転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第四話 工房

「小さい頃からの夢、ううん、憧れだったの……………」
宿の食堂でほどよく美味しい食事を取っているとジャンヌが愚痴るようにぽつりと呟いた。
「強くて凛々しくてこんな騎士になれたらって思っていたらいつの間にかあんな騎士になりたくて親に無理を言って剣の指南役の人から剣を教わっていたのだけど、私には剣のスキルどころか才能もないってはっきりと言われた時はショックを受けたわ」
それからジャンヌは淡々と己の過去を俺にぶちまけた。
スキルも才能もなく、それでも騎士になる為に必死に努力を積み重ねてきた。
だけどジャンヌの家族はそれを良く思わないようになってきた。
騎士になる為に他の全てを切り捨ててまで剣を振り続けてきたジャンヌにその道を諦めさせて、公爵家に嫁がせる為の花嫁修業をするように言われた。
始めは強く反発した。けど、己の才能の無さを自覚しているから次第に何も言えなくなってきたジャンヌに痺れを切らしたのはジャンヌの兄。あのクール系のイケメン野郎だ。
ジャンヌとの一騎打ちだったらしい。
一太刀でも当てればジャンヌの勝ちだったが、ジャンヌは一太刀を浴びさせるどころかジャンヌ兄の身体に傷一つ与えることができなかった。
その結果、ジャンヌは一度は剣を捨て親の言う通りに花嫁修業を行ったらしいが。
「それでも、諦めきれなかった……………スキルがなくても才能がなくても騎士になるのが私の夢だから………………………」
金と剣を持ってジャンヌは家を飛び出した。それから冒険者に身を落とし、実戦の中で剣術を極めようと努力している途中で聖シュバリエ学院の特別枠の試験のことを知った。
これに合格すればきっと家族も認めてくれる、そう信じて。
「そこで私は変態に裸を見られたのよ……………」
「そうか、それは災難だったな」
ジト目でこちらを見るジャンヌに知らぬ振りをする。
しかし、諦めきれないその気持ちは痛いほどよくわかる。俺もジャンヌも同じだ。
俺も、武器が好きだと本気で言ったことはない。そんなことを言ったら気味悪がられるのが目に見えてわかるから。人殺し予備軍、狂人と現代社会ではあまりにも危険極まりないその嗜好は周囲から異端視される。
だから捨ててもっと別の何かを好きになろうと本気で考えた時期が俺にだってある。
だけど捨てきれなかった。諦められなかった。
武器を見るだけで心が癒される。心を弾ませる。もっと見てみたい、触ってみたい、使ってみたいう衝動が俺を突き動かす。
自分でも異常なぐらいに武器が好きだ、刀が好きだ、剣が好きだ、槍も戦斧も武器の全てが好きだ。あの美しく輝く刀身を見るだけで俺はどうしようもなく心が惹かれてしまう。
きっとジャンヌも同じなんだろう。
騎士になりたい。スキルも才能もないけどその夢を諦めることが出来ないから必死に努力している。その日に抱いた憧憬のままに動いてしまう。
「似た者同士だな、俺達…………」
お互いに諦めきれない想いの悩まされ、苦しみながらもその想いを捨てきれないでいる。
諦めたら楽になるころぐらいわかっていても諦めることができない。
なら、俺達がすることはたった一つだ。
「絶対合格してやろうぜ。ジャンヌ」
「ええ、もう引き下がれないもの。どこかの誰かさんのせいで」
「どこの誰だろうな………………」
白を切る。するとジャンヌは小さく笑みを溢す。
「けど、ありがとう。おかげで決心はついたわ」
「…………そりゃ、どういたしまして」
ジャンヌの笑みに俺は思わずそっぽを向く。やばい、めっちゃドキッってした。
やっぱり美少女の笑みは抜群の破壊力を持っているな。
「とりあえず試験が始まるまでのこの一週間が勝負よ。できる限りのことはしましょう」
「了解」
それから俺達は今後について軽く打ち合わせをして部屋に向かった。


「さて、それじゃ試してみますか」
部屋についた俺は早速、神様から貰った力を行使する。
「出てこい!」
俺の呼び声に応えるかのように何もない空中に扉が出現する。俺はその扉を開けて中に入る。
「うわぁ……………」
そこは俺の予想を上回るほどに空間だった。
大型の炉に積み上げられた薪に、樽、鉄製の作り付けされた棚、大小複数の槌、鋏、鉄床など、鍛冶師にとって聖域と呼ばれる空間。
「お、これってもしかして鉄鉱石ったやつか? 神様どこまで気が利くんだ」
設備も道具も完璧な上に鍛冶の練習用にか大量の鉄鉱石まである。
「こりゃ神様に足を向けて寝れねえな」
本当に異世界に転生してくれた神様には感謝しかない。その神様の為にもここは大事に扱わないと罰が当たるってもんだ。
「ん?」
神様に感謝していると俺はふとあるものが目に入った。
「なんだこれ? 牙? それにこっちは何かの石か?」
鍛冶場の端に置かれている何かの獣の牙と妙に発光している石が置かれていた。
「何かの特殊なアイテムか? それとも転生祝い的なもんか? どこまでサービスがいいんだ、神様。ありがとうございます」
これは使わず大事に取って置こう。
諦めるしかなかった夢を叶えてくれるこの異世界に転生してくれた神様に対する感謝を忘れない為にもこれはずっとここに置いておくとしよう。
俺は両手を合わせて感謝の祈りをする。
「よし、夜遅いけどさっそくやってみますか!」
早速俺は剣を打ち為に炉に火を入れて鉄鉱石をその手に持った。
熱く燃え上がる炉から発する熱に汗が流れ、皮膚が焼けそうに熱く感じるも俺は自分の手で剣を打てることに身を震わせて喜びに打ち震える。
燃え上がる炉に鉄鉱石を入れて赤くなるまで熱して俺は槌を手にして振り上げる。
「さぁ、打つぞ!」
槌を振り下ろして鉄を打つ。

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