2.5D/リアル世界の異世界リアル

ハイゲツナオ

第15話

15


 俺はトピアの指示通り、著者を激しく恨みながら女子寮に向かっていた。
 もっとも、すでに知っていたことだが、このラノベ世界の著者は俺に異性とイチャイチャさせないつもりでいる。だからトピアに抱き付けなかったのはわかりきったことだった。


(……いや。イチャイチャさせようとして結局させない、が正しいのかもな)


 いずれにせよ満足できなくて悶々としている俺だった。既存のラノベ主人公と比べても酷い有様なのではないかと思う。現状あまり面白くない。これを見ている読者がいるのだとすれば、ぜひこのように質問したいところだ。
 ―――俺が美少女とイチャイチャしてたほうがまだ面白くないか、と。


 もちろん、読者は読んでいるだけなので、本当に面白いとは思えないだろう。しかしだ。俺が美少女とイチャイチャしているんだから、必ずその文章から美少女の反応を堪能できる。美少女の大胆な挿絵も入ったりするはずだ(常考)。


(…………待てよ? 嫌な予感が……)


 ま、まさかのまさかだが。俺は奇姫と人工呼吸キスした記憶がないけど、実はそのキスした時の挿絵が入っていたりするのか……!?


(だ、だとしたら俺、可哀想すぎないか!?)


 俺は奇姫とのキスが事実かどうかすらわからないのだ。一方で読者はキスシーンの挿絵を見れて事実かどうかも判断できるだけ、マシだ!


(そういう意味では挿絵はかなり贅沢だな。例えば今、俺が癒美と奇姫と自称俺の妹と大和先生とトピアの水着姿を妄想したとする。そしたら次のページあたりでその5人がハワイアンな感じの挿絵になっていたりするんじゃないか?)


 妄想と挿絵じゃどう考えたって挿絵のほうが贅沢だ。まぁ俺には美少女と接する機会なんて人生一度たりともなかったわけで、こんな経験も充分ありがたいものだけれども……。


「遅いです。いつまで待たせる気ですか?」


 経過時間を数えるのを止めたと言わんばかりに、女子寮の門前に立っていたトピアの声は苛立っていた。
 ここまで来るのに20分くらいはかかっている。寒かっただろうしイライラも募ったことだろう。けれど、


「そりゃ自力で探すとなると時間かかるだろ。誰かに訊きたくても先生とか生徒は授業中だし、」
「言い訳は無用です。さぁ中に入りますよ」


 トピアは俺の腕を掴み、そのまま俺を女子寮へと引っ張っていく。


「寮長には特別に許可を貰ってありますのでご安心を。ただし寮内で妙なことをしたらすぐに保安委員に通報されます。たとえ授業中であろうと君の確保のために抜けてきますよ」
「さいですか……」
「ちなみにですけど。いち早く君と相対する保安委員は、まだ部屋で寝込んでいる奇姫でしょうね」
「……、会いたくないな」


 俺は苦笑する。もちろん彼女に殺されたことも理由にあるのだが、それ以上に初チューだ。記憶はないがやっぱり恥ずかしい。たぶんあっちはもっとだろう。


 と、俺は奇姫のことで気づいた。


(そういえばあいつ、女子風呂を覗こうとして失敗した俺を部屋に匿ってくれたんだよな。……もしその時すでに保安委員なんだとしたら、やってることが矛盾してるような? 保安委員が犯人を匿うなんて……)


 まぁいいか。この世界の創造主があの変人著者だったなら、矛盾なんていくらでもありそうだ。キリがない。


「どうぞ。中に上がって下さい」
「おう……」


 トピアの部屋には最低限のものしか置かれていなかった。建物そのものが男子寮と全く同じなのでいかになにもないのかがよくわかる。一人暮らしを始めるにあたって必要なものは? と考えて、その答えがそのまま揃っている感じだった。


 決して酷すぎるとは思わない。ラノベには本当になにも部屋に置いてないヒロインが結構いる。この部屋は生活感も漂っているので特に驚きもなかった。


(ただまぁ……ガッカリはするが。なんせ初めて上がらせてもらった異性の部屋だし。くそー、なぜだ。アルパカのヌイグルミくらいはありそうなものなのに……)


「っておい。俺に会わせたい子はどこにいるんだ? 誰もいないぞ」
「おかしいですね。大人しくしてるように言っておいたのですが」
「! まさかお前っ、騙したのか!? 俺の貞操を奪うために!?」
「そんなわけありませんから。部屋のどこかに隠れているのでしょう。一緒に捜してください」
「捜す? そう言われてもな、」


 トピアが冷蔵庫を開く。飲み物でも取るのかと思いきや「いえ、さすがにここではないですね」と呟いた。いや普通そんなところにいるわけがないだろう。会わせたい子ってペットの猫だったりするのだろうか(呆)。


 仕方ない。
 俺は洗面所でも確認してみるとしよう……。


「……っ!?」


 洗面所にはトピアの下着が干されまくっていた。しかもアルパカ柄ばかりだった。
 どれだけ好きなんだアルパカ。そして『下着はどっさり買うのにヌイグルミは1個も買ってない謎』に俺はどう立ち向かえばいいんだ。難易度が高すぎる。


 しかしここにもいないとなると―――あとはトイレとバスルームくらいだ。


「バス、ルーム……」


 てっきり俺は大浴場付きの寮だからバスルームはないと思っていたのだが、そうではないらしい。はたしてそんな贅沢な寮があるのだろうか。激しく疑問だが大浴場を1つの交流の場としてとらえれば、さほどおかしなことではないのかもしれない。


 俺は顔を横に向けた。中折式のドア越しにバスルームを見るが、そもそも電気が点いてない。真っ暗だ。誰かが入浴しているとは到底思えない。


(………。でも、念のため覗いてみるか)


 別に他意はない。ラノベなら美少女がシャワー中だったりして主人公が誤って(?)突入しちゃったりするが、これはもういないので確定だ。
 脱いだ服だって見当たらないし―――。






「あれ? どしてキミがここにいんの?」






 ――――――――――いました。


 しかも顔見知り。
 というか神様のアリスだった。


「………………………………………………は?」


 俺は開いた口が塞がらなかった。
 な、なんでだ? なんでお前―――。


「あはっ、もしかして驚いてる? だよねー、こんなにおっきくなっちゃったんだから……」


 浴槽から立ち上がったアリスは当然ながら全裸。しかもなぜかレインボーに発光しておらず、俺達と変わらない人間サイズだった!


(に、人間の、生まれたままの姿……だッ!?)






「憑々谷君。ちょっと死んできてくれますか」






 背後から殺気を感じた時には、問答無用で俺の後頭部がマッシュポテトにされていた……(完)。

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