2.5D/リアル世界の異世界リアル
第19話
19
俺の抗議に対し、トピアは無表情のまま言った。
「なかなかの反射神経と動体視力ですね。ではそういうことでルール追加です」
「ざ、ざけんな! 俺にメリットがないだろ!」
「ありますよ。君が確実に勝てる方法ができたことです。ヒントは……肉を切らせて骨を断つ、ですね」
俺は正気ではないと半ギレになる。
「騙されないぞ!? だいたいその場合、肉は俺の頭で骨はお前の脚スリスリだろ!? 肉と骨のたとえが逆な上に代償のデカさが違いすぎる! 死ぬ気になってまで脚スリスリしてえとは思ってないからな!?」
「ではペロペロしてもいいですよ。わたしの脚をペロペロ」
「………………、ダメに決まってんだろ!」
「なぜ間が空いたのでしょうか。まぁ却下でも構いませんけど。こっちもヤですし」
瞬間、トピアは倉庫の隅に高速移動した。
「あと60秒ほどなので、そろそろ回復したいと思います」
「さ、させるかっ!」
俺は慌てて立ち上がりすぐにダッシュ。しかしその時にはすでにトピアは加速装甲を解除し制服姿に戻っていた。
「―――加速装甲、発効」
そして俺がまだ手を伸ばすこともできない距離の内にトピアは再び変身し、別の隅へと高速移動する。
「―――加速装甲、解除」
解除には3秒、発効には4秒くらい時間を必要とする。だがそれでも隅から隅へと休憩場所を移す手法を取られたら俺には為す術がなかった。引きこもりだった俺にはどうしても体力が続かない。
「く、くそぅ……」
倉庫を1周したトピアに対し、俺はたった半周―――まだ斜め向かいの隅だった。
「やはり先ほどのルール、追加しましょうか?」
「こ、断る! お前の脚はペロペロしたいけど!」
「……、ふと気づいたんですけど」
と、なぜか急にトピアが消え入りそうな声になった。
「? どうした?」
「……『これ』って見られているんです……か?」
「は? 誰に? というかお前の異能力でバレないようにしてるんじゃないのか?」
「いえそうではなく……。ひょっとして君も気づいてないのですか……?」
……???
いきなりすぎて余計わからないんだが。
「ここは小説の中なんですよね……? だったら今までのわたし達のやり取りをずっと見ている……読んでいる方がいるんじゃないですか……?」
「……おお! そうだな!」
手をポンと叩く俺。
「えっ、本当に気づいてなかったんですかっ!? だから平然とペロペロとか叫んでたんですかっ!?」
「いや特に意識してないだけで普通に気づいてたが? それがどうした?」
「…………………………………………」
俺が平然と答えるとトピアは無言になった。
(おいおい。自分から訊ねておいてそりゃないぞ。でもこういうヤツ結構いるんだよな。無言はだいぶマシなんだけど『あっそ』とか『ふーん、で?』なんて感じに言い返されたらな。当然『お前から質問してきたんだろが!?』ってキレたくなるよな読者諸君。なんで1人勝手に興味失せてんだ? お前のために答えちゃった俺のせい? なら質問すんなバカヤロウ!)
俺は気息を整えつつトピアの反応を窺っていると。
―――突然だった。
「…………今日の特訓は中止でお願いします」
「え!?」
さすがに冗談だと思い、俺はトピアの元に走り寄った。しかしトピアは加速装甲を解除したまま逃げなかった。どうやら本気で中止にする気らしい。
「お前、怒ってるのか? 俺がなにかしたか? あぁ、俺が敬語使わないことに堪忍袋の緒が切れたのか?」
「いいえ……。人に見られている事実を気づかせてくれなかった君は少々憎いですが―――それとは無関係です」
「??? 言ってる意味がだなぁ、」
「出てきてください。そこにいるんでしょう」
あれ、デジャヴ―――。
咄嗟に俺は奇姫の登場を予感したが、違った。
背後を振り返っていたトピアの視線は倉庫の隅の隅、つまりはコーナーそのものに注がれている。その周囲よりもちょっと暗い程度の空間に、縦に一本、鈍色の亀裂が走り、
「おっかしいなー。シュレディンガーの空箱って探知効果あったっけ……?」
「んなっ?」
まるで締め切られたままの舞台幕から姿を現すかのごとく……自称俺の妹が登場したのだった。
「探知効果はありませんよ。あなたの制汗剤の匂いでわかったまでのことです。わたしも同じ制汗剤を使用していて匂いは嗅ぎ慣れていたので」
「あー失敗。昼休みにバスケしちゃったからなぁ……」
なるほど、どうりでジャージ姿だった。
自称俺の妹のバスケ姿……正直かなり見てみたい(切実)。
「あなたこそ、なぜここがわかったんですか?」
「だって先輩、いつもここで練習してるじゃないですか。結構有名ですよ?」
「? わたしを捜していたんですか? あなたとわたし、初対面ですよね?」
「いや捜してたのはそこのタワシです」
自称俺の妹が俺に指を差してくる。
「さっき大和先生から『お前の兄だろ、連れて来い!』と怒られてしまいまして。その時にもしかしたら先輩と一緒にいるかもしれないってことも聞いたんですよ」
「……、兄」
「そうです。あたし憑々谷熾兎って言います。熾烈の熾に兎で熾兎。……大変お恥ずかしい限りですけど、そこのタワシの妹です」
「はあ……? タワシ……?」
「あ、そこは気にしなくていいです。ただの兄の呼び方なんで」
……良くない。
ちゃんとお兄ちゃんって呼んでくれ。
「ところで二人きりになってなにしてたんですか? 来たばかりで状況が読めてないんですけど」
「……」
「嘘じゃないですよ。まぁ信じられないんでしたら教えてくれなくてもいいですけど」
「……すみません」
トピアは―――拒否した。
これは正しい判断だ。トピアは日夜俺の声を盗み聞きしてるのだから俺の妹の存在も知っていただろうが、俺自身からは妹についてなにもトピアに話していない。
(つまり俺の事情を知る『仲間』じゃないかもしれない、ってことだ)
いくら俺の妹だからって安易に話されては困る。だいたい俺だって今朝会ったばっかでコイツを妹以前に人間として信用できてないんだ。
兄である俺への扱いも酷いもんだし。なぁにが「死んだ?」だ(粘着)。
「ねぇ、いつまで黙りこくってんの?」
熾兎が俺を睨み付けてくる。
「大和先生にもそうだけど、あたしになにか言うことないわけ? 授業まだあったんだけど?」
「おう、サボれてよかったな」
「……、はあ?」
眉を歪めた熾兎。
……やべ。当たり前すぎる回答したせいで呆れられてしまったか。
「憑々谷君、君という人は……」
「先輩。申し訳ないですけど、手出し口出しは無用で」
トピアにそう釘を刺すや、熾兎は「はっ!」と声を発した。
それを耳にした時には熾兎の強烈な腹パンによって突き飛ばされていた。
躱すなんて俺には無理だった。
速い遅いを認識する暇もないくらい、熾兎の腹パンが速かったからだ。
「ふぅー。あースッキリしたぁー」
激しい吐き気を伴いながら倉庫の床を転げ回った俺を、熾兎は恍惚の境地に至った様子で見ると、
「授業をサボったり遅刻したり、女の子を困らせたり泣かせたり……。タワシなあんたのせいであたしがどんだけ大変な思いをさせられてきたかわかってない。まるでわかってない。だったら腹パンされても仕方ないよねぇ?」
「……ってぇー! なんつー妹だ……!?」
やっぱり俺の妹じゃないなコイツ。兄を兄と思ってないだろ。本人もタワシだって思ってるし。粗品だろ。リーズナブルだろ。でもタワシなめんな(怒)。
(そりゃ見た目はなんでも許してあげちゃいそうなくらいすげー可愛いけどさ。だったらなおさら、俺の妹じゃないってのもあるだろっ!)
俺にはもったいないくらいの妹だ。
あぁ、見た目だけはな!
「で? あたしになんか言うことないわけ?」
熾兎が俺に歩み寄ってくる。
一歩一歩、それは死のカウントダウンのように、ゆっくりと。
もちろん俺は正しい回答を持っていた。あぁ、ごめんなさいって謝ればいいんだろ。今までの得られた情報を踏まえれば、コイツらの知ってる俺は相当の問題児だ。さぞかし俺は人に迷惑をかけつつ青春をエンジョイしていたんだろう。
(……だけどなぁ、俺の妹よ。ここで俺がお前に謝ったら、お前の言動が正当なものだってことになるじゃないか)
腹にばっか攻撃しやがって。お前は腹フェチか。男を腹で選ぶのか。まぁそれはいい。とにかくお前は俺の妹って設定なんだ。兄妹として俺もお前にやり返す権利はある。たとえ世界中がお前の言動を支持してもだ!
「へい、マイリトルシスター! 今日もおカラダの発育は順調かい!?」
「死ね」
俺的『妹がいたら言ってみたい言葉』第1位が、俺の最期の言葉となった(完)。
俺の抗議に対し、トピアは無表情のまま言った。
「なかなかの反射神経と動体視力ですね。ではそういうことでルール追加です」
「ざ、ざけんな! 俺にメリットがないだろ!」
「ありますよ。君が確実に勝てる方法ができたことです。ヒントは……肉を切らせて骨を断つ、ですね」
俺は正気ではないと半ギレになる。
「騙されないぞ!? だいたいその場合、肉は俺の頭で骨はお前の脚スリスリだろ!? 肉と骨のたとえが逆な上に代償のデカさが違いすぎる! 死ぬ気になってまで脚スリスリしてえとは思ってないからな!?」
「ではペロペロしてもいいですよ。わたしの脚をペロペロ」
「………………、ダメに決まってんだろ!」
「なぜ間が空いたのでしょうか。まぁ却下でも構いませんけど。こっちもヤですし」
瞬間、トピアは倉庫の隅に高速移動した。
「あと60秒ほどなので、そろそろ回復したいと思います」
「さ、させるかっ!」
俺は慌てて立ち上がりすぐにダッシュ。しかしその時にはすでにトピアは加速装甲を解除し制服姿に戻っていた。
「―――加速装甲、発効」
そして俺がまだ手を伸ばすこともできない距離の内にトピアは再び変身し、別の隅へと高速移動する。
「―――加速装甲、解除」
解除には3秒、発効には4秒くらい時間を必要とする。だがそれでも隅から隅へと休憩場所を移す手法を取られたら俺には為す術がなかった。引きこもりだった俺にはどうしても体力が続かない。
「く、くそぅ……」
倉庫を1周したトピアに対し、俺はたった半周―――まだ斜め向かいの隅だった。
「やはり先ほどのルール、追加しましょうか?」
「こ、断る! お前の脚はペロペロしたいけど!」
「……、ふと気づいたんですけど」
と、なぜか急にトピアが消え入りそうな声になった。
「? どうした?」
「……『これ』って見られているんです……か?」
「は? 誰に? というかお前の異能力でバレないようにしてるんじゃないのか?」
「いえそうではなく……。ひょっとして君も気づいてないのですか……?」
……???
いきなりすぎて余計わからないんだが。
「ここは小説の中なんですよね……? だったら今までのわたし達のやり取りをずっと見ている……読んでいる方がいるんじゃないですか……?」
「……おお! そうだな!」
手をポンと叩く俺。
「えっ、本当に気づいてなかったんですかっ!? だから平然とペロペロとか叫んでたんですかっ!?」
「いや特に意識してないだけで普通に気づいてたが? それがどうした?」
「…………………………………………」
俺が平然と答えるとトピアは無言になった。
(おいおい。自分から訊ねておいてそりゃないぞ。でもこういうヤツ結構いるんだよな。無言はだいぶマシなんだけど『あっそ』とか『ふーん、で?』なんて感じに言い返されたらな。当然『お前から質問してきたんだろが!?』ってキレたくなるよな読者諸君。なんで1人勝手に興味失せてんだ? お前のために答えちゃった俺のせい? なら質問すんなバカヤロウ!)
俺は気息を整えつつトピアの反応を窺っていると。
―――突然だった。
「…………今日の特訓は中止でお願いします」
「え!?」
さすがに冗談だと思い、俺はトピアの元に走り寄った。しかしトピアは加速装甲を解除したまま逃げなかった。どうやら本気で中止にする気らしい。
「お前、怒ってるのか? 俺がなにかしたか? あぁ、俺が敬語使わないことに堪忍袋の緒が切れたのか?」
「いいえ……。人に見られている事実を気づかせてくれなかった君は少々憎いですが―――それとは無関係です」
「??? 言ってる意味がだなぁ、」
「出てきてください。そこにいるんでしょう」
あれ、デジャヴ―――。
咄嗟に俺は奇姫の登場を予感したが、違った。
背後を振り返っていたトピアの視線は倉庫の隅の隅、つまりはコーナーそのものに注がれている。その周囲よりもちょっと暗い程度の空間に、縦に一本、鈍色の亀裂が走り、
「おっかしいなー。シュレディンガーの空箱って探知効果あったっけ……?」
「んなっ?」
まるで締め切られたままの舞台幕から姿を現すかのごとく……自称俺の妹が登場したのだった。
「探知効果はありませんよ。あなたの制汗剤の匂いでわかったまでのことです。わたしも同じ制汗剤を使用していて匂いは嗅ぎ慣れていたので」
「あー失敗。昼休みにバスケしちゃったからなぁ……」
なるほど、どうりでジャージ姿だった。
自称俺の妹のバスケ姿……正直かなり見てみたい(切実)。
「あなたこそ、なぜここがわかったんですか?」
「だって先輩、いつもここで練習してるじゃないですか。結構有名ですよ?」
「? わたしを捜していたんですか? あなたとわたし、初対面ですよね?」
「いや捜してたのはそこのタワシです」
自称俺の妹が俺に指を差してくる。
「さっき大和先生から『お前の兄だろ、連れて来い!』と怒られてしまいまして。その時にもしかしたら先輩と一緒にいるかもしれないってことも聞いたんですよ」
「……、兄」
「そうです。あたし憑々谷熾兎って言います。熾烈の熾に兎で熾兎。……大変お恥ずかしい限りですけど、そこのタワシの妹です」
「はあ……? タワシ……?」
「あ、そこは気にしなくていいです。ただの兄の呼び方なんで」
……良くない。
ちゃんとお兄ちゃんって呼んでくれ。
「ところで二人きりになってなにしてたんですか? 来たばかりで状況が読めてないんですけど」
「……」
「嘘じゃないですよ。まぁ信じられないんでしたら教えてくれなくてもいいですけど」
「……すみません」
トピアは―――拒否した。
これは正しい判断だ。トピアは日夜俺の声を盗み聞きしてるのだから俺の妹の存在も知っていただろうが、俺自身からは妹についてなにもトピアに話していない。
(つまり俺の事情を知る『仲間』じゃないかもしれない、ってことだ)
いくら俺の妹だからって安易に話されては困る。だいたい俺だって今朝会ったばっかでコイツを妹以前に人間として信用できてないんだ。
兄である俺への扱いも酷いもんだし。なぁにが「死んだ?」だ(粘着)。
「ねぇ、いつまで黙りこくってんの?」
熾兎が俺を睨み付けてくる。
「大和先生にもそうだけど、あたしになにか言うことないわけ? 授業まだあったんだけど?」
「おう、サボれてよかったな」
「……、はあ?」
眉を歪めた熾兎。
……やべ。当たり前すぎる回答したせいで呆れられてしまったか。
「憑々谷君、君という人は……」
「先輩。申し訳ないですけど、手出し口出しは無用で」
トピアにそう釘を刺すや、熾兎は「はっ!」と声を発した。
それを耳にした時には熾兎の強烈な腹パンによって突き飛ばされていた。
躱すなんて俺には無理だった。
速い遅いを認識する暇もないくらい、熾兎の腹パンが速かったからだ。
「ふぅー。あースッキリしたぁー」
激しい吐き気を伴いながら倉庫の床を転げ回った俺を、熾兎は恍惚の境地に至った様子で見ると、
「授業をサボったり遅刻したり、女の子を困らせたり泣かせたり……。タワシなあんたのせいであたしがどんだけ大変な思いをさせられてきたかわかってない。まるでわかってない。だったら腹パンされても仕方ないよねぇ?」
「……ってぇー! なんつー妹だ……!?」
やっぱり俺の妹じゃないなコイツ。兄を兄と思ってないだろ。本人もタワシだって思ってるし。粗品だろ。リーズナブルだろ。でもタワシなめんな(怒)。
(そりゃ見た目はなんでも許してあげちゃいそうなくらいすげー可愛いけどさ。だったらなおさら、俺の妹じゃないってのもあるだろっ!)
俺にはもったいないくらいの妹だ。
あぁ、見た目だけはな!
「で? あたしになんか言うことないわけ?」
熾兎が俺に歩み寄ってくる。
一歩一歩、それは死のカウントダウンのように、ゆっくりと。
もちろん俺は正しい回答を持っていた。あぁ、ごめんなさいって謝ればいいんだろ。今までの得られた情報を踏まえれば、コイツらの知ってる俺は相当の問題児だ。さぞかし俺は人に迷惑をかけつつ青春をエンジョイしていたんだろう。
(……だけどなぁ、俺の妹よ。ここで俺がお前に謝ったら、お前の言動が正当なものだってことになるじゃないか)
腹にばっか攻撃しやがって。お前は腹フェチか。男を腹で選ぶのか。まぁそれはいい。とにかくお前は俺の妹って設定なんだ。兄妹として俺もお前にやり返す権利はある。たとえ世界中がお前の言動を支持してもだ!
「へい、マイリトルシスター! 今日もおカラダの発育は順調かい!?」
「死ね」
俺的『妹がいたら言ってみたい言葉』第1位が、俺の最期の言葉となった(完)。
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