は長剣に入るだろう。全体的に黒い剣だけど剣身は竜の鱗のような波紋が走っている。
まるで灼熱竜ヴォルケーノドラゴンがこの剣になったかのような禍々しい剣を手にして俺はこの剣に名前を付けることにする。
「よろしくな。《ドラゴニック・ソード》」
俺の声に呼応するように剣身が鈍く輝く。




「これは魔剣ですね」
新しい剣を持って部屋に戻って二人に見せるとリリスが驚きと共にそう言う。
「魔剣? 魔法剣じゃなくてか?」
「はい。魔法剣は剣に魔法が込められたことを指します。しかし、魔剣はその素材となったものの魂が込められています。簡単に申し上げれば剣そのものが生きているということです。なにより魔法剣よりも遥かに高性能で強力な力を持っています」
「そりゃ凄いな…………」
「しかし魔剣は持ち主を選びます。もし、自分の主に相応しくないと判断されたら最悪の場合は魔剣に殺されることもあります」
こわぁ………………。
「私が一番驚いているのはご主人様が魔剣を打ったということです」
「そうなのか?」
「魔法剣はともかく魔剣が打てる鍛冶師なんて私は聞いたこともないわ。恐らくいたとしても数える程度でしょうね」
リリスもジャンヌの言葉に同意するように頷く。
「………………それってやばい?」
「やばいでしょうね。持ち主を選ぶとはいえ、魔剣が打てるのですから各国がご主人様を求めてくる可能性は高いでしょう。現に私もどうやってご主人様を誘惑して我が国に招こうかと考えています」
「確かにお色気には弱いからな…………相手がリリスなら、うん負けるな」
「そこは勝ちなさいよ!」
いやだって、まったく勝てる気も耐えれる気もしないもん。
リリスが本気で誘惑してきたら俺、負ける自信しかない。
「ふふ、ご主人様を骨抜きにして我が国に招き入れるというのもアリですね」
そっと俺に近づいて抱き着いてくるリリス。
その大きなおっぱいを俺の顔に押し付けてくる! くっ、柔らかい! それにいい匂い!
「もっと凄いことをしてみたくはありませんか?」
「す、すごいこと………………?」
艶のある吐息と共に耳元で囁いてくるリリスに俺はその凄いことに思わず生唾を飲み込んでしまう。
「はい。私がご主人様の肌に触れ、ご主人様が私の肌に触れる。互いの好きなところを触れ合いながら男と女を知っていく。というのはどうでしょう?」
童貞の俺にはその言葉はあまりにも刺激的だった。
くっ、エロい! これが大人の魅力! 大人の女性の包容力というなのエロス!
「うふふ」
妖艶に微笑むリリス。その笑みは自分の誘惑に耐え切れるわけがないという自信に満ちた笑顔だ。
ただでさえリリスの大きくて柔らかいおまけにいい匂いがするおっぱいを顔いっぱいに堪能しているだけでも昇天してしまいそうなのにそこにそんなことを言われたら我慢できない方がおかしい!
もういっそのこと魔族領に行こうかな………………。
「ダメ! ダメよ! そんな破廉恥な誘いはダメ!」
割と本気でそう考えているとジャンヌが俺の腕にひっしりと抱き着いてきた。
二の腕から感じる柔らかいものを押し付けられる感触が襲ってくる。
「あら? 誘惑も大人の交渉術ですよ?」
「そ、それでもダメなものはダメ! トムはこの学院の生徒なんだから勉強とか訓練とかやることが沢山あるんだからそんなところに行っている暇はないの!」
な、なんかジャンヌが可愛い。
普段のツンとした態度がどこかに飛んで行ったかのような可愛い反応………………アレだ。大好きなお兄ちゃんを引き止める妹のような反応だ。
ツンデレで妹キャラ。うん、ジャンヌ。お前は立派に二つの属性を持っているぞ。
「ではどちらがよりご主人様を誘惑できるか勝負と致しますか? お嫌でしたら断ってくれても構いませんが?」
「い、嫌じゃないわよ! その勝負受けて立つわ!」
ここで俺は気付いた。
リリスは俺を勧誘するのは二の次三の次だ。ただジャンヌを弄るネタができたから俺を使って弄っているだけだ。ジャンヌを見る笑みを見てわかったわ。
俺の視線に気付いたのか、リリスは唇に人差指を当てる。
なるほど。黙っていれば俺にも美味しい思いをさせてくれるってわけか。了承した。
「ではお風呂に移動しましょうか」
「え!? な、なんでお風呂に……………!? ここでも!」
「怖いのでしたらそれでも私はいいですよ?」
「こ、怖くなんかないわよ! お風呂でもどこでも行ってやるわ!」
ジャンヌさん、貴女は今完全にリリスの手の平で弄ばれている事に気付いていますか?
いや、気付いていないでしょうが一応言わせてください。
負けず嫌いもほどほどにしましょう。後で後悔するのは自分ですよ?
まぁ、俺の口からそれを教えたりはしませんが。だってぐふふ………………………。
「では最初の勝負はどちらがご主人様の背中を上手に流せれるか。でどうでしょう?」
「い、いいわよ!」
「ちなみに服は全部脱ぎます。ご主人様は公平な判定を取ってもらう為に目隠しをして貰いますが」
あ、目の保養はできないのね。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品