Re-start 異世界生活って結構自分に合っている件

ロミにゃん

82 "見える者" バニラと観測者とナターシャ


手を引かれ、沢山の記録が並ぶ不思議な場所を歩いた。

「あ、バニラだ!」

ふと、目に止まった光の中にバニラの姿が見えた。




ーバニラのアーカイブー

そこには家族と幸せそうに暮らす本来の姿をしたバニラがいた。
その近くにはオブザーバーさんもいた。
みんなと仲良く暮らしていたようだ。

穏やかな暮らしは、ある日突然終わりを告げる、死の雨が大地に数ヶ月間に渡って降り続け、大地を飲み込み、全ては水の中に飲み込まれていた。

数えキレないほどの命が失われ、負のエネルギーで覆い尽くされるほどだった。

その時に、辛うじて生き残っていたバニラは家族、友人、何もかもを失い、自分だけが生き残っていたが衰弱していた。

家族に会いたい・・・
1人は寂しい・・・
苦しい・・・
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い・・・

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・

死ぬのは嫌だ!!!!!!


そうして、負の感情に支配されたバニラはクリスタルに取り込まれ、あの場所で長い長い時間を過ごす事になったようだ。


カチャン、と、フィルムが回り出した。


バニラ・・・苦しかったね・・・
怖かったよね・・・寂しかったよね・・・
大丈夫だよ、未来で私が必ず迎えに行くから、待ってて!ごめんね、もう少しだけ我慢してね・・・バニラ。







女の子は、パタパタと足音を立て走っている。

「違う!アレでもないの!早くなの!」

女の子は焦っている?

「ダメなの!見つけて!早く!ダメなの!」
「待って、何を探しているの?落ち着いて!」
「ダメなの!あの人が隠しちゃう前に!」

隠す?何を?誰かの記録を?

「あー!ダメなのー!ダメなのー!」
「ど、どうしたの!?」

突然女の子が取り乱し始めた。
ダメなのー!ずっと繰り返すばかりで、私は困り果てていた。

「見つかっちゃう!ここに入って!」

ドンっ!!!

「へぁぁ!?」

女の子に突然突き飛ばされ、誰かの記録の中に私は吸い込まれるように入っていった。







ー観測者のアーカイブー

その日も変わらず、この世界の全ての愛おしい子らと共に幸せに暮らしていた。

「やぁ、おはよう」

いつもと同じように挨拶をして、いつもと同じように世界を見守っていた。
次の日も次の日も次の日も次の日も次の日も次の日も次の日も次の日も、ずーーーーーっと。

でもその日はいつもと違っていた。
朝から雨が降っていた。
いつになく、鋭く、重く、激しい雷もなっていた。
気がつくと、大きな石の塊が世界中に現れていた。
それに触れると、見たことのない、ウィンドウと呼ばれる小窓の様なものが目の前に現れた。
この大きな石の塊の名は、クリスタルという様だ。

私自身が知らない物がまだあったとは・・・正直驚いた。

その日から、少しずつ、世界のどこかで、異変が起き始めるようになった。

あの子らを見守る事しか出来ない・・・
災害が起きようと、直接助けることは許されない・・・

誰かが、言った。
あのクリスタルが空から降ってきてから、全てがおかしくなったんだと。

私はクリスタルをもう一度調べてみた。
以前見た時には、こんな物は無かったはず・・・

視界に何か見える・・・

「めっ、せー、じ?」

そう書かれた所を、読むと突然目の前にウィンドウに表示された。

『私がこの世界をより良い世界に作り変えてあげよう。これより、観測者にとってはイレギュラーな事が沢山おこるだろう。楽しい楽しいゲームの始まりだよ 』

一体どういうことだ?
私の世界はどうなるのだろう?
イレギュラー?そんなのは許さない。

私は、理を変えてでも、私の世界を守る。

イレギュラーなどに負けなどしない。




突然、ぐちゃぐちゃっと、フィルムが絡みつく音が聞こえる、映像が消えた。

・・・・・・破損している様で、ここでこの記録は終わっている。




吐き出されるように"記録"から戻ってくると、女の子の姿は無かった。

あの死の雨の後の世界が今って事は、オブザーバーさんは平和な世界に戻すために、イレギュラー、"蒼野レイ"と戦っていたんだ。


この世界の住人の記録が保管されている場所ってことなのかな。

うーん、どうしよう、あの女の子を探しつつ、他のアーカイブをのぞいてみようか・・・


でも、どれくらいの時間が経ったのかな・・・
思ったほど、進んで無かったりして?
それか、また数ヶ月経ってたりするのかな・・・



「うーん、どっちに行こうかなぁ・・・わぁ!!」

キョロキョロとあちこち見ながら歩いていると、目の前の誰かの記録に飛び込んでしまった。




ーナターシャのアーカイブー


・・・・・・今度はどこだろ?
切り立った崖、海、晴れ渡った空・・・うん、知らない場所だ。
誰かの記録の中に入ったのは間違いないんだけどなぁ・・・
崖沿いにしばらく歩くことにした。

ザザー・・・
ザザザーーー・・・

カモメの鳴き声に、波音が心地いいんだけど、何も無い・・・

どれくらい歩いたかな・・・
ここってそもそと魔法って使えるのかな?
空から偵察とかしたいけど・・・

ミーン、ミーン、
ザザーーー、

蝉も居るんだ・・・暑い、汗が止まらない!!

「あ"ーーーあ"っぢぃー喉乾いたぁー」

独り言が、徐々にでかくなって行くし、アイテムとかつかえたりするのかな?
試しに私はアイテムを出そうと試みたけど、どうやら使えないみたいだった。

うーん、フィオナの時は、魔力をフィオナにあげれたんだけど・・・
アイテムはダメか・・・
もし戦闘になったら武器は拾えばなんとかなるのかな?
まぁ戦闘になるとは限らないけど・・・
ウィンドウが開かない以上、使えないよね。

「多分ダメだろうけど、試してみても損はないし、やってみよう!・・・"Fly"」

・・・ダメか。
何となく使えそうな感じだったんだけど、発動条件があるのかな?
今、周りに誰もいないからいいけど、恥ずかしいんだよね、魔法使う時って。

「あうーーーこの暑さぁ、溶けるぅ」

しばらくすると広い浜辺に出ることがききた。遠くに船が見え、人の姿も確認できた!









「ホラ、水だ、あんた、冒険者だろ?こんな所で、何してんだい?」
「ゴクゴク、ぷはぁ!!!ありがとうございまふっ!えっと迷子です。完全に」

船乗りに水を分けてもらい、私は生き返った。
船から荷下ろしをする人達はみんな首や足に枷をつけていた。

「奴隷か・・・」
「あぁ、この船は、奴隷がたくさん居るぞ」

突然、森の方から騒ぎ声が聞こえ、目をやると、大きなモンスターが出たようだ。
船乗り達が、奴隷を残し船の方へ戻って来た。

奴隷達はロクな武器ももたず、素手で戦闘を強いられている!!

船乗り達は、奴隷達に命令するために、腰にはムチや短剣などの武器を所持しているのに、真っ先に逃げやがった!
もう!何ということでしょう!!!

「男のくせに、腰につけてるのは飾りか!?ありえないんですけど!ちょっと、おじさんのサーベル貸して!」

近くにいた、船乗りのサーベルを奪い、私はモンスターの方へ向かった!!
数名いた奴隷達は負傷し血を流していた。

1人だけ、モンスターを前にしても怯まず、両手に短刀を持つ奴隷の少女がいた。
負傷した他の奴隷達を庇いながら、戦闘していた。
私は直ぐに少女のとなりに立つと、少女はとても驚いた表情をしていた。

「下がってて!後は私に任せて!」

少女は私の言葉を無視してモンスターに突っ込んでいった。

「ちょっ!」

骨が浮き出るほどやせ細った体の少女はとても身軽だった。
まるで踊りを踊るかのように華麗に舞い、モンスターを切りつけた。
どこかで見たことがある戦い方・・・

「あ、もしかして!ナターシャ!?」

モンスターに突き刺さる短剣を抜き血を払うと私の方をギロリと睨みつけた。

「・・・何故私の名を知ってる!?」

あぁ!やっぱり!
ナターシャに近づこうとした時、海の方からウジャウジャとモンスターが現れた!
巨大なタコの足が船に絡みつき、ギシギシ、バキバキと船の壊れる音と共に海にひきづり込んだ!!!

船乗り達は奴隷達を盾にして自分達だけ助かろうとしている様だけどウジャウジャと湧き出したモンスターに無情にも捕まり、あっという間にみんな海にひきづり込まれて行った。

「な、何が起こったの!?」

あっという間の出来事に私はなすすべも無くただ立ち尽くすことしかできなかった。
気づけば負傷していた奴隷達もいなくなっていた・・・

森の方へ振り返ると、ナターシャが短剣を持ち私に斬りかかろうとしていた。

「ま、待って!!私は敵じゃない!!」
「嘘だ!お前が来たらみんな海に消えた!お前の所為だ!」

ナターシャの息が荒く、手も震えていた。
いつまたモンスターが現れるか分からないため、私は早くこの場を離れたかった。
魔法も使えず、あんな数のモンスターを相手にする自信はない。

「と、とにかく、海は危ないから、森の中に入ろうよ」

ナターシャに近づこうとした時、ナターシャはその場に倒れた。

「ナターシャ!大丈夫!?」

倒れたナターシャを抱き抱え、私は森の中に走った。
モンスター達がこちらに気がつかまえに少しでも遠くへ!!
止まれない!今は走るしかない!





気がつくと、森を抜けて居た。
何時間走ったのかな・・・無我夢中で・・・
ナターシャを見てみると、ぐったりしてる。
突然ウィンドウが開き、ナターシャのステータスが表示された。

最後に食事をしたのは3日前!?
そうか、それでこんなに弱っているんだ!
なのにあんなに頑張って・・・

「ナターシャ!大丈夫だよ!すぐに食料を見つけてあげるからね!」

ガチャン!!!

「な!このタイミングで!?」

フィルムの回る音が聞こえ出した!!
私はナターシャを抱き抱え、走った!人のいる場所に!ナターシャを!!
背後から無数のフィルムが迫ってきて居た・・・

「まだだ!まだダメ!ナターシャが死んじゃうよ!大好物の特産オレンジのジュース飲ませてあげてない!」
「・・・ジュー、ス・・・」
「はぁ、はぁ、そうだよ!他にも色々なフルーツのジュース!いっぱい、作ってあげるからね!」

道のずーっと先に馬車が見えた!
よし!あの馬車の所まで!!!
すると、後ろから声が聞こえた。

「まて!その奴隷をどうする気だ!」
「ご、しゅじ、んさ、ま」

ナターシャの主人!?

「いや、モンスターの群から逃げるのに必死で・・・」
「俺の所有物だ!返せ!」

ナターシャの主人は私達の方へ迫って来。私はナターシャを抱えたままどうするか迷っていると、近くの茂みからモンスターが勢いよく飛び出してきた!!!
ナターシャを片手で抱え、サーベルを握り、モンスターの方へ構えると、今度はナターシャの主人の方へ突進を始めた。

「く、くるな!おい!俺を守れ!いつまで寝ているんだ!」

ナターシャはこんなにも弱っているのに、何を言ってるんだこのおっさん!?
シュルシュルと伸びたフィルムに私は足を取られ転んでしまい、ナターシャを離してしまった!!
持っていたサーベルで、フィルムを切り、何とかもう一度ナターシャを抱き抱えようとした時、遠くに見えた馬車に見覚えがある事に気がついた!

モンスターがナターシャの主人を襲う声が聞こえ振り返った。

「うわぁぁあ!」

私はナターシャをその場に寝かせて、馬車視認しつつモンスターの方へ走った!!

「あぁ!やっぱり!あの馬車の紋章はキースさんのキャラバンだよ!良かった!ナターシャ!もう安心だよ!キースさん達はナターシャの事を、いーーーーーっぱい愛してくれるよ!たくさんの愛で満たしてくれるよ!もう大丈夫!温かい食事に温かい寝床!全部、くれるよ!・・・!?」

モンスターにあと一歩で届きそうな距離まで近づいた時、両腕にフィルムが絡みつき、完全に身動きが取れなくなってしまった・・・

「お姉、さん、誰なの・・・」
「私は、ロミー!ナターシャ!トルル焼き、今度作ってね!」
「ト、ルル、焼き?」

大丈夫、ナターシャはキースさんのキャラバンに助けてもらえる!!
私はナターシャに満面の笑みで答えた。

「ナターシャの未来は明るいよ!」


モンスターがナターシャの主人を茂みの奥へ引きずり込んで行く、助けられなかった・・・
うずくまるナターシャに手を伸ばそうとした時、私はこの時間から追い出された。








「ダメなのー!ここなのー!早くなのー!」

ナターシャのいた"記録"から戻ってくると、女の子の声が聞こえた。

「ど、どこ!?」
「そっちじゃないのー!こっちなのー!あっちー!こっちー!ダメなのー!早く見つけてなのー!」
「へぁぁぁぁ!?どっち!?」

女の子に振り回されながら、私は、自分にできることをした。


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