山育ちの冒険者 この都会(まち)が快適なので旅には出ません
63.中央図書館の秘密
「あの、どこへ……」
「こちらです」
ステルが通されたのは、一つ隣の部屋である書斎だった。
改装と手入れのおかげで綺麗な状態だが、先ほどまでいた部屋と比べると、実用性に重きを置かれたらしい堅実な作りの部屋だった。
王女は書棚の一つの前に立つと、懐からおもむろに装飾品を取り出す。
「…………?」
ステルが疑問に思った直後、アクセサリと書棚が光った。
次の瞬間、書棚が一瞬で壁になったと思うと、そこに空間が現れて下への階段が出来上がっていった。
「これ、もしかして、魔法ですか?」
「そうです。この図書館は王立学院で最も古い建物。そして、古い魔法使いの工房だったのです」
そう言う王女の顔からは先ほどまで浮かべていた、親しみやすい笑みが消えていた。
自然、ステルの気持ちも引き締まる。
「僕が先に行きます」
「はい。お願いしますね」
階段はステルが先に降りることにした。
魔導具による灯りは必要なかった。歩くと自動的に壁に魔法の灯りが発動するようになっていたのだ。
思った以上に歩きやすい螺旋階段を行きながら、ステルは聞く。
「あの、これって僕が入っていいんですか?」
これは明らかに秘密の通路だ。王家の関係者でないと入ってはいけないのではないだろうか。そんな疑問が頭をよぎる。
「これは先ほど面白いものを見せてくれた報酬のようなものです。秘密を守ってくださればいいですよ」
ステルの心配を察したのか、ヘレナは安心させるようににこやかに返した。
王女本人が言うなら納得するしかない。ステルは気配を探りながら先に進む。
「…………」
「…………」
階段は塔の地下にまで伸びているようだった。思ったよりも長い下りを二人は行く。
「アマンダは、優秀な学生でした。王家の護衛騎士の家系に生まれていなければ、今頃は研究者として生きていたでしょう」
沈黙を嫌ったのか、王女が突然そんな話をふってきた。
「…………」
「ですが、彼女は私の護衛騎士として人生を選択しました。こうやって、学問に触れる機会を作るのが私の精一杯の感謝なのです」
「ヘレナ様……」
「彼女は私には勿体ないくらい優秀な騎士。ステルさん、どうか、仲良くしてください」
振り返って見ると、そこには心の底から友人の事を心配する女性がいた。
「勿論です。リリカさんも、きっとそう言うと思います」
「ありがとう」
そんなやりとりをした後に、階段が終わり、魔法の輝きが灯る複雑な装飾の施された扉が、二人の目の前に現れた。
「あの、開けても?」
「いえ、私が……」
そう言って王女が扉に手を触れると、一瞬強い光が生まれた。
次の瞬間、ステル達は扉の向こう側にいた。
そこは明るく広い空間だった。
書庫だ。丸い部屋の壁一杯に沢山の本が並んでいる。
気になるのは、どの本も背表紙が光っていることだろうか。
「ここも図書館……ですか?」
不思議な場所だ。明らかにただの図書館では無いのはステルにもわかるが、聞かずにいられなかった。
「はい。ここにあるのはただの本ではありません。魔法書です」
「魔法書って、魔法について書かれているだけでなく。魔法によって作られた特別な本ですよね。これが全部ですか?」
魔法書とは、本そのものが魔法によって作り上げられた特別なものだ。
そこには古の魔法使いの奥義や、禁断の知識が記されているという。
少なくとも、おとぎ話でステルはそう聞いていた。
「魔法書と言っても、ここにあるのは、伝説に語られるようなおおげさなものではありません」
言いながら、ヘレナが壁まで歩いて一冊を手に取った。一瞬、本が輝いてから彼女の手に渡る。
「読んでみますか?」
「い、いいんですか?」
「どうぞ」
恐る恐る受け取る。ふさわしくない所有者を焼くおとぎ話を思い出したが、幸いにもそんな現象は起きなかった。
光り輝く本を、ゆっくりと開くと、
「読めません……」
全く読めなかった。
そこに書かれていたのは、ステルの知るどの言語でもなかった。
諦めて王女に帰すと、また本が発光した。
「これは王家の者にしか読めないのです。そして、本によっては常に内容が更新される……」
王女は返して貰った一冊を棚に戻し。別の本を取る出した。
「内容が更新、ですか?」
「ええ、アコーラ市の様子について教えてくれるのです。この街に仕掛けられた古い魔法と繋がっているのですよ、この図書館は……。そして、今回の公務には、ここを訪れることも含まれています」
「あの、本当に僕が見て大丈夫なんですか?」
なんだか国家機密という言葉が脳裏をよぎったので、不安混じりに改めて聞くステル。
「ええ、勿論。安心してください」
返答は王女の花のような笑顔だった。
「は、はい……」
こうなれば、そう返すしかない。
「ステルさん、何も無いとは思いますが。しばらく周囲を見張っていてください。私は調べ物をします」
「わかりました」
それからしばらく、王女は魔法書をいくつも手にとっては、真剣な顔で目を通していた。
彼女はメモを取らない。エルフ由来の優秀な頭脳で全て記憶していく。
「終わりました。ありがとうございます」
一時間ほどだろうか。仕事を終えた王女が、ステルのところに戻ってきた。
「いえ、僕は立っていただけですから。貴重なものを見せて頂いて、あの、ありがとうございます」
なんと言えばいいのかわからないので、とりあえず頭を下げておいた。
「リリカさんには秘密でお願いしますね」
ちょっと悪戯っぽい笑みと共に返ってきた王女の返事を聞いた後、二人は元来た道を戻るのだった。
○○○
「あら、ステル君。遅かったじゃない」
戻ったら、リリカ達はのんびりお茶を飲んでいた。
「ヘレナ様に王家の歴史なんかを教わってたんだ」
「はい。私も色々と北部のお話を聞かせて頂きました」
帰り道で相談して決めておいた話題で誤魔化す。
王女の性格的に、多分、不自然ではないはずだ。
「姫様、ステル様。おかげで良い時間を過ごさせて頂きました」
事情を知っているであろうアマンダはとても良い顔をしていた。なんかツヤツヤしている。
「私も優秀な生徒と話ができて良かったです」
ベルフ教授も満足気だ。
どうやら、三人は良い時間を過ごしたらしい。
「では、予定の時間ですね。失礼致します」
しばらくお茶を楽しむと、ベルフ教授はそう言って退室した。
ステル達も少しの休憩を挟んで、帰る時間になった。
「じゃあ、リリカさん、また明日」
「大丈夫だと思うけれど、気を付けてね」
「リリカさん、もう少しステルさんをお借りしますね」
「気にしないでどんどん使ってください」
「僕は別にリリカさんの物じゃないんだけれど……」
学院での別れ際、馬車の前でそんな会話をすると、その場の全員が笑った。
リリカは帰宅。ステルは王女を送ってから本日の依頼は終わりとなる。王女達は晩餐会だ。
馬車に乗り込みつつ、周囲を探る。怪しい気配は無い。
「それでは、本日はありがとうございました!」
アマンダがリリカに礼をすると、馬車が出発した。
王族向けの揺れの少ない馬車の中。
御者台に座って見張りをしていたステルに向かって、アマンダが声をかけてきた。
「ステル様。あの書庫に向かう途中、姫様が私について何か話していましたか」
「アマンダ。そういうことはせめて私のいないところで言わないと」
「いえ、いるからこそ確認したいのです。どうせ私を心配するような話をしたのでしょう?」
わざと声を大にして言うアマンダ。対して王女は困り顔だ。
「まあ、はい」
素直にそう返事をすると、王女が顔を横に逸らした。
「姫様は私が護衛騎士への道を選んだことについて色々思うところがあるようです。ですが、私はこの決断を微塵も後悔しておりません」
アマンダはステルに向かって胸を張って宣言する。
「私にとって主君たる姫様を護ることこそが誇りであり、生きがいなのです。こうして護衛騎士にまで心を砕いてくださる主君だからこそ、私は仕えたい」
「アマンダ……」
「だから、書庫で姫様が言ったことは気にしないでくださいね」
そう言うアマンダはとても優しく、強い顔をしていた。
「わかりました。……アマンダさんは本当の騎士なんですね」
「光栄です」
改めて胸を張るアマンダを見て、ヘレナ王女が照れくさそうに言う。
「ありがとう。アマンダ」
良い主従だ。
馬車の中で寄り添うように座る姫と騎士を見て、ステルは本心からそう思った。
「こちらです」
ステルが通されたのは、一つ隣の部屋である書斎だった。
改装と手入れのおかげで綺麗な状態だが、先ほどまでいた部屋と比べると、実用性に重きを置かれたらしい堅実な作りの部屋だった。
王女は書棚の一つの前に立つと、懐からおもむろに装飾品を取り出す。
「…………?」
ステルが疑問に思った直後、アクセサリと書棚が光った。
次の瞬間、書棚が一瞬で壁になったと思うと、そこに空間が現れて下への階段が出来上がっていった。
「これ、もしかして、魔法ですか?」
「そうです。この図書館は王立学院で最も古い建物。そして、古い魔法使いの工房だったのです」
そう言う王女の顔からは先ほどまで浮かべていた、親しみやすい笑みが消えていた。
自然、ステルの気持ちも引き締まる。
「僕が先に行きます」
「はい。お願いしますね」
階段はステルが先に降りることにした。
魔導具による灯りは必要なかった。歩くと自動的に壁に魔法の灯りが発動するようになっていたのだ。
思った以上に歩きやすい螺旋階段を行きながら、ステルは聞く。
「あの、これって僕が入っていいんですか?」
これは明らかに秘密の通路だ。王家の関係者でないと入ってはいけないのではないだろうか。そんな疑問が頭をよぎる。
「これは先ほど面白いものを見せてくれた報酬のようなものです。秘密を守ってくださればいいですよ」
ステルの心配を察したのか、ヘレナは安心させるようににこやかに返した。
王女本人が言うなら納得するしかない。ステルは気配を探りながら先に進む。
「…………」
「…………」
階段は塔の地下にまで伸びているようだった。思ったよりも長い下りを二人は行く。
「アマンダは、優秀な学生でした。王家の護衛騎士の家系に生まれていなければ、今頃は研究者として生きていたでしょう」
沈黙を嫌ったのか、王女が突然そんな話をふってきた。
「…………」
「ですが、彼女は私の護衛騎士として人生を選択しました。こうやって、学問に触れる機会を作るのが私の精一杯の感謝なのです」
「ヘレナ様……」
「彼女は私には勿体ないくらい優秀な騎士。ステルさん、どうか、仲良くしてください」
振り返って見ると、そこには心の底から友人の事を心配する女性がいた。
「勿論です。リリカさんも、きっとそう言うと思います」
「ありがとう」
そんなやりとりをした後に、階段が終わり、魔法の輝きが灯る複雑な装飾の施された扉が、二人の目の前に現れた。
「あの、開けても?」
「いえ、私が……」
そう言って王女が扉に手を触れると、一瞬強い光が生まれた。
次の瞬間、ステル達は扉の向こう側にいた。
そこは明るく広い空間だった。
書庫だ。丸い部屋の壁一杯に沢山の本が並んでいる。
気になるのは、どの本も背表紙が光っていることだろうか。
「ここも図書館……ですか?」
不思議な場所だ。明らかにただの図書館では無いのはステルにもわかるが、聞かずにいられなかった。
「はい。ここにあるのはただの本ではありません。魔法書です」
「魔法書って、魔法について書かれているだけでなく。魔法によって作られた特別な本ですよね。これが全部ですか?」
魔法書とは、本そのものが魔法によって作り上げられた特別なものだ。
そこには古の魔法使いの奥義や、禁断の知識が記されているという。
少なくとも、おとぎ話でステルはそう聞いていた。
「魔法書と言っても、ここにあるのは、伝説に語られるようなおおげさなものではありません」
言いながら、ヘレナが壁まで歩いて一冊を手に取った。一瞬、本が輝いてから彼女の手に渡る。
「読んでみますか?」
「い、いいんですか?」
「どうぞ」
恐る恐る受け取る。ふさわしくない所有者を焼くおとぎ話を思い出したが、幸いにもそんな現象は起きなかった。
光り輝く本を、ゆっくりと開くと、
「読めません……」
全く読めなかった。
そこに書かれていたのは、ステルの知るどの言語でもなかった。
諦めて王女に帰すと、また本が発光した。
「これは王家の者にしか読めないのです。そして、本によっては常に内容が更新される……」
王女は返して貰った一冊を棚に戻し。別の本を取る出した。
「内容が更新、ですか?」
「ええ、アコーラ市の様子について教えてくれるのです。この街に仕掛けられた古い魔法と繋がっているのですよ、この図書館は……。そして、今回の公務には、ここを訪れることも含まれています」
「あの、本当に僕が見て大丈夫なんですか?」
なんだか国家機密という言葉が脳裏をよぎったので、不安混じりに改めて聞くステル。
「ええ、勿論。安心してください」
返答は王女の花のような笑顔だった。
「は、はい……」
こうなれば、そう返すしかない。
「ステルさん、何も無いとは思いますが。しばらく周囲を見張っていてください。私は調べ物をします」
「わかりました」
それからしばらく、王女は魔法書をいくつも手にとっては、真剣な顔で目を通していた。
彼女はメモを取らない。エルフ由来の優秀な頭脳で全て記憶していく。
「終わりました。ありがとうございます」
一時間ほどだろうか。仕事を終えた王女が、ステルのところに戻ってきた。
「いえ、僕は立っていただけですから。貴重なものを見せて頂いて、あの、ありがとうございます」
なんと言えばいいのかわからないので、とりあえず頭を下げておいた。
「リリカさんには秘密でお願いしますね」
ちょっと悪戯っぽい笑みと共に返ってきた王女の返事を聞いた後、二人は元来た道を戻るのだった。
○○○
「あら、ステル君。遅かったじゃない」
戻ったら、リリカ達はのんびりお茶を飲んでいた。
「ヘレナ様に王家の歴史なんかを教わってたんだ」
「はい。私も色々と北部のお話を聞かせて頂きました」
帰り道で相談して決めておいた話題で誤魔化す。
王女の性格的に、多分、不自然ではないはずだ。
「姫様、ステル様。おかげで良い時間を過ごさせて頂きました」
事情を知っているであろうアマンダはとても良い顔をしていた。なんかツヤツヤしている。
「私も優秀な生徒と話ができて良かったです」
ベルフ教授も満足気だ。
どうやら、三人は良い時間を過ごしたらしい。
「では、予定の時間ですね。失礼致します」
しばらくお茶を楽しむと、ベルフ教授はそう言って退室した。
ステル達も少しの休憩を挟んで、帰る時間になった。
「じゃあ、リリカさん、また明日」
「大丈夫だと思うけれど、気を付けてね」
「リリカさん、もう少しステルさんをお借りしますね」
「気にしないでどんどん使ってください」
「僕は別にリリカさんの物じゃないんだけれど……」
学院での別れ際、馬車の前でそんな会話をすると、その場の全員が笑った。
リリカは帰宅。ステルは王女を送ってから本日の依頼は終わりとなる。王女達は晩餐会だ。
馬車に乗り込みつつ、周囲を探る。怪しい気配は無い。
「それでは、本日はありがとうございました!」
アマンダがリリカに礼をすると、馬車が出発した。
王族向けの揺れの少ない馬車の中。
御者台に座って見張りをしていたステルに向かって、アマンダが声をかけてきた。
「ステル様。あの書庫に向かう途中、姫様が私について何か話していましたか」
「アマンダ。そういうことはせめて私のいないところで言わないと」
「いえ、いるからこそ確認したいのです。どうせ私を心配するような話をしたのでしょう?」
わざと声を大にして言うアマンダ。対して王女は困り顔だ。
「まあ、はい」
素直にそう返事をすると、王女が顔を横に逸らした。
「姫様は私が護衛騎士への道を選んだことについて色々思うところがあるようです。ですが、私はこの決断を微塵も後悔しておりません」
アマンダはステルに向かって胸を張って宣言する。
「私にとって主君たる姫様を護ることこそが誇りであり、生きがいなのです。こうして護衛騎士にまで心を砕いてくださる主君だからこそ、私は仕えたい」
「アマンダ……」
「だから、書庫で姫様が言ったことは気にしないでくださいね」
そう言うアマンダはとても優しく、強い顔をしていた。
「わかりました。……アマンダさんは本当の騎士なんですね」
「光栄です」
改めて胸を張るアマンダを見て、ヘレナ王女が照れくさそうに言う。
「ありがとう。アマンダ」
良い主従だ。
馬車の中で寄り添うように座る姫と騎士を見て、ステルは本心からそう思った。
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ネコの肉球、司波達也ハンサムだろ