2.5D/リアル世界の異世界リアル
第51話
51
モザイクがかかったみたいに背景がはっきりしない視界。
その中心に1体の『怪物』がぽつんと立っていた。
どんな姿か語りたいのは山々なのだが、俺は今どうもボーっとしていて上手く頭が働いてくれそうになかった。
それどころか体全体の感覚もなくて生きている心地がしない。視覚以外の五感は死んでいそうだった。
(…………、グロキモだな……)
パッと見の感想だけならすぐだった。よし、じゃあお次は……その怪物がどんな姿かを、完璧とはいかないだろうが頑張って語ってみるとするか―――。
ガニ股気味の両足はまんま鳥の脚だ。
でっぷりとした胴体にはタコっぽさのある吸盤付きの触手が幾重にも巻き付いていて、にゅるにゅると蠢いている。
そして両腕は……左腕がカマキリのカマみたいで、右腕がカニのハサミみたいだ。
だからか左右の肩が全く釣り合いを取れていない。
あと首にはブルドックがつけてそうなトゲトゲな首輪が装着されている。
しかもなぜかトゲトゲはオシャレな感じに明滅している。
クリスマスツリーの装飾電球と言えばわかりやすいだろうか。
最後は頭部だ。深海魚っぽい小粒な瞳に、セイウチっぽい無駄に長い牙。
顎から頬にかけては黒ずんだ苔が生い茂っているが、頭髪は1本たりとも生えていない。
一応クラゲの傘みたいな帽子を被っているのだが、それがほぼ透明なのでツルッパゲなのは明白。ちなみにグリーンのスキンヘッドだ。
(……おぉう。結構なところまで語れてしまったかもしれないな)
少なくともグロキモなのは伝わったと思う。
とにかくこの怪物は目に毒すぎる。吐き気を催す人がいても不思議じゃない。
「………………ン」
と、その怪物の声がほんの微かに聞こえてきた。
どうやら俺の聴覚は生きていたらしい。俺に向かってなにかを言っている。
「………………ャン」
………………。
(……やん? まさか『やんっ♪』って言っているのか?)
おいおい、冗談は外見だけにしてくれ。
グロキモのくせにアリスみたいな可愛い()発言してるんじゃ―――。
「オニイチャン」
「―――うわああッ!?」
最後に聞こえてきた幽霊じみた呼びかけが、俺を夢から現実へと帰らせた。
「はぁ、はぁ、はぁ……!? と、トラウマもんの夢を見ちまった……!!」
荒い息で独りごちる俺は全身汗でびっしょりだった。
あまりにインパクトが強すぎて、心臓の鼓動も激しくなってくる。
……思い出したくなくても、つい思い出してしまう。
(お、オニイチャン、だと? お、俺がか……? あのグロキモな怪物の兄上様であると……?)
そんなバカな。
夢だったとはいえ聞き捨てならないぞ―――。
「……え!? 憑々谷君!? 目が覚めたの!?」
―――俺はこの時、部屋に入ってきたのが癒美であること、この部屋がとても女の子らしい部屋であること、俺はスウェットを着てベッドで寝ていたことに次々と気づいた。
そのせいか少し混乱してしまい、
「癒美……? お、俺はどうして……? ここはなんだ……? ここで俺は、お前はなにを……?」
「うん!? 落ち着いて!? 近所迷惑になるかもだから、絶対に騒がないでねっ!?」
「! あ、ああ、そうだな。……って、お前のほうが騒いでないか……?」
素でツッコめるほどには持ち直した俺は、ひとまず癒美から視線を外してこの部屋を見回す。
(……寮部屋、ではないな。間取りや縦横の広さが違う。実家の彼女の部屋だったりするのか……?)
それにしたってピンク色でハート模様の家具ばっかりだ。
カーテン、テーブル、座椅子、毛布、絨毯、照明、本棚、時計、パソコン等々。
ここまで好きで揃えてるんだからもう立派なコレクターだろう……。
「えっと、なにから話したらいいかな……。あ、そうだ」
「?」
不意に手の平を合わせたかと思うと、癒美は気恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「約束のチュー、まだしてなかったよね? ごめん、正直に言うとね、憑々谷君が寝込んでる時にこっそりしちゃったんだ。5回くらいなんだけど」
「…………は???」
唖然とせざるをえない俺だった。
俺にチューを5回もしたって……。ま、マジっすか?
「さ、最初は1回のつもりだったんだけどね? でも、憑々谷君が全然起きてくれないから。わたしってばついつい逆白雪姫をしてあげたくなっちゃったの……」
「…………」
「お、怒ってる? ううん、怒ってるよね。本当ごめんね、憑々谷君はそんな年頃じゃないって、やめたそうだったのに。……だから反省して当分は控えるよっ!」
「……は、はぁ?」
なんだこれ。知らない間にチューされまくって勝手に控えられたんですが?
じわじわ泣けてくるな、ラノベ主人公的に……(涙目)。
「ね、ねぇ、憑々谷君?」
「ん? どうした?」
「喉、乾かない? なにか飲みたい物とかある? あと食べたい物とか」
「えっと、いや、特に俺は―――」
「うん、うん!? わかった、コーラとメントスだね! 買ってくる!」
「は!? い、言ってねえよ!?」
しかも超危険な組み合わせ!
癒美サン知らないのか!? というかこれ著者の仕業だよな!?
「…………。行っちまった……」
やばい。この有無を言わせない展開はきっと不幸なことが起こる前兆だ。
違いない。違いなさすぎる。ついこの前だってそうだったじゃないか。
いきなり大和先生にチート級の異能力を発効されて、頼みの綱であるトピアとアリスが呆気なく気絶させられて。
…………ッ!?
「あ、あぁッ!?」
思い、出した!
そうだ。俺は大和先生と1対1で戦ったのだ。
怖くて失禁しそうになって、一方的に暴力を受けて!
それでも最後、半ばヤケクソでパンチラの風を発効して、彼女の眉間に1発ぶちかましてやった!
「……え? じゃああの後、どうなったんだ……?」
とりあえず俺は……生きている?
癒美がいたんだし、生きているのは確かだよな?
でもなんだろうな、この違和感は。
「!……あぁ、そうか。あれだけボロボロになってたのに、激痛だったのに、体の痛みが完全に消えてるじゃないか……」
試しに腕をまくってみる俺。
むしろ以前より肌がスベスベになっている気がするくらい、綺麗なままの腕だった。何度も殴られた頬も触ってみるが、やはり怪我の痕跡はない。
「くそ、訳がわかんないな。こうなったら急いでトピアか大和先生に連絡を―――」
そこで俺ははたと気づく。
程なくして自分自身を叱りつけるように頭を叩き、
「お、おいいぃぃ!? ナニ言ってんだ俺!? 大和先生に連絡、だって……!?」
な、ないだろ! 大和先生とか絶対にありえないだろう!? もしかして殺されたいのか俺!? いや死んででもあの人には2度と会いたくないッ!!
あぁホントお願いですから! もうちょっと考えてから呟いてくださいよ俺!! 口にしただけですでにガクブル状態なんだがッ!?
「どうした? わたしならここにいるが?」
…………………………………………………………。はい?
モザイクがかかったみたいに背景がはっきりしない視界。
その中心に1体の『怪物』がぽつんと立っていた。
どんな姿か語りたいのは山々なのだが、俺は今どうもボーっとしていて上手く頭が働いてくれそうになかった。
それどころか体全体の感覚もなくて生きている心地がしない。視覚以外の五感は死んでいそうだった。
(…………、グロキモだな……)
パッと見の感想だけならすぐだった。よし、じゃあお次は……その怪物がどんな姿かを、完璧とはいかないだろうが頑張って語ってみるとするか―――。
ガニ股気味の両足はまんま鳥の脚だ。
でっぷりとした胴体にはタコっぽさのある吸盤付きの触手が幾重にも巻き付いていて、にゅるにゅると蠢いている。
そして両腕は……左腕がカマキリのカマみたいで、右腕がカニのハサミみたいだ。
だからか左右の肩が全く釣り合いを取れていない。
あと首にはブルドックがつけてそうなトゲトゲな首輪が装着されている。
しかもなぜかトゲトゲはオシャレな感じに明滅している。
クリスマスツリーの装飾電球と言えばわかりやすいだろうか。
最後は頭部だ。深海魚っぽい小粒な瞳に、セイウチっぽい無駄に長い牙。
顎から頬にかけては黒ずんだ苔が生い茂っているが、頭髪は1本たりとも生えていない。
一応クラゲの傘みたいな帽子を被っているのだが、それがほぼ透明なのでツルッパゲなのは明白。ちなみにグリーンのスキンヘッドだ。
(……おぉう。結構なところまで語れてしまったかもしれないな)
少なくともグロキモなのは伝わったと思う。
とにかくこの怪物は目に毒すぎる。吐き気を催す人がいても不思議じゃない。
「………………ン」
と、その怪物の声がほんの微かに聞こえてきた。
どうやら俺の聴覚は生きていたらしい。俺に向かってなにかを言っている。
「………………ャン」
………………。
(……やん? まさか『やんっ♪』って言っているのか?)
おいおい、冗談は外見だけにしてくれ。
グロキモのくせにアリスみたいな可愛い()発言してるんじゃ―――。
「オニイチャン」
「―――うわああッ!?」
最後に聞こえてきた幽霊じみた呼びかけが、俺を夢から現実へと帰らせた。
「はぁ、はぁ、はぁ……!? と、トラウマもんの夢を見ちまった……!!」
荒い息で独りごちる俺は全身汗でびっしょりだった。
あまりにインパクトが強すぎて、心臓の鼓動も激しくなってくる。
……思い出したくなくても、つい思い出してしまう。
(お、オニイチャン、だと? お、俺がか……? あのグロキモな怪物の兄上様であると……?)
そんなバカな。
夢だったとはいえ聞き捨てならないぞ―――。
「……え!? 憑々谷君!? 目が覚めたの!?」
―――俺はこの時、部屋に入ってきたのが癒美であること、この部屋がとても女の子らしい部屋であること、俺はスウェットを着てベッドで寝ていたことに次々と気づいた。
そのせいか少し混乱してしまい、
「癒美……? お、俺はどうして……? ここはなんだ……? ここで俺は、お前はなにを……?」
「うん!? 落ち着いて!? 近所迷惑になるかもだから、絶対に騒がないでねっ!?」
「! あ、ああ、そうだな。……って、お前のほうが騒いでないか……?」
素でツッコめるほどには持ち直した俺は、ひとまず癒美から視線を外してこの部屋を見回す。
(……寮部屋、ではないな。間取りや縦横の広さが違う。実家の彼女の部屋だったりするのか……?)
それにしたってピンク色でハート模様の家具ばっかりだ。
カーテン、テーブル、座椅子、毛布、絨毯、照明、本棚、時計、パソコン等々。
ここまで好きで揃えてるんだからもう立派なコレクターだろう……。
「えっと、なにから話したらいいかな……。あ、そうだ」
「?」
不意に手の平を合わせたかと思うと、癒美は気恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「約束のチュー、まだしてなかったよね? ごめん、正直に言うとね、憑々谷君が寝込んでる時にこっそりしちゃったんだ。5回くらいなんだけど」
「…………は???」
唖然とせざるをえない俺だった。
俺にチューを5回もしたって……。ま、マジっすか?
「さ、最初は1回のつもりだったんだけどね? でも、憑々谷君が全然起きてくれないから。わたしってばついつい逆白雪姫をしてあげたくなっちゃったの……」
「…………」
「お、怒ってる? ううん、怒ってるよね。本当ごめんね、憑々谷君はそんな年頃じゃないって、やめたそうだったのに。……だから反省して当分は控えるよっ!」
「……は、はぁ?」
なんだこれ。知らない間にチューされまくって勝手に控えられたんですが?
じわじわ泣けてくるな、ラノベ主人公的に……(涙目)。
「ね、ねぇ、憑々谷君?」
「ん? どうした?」
「喉、乾かない? なにか飲みたい物とかある? あと食べたい物とか」
「えっと、いや、特に俺は―――」
「うん、うん!? わかった、コーラとメントスだね! 買ってくる!」
「は!? い、言ってねえよ!?」
しかも超危険な組み合わせ!
癒美サン知らないのか!? というかこれ著者の仕業だよな!?
「…………。行っちまった……」
やばい。この有無を言わせない展開はきっと不幸なことが起こる前兆だ。
違いない。違いなさすぎる。ついこの前だってそうだったじゃないか。
いきなり大和先生にチート級の異能力を発効されて、頼みの綱であるトピアとアリスが呆気なく気絶させられて。
…………ッ!?
「あ、あぁッ!?」
思い、出した!
そうだ。俺は大和先生と1対1で戦ったのだ。
怖くて失禁しそうになって、一方的に暴力を受けて!
それでも最後、半ばヤケクソでパンチラの風を発効して、彼女の眉間に1発ぶちかましてやった!
「……え? じゃああの後、どうなったんだ……?」
とりあえず俺は……生きている?
癒美がいたんだし、生きているのは確かだよな?
でもなんだろうな、この違和感は。
「!……あぁ、そうか。あれだけボロボロになってたのに、激痛だったのに、体の痛みが完全に消えてるじゃないか……」
試しに腕をまくってみる俺。
むしろ以前より肌がスベスベになっている気がするくらい、綺麗なままの腕だった。何度も殴られた頬も触ってみるが、やはり怪我の痕跡はない。
「くそ、訳がわかんないな。こうなったら急いでトピアか大和先生に連絡を―――」
そこで俺ははたと気づく。
程なくして自分自身を叱りつけるように頭を叩き、
「お、おいいぃぃ!? ナニ言ってんだ俺!? 大和先生に連絡、だって……!?」
な、ないだろ! 大和先生とか絶対にありえないだろう!? もしかして殺されたいのか俺!? いや死んででもあの人には2度と会いたくないッ!!
あぁホントお願いですから! もうちょっと考えてから呟いてくださいよ俺!! 口にしただけですでにガクブル状態なんだがッ!?
「どうした? わたしならここにいるが?」
…………………………………………………………。はい?
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