転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第十七話 絶体絶命

四階層の灼熱エリアで私―――ジャンヌはトム達をこの階層から逃がす為に灼熱竜ヴォルケーノドラゴンと対峙している。
正直、トムが新しく打ち直してくれた剣がなければ私はとっくに命尽きていると思う。
「はぁ…………はぁ…………」
もうどれだけの時間が経ったのかわからない。数分か、数十分か。もしかしたらまだ数秒かもしれない。
ドラゴンとの戦いは私に時間の概念を狂わせる。それだけ心身共に消耗している。
それでもまだ倒れるわけにはいかない……………。
「グァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
灼熱竜ヴォルケーノドラゴンが炎の息吹ブレスを吐き出して私を骨も残らず焼き尽くそうとするけど私は剣に宿る炎を放って相殺する。
だけど灼熱竜ヴォルケーノドラゴンは炎が効かないとわかればその巨体で私を吹き飛ばそうと突貫してくるも私は魔力操作で避ける。けど、灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの尾が私に迫る。
「くぅ…………ッ!」
咄嗟に剣を盾代わりにして防ぐも私の身体は容易く吹き飛ばされて岩に背をぶつける。
「か、は……」
口から空気が一気に外に出ていく。それと同時に内臓を痛めてしまったのか口に中に血の味でいっぱいになる。
「けふ、かふっ………………もう、逃げてくれたよね?」
身体が鉛のように重い。息をするのも辛い………………………。皆を逃がす為に必要だったこととはいえ、私も無茶をするものね……………。
でもあそこで私が残らなければきっと誰かが死んでいた。それだけは嫌だった。
誰かを犠牲にして生き残るなんて私自身が許さない。
だから残ったことには後悔はない。けど…………未練はある。
いつかは本当の騎士になって彼が打った剣で人々を、世界を守れる騎士になりたかった。
そして私と一緒にトムも……………。
灼熱竜ヴォルケーノドラゴンとの絶望的なまでの強さの前に私は全てを諦めて妄想に浸かる。
勝てるわけがない………………。普通ならドラゴンを倒すのには一個師団並みの戦力が必要になる。兄を他の皆をこの場から逃がせただけでも私としては上出来だと思う。
だからせめて死ぬ前に幸せの妄想に浸かるぐらいはいいよね…………?
灼熱竜ヴォルケーノドラゴンはもう諦めた私に察したのか、ゆっくりと近づいてその大顎を開く。熱い吐息を全身に浴びながら私は死を受け入れるようにそっと目を閉ざす。

「ジャンヌゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッ!!」

諦めたその時、彼の声が聞こえた。
魔力針マジックニードル!!」
彼は魔力で創り上げた巨大な針を放って灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの片目を奪った。
突然片目をやられて悲鳴を上げる灼熱竜ヴォルケーノドラゴンを無視して彼は私の前にやってきた。
「生きてるか!? ジャンヌ!」
私を心配して戻ってきてくれたトムに私は嬉しくて涙が出そうになった。けど。
「なに、戻ってきてるのよ………………? 私がせったく逃げる為の時間を稼いだのに、どうしてそれを無駄にするのよ!?」
私も気持ちとは裏腹にそんなことを言ってしまった。
違うの。本当は戻ってきてくれたことが嬉しいの。だけど口が勝手にそう言ってしまうのよ。
せっかく戻ってきてくれたのに、私はどうして素直にありがとうも言えないのよ!?
自己嫌悪する私に彼は口を開いた。
「ああ、無駄にする。お前の騎士道なんかも知ったことか。俺は鍛冶師を目指してんだからな」
「なら尚更…………」
「だから戻ってきた。剣を打つ為の材料を手に入れる為にな」
彼の視線は灼熱竜ヴォルケーノドラゴンに向けて不敵に笑う。
「ドラゴンの鱗は防具に、爪や牙は剣………………いい素材だとは思わないか?」
大胆不敵に言う彼に私は呆気を取られた。
た、確かにドラゴンの鱗や爪も牙も全部武具に使える素材にはなるけど、だからといって…………………。
「それに俺は女一人置いて逃げる情けない男になりたくはない」
「!?」
「文句も愚痴もダンジョンから出たらいくらでも聞いてやる。それよりも立てるならちょっとドラゴン狩りを手伝え。無理ならそのままいろ」
今日の夕飯を決めるかのように簡単に言ってのける彼に呆れながら私は立ち上がる。
「誰も、無理なんて言っていないわ…………ちょっと休んでいただけよ」
「そうかよ」
本当に変わった人。さっきまで何もかも全部諦めていたのに今ではそれが馬鹿らしく思える。
それもこれも全部この人のせいね。
どうしようもない変態だけどこの人はいつだって私に勇気を与えてくれる。
「ヘマするなよ?」
「貴方こそ」
私と彼は互いに負けじに笑みを見せ合って灼熱竜ヴォルケーノドラゴンに向かって駆け出す。


俺とジャンヌは灼熱竜ヴォルケーノドラゴンに向かって互いの得物をぶつけ合う。しかし、ドラゴンの鱗に傷を与える程度で致命傷を与えることができない。
流石はドラゴンなだけあって硬い鱗だな!
「だったらゲームで培ってドラゴン攻略その三!」
俺は片目を潰して死角となったドラゴンの側面に移動して口に刀を突き刺す。
それと同時に魔力放出でドラゴンの口の中から攻撃する。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「アッハハハハハ! やっぱり口の中は硬くないよな!!」
悲鳴を上げるドラゴンに高笑いする俺だけど、ドラゴンはさっきより怒りの籠った目を俺に向けてくる。あ、やべ……………。
「うおっと!」
ドラゴンは大口を開けて捕食しようとしてくるも俺はそれを避ける。
「馬鹿! 余計に怒らせてどうするのよ!?」
「仕方がねえだろう!」
ドラゴンだけではなくジャンヌにまで怒られた。
そんなジャンヌは巧みにドラゴンの死角を移動しつつ着実に攻撃している。
堅実で確実な攻めにドラゴンも苛立っているように見えると思ったらドラゴンは急に翼を広げて羽ばたかせるも、甘い!
魔力弾マジックバレット乱れ撃ち!」
聖炎槍セイクリッド・ランス!」
魔力弾の連続発射と炎の槍がドラゴンの飛膜を破壊して空から地面に叩き落とす。
馬鹿め! そういうパターンはゲームで散々見てきたわ!!
というよりもジャンヌの剣。あれってやっぱり魔法剣の類なのか? ダンジョンから出たら今度じっくりと見させてもらおう。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
怒り狂うドラゴンは縦横無尽に暴れ出す。
俺はジャンヌの前に立って魔力で作った盾で防ぐ。
順調にこのドラゴンにダメージを与えてはいるけど、正直俺もジャンヌも限界が近い。
俺の魔力も残り少ない。ジャンヌも心身共に限界が近い筈だ。それでも意地と根性で立っているのなら俺も男として意地と根性は見せないとな。
だけど正直もう手がない。
決定的な攻撃が欠けている。俺の刀でもジャンヌの剣でもこのドラゴンに致命傷を与えることが出来ない。
これがゲームなら少しずつダメージを与えていけばいい話だけどこれはマジの殺し合い。
そんなゲームの設定通りにはいかない。
どうする…………………?
思考を巡らせる俺は見つけてしまった。
形勢逆転の一手でもあるドラゴンの弱点を。だが、この怒り狂ったドラゴン相手にどうやってそこを突くか………………………。
「何か手があるのね………………?」
後ろにいるジャンヌがそう言ってくる。
「あるにはある。だけど今のあのドラゴン相手にあそこまで辿り着く前に」
「なら私が囮になる」
「ジャンヌ! お前―――」
「勘違いしないで。私は死ぬつもりはもうないわ。それに私達ももう限界…………ならそれに賭けるしかないでしょう?」
確かにジャンヌの言っている事は正しい。それにあそこまで辿り着くのは恐らくは俺でないといけない。
ジャンヌにそんなことをさせるわけにはいかない。
「………………………………わかった。だけど死ぬなよ?」
「当り前よ」
「もし死んだらお前の下着を漁るからな」
「………………これが終わったら貴方をマグマに突き落としてあげるわ」
よし、それだけ言えるのなら大丈夫だな。なら一か八かの一発勝負と行きますか。
「行くぞ!」
俺の合図と同時に俺達は左右に動き出す。
「ハッ!」
ジャンヌは剣から炎を出してドラゴンの顔に当ててドラゴンの意識を自分に集中させる。そして俺はドラゴンの足に突き刺さっているなんとかって先輩の魔法剣を引き抜いてそこに移動する。
「え、ちょそこは……………」
ジャンヌが何か言っているようだが気にしている余裕はない。狙いが逸れればそこで俺達の死は確定のようなものだ。
だから俺は全神経をそこに集中させて魔法剣を突き刺す。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
ずぶり、と魔法剣は綺麗にドラゴンの股間に突き刺さった。
「いっけぇぇええええええええええええええええええ!!」
そして魔法剣から炎を放出させてドラゴンの股間からドラゴンの体内に向けて炎を炸裂させる。
「グァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
これまでに聞いたことのない悲鳴を上げるドラゴンだがここで終わると思うなよ!?
「俺の全魔力を持って行けぇぇええええええええええええええええええ!!!」
そこから更に残された魔力の全てを放出させる。ドラゴンの股間から。
内側から炎と魔力放出による攻撃は流石のドラゴンも堪えたのか、地面に倒れ込む。
動けなくなったことを確認して俺はほっと一息つく。
「ふぅ…………勝った」
「これまでにない最低のトドメね。灼熱竜ヴォルケーノドラゴンに同情するわ」
半眼で俺を見てくるジャンヌ。
「ふっ、負ければ敗軍勝てれば将軍という言葉を知らないのか?」
「知らないし知りたくもない」
「要は勝ったもん勝ちだ。過程なんてどうでもいいんだよ」
「過程も重要よ」
お互いドラゴンと戦って生き残れたことに安堵しつついつも通りの会話を弾ませるも俺はもう魔力が空っぽ。正直立っているのも辛い。
まぁ危機は去った。後はリリス達と合流することができれば―――――
「ァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「「!?」」
倒したと思っていたドラゴンは起き上がって動き出す。
嘘だろう? 腹の中をぐちゃぐちゃにしたのにまだ動けるのかよ!? いや、ドラゴンの生命力ならあれぐらいじゃ死なないのか!?
まだ生きていたドラゴンに驚く俺達にドラゴンはその尻尾を鞭のように振るう。
「トム!?」
ジャンヌが咄嗟に動いて剣で防御したけど俺達は二人揃って吹き飛ばされる。
「がぁ!」
「うっ!」
何度も地面を跳ねてようやく動きが止まるも全身がありえないぐらい痛い。いや、マグマに落ちていないどころかまだ五体満足でいるだけ幸運、いや、悪運がいいのか。ともかくこの程度で済んではいるも………………まだドラゴンは生きている。
「ジャンヌ、おい、ジャンヌ!」
呼びかけるもジャンヌに反応はない。きっと今の一撃で気絶してしまったのだろう。
まずい………………俺ももう魔力なんて残っていない上にジャンヌも気絶している。手負いとはいえもう俺達にドラゴンを倒せれるだけの力なんてこれっぽちも残っていない!
絶体絶命。そんな俺達にドラゴンは情け容赦もなく炎の息吹ブレスを放ってくる。
ドラゴンの炎が俺達の命を焼き尽くさんと迫りくるなか、俺の中でカチリと何かが嵌った。

「転生鍛冶師は剣を打つ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く