ブラッド・トリガーライフ

ルルザムート

第3話 part2 魔界から来た者達

アジト(鋳物工場)前


「んで?ガルシアはどこだ?」
「…」
なんなんだコイツは…
突如として現れた仮面の男、その正体不明の男が俺の名前とボス、ガルシアの名前を口にした
どういうことだ?俺はともかくガルシアは『戦闘幹部ゼイロ』という名で活動していた、本名(とはいえガルシア・クラウンという名前も本名かどうか定かではないが)を知っているのは俺を含めた3幹部と武器商のレギオくらいだ

「この感覚は…魔界の者?いや、でも…」
アーサーもアーサーで何やら考えている、彼の口ぶりから察するにこの男は人間ではないアーサーサイドの生物(?)のようだが…

「…フリーズしてるとこ悪いけどさぁ、俺もこの仮面付けて喋るの地味にツラいんだよね、息苦しいし、だから何かしら反応してくれないと困る、だって俺のセリフ増えるし…意思表示くらいしてくれよ」
ぼりぼりと頭を掻きながら仮面の男は言う

「…答える必要は無い」
真っ直ぐ仮面の男を見据えながら手元のハンドガンを握りしめる
「そうか!じゃあ死んでくれ!」

横向きに跳躍した、少なくともそう見える動きで仮面の男は左拳を振りかぶる
「っ!」
体を斜め後ろに逸らして避ける、直後、風を切る音と熱風
熱っ…!?なんだよこれ…!あれは…見間違いじゃないな…
男の拳から肘にかけて青色に燃えているのが見える
「うーわ、カンペキに殺ったと思ったんだが…強いな、お前」

アレがなんなのか検討もつかない、分かるのは1つだけだ。被弾=即死…避けても熱風がくる。
「んじゃ、殴り合いと行きますか」
「く…」
頬にジリジリと火傷したような痛みが這いずっている、いや実際に火傷しているのだろう

「次はラッシュだ、耐えられるかな?」
これはまずい!
「はっはー!…ん?」
「そこまでです、魔界の住人」
間に割って入ったのはアーサーだった、仮面の男に剣を向けて堂々と立っている

「おいおいおいおい、なんだってんだ?魔界の住民?意味がわかんねーよ、そこどいてくれ」
「ぬけぬけと…そんな高濃度の魔力を纏って何を言うのですか、人間は私達魔界の者にとってかけがえのない存在…それを意味もなく攻撃するなどアルバシオンの王子として見過ごせる訳がないでしょう!」
どう見ても13歳〜14歳にしか見えない彼はその外見に見合わない威風堂々とした態度で正体不明の男と対峙している
…情けないがここはアーサーに頼るしかなさそうだ

「…」
「…ハァ」
数十秒睨み合っていた2人だが先に折れたのは仮面の男だった
「正義感だけで動いてるような剣士坊や、ね…聞いてた通りだがジェルフと一緒にいるとは予想外だな」
目の前の男はどうすっかなぁ…と呟きながらポケットに手を突っ込み、何かを探している…?

「そういや切らした直後じゃねーか、ハァ…分かった!俺の負けだよ、今日は帰るぜ」
「逃げるのですか」
逃がすまいとアーサーは戦闘態勢を解こうとしない

「俺はジェルフを殺しに来たが多分お前全力で邪魔しにくるだろ?俺がアーサー坊やと戦うなんざ無益どころか損害だぜ…あーそうだ、1つ情報をやるよ」
「「情報?」」

自然にアーサーと声が被る、それはそうかもしれない、何せ俺も(そして恐らく彼も)圧倒的に情報が足りていない、信用できるかどうかは別にして情報は少しでも多い方がいい
「エレナ・アルコットは日本にいる、ここにゃもういねーよ」
「!」
エレナの事まで…?

「…どう言う意味です?」
「楽しい情報プレゼント企画は終了しました〜つーわけで逃げるからそこ退いて?」
「…こちらとしては聞きたいことが山ほどできました、逃すわけにはーーー」
「げ」
「いかない!」

王子が跳躍し、自身の体重と膂力を剣に重ねて男の左腕目掛けて振り下ろす、恐らく全力の一撃。でなければーーー
「おいおいおい、びっくりしたじゃねえか!」
「なんだって…!?」
彼が驚愕している説明が付かない

今のは十中八九本気の1撃だ、多分それを警告として腕を落とすつもりだったんだろう、しかしーーー
「ぐ…」
ギギギとおかしい音を立てて男の腕と彼の剣が鍔迫り合うように押し合っている

「今の腕落とすつもりだったろ!?っぶねー!マジで危ねぇわ!」
「何者だ!その腕が義手でないことはわかっている!」
焦りを押し潰すように声を張り上げるアーサー…こんなの見せられれば張り上げたくなるのも分かる(さっきの打撃を回避した時、あの腕は間違い無く生物のものであったのも確認した)

「ったく…!オシオキだ!」
「え、わ!?」
猫でも投げ飛ばすかの如く首根っこを掴むが早いか男はアーサーを派手に投げ飛ばす
「あークソもうメチャクチャだ、つーわけで尻尾巻いて逃げる!」
ヤバい、逃げられる…!

「待てっ!」
「待てと言われて待つバカいるワケねーだろ!ホント変わんねーんだからお前!」
…え
「変わらないって…」
「んん?…ヤベっ、忘れろ」

そいじゃ!と男はチーターも青ざめるスピードで走り去っていく…どう見ても人間の速さじゃない
これはどうひっくり返っても追い付けないな

「クソ…あいつ」
「大丈夫ですか、ジェルフさん?」
パンパンと埃を払いながら王子がこっちにくる

「大丈夫だ、逃げられたが」
多分向こうからしてみれば『逃げてあげた』なんだろう、そのくらいの実力差はあった
「…彼の素性について、心当たりは?」
1人いる・・・・、死んだハズだけどな」

もし仮面の男の正体が予想通りの人物なら辻褄が合う、既に死亡しているという矛盾点に目を瞑ればだが
「そっちは?そっちに心当たりはあるか?」
「…彼のような知り合いはいないが彼の種族は知っています」

だろうな…あれを見て人間と言える奴がいるなら眼科か精神外科のどちらかを推奨する
「吸血鬼、でしょうね…それも触れた感覚から察するに生まれつきではなく吸血鬼化した人間でしょう」

…ん?ちょっと待て
「ちょっと待て、人間が吸血鬼になるのって死んだ後でもなれるのか?」
「え?ええ、生きている人間にするよりも多量の魔力が必要ですが…それが?」
「…」

確信した、仮面の男の正体を
だとしたらマズい、最悪の奴が俺に狙いを定めている…どうするか

「あの、ジェルフさーーー」
「うおっ!?」

1人思案する俺を現実に引き戻したのはアーサーではなく雷がまとめて落ちたようなドーンと、津波のように巻き上がる土煙だった
「うわっ!」
「ぐっ…!」
今度はなんだ!?

「さっきの男に続いて爆発まで…何が起こっているんだ?」
念のため通信機の稼働状態を見る…どう避けたか分からないがガルシアは無事なようだ
相当な破壊力だが現アジトにそんな兵器は無かったハズだ…

「これ…確か姉さんのーーー」
その時だった、どこからともなく現れた空飛ぶ人影がアーサーをかっさらっていった
女性…に見えたな、いや呑気にそんな事言ってる場合じゃない!追いかけーーーうおっ!?

大砲のような射撃音に咄嗟にのけぞる
今のはガルシア専用対物ライフルだ、危なかった…あと一瞬遅れていたら死んでいた…あ!
どしゃりと少し遠くから何かが落ちる音と後ろから感覚の短い足音が近づいてくる
「姉ちゃん!?姉ちゃん!」
取り乱したアーサーの声、そこまで聞いてようやく身体が動いた

「まずい!」
ガルシアは2人とも殺す気だ!
エレナを追いかける上で彼…いや恐らく彼らは最も近い人物だ、ガルシアは多分その事実を知らない!

全力でアーサーの元へと走るが後ろからありえないスピードでガルシアも走ってきているのが分かる
対物ライフル含めて相当な重量のハズなのにマジで化け物かよ!

「あーちゃん、逃げて…!」
「なに、何言ってんだよ!?一緒に行くんだよ!早くーーー」
「!」
あと少しというところで土煙から姿を現したガルシアに追い越された

「逃す訳無いだろう…!」
阻止できない!
「ガルシア!待ーーー」
「終わりだ!」

ライフル弾が発射される、その弾の軌道は両目を潰され地面に倒れ込んでいる女性の眉間を正確に描いていた、だから驚いた。女性が生きていたことに
あ、当たってない!?これはどういう…
「…!?」
「こ、これってーーーハリス!?」

空から降ってきたようなメイド服を着た女性はアーサーとガルシアの間に割って入ったかと思うと人には見えない常軌を逸した速さでガルシアに打撃を叩き込んだ
ライフル弾を防いだのも彼女が?
「はぁっ!」
「チィッ!」
それを受けて後ろに後ずさるだけのガルシアも相当だが

「アーサー様!こちらへ!早く!」
!今のは…
一瞬、メイドが地面に何かを落としたような…な!?なんだあれは!
目の前には何もない空中から出現したような青色に輝くトンネルがあった、アーサー達はこれで逃げるつもりだろうか

「次元の穴!?いつの間にーーー」
「アーサー様っ!!」
人攫いと言われても納得できる強引さでメイドがアーサーと女性を抱えてトンネル内へ

「この…!ゴミ共がッ!」
!あれはーーー
トンネルの真下に得体の知れない小さな水晶が落ちているのが目に入る
ーーー罠か!
「ガルシア!よせ!」
「離せジェルフ!ここで逃がすわけには…クソ!逃げられた!」

「…ハァ」
ひとまず彼らは逃げ出せたが…前途多難だな、これは…


第3話 part3へ続く




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