禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜

supico

訓練開始②


 この国には、6色の師団と、王直属の近衛師団の、合計7つの魔法師団が存在している。6色の師団から選ばれた精鋭だけが、近衛師団に属することができる、という構成だ。

 6色の師団は、その部隊ごとに特色があり、魔法学校はいずれかの師団の直轄となっている。
 例えばこの紺碧校は、紺碧師団の直轄となっていて、実地訓練も紺碧師団に引率される形だ。だから殆どの生徒は、地元であり慣れ親しんだ直轄の師団へ配属を希望するのだが、そのためには入団試験にパスする必要がある。
 入団試験の合否は、当日の実技試験のみで評価されるわけではない。各師団の団長や部隊長に、欲しいと言われたら合格なのだ。どこからも指名がなかった生徒は、各地へ均等に振り分けられてしまう。
 だから誰もが、実地訓練で師団員に顔を売って、アドバンテージを稼いでおきたいのだ。

 和久も紺碧師団を希望しているのだろうと思うと、つい、意地悪を言いたくなってしまった。

「ぱっと湧いて出てきた編入生を、応援していいの? ライバルになるかもしれないよ?」

 我ながら性格の悪い……と思いつつも、教室での大多数の視線は、複雑な心境を如実に表していたのだ。聞いてみずにはいられなかった。

「はぁ? そんな心配、してどーすんだよ。どの師団に配属されようと、魔法士としての役割は変わんねーよ」
「でも、紺碧師団が希望なんでしょ?」
「ま、第一希望はな。ライバルが一人増えた程度で焦るようじゃ、どうせ受かんねーし。お前がすげぇ強くなって紺碧師団に入れば、それは俺にとっても有益なことだよ。……ま、そういうセリフは、もう少しマシな使い手になってから言ってくれ」

 あんなヘボいところを見せられちゃ、応援したくもなるぜー、と軽口を零す和久の表情は、とてもサッパリとしている。
 第一印象の通り、自分をしっかりと持っているのだろう。他人で揺らがないところが潔い。

 予想外に友好的な回答を貰ってしまい、いい奴だなぁー……などと感動に浸っていた、が、

「——あ、そろそろ来そうだよ」

 雑談をしながらも、累の冷静な双眸は、静かに寄ってくる魔力の気配を捉えていた。

「どっちからだ?」
「向こう。300メートル先ぐらいから、4人、かな」
「…………お前の索敵範囲、マジでどうなってんの……」
「はははっ」

 若干呆れたような感想を漏らした和久。
 しかしすぐに鋭い視線で班員に連携を始める。

 一瞬で走った緊張感に、全員が戦闘態勢に入った。

「その距離で人数まで当てられるなら、確かに、戦闘が苦手でもやっていけるな」
「だったらいいんだけどね」

 さらりと賞賛を口にする和久に小さく笑み、姿勢を低くして戦闘に備える。

 累の仕事は残念ながら、あとは逃げるだけ、だ。

「——っきたぞっ!」

 和久の警告を掻き消すように、魔法の衝撃が木々を激しく揺らした。
 ためらいのない、ストレートな攻撃魔法だ。

 続いて発動する魔法の気配を敏感に察知した累は、軌道から逸れるように次の遮蔽物へと飛び込む。

「後ろ、付いて来いっ!」

 和久が攻勢のため、他のメンバーを引き連れて前に出た。

 事前に決めておいた役回りで、和久を先頭に、反撃に集中する者と防御魔法でサポートする者に素早く分かれる。その立ち回りに乱れはない。口の中で小さく魔法の構成を呟く者や、手で印を結ぶ者など、様々な方法で魔法を発動していく。

「防げっ!」

 和久たちが走り出た場所に、何発もの小さな魔弾が、ガトリングガンのように迫ってきた。
 それを、防御担当の一人が、さらに強固な防壁魔法を上掛けして無効化する。

 その間にも和久は、隙間を縫って、空気を切り裂くような鋭い衝撃波を放って反撃。同時に両側からも、上空高くに向けて魔法を発動し、高高度から1班を狙った。

 しかしそれも防がれたようだ。離れた木立の影からは、絶え間無く攻撃が続いている。

 入り乱れる魔法の軌跡。
 交差する人と声。

 累は、放たれてくる魔法の着弾点を正確に視ては、目立たないようにその場から逃れることを繰り返した。
 逃げろよ、とは和久からの言葉なので、有り難くそれを免罪符に、逃げるが勝ち、だ。

「もうちょい堪えろっ!」
「ダメだ、力負けしてる……っ!」

 次第に、1班に押され始めた3班の戦線ラインが、後退する。
 4班を守るメンバーは、自分たちも攻撃に加わるべきか、防御に徹するべきか、判断に揺れているのだろう。背後と正面を何度も確認しては、焦燥の表情だ。

 その時、一際威力の高い魔法が、正確に和久らを狙った。

「——っ、会長の攻撃だ!」
「防壁魔法を強化っ!」

 防ぐのが精一杯の3班の前線。攻撃の軸である和久を守るように、大きく手を広げた数人が防御魔法を展開している。しかし、声を上げて唱えている呪文はガタガタで拙い。大きすぎる攻撃魔法に耐えきれなかった者が数人、後方に吹き飛ばされている。

 そこに追撃するように、新たな魔法が紡がれる気配。

 累の双眸は、魔法の輪郭が集約していくのを、正確に捉えていた。

 ——明らかに、この防壁魔法では耐えきれない。

「っ左に逃げて!」

 攻防に参加せず、成り行きを見つめていた累だったが、危うい状況に思わず叫んでしまった。


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