2.5D/リアル世界の異世界リアル

ハイゲツナオ

第38話



38


 トピアのベッドで寝かされてたなんて……。萌え死にしそうだ!


「ということで、君が大会で優勝するためにはアリスの存在が必要不可欠なのです」


 あぁ必要不可欠だ。俺の2度寝は!


「って、あの、憑々谷君? なぜベッドに戻ろうとしてるんです……?」


 決まっている。お前の匂い……残り香を嗅ぐためだ。
 そしてその感想を読者に報告するッ! たとえ萌え死んだとしてもだ!


「あははー♪ トピアの匂い嗅ぐためだってぇ~!」
「! 加速装甲ブーストアーマー、発効!」


 次の瞬間、ロングドレス型の鎧に身を包んだトピアがベッド側に回り込み、俺の額に銃口を押し付けていた。


 だが俺は諦めきれなかった。切実な瞳でトピアに語りかける。


「退いてくれ。これはトピアファンの願望なんだ。お前が俺にベッドの再利用を許すだけで、どれだけの萌え豚が救われると思う?」
「知りません。わたしの臭いを世界中に晒さないでください」
「美少女のくせに謙遜するなよ」
「謙遜ではなく嫌悪ですから!」


 ……むっ、声を張り上げるとは珍しい。
 どうやら説得は無理そうだ。申し訳ない同志達よ。


 アリスが俺の前に飛んできた。


「ねぇツっきん! あたしのカラダなら好きに嗅いでいいよ? アリスファンに感想を伝えてあげて♪」
「さて話に戻るか」
「ムシっちゃう!?」


 ……や、だって。さすがにそれは虚しすぎる。好きな子にフラれたショックで好きでもない子と付き合うみたいなのと一緒だ。
 というかアリスファンなんていないだろ。全員トピアファンだろ(確信)。


「いるもん! 絶対いるもん! だってあたし美少女じゃん! 神様だし!」
「お言葉だが。ラノベじゃ美少女なのは当然のスペックだし、神様でも決して魅力があるとは限らないぞ」


 それこそウザキャラだったらもう……。


「ウザキャラぁ!? このあたしがウザキャラだってぇ!?」
「誰もそんなこと言ってないだろ。ウゼぇなぁ」
「今言ってんじゃーん!?」


 するとアリスは「じゃあいいもん!」と見えない胸を張り、






「ツっきんに協力してあげない! 大会に出てあげないんだから!」






「っ! 嗅がせろォ!」


 咄嗟に俺は腕を伸ばした。
 半ば強引にアリスの体を掴んだのだ。


「え、ちょ、痛いよ……」


 アリスは俺の手に収まって身動き取れないでいる。
 その顔は僅かに赤らんでいた。


「―――憑々谷君」


 アリスの体に鼻を近づけようとして、だがトピアが俺の後頭部に銃口を押し付けていた。


「……トピア? これはなんの真似だ? 俺達は同意の上だぞ?」
「いえ、誤解しないでください。これは著者の仕業です。わたしに頭の中でこうするようにと命令してきたんです」
「嘘吐け。それじゃお前の意志で動いてるじゃないか」
「バレましたか。まぁとにかくアリスを離してください。彼女に着せてるメイド服が傷ついたらどう責任取ってくれるんですか」
「……、そっちの心配かよ」


 俺は脱力すると同時、アリスを解放してしまった。


「アリスもいじけないでください。少し前まであなたは神様だったんですから、人間性に欠陥のある憑々谷君を相手にしないでください」
「うえ!? 現在進行形で神様なんだけど!?」
「うるさいです。元の話に戻れません」
「あたしのせいなの!? 酷ッ!」


 いや酷くなんてない。むしろ当然だ。
 問答無用で悪人に仕立て上げられるのは、ウザキャラの宿命だろう。


「はあ……。異能力なんて使って見せるんじゃなかった……」
「そう言うな。凡人の俺より天才のお前のほうが幸福だろ―――」


 俺は恨み節を吐くように言った。


 そう。トピア曰くアリスは異能力者の天才だった。先ほどの黒い人体標本―――名無しの黒骨体ネームレス・マリオネットは、なんと派生能力デリベーションスキルだった。
 まずこれを早い内に発現できた時点で天才らしく、しかも通常は1体だけ召喚されるという。5体も召喚できたのは史上初なのではないかとのことだ。


 ただでさえ高い集中力を要する異能力だ。これに並行して万能能力マルチスキル萌え豚症候群ブヒステリーも発効するのは熟練者でも難しいとトピアは解説してくれた。


 ……トピアは言っていた。優勝が不可能かどうかは、アリス次第だと。それはつまることろ、異能力者の天才であるアリスを、俺の体のどこかに潜ませて―――。






「あたかも異能力を使ったフリしながら戦うとか……。こんな屈辱あるか!?」






 そう。最強の異能力者であるはずの俺ではなく、こっそりアリスに異能力を使わせて戦う。それがトピアの案だったのだ……(屈辱)。


「ですがアリスに頼る以外、君の優勝はありえないと思います」
「だよな……」


 俺もトピアと同意見だった。俺の優勝はズルでもしないと無理だ。
 もちろん納得はできていない。


(だって正直嫌だろ。完全無能の主人公が学園の一大行事でチート行為を働くんだぞ。読者の立場なら爽快かもしれないが、当事者にはなりたくないだろ……)


 ただ、それでも―――。


「まぁ、背に腹は代えられないよな」


 この先の展開が全く読めない以上、今悩んだり嫌がったりしても仕方がない。
 武闘大会で優勝を目指すなら雑念なんて追い払ってしまわなければ。


「てゆーか、まだあたしがオッケーしてないんだけどぉ?」
「え? お前の体臭を嗅いでアリスファンに感想言えばいいんだろ?」
「そんなの冗談に決まってるじゃん。神様バカにしてんの? あん?」
「…………。たった今、唯一のアリスファンが消えた気がしたな」


 そこにいる読者! ズバリ君だろう!?  
 その判断は正しい! 褒めて遣わす!


「あははー♪ 皆のアイドル、アリスだよ~ん♪ 近い内に枕カバー発売するから楽しみにしててねっ♪ それはもう、頑張っちゃうんだからっ」
「テキトーなこと言って読者に媚びてんじゃないぞ!」


 しかし枕カバーか……。
 トピアのなら超欲しい……(垂涎)。


加速装甲ブーストアーマー、解除。……とりあえず、憑々谷君の目標は武闘大会での優勝。それで決定ですね?」


 トピアが制服姿に戻り、そう俺に訊ねてきたので。






「―――ああ。もう俺は迷わない」






 トピアの恋心が婚約者から俺に移ってくれるんじゃないかなー、と淡い期待もしつつ、俺は決め台詞を言う心地で宣誓した。


「そうですか。ではやはりアリス次第ですね。憑々谷君以上にアリスが大変なのは言うまでもありません」
「えぇ~? じゃあヤだ~」
「わたしは無理強いしませんよ。これは2人の問題ですから。2人で話し合って決めてください」


 トピアが「では今晩もご馳走します」と言ってキッチンへと移動していった。
 俺とアリスの2人きりになる。


「ねえツっきんさぁ? そんなにトピアのことが好きなら、これ以上トピアに迷惑かけるべきじゃなくない?」
「なんだよいきなり……」


 アリスが俺の目と鼻の先に飛んでくると、


「だって優勝なんて非現実的じゃん。なのにトピアは協力してあげようとしてるんだよ? これってつまりトピアが無茶してるってことじゃん?」
「そうかもしれないが……。その親切を無下にするのは失礼だろ」
「んじゃあなに? 優勝候補のトピアと戦う気なの? 絶対トピアはわざと負けると思うけど? 本人も優勝したくて大会出るのにさ」


 それは確かに……。
 トピアはプライドを捨ててまで俺に優勝を譲る……と思う。


「問題はそれだけじゃないっしょ。そもそも初戦突破したら異能警察がツっきんを捕えようとしてくるよ? どうやってそれを回避するの?」
「それはさっきトピアが言ってただろ―――」


 トピアはこのように言っていた。『警戒レベルは慎重にあげるべきと、改めて監視部に働きかけてみますね』と。


「でもさぁ今回は却下されちゃうんじゃない? トピアって『末端』でしょ? 立場は弱いはずじゃん」
「だが―――」
「じゃあ仮にトピアが上の人達を説得できたとしてだよ? ツっきんが順調に勝ち進んでしまったらもっとトピアの立場は弱くなるよ? クビにされてもおかしくないんじゃない?」


 クビ、という単語に、すかさず俺は首を振った。


「それはわからないだろ。意外と異能警察が『あれー? 彼、暴走しないじゃん? もう彼を監視しなくていいんじゃね? 判断正しかったトピアちゃん昇進させるべきじゃね?』なんて考えてくれるかもしれないだろ」
「ないでしょ。トピアは使い捨てでしょ」
「……お前、それが行き倒れてたところを保護してくれた恩人に対する評価か?」


 やれやれだ。居候させてくれてるトピアに失礼すぎだろう。
 きっとアイツだって学業と仕事の両立に努力しているんだ。トピアのほうが断然偉いと俺は思う。


「ふぅ。話し合いは平行線だねぇ?」
「平行線? ならお前の線はステルス機能でもついてんのか? こっちには全く感知できないんだが」
「だからさぁ~? あたしは大会出るのヤなの。メンドくさいじゃん」
「そりゃお前が異能力で戦うんだしな。面倒なのは当然だろ」


 だが俺と一緒に大会に出てもらわないと困るわけで。
 ……ううむ、これはなにか取引でもしないとアリスは納得しないんだろうな。


 と、俺の心を読んだらしい。
 アリスが「しょうがないにゃあ……」と呆れたように言い、


「じゃあさ……。あたしの願い、叶えてくれたらいーよ」
「願い? 神様のくせにあるのか?」
「くせにってなに!? そうだけど悪い!?」
「ああ怒るな、とにかくその願いとやらを言ってみろ」
「ふっふーん! 覚悟して聞くことだね!」
「な、なんだよ……?」


 なぜだろう。
 俺は嫌な予感がして身の毛がよだつようだった。



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