魔法学院の劣等教師 ~異世界最強のやる気なし賢者は本気を出さない~
第2話:最強教師は決闘を受ける
女子更衣室を出た俺たちは、学院の端にある第七決闘場に移動していた。
決闘場は、メルヴィン魔法学院の教師と生徒なら自由に使うことができるが、ここは不便な場所だけに利用者は少ない。決闘の理由を知られたくない俺たちにとってはここ以外に選択肢がなかった。
「ところで、なんで更衣室なんかに入ってたんだ?」
「基礎トレーニングをするために体操着に着替えようと思っていました。ふっ、自堕落なあなたには想像できないかもしれませんね」
魔力の増量には地道なトレーニングが必要になる。筋トレやランニングをすることで地道に増えていくものだ。言っていることは生意気だが、真面目なだけに反論できない。
だがこのまま罵倒されたままってのも気に食わないな。
「ふむ、それは分かったが、どうして一人で鍛えようと思ったんだ?」
「……へ?」
メリナは足を止め、硬直した。
もしかして、と思ったがやっぱりか。
「いや、せっかく同級生がたくさんいるんだから、一緒にやればいいのになんでしないんだろうと思っただけだ」
「そ、そ、そ、それはなんというか……午前の授業で目立っちゃってみんなが関わりたがらないというか……いえ、むしろ私から距離を置いたというか……」
「ふむ、つまり入学早々からボッチというわけか」
「ち、違います! 違わないけど、もとはと言えばリオン先生が悪いんですっ!」
「ふっ、悔しいのはわかるが人のせいにするのはどうかと思うぞ?」
「うううううぅぅぅぅぅ……決闘でボコボコにしますから、覚悟しておいてください!」
顔を真っ赤にして言われても全然怖くない。
もっと弄ってやりたいが、さすがに可哀想か。
「へいへい、楽しみにしてるよ」
◇
十五分ほど歩みを進めると、第七決闘場についた。
屋内式のこの決闘場は、魔力で保護されているので建物が壊れることはないとされている。外観は教会をモチーフにしているらしく、神聖な雰囲気になっていた。
建物の中には誰もいなかった。内装は正面に大きな女神像がある以外には何もない。
「決闘のルールはどちらかの戦闘不能か、敗北宣言を条件とします。よろしいですね?」
「ああ、それで問題ない」
決闘にもルールが存在する。今回のように審判がいない場合は、当事者同士で勝利条件を決めておくのが常識だ。
「では、決闘を始めます!」
メリナの宣言で決闘が始まった。
俺と彼女の距離はおよそ五メートル。距離を詰めてくるか、それとも遠距離魔法を撃ってくるのか……まずは様子見だな。
メリナは両手を天に掲げ、魔力を込めていく。小さな風の球が発生し、みるみるうちに膨張していく。
B級魔法【風斬球】をこの歳で使えるとは……さすがは学年主席といったところか。俺も神童と呼ばれたものだが、メリナは完全に当時の俺を超えてるな。
「くらいなさい! 【風斬球】!」
メリナが腕を振り下ろすと同時に、【風斬球】が猛スピードで俺に襲い掛かる。この魔法は【風斬】というC級魔法を球に封じ込めることで発展させたものだ。
この風に飲み込まれると、ありとあらゆる方向から身体を斬られてしまう。この魔法の恐ろしいところは避けたら終わりではなく、追尾してくるというところにある。
メリナは早くも勝利を確認したのか、ニタっと笑みを浮かべている。
「まあ、これくらいの魔法を使えるのは想定の範囲内だ」
俺は飛んでくる【風斬球】に自ら飛び込む。
だが、何もしないわけじゃない。
腕を伸ばし、球を握りつぶす。E級魔法【魔力圧縮】だ。本来は脆弱な魔法を強化するために使うものだが、もう一つ使い方がある。強力な魔法も超圧縮をかけることで魔力エネルギーが霧散するという性質を利用してやるのだ。
俺とメリナの魔力量の差はおそらく数十倍。たとえ全魔力を注いで撃ってきたとしても、片手で捻り潰すことができる。
「なっ……!」
メリナの顔から余裕が消えた。肩を落とし、信じられないとでも言いたげな目を向けている。
「どうした? あの程度の魔法で倒せるとでも思っていたのか?」
「……正直、甘く見ていました。まさか私の一撃をいとも簡単に消し去ってしまうなんて……ありえないです」
俺とメリナの距離は三メートルまで詰まっている。圧倒的力の差を目の当たりにして、メリナは平常心を保てなくなっていた。視線が上下左右を彷徨っている。
「ならどうする、敗北宣言するのか?」
「……いいえ、名誉あるメルヴィン魔法学院の教師なら、このくらいのことはできてもらわないと困ります。……今から本気を出します」
「ふっ、そうこなくっちゃな。あの程度の魔法しか使えないんじゃ拍子抜けだ」
「でかい口叩けるのも今のうちです。……泣いて謝っても許しませんからねっ!」
メリナはそう口にすると、彼女の右手に光の粒子が発生した。粒子は徐々に固まっていき、剣をかたどっていく。魔力を集めて生成された剣は、振らずとも圧倒的な存在感を放っていた。
見ればわかる。一振りすれば魔力保護されていない建物など吹き飛ぶくらいの代物だ。
A級魔法【剣製】。体系化された魔法では最高位のA級魔法だ。
「どうですか? 敗北を認める気になりましたか?」
メリナの顔には余裕が戻り、唇が緩んでいた。めちゃくちゃ嬉しそうだ。
「何を勘違いしている? お前の使った【剣製】は発動時間が長く、実践向きじゃない。発動を終えるまで待っていたということはどういうことかわかるな?」
「まだ減らず口を……! あなたは臆病だから自分から攻撃できないだけです! せいぜい致命傷で済むよう祈っておきなさい!」
メリナは叫ぶと、剣を片手に猛烈な勢いで地を蹴った。
致命傷はアウトだろうが……ったく。
はぁ、俺も久しぶりに少しだけ本気を出すしかないらしい。
地を駆けながらメリナは剣に魔力を流している。【剣製】との併せ技であるA級魔法【風滅】を使うつもりなのだろう。【風滅】は体系化された風魔法の最高位魔法だ。物体の概念をも切り裂く強力な魔法。メリナの言葉通り、まともにくらえば致命傷は免れない。
だが、俺はまだ余裕だった。
この程度は子どものお遊びにすぎない。
「お前に風魔法の極地を教えてやろう! 俺のオリジナル魔法【風神】だ。……少し威力は抑えてあるがな」
S級魔法【風神】を使った瞬間、俺の身体を風の加護が覆った。
次の瞬間、メリナの剣が俺の胸に接触する。普通なら【風滅】により俺の身体は概念ごとボロボロになっている。
だが、俺の胸に当たった瞬間に剣は形を失い、光の粒子となって虚空に消えた。
「う、うそ……なんで!? どういうこと!?」
「【風神】は防御において最強の風魔法。……そして、攻撃においても最強だ」
刹那、第七決闘場の地面を風が貫く。
ドゴオオオオオオオオオオオオンッッッ!
柱をも破壊し、女神像には数えきれないほどの亀裂が入っていく。
轟音が決闘場を包み込み、崩壊を始めた。
「……って、え!? 保護されてるから大丈夫って話、嘘なのかよ!」
確か学院長によると、メルヴィン魔法学院の決闘場は魔力によって保護されているので、絶対に壊れないとのことだった。
だが、今目の前で建物が崩壊している。
「S級魔法なんて誰も想定しませんよ! わ、わあああああ!?」
メリナに向かって柱が崩れてきた。
……仕方ない、緊急事態だからな。
「わっ……きゃああっ! な、何するんですか!?」
俺はメリナの身体を包むように抱いた。メリナの小さな身体はすっぽりと俺の腕に収まっている。ドク……ドクと鼓動まで伝わってくる。
柱が俺に向かって降ってくる。だが、風の加護に守られた俺の身体に傷をつけることはできない。俺に守られたメリナも傷つけることはできない。俺に当たった部分だけに穴が空いた。
十秒ほどで崩壊は止まった。
「あ……えっと……」
「もう大丈夫だ。離れていいぞ」
「……はい」
メリナの顔は真っ赤になっていた。耳まで赤くなっている。熱でもあるのだろうか?
「しかし派手にやっちまったな……直すか」
俺は大量の瓦礫を目の前にしてポツリと呟いた。
何気ない一言だったのだが、メリナには衝撃だったようで、
「な、直せるんですか!?」
「ん、まあな。ちょっとした回復魔法の応用だよ」
俺は瓦礫の前で、S級魔法【完全修復】を発動する。あらゆる概念を修復し、死人以外ならどんなものでも復活させることができる魔法だ。
ものの数秒で第七決闘場は元通りの姿になった。
その様子を最初から最後まで見ていたメリナは、目を輝かせていた。
「やっぱりあなたは私が見込んだ通りの人です! 凄いです……リオン先生ほどの実力のある魔法師をほかに見たことがありません!」
決闘場は、メルヴィン魔法学院の教師と生徒なら自由に使うことができるが、ここは不便な場所だけに利用者は少ない。決闘の理由を知られたくない俺たちにとってはここ以外に選択肢がなかった。
「ところで、なんで更衣室なんかに入ってたんだ?」
「基礎トレーニングをするために体操着に着替えようと思っていました。ふっ、自堕落なあなたには想像できないかもしれませんね」
魔力の増量には地道なトレーニングが必要になる。筋トレやランニングをすることで地道に増えていくものだ。言っていることは生意気だが、真面目なだけに反論できない。
だがこのまま罵倒されたままってのも気に食わないな。
「ふむ、それは分かったが、どうして一人で鍛えようと思ったんだ?」
「……へ?」
メリナは足を止め、硬直した。
もしかして、と思ったがやっぱりか。
「いや、せっかく同級生がたくさんいるんだから、一緒にやればいいのになんでしないんだろうと思っただけだ」
「そ、そ、そ、それはなんというか……午前の授業で目立っちゃってみんなが関わりたがらないというか……いえ、むしろ私から距離を置いたというか……」
「ふむ、つまり入学早々からボッチというわけか」
「ち、違います! 違わないけど、もとはと言えばリオン先生が悪いんですっ!」
「ふっ、悔しいのはわかるが人のせいにするのはどうかと思うぞ?」
「うううううぅぅぅぅぅ……決闘でボコボコにしますから、覚悟しておいてください!」
顔を真っ赤にして言われても全然怖くない。
もっと弄ってやりたいが、さすがに可哀想か。
「へいへい、楽しみにしてるよ」
◇
十五分ほど歩みを進めると、第七決闘場についた。
屋内式のこの決闘場は、魔力で保護されているので建物が壊れることはないとされている。外観は教会をモチーフにしているらしく、神聖な雰囲気になっていた。
建物の中には誰もいなかった。内装は正面に大きな女神像がある以外には何もない。
「決闘のルールはどちらかの戦闘不能か、敗北宣言を条件とします。よろしいですね?」
「ああ、それで問題ない」
決闘にもルールが存在する。今回のように審判がいない場合は、当事者同士で勝利条件を決めておくのが常識だ。
「では、決闘を始めます!」
メリナの宣言で決闘が始まった。
俺と彼女の距離はおよそ五メートル。距離を詰めてくるか、それとも遠距離魔法を撃ってくるのか……まずは様子見だな。
メリナは両手を天に掲げ、魔力を込めていく。小さな風の球が発生し、みるみるうちに膨張していく。
B級魔法【風斬球】をこの歳で使えるとは……さすがは学年主席といったところか。俺も神童と呼ばれたものだが、メリナは完全に当時の俺を超えてるな。
「くらいなさい! 【風斬球】!」
メリナが腕を振り下ろすと同時に、【風斬球】が猛スピードで俺に襲い掛かる。この魔法は【風斬】というC級魔法を球に封じ込めることで発展させたものだ。
この風に飲み込まれると、ありとあらゆる方向から身体を斬られてしまう。この魔法の恐ろしいところは避けたら終わりではなく、追尾してくるというところにある。
メリナは早くも勝利を確認したのか、ニタっと笑みを浮かべている。
「まあ、これくらいの魔法を使えるのは想定の範囲内だ」
俺は飛んでくる【風斬球】に自ら飛び込む。
だが、何もしないわけじゃない。
腕を伸ばし、球を握りつぶす。E級魔法【魔力圧縮】だ。本来は脆弱な魔法を強化するために使うものだが、もう一つ使い方がある。強力な魔法も超圧縮をかけることで魔力エネルギーが霧散するという性質を利用してやるのだ。
俺とメリナの魔力量の差はおそらく数十倍。たとえ全魔力を注いで撃ってきたとしても、片手で捻り潰すことができる。
「なっ……!」
メリナの顔から余裕が消えた。肩を落とし、信じられないとでも言いたげな目を向けている。
「どうした? あの程度の魔法で倒せるとでも思っていたのか?」
「……正直、甘く見ていました。まさか私の一撃をいとも簡単に消し去ってしまうなんて……ありえないです」
俺とメリナの距離は三メートルまで詰まっている。圧倒的力の差を目の当たりにして、メリナは平常心を保てなくなっていた。視線が上下左右を彷徨っている。
「ならどうする、敗北宣言するのか?」
「……いいえ、名誉あるメルヴィン魔法学院の教師なら、このくらいのことはできてもらわないと困ります。……今から本気を出します」
「ふっ、そうこなくっちゃな。あの程度の魔法しか使えないんじゃ拍子抜けだ」
「でかい口叩けるのも今のうちです。……泣いて謝っても許しませんからねっ!」
メリナはそう口にすると、彼女の右手に光の粒子が発生した。粒子は徐々に固まっていき、剣をかたどっていく。魔力を集めて生成された剣は、振らずとも圧倒的な存在感を放っていた。
見ればわかる。一振りすれば魔力保護されていない建物など吹き飛ぶくらいの代物だ。
A級魔法【剣製】。体系化された魔法では最高位のA級魔法だ。
「どうですか? 敗北を認める気になりましたか?」
メリナの顔には余裕が戻り、唇が緩んでいた。めちゃくちゃ嬉しそうだ。
「何を勘違いしている? お前の使った【剣製】は発動時間が長く、実践向きじゃない。発動を終えるまで待っていたということはどういうことかわかるな?」
「まだ減らず口を……! あなたは臆病だから自分から攻撃できないだけです! せいぜい致命傷で済むよう祈っておきなさい!」
メリナは叫ぶと、剣を片手に猛烈な勢いで地を蹴った。
致命傷はアウトだろうが……ったく。
はぁ、俺も久しぶりに少しだけ本気を出すしかないらしい。
地を駆けながらメリナは剣に魔力を流している。【剣製】との併せ技であるA級魔法【風滅】を使うつもりなのだろう。【風滅】は体系化された風魔法の最高位魔法だ。物体の概念をも切り裂く強力な魔法。メリナの言葉通り、まともにくらえば致命傷は免れない。
だが、俺はまだ余裕だった。
この程度は子どものお遊びにすぎない。
「お前に風魔法の極地を教えてやろう! 俺のオリジナル魔法【風神】だ。……少し威力は抑えてあるがな」
S級魔法【風神】を使った瞬間、俺の身体を風の加護が覆った。
次の瞬間、メリナの剣が俺の胸に接触する。普通なら【風滅】により俺の身体は概念ごとボロボロになっている。
だが、俺の胸に当たった瞬間に剣は形を失い、光の粒子となって虚空に消えた。
「う、うそ……なんで!? どういうこと!?」
「【風神】は防御において最強の風魔法。……そして、攻撃においても最強だ」
刹那、第七決闘場の地面を風が貫く。
ドゴオオオオオオオオオオオオンッッッ!
柱をも破壊し、女神像には数えきれないほどの亀裂が入っていく。
轟音が決闘場を包み込み、崩壊を始めた。
「……って、え!? 保護されてるから大丈夫って話、嘘なのかよ!」
確か学院長によると、メルヴィン魔法学院の決闘場は魔力によって保護されているので、絶対に壊れないとのことだった。
だが、今目の前で建物が崩壊している。
「S級魔法なんて誰も想定しませんよ! わ、わあああああ!?」
メリナに向かって柱が崩れてきた。
……仕方ない、緊急事態だからな。
「わっ……きゃああっ! な、何するんですか!?」
俺はメリナの身体を包むように抱いた。メリナの小さな身体はすっぽりと俺の腕に収まっている。ドク……ドクと鼓動まで伝わってくる。
柱が俺に向かって降ってくる。だが、風の加護に守られた俺の身体に傷をつけることはできない。俺に守られたメリナも傷つけることはできない。俺に当たった部分だけに穴が空いた。
十秒ほどで崩壊は止まった。
「あ……えっと……」
「もう大丈夫だ。離れていいぞ」
「……はい」
メリナの顔は真っ赤になっていた。耳まで赤くなっている。熱でもあるのだろうか?
「しかし派手にやっちまったな……直すか」
俺は大量の瓦礫を目の前にしてポツリと呟いた。
何気ない一言だったのだが、メリナには衝撃だったようで、
「な、直せるんですか!?」
「ん、まあな。ちょっとした回復魔法の応用だよ」
俺は瓦礫の前で、S級魔法【完全修復】を発動する。あらゆる概念を修復し、死人以外ならどんなものでも復活させることができる魔法だ。
ものの数秒で第七決闘場は元通りの姿になった。
その様子を最初から最後まで見ていたメリナは、目を輝かせていた。
「やっぱりあなたは私が見込んだ通りの人です! 凄いです……リオン先生ほどの実力のある魔法師をほかに見たことがありません!」
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