2.5D/リアル世界の異世界リアル
第66話
66
式場なんてこの大闘技場の中にあるはずがない。
そうとわかり切っていたのだが―――。
「くそっ! 放送室にいないとか、悪意ありすぎんだろ!」
俺は放送室から消えた大和先生を捜して奔走していた。
これが難航必至であり、場内のどこを見回っても赤の他人、他人、他人。
黒山の人だかりが彼女の発見を遅らせていた。
『―――試合準備が整ったようです。それでは武闘大会2回戦、第7試合……始め!』
「……、1時間は経ってるぽいよな」
俺は出入口前の案内板で足を止めた。
それから大闘技場の外へと視線を移す。
こうなったら、こっそり寮部屋に戻ってスマホで連絡を取ろうかと一考した。
「……いや、却下だな。先生が俺の電話に出るとは限らんし……」
なにより先生の愛のパワーに屈した心地になりそうだ。
こんな具合にヒロインに振り回されるなら満更でもないが、いかんせん彼女はヒロインではないのだ(断言)。
「まいったな……。あとは癒美か樋口に頼んでスマホ貸してもらうくらいだが……」
2人もさっきの放送をしっかりと聴いているはずで。
癒美には『憑々谷君……ぐすっ!』と涙声で、樋口には『俺を裏切った(!?)のかっ、憑々谷ッ!?』と怒鳴り声で反応されそうでならなかった。
……今2人には関わりたくない。
「打つ手ナシ、だな。腹立つが諦めよう。また呼び出されるの待って……次やったら絶縁状だ。あのヤンデレ教師の眉間に瞬間接着剤ではっ付けてやる!」
「……はあ? あんたそこでなに1人ブツブツ騒いでんのよ……?」
というアニメ声に反射的に振り返ると、そこには案の定、嫌悪顔でこちらを見つめる熾兎の姿があった。
「…………。お前には関係ない」
「あそう。じゃあ結婚おめでととだけ言っておくわ」
「してねえっての!」
「……、えっ?」
「いや意外そうにすんなよ! あの呼び出しは大和先生の冗談に決まってんだろ!?」
「嘘……だって先生にお祝いメール送ったら『ああ、わたしも可愛い妹ができて嬉しいぞ』って……」
「妙にリアルな裏側やめろ!」
結婚なんてありえないから逆に生々しく聞こえちまってるわっ(鳥肌)!
「……? 妙にリアルっていうか、リアルの話してんだけど?」
熾兎は小首を傾げた後、
「まぁいいわ。それより、あんたにもうひとつ、言うこと思い出した」
「『先生のお腹に赤ちゃんはいるの?』とか訊くなよ。いたら想像妊娠ならぬ設定妊娠だ」
「はぁ、記憶喪失って不憫ね。どっかのネット掲示板で『……などと意味不明な供述をしており』なんてディスられてもおかしくないわ……」
はは、少なくとも俺が元いた世界では心配無用だ。著者からの扱いが不憫すぎて俺が誰なのか特定しようとはされるかもしれないが。
熾兎が溜息したそうな様子で、
「ねぇ。トピア先輩ってさ、あんたのなんなの?」
「婚約者だ」
「バッカじゃないの」
なんでだよ!
先生との結婚より断然それっぽいじゃねえかっ!
「あたしが気になってんのはさ。タワシなあんたを助けようとしてる先輩の腹の内よ。だってそうでしょ、自身の優勝を手放すどころか、それを悪用した《《デマ》》まで流してんのよ? あんたはもう異能力者じゃないのに。優勝なんて不可能なのにさ」
「……まだそうと決まったわけじゃないだろ」
「決まってるでしょ。Bブロックを不戦勝で突破。けどそれまでよ。あんたに戦う術がない以上、優勝はできっこない」
「言ってろ」
俺には秘密兵器のアリスがいる。彼女とは昨日1日特訓に明け暮れ、ほぼ完璧なまでに連携が取れるようにしてある。
また、そんな俺達を支えてくれたトピアと大和先生からは、充分優勝を狙えるとのお墨付きを貰っている。
「……他にも策があるようね。はっ、こうなったらとことん呆れるしかないわ。あんた、どれだけ人サマを巻き込めば気が済むのよ? そんなに退学が嫌だっての?」
「嫌に決まってんだろ」
「あそう。ならこの際言っておくけど。記憶喪失になる前のあんただったら、今回の大会にもエントリーすらしなかったはずよ」
「……、理由は?」
「あんたは入学してからずっと序列最下位だもの。この学園での立場に全く執着がない、学園生活なんてもうどうでもいいからでしょ。違う?」
「…………」
……違わないかもしれない。ただそれはきっと、熾兎が発狂して誕生させてしまったアイツを……グロキモな怪物を、早く倒してあげたかったからだろう。
彼にとっては大会への出場が無視できるくらい大事なことだったのだ。
(とはいえ実際にそれほど大事だったのなら、セクハラとかナンパとかしてる場合ではないだろうにな。中学時代に青春してなかった反動とか言い訳すんなよ)
高3直前まで非リア充だった俺からすれば鼻で笑えるレベル。これを読んでいる読者の中には、俺とも比べた上で失笑できている猛者もいたりするはずだ(敬意)。
当然ながら妹の熾兎はそのあたりの事情を知らない。知っていたら俺に優しいはずだし、兄に対して死んで欲しい&退学して欲しいなんて冗談でも願わない。たぶん。
「ねぇ、やっぱあんた、棄権しときなさいよ」
熾兎が突如として言ってくる。
それは最後通牒のように酷く穏やかなものであり、
「優勝して退学を免れたい気持ちはよくわかったわ。あたしは今のあんたには深く同情する。トピア先輩と同じように可哀想ってね?……だけどね、あんたの妹だからこそあたしはあんたに言ってあげてんのよ。優勝を目指したところで、ただ恥を掻くだけだって。退学した後、余計に生活が辛くなるだけだって」
「……。テレビに映るからか?」
「そうね。無能力者とバレたら世界中で笑い者にされるでしょうし……。残りの人生を、ひっそり生きるなんて、できなくなる」
確かに。俺に秘密兵器がいると知らない熾兎だったら。その予想はごくごく自然だ。彼女が俺の未来を案じたくなるのも無理はない。
……で、あればだ。
「はっ、余計な心配だなぁ? そもそも俺は退学するつもりもひっそり生きるつもりないぞ。前にも言ったが、優勝するつもりなんでな!」
俺は声高らかに改めて自信の程を示してやった。
すると熾兎は短く息を吐いてから、
「……そ。あんたは自分の好きにするってことね。ならいいわ、あたしもそうするから」
「おう、そうしとけ」
なんの気なしに。
俺が熾兎に返して直後。
「死んで頂戴」
ぷちゅり、と。
熾兎が発効した弾丸が、彼女の指の隙間から下投げに放たれ、俺の額を射抜いたのだった。
「……………………。は???」
なぜ投げただけの弾丸が俺の額を貫けるのか―――?
よりにもよってそんな些細な疑問が浮かんできた時には、俺は頭から後ろに倒れており。無意識に額を拭っていた手には、血糊以上にどす黒い血が付着していた。
(え? 熾兎に殺されたのか俺? マジで……?)
「いいや、さっさと起きろ憑々谷。時空の歪みに惑わされるな。正気を保て」
「っ!?」
霞みかけた視界一杯に、俺が最も苦手とする人物の顔が飛び込んできた。
衝撃的すぎる不意打ちに俺は慌てて上体を起こす。
「え? こ、これは……!」
そこでようやく気づく。
アンティーク風の巨大時計が、俺の眼前で黒炎を上げて浮遊していることを。
「おじいさんの亡霊時計だ。これに触れたあらゆる異能力は、この亡霊時計が秘める時空の歪みに呑み込まれ、消失する」
「! つ、つまり俺は、殺されていない……?」
「ああ。時空の歪みに当てられて幻覚を視ていたようだがな?」
……そうか!
どうりで手に付着していたはずの血も綺麗に掻き消えている!
「大丈夫ですか、憑々谷君?」
「! トピア」
うわすごい安心する! 俺的『コイツが駆けつけたら安心感ハンパないキャラ』ぶっちぎりの1位ですよトピアたぁん!!
「ってか俺、ずっとあんたを捜してたんだぞ? どこに隠れてたんだよ?」
「ん? わたしか? わたしならトピアと場内の見回りをしていたが」
見回り……? あぁ、異能警察の仕事でか。
だったら偶然に偶然が重なってすれ違いまくっていたのか(不運)。
「いや、すまんが憑々谷、今はそんな話をしていられん」
大和先生は亡霊時計の発効を解除すると、
「なぁ熾兎よ。……さっきの異能力は一体なんのつもりだ?」
あぁ、そうだったな。
あれはガチだった。確実に俺を殺そうとしていたんだ。
しかもこんな、往来の場所で……。
「闘技グラウンド以外での異能力の発効は禁止されている上、お前はわたしの結婚相手を手にかけようとしたのだ。送ってきた祝福メール……あれに書かれていた内容は嘘だったのか?」
「嘘だよッ!!」
熾兎の代わりに俺が即答した!
もうね、結婚自体が大嘘なんだから、それに関連した情報も100パー嘘!
嘘のオンパレードなんだよッ!
「…………先生。申し訳ないですけど、あたしはあたしの好きにさせてもらいます。そこのタワシも同意してくれてますしね」
涼しい顔で答える熾兎は殺人未遂の自覚などまるでない様子だった。
そんな彼女に対し、大和先生は鬼のような形相になる。
「いいか熾兎、よく聞け。……お前がコイツの妹だろうとな、わたしは躊躇しないぞ。お前がコイツを殺した時、わたしがお前を殺す。覚悟しておけ」
「そうですかわかりました。けど万が一、タワシと決勝でぶつかった時は邪魔しないでくださいね。……先に先生を殺してしまうかもしれませんから」
「……、」
「そう睨まないでください。冗談ですよ。テレビに顔晒しながら殺人とかアホじゃないですか。相当アホすぎてしてみたいくらいです」
「おい、大会失格にするぞ」
「それは困るので大人しく退散します。では」
言い終える前には踵を返し、去っていく熾兎。
「……………………おい憑々谷」
「なんだ?」
「絶対に……。アイツに殺されるんじゃないぞ……」
大和先生の言葉に俺は「……ああ」と湿っぽく返事する。
熾兎は冗談だと言ったものの、俺も先生と同様、全く冗談に聞こえなかった……。
式場なんてこの大闘技場の中にあるはずがない。
そうとわかり切っていたのだが―――。
「くそっ! 放送室にいないとか、悪意ありすぎんだろ!」
俺は放送室から消えた大和先生を捜して奔走していた。
これが難航必至であり、場内のどこを見回っても赤の他人、他人、他人。
黒山の人だかりが彼女の発見を遅らせていた。
『―――試合準備が整ったようです。それでは武闘大会2回戦、第7試合……始め!』
「……、1時間は経ってるぽいよな」
俺は出入口前の案内板で足を止めた。
それから大闘技場の外へと視線を移す。
こうなったら、こっそり寮部屋に戻ってスマホで連絡を取ろうかと一考した。
「……いや、却下だな。先生が俺の電話に出るとは限らんし……」
なにより先生の愛のパワーに屈した心地になりそうだ。
こんな具合にヒロインに振り回されるなら満更でもないが、いかんせん彼女はヒロインではないのだ(断言)。
「まいったな……。あとは癒美か樋口に頼んでスマホ貸してもらうくらいだが……」
2人もさっきの放送をしっかりと聴いているはずで。
癒美には『憑々谷君……ぐすっ!』と涙声で、樋口には『俺を裏切った(!?)のかっ、憑々谷ッ!?』と怒鳴り声で反応されそうでならなかった。
……今2人には関わりたくない。
「打つ手ナシ、だな。腹立つが諦めよう。また呼び出されるの待って……次やったら絶縁状だ。あのヤンデレ教師の眉間に瞬間接着剤ではっ付けてやる!」
「……はあ? あんたそこでなに1人ブツブツ騒いでんのよ……?」
というアニメ声に反射的に振り返ると、そこには案の定、嫌悪顔でこちらを見つめる熾兎の姿があった。
「…………。お前には関係ない」
「あそう。じゃあ結婚おめでととだけ言っておくわ」
「してねえっての!」
「……、えっ?」
「いや意外そうにすんなよ! あの呼び出しは大和先生の冗談に決まってんだろ!?」
「嘘……だって先生にお祝いメール送ったら『ああ、わたしも可愛い妹ができて嬉しいぞ』って……」
「妙にリアルな裏側やめろ!」
結婚なんてありえないから逆に生々しく聞こえちまってるわっ(鳥肌)!
「……? 妙にリアルっていうか、リアルの話してんだけど?」
熾兎は小首を傾げた後、
「まぁいいわ。それより、あんたにもうひとつ、言うこと思い出した」
「『先生のお腹に赤ちゃんはいるの?』とか訊くなよ。いたら想像妊娠ならぬ設定妊娠だ」
「はぁ、記憶喪失って不憫ね。どっかのネット掲示板で『……などと意味不明な供述をしており』なんてディスられてもおかしくないわ……」
はは、少なくとも俺が元いた世界では心配無用だ。著者からの扱いが不憫すぎて俺が誰なのか特定しようとはされるかもしれないが。
熾兎が溜息したそうな様子で、
「ねぇ。トピア先輩ってさ、あんたのなんなの?」
「婚約者だ」
「バッカじゃないの」
なんでだよ!
先生との結婚より断然それっぽいじゃねえかっ!
「あたしが気になってんのはさ。タワシなあんたを助けようとしてる先輩の腹の内よ。だってそうでしょ、自身の優勝を手放すどころか、それを悪用した《《デマ》》まで流してんのよ? あんたはもう異能力者じゃないのに。優勝なんて不可能なのにさ」
「……まだそうと決まったわけじゃないだろ」
「決まってるでしょ。Bブロックを不戦勝で突破。けどそれまでよ。あんたに戦う術がない以上、優勝はできっこない」
「言ってろ」
俺には秘密兵器のアリスがいる。彼女とは昨日1日特訓に明け暮れ、ほぼ完璧なまでに連携が取れるようにしてある。
また、そんな俺達を支えてくれたトピアと大和先生からは、充分優勝を狙えるとのお墨付きを貰っている。
「……他にも策があるようね。はっ、こうなったらとことん呆れるしかないわ。あんた、どれだけ人サマを巻き込めば気が済むのよ? そんなに退学が嫌だっての?」
「嫌に決まってんだろ」
「あそう。ならこの際言っておくけど。記憶喪失になる前のあんただったら、今回の大会にもエントリーすらしなかったはずよ」
「……、理由は?」
「あんたは入学してからずっと序列最下位だもの。この学園での立場に全く執着がない、学園生活なんてもうどうでもいいからでしょ。違う?」
「…………」
……違わないかもしれない。ただそれはきっと、熾兎が発狂して誕生させてしまったアイツを……グロキモな怪物を、早く倒してあげたかったからだろう。
彼にとっては大会への出場が無視できるくらい大事なことだったのだ。
(とはいえ実際にそれほど大事だったのなら、セクハラとかナンパとかしてる場合ではないだろうにな。中学時代に青春してなかった反動とか言い訳すんなよ)
高3直前まで非リア充だった俺からすれば鼻で笑えるレベル。これを読んでいる読者の中には、俺とも比べた上で失笑できている猛者もいたりするはずだ(敬意)。
当然ながら妹の熾兎はそのあたりの事情を知らない。知っていたら俺に優しいはずだし、兄に対して死んで欲しい&退学して欲しいなんて冗談でも願わない。たぶん。
「ねぇ、やっぱあんた、棄権しときなさいよ」
熾兎が突如として言ってくる。
それは最後通牒のように酷く穏やかなものであり、
「優勝して退学を免れたい気持ちはよくわかったわ。あたしは今のあんたには深く同情する。トピア先輩と同じように可哀想ってね?……だけどね、あんたの妹だからこそあたしはあんたに言ってあげてんのよ。優勝を目指したところで、ただ恥を掻くだけだって。退学した後、余計に生活が辛くなるだけだって」
「……。テレビに映るからか?」
「そうね。無能力者とバレたら世界中で笑い者にされるでしょうし……。残りの人生を、ひっそり生きるなんて、できなくなる」
確かに。俺に秘密兵器がいると知らない熾兎だったら。その予想はごくごく自然だ。彼女が俺の未来を案じたくなるのも無理はない。
……で、あればだ。
「はっ、余計な心配だなぁ? そもそも俺は退学するつもりもひっそり生きるつもりないぞ。前にも言ったが、優勝するつもりなんでな!」
俺は声高らかに改めて自信の程を示してやった。
すると熾兎は短く息を吐いてから、
「……そ。あんたは自分の好きにするってことね。ならいいわ、あたしもそうするから」
「おう、そうしとけ」
なんの気なしに。
俺が熾兎に返して直後。
「死んで頂戴」
ぷちゅり、と。
熾兎が発効した弾丸が、彼女の指の隙間から下投げに放たれ、俺の額を射抜いたのだった。
「……………………。は???」
なぜ投げただけの弾丸が俺の額を貫けるのか―――?
よりにもよってそんな些細な疑問が浮かんできた時には、俺は頭から後ろに倒れており。無意識に額を拭っていた手には、血糊以上にどす黒い血が付着していた。
(え? 熾兎に殺されたのか俺? マジで……?)
「いいや、さっさと起きろ憑々谷。時空の歪みに惑わされるな。正気を保て」
「っ!?」
霞みかけた視界一杯に、俺が最も苦手とする人物の顔が飛び込んできた。
衝撃的すぎる不意打ちに俺は慌てて上体を起こす。
「え? こ、これは……!」
そこでようやく気づく。
アンティーク風の巨大時計が、俺の眼前で黒炎を上げて浮遊していることを。
「おじいさんの亡霊時計だ。これに触れたあらゆる異能力は、この亡霊時計が秘める時空の歪みに呑み込まれ、消失する」
「! つ、つまり俺は、殺されていない……?」
「ああ。時空の歪みに当てられて幻覚を視ていたようだがな?」
……そうか!
どうりで手に付着していたはずの血も綺麗に掻き消えている!
「大丈夫ですか、憑々谷君?」
「! トピア」
うわすごい安心する! 俺的『コイツが駆けつけたら安心感ハンパないキャラ』ぶっちぎりの1位ですよトピアたぁん!!
「ってか俺、ずっとあんたを捜してたんだぞ? どこに隠れてたんだよ?」
「ん? わたしか? わたしならトピアと場内の見回りをしていたが」
見回り……? あぁ、異能警察の仕事でか。
だったら偶然に偶然が重なってすれ違いまくっていたのか(不運)。
「いや、すまんが憑々谷、今はそんな話をしていられん」
大和先生は亡霊時計の発効を解除すると、
「なぁ熾兎よ。……さっきの異能力は一体なんのつもりだ?」
あぁ、そうだったな。
あれはガチだった。確実に俺を殺そうとしていたんだ。
しかもこんな、往来の場所で……。
「闘技グラウンド以外での異能力の発効は禁止されている上、お前はわたしの結婚相手を手にかけようとしたのだ。送ってきた祝福メール……あれに書かれていた内容は嘘だったのか?」
「嘘だよッ!!」
熾兎の代わりに俺が即答した!
もうね、結婚自体が大嘘なんだから、それに関連した情報も100パー嘘!
嘘のオンパレードなんだよッ!
「…………先生。申し訳ないですけど、あたしはあたしの好きにさせてもらいます。そこのタワシも同意してくれてますしね」
涼しい顔で答える熾兎は殺人未遂の自覚などまるでない様子だった。
そんな彼女に対し、大和先生は鬼のような形相になる。
「いいか熾兎、よく聞け。……お前がコイツの妹だろうとな、わたしは躊躇しないぞ。お前がコイツを殺した時、わたしがお前を殺す。覚悟しておけ」
「そうですかわかりました。けど万が一、タワシと決勝でぶつかった時は邪魔しないでくださいね。……先に先生を殺してしまうかもしれませんから」
「……、」
「そう睨まないでください。冗談ですよ。テレビに顔晒しながら殺人とかアホじゃないですか。相当アホすぎてしてみたいくらいです」
「おい、大会失格にするぞ」
「それは困るので大人しく退散します。では」
言い終える前には踵を返し、去っていく熾兎。
「……………………おい憑々谷」
「なんだ?」
「絶対に……。アイツに殺されるんじゃないぞ……」
大和先生の言葉に俺は「……ああ」と湿っぽく返事する。
熾兎は冗談だと言ったものの、俺も先生と同様、全く冗談に聞こえなかった……。
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