Re-start 異世界生活って結構自分に合っている件
69 谷口くんとスイーツ
ーリオン邸ー
目を覚ますと、今朝、起きた時と同じ光景で、すぐに家に戻ってきたのだとわかった。
上城さんと桜子さんが、谷口くんと話をしていた。
「起きたか?」
声がした方を見ると、ベッドの上にバニラとワンワンが並んで寝ていたので、2人の頭をなでてベッドから降り、三人に挨拶をして桜子さんの隣に座った。
「もう大丈夫?無理しちゃダメよ?」
まだ少し頭痛がするけど、とりあえずは大丈夫そうかな。
なんとなく、みんなが何の話をしていたのかわかるような気がした。
ドアをノックして誰かが配膳用のワゴンを押しながら入ってくる音が聞こえる振り返えった。
「ロミー、起きた?心配したよ」
ジャックが、スイーツを持って来てくれたのだ!!!
「うん、もう大丈夫です。ありがとうござます。わー美味しそう!!」
ジャックがテーブルにスイーツを並べて、みんなに飲み物を配ってくれた。
まるで、執事みたい!素敵!
私は早速、カップケーキに手を伸ばして食べた。
「ロミちゃん、倒れる前に何があったか話してくれる?無理はしなくていいから」
私はあの時、確かに見た。信じたくないけど、ね。
「はぁ・・・あの時、係長を見ました」
「やっぱり、アイツすぐ近くに居たんだな。・・・それと橘、アイツにパワハラ受けてたんだろ?」
・・・思い出したくもない。
「俺が辞めた後のターゲットが橘だって、聞いた時は、マジで悪いって思っててさ、お前にずっと謝りたかったんだ」
「谷口くんが謝る事じゃないよ」
「謝るのは僕だよ、2人の上司でありながら、気づくことができず、確証が持てた時にはもう遅くて・・・」
空気が重くなり始めたとき、ジャックが私の頭をポン、と触れた。
「私は部外者だから、行くよ」
「え、」
とっさに引き止めたけど、それでもジャックはそのまま部屋の外へ出ようとしたとき、谷口くんが立ち上がった。
「橘の"彼氏さん"、居てください。その方が橘も安心するだろうし」
その言葉で上城さんと桜子さんが「え?」と言う顔をして固まっている。
ジャックほクスクス笑い、バニラはゲラゲラ笑っていた。
「そ、そうよ、ロミちゃんの"彼氏さん"居てあげて。それに、記憶についても話せるいい機会だし」
「そうか、じゃー、お言葉に甘えさせてもらうよ(ニコニコ)」
そう言うとジャックは肘掛に腰掛け、私の頭をなでてくれた。
"彼氏さん"と言われて少し嬉しそう?
「橘、俺がこっちの世界に来てからのことを簡単に説明するな」
谷口くんはこの世界に来たのは三ヶ月程前だと言う。
私をこの世界に連れて来るために何度か失敗した、と"イレギュラー"は言っていたのが本当だったと言うわけだ。
連れてこられた時期にはバラツキがあるのは、何度か失敗したうちだからか。
仕事を辞めてしばらく、朽田係長からメールや電話がたくさん来ていたらしい。
ストレスで引きこもるようになって、ゲーム漬けな日々を送っていたある日、招待状とかかれたメールが届き、変だと感じながら開くと、気付けばキャタルスシティの路地裏で目が覚めたという事らしい。
「身ぐるみ剥がされそうになったり、大変だったけど、たまたま怪我をして動けなくなっていた女の子を助けたら、その両親に気に入られて、色々教えてもらって、冒険者登録とかもして、何とかその日暮らしをしてるわけよ、マジ、三ヶ月も経ってたのは意外だったけどな」
「大変だったのね、それから?いつ朽田係長にあったの?」
谷口くんは一瞬口を噤んだ後、深呼吸をして、話し始めた。
「シルバーシティの近くの山でキメラが討伐されたって噂が流れた後すぐだから、二週間ちょっと前かな、他のハンター達と、近くのダンジョンの帰りに、突然声をかけられたんだ。」
係長は二日間ずっと1人だったらしく、右も左もわからず、食事や水も無く、やっと見つけた知り合いに藁にもすがる思いだったのだろう。
「正直、俺会社辞めたし、もう部下でもなんでもないし、関わりたくなかったんだけど、しつこく付きまとわれてさ。」
「"上司を見捨てる気なのか"だとか"知り合いなら一緒に居るべきだ"とか"帰る方法がわかるまで一緒に行動すべきだ"とか"宿を紹介しろ"だの。自分じゃ稼ごうともしないで、俺にベッタリでさ、本当にウザくて、挙げ句の果てには、頼んでもないのに、"元の世界に戻れたら復職できるようにしてあげる"とか、アイツが嫌で辞めたのに、誰が戻るかっつーの!!」
おうおう、谷口くんもそうとう溜まってるねぇ
「クエストの最中だって、"私を守って当然"だとか言って、自分は何もしないで見てるんだぜ?レベルだけ楽にあげようとして!マジ何様なんだよ。わかるだろ!?橘ぁ!」
「お、おう、そうだね。こっちに来ても役職振りかざすかねぇ、あのババア」
「だろ!?ここは会社じゃねぇんだよ!本当にあのクソババうぜぇ」
私と同じあのオババを嫌う谷口くんとは話が合いそうだ(主にオババの愚痴)
しかし、オババまでこっちの世界に来ていたなんて・・・
「で、部長にもさっき聞いたけど"キング"をプレイしていた者だけがこっちの世界に来たってマジなのか?しかも、プレイデータそのままって。橘、レベルいくつなんだ?」
「うん、たぶん今のところはね。レベルは500で止まってるよ」
「5、500!?それってカウントストップって奴か!?」
「うん、サービス開始時からずっとやってるからね」
「あ、でも、前にこの話飲み会でしたっけ?あの時、二次会で部長達とカラオケ行ったよな」
二次会でカラオケ・・・うーん・・・行ったこと無いはずだけど・・・。
「橘、お前、あの時、部長とデュエットしてたじゃん!マイナーな洋楽バンドだったからよく覚えてないけど」
私が上城さんとデュエット???
上城さんの顔をみると、頷いてる!?
え???
「ロミちゃん、覚えてないの?」
「・・・お、覚えてないです」
会社の人とカラオケに行った事なんて、一度もないはず・・・
しかも、異性とデュエット!?
そうか、これも忘れてしまっているのか・・・
「確かに、ロミーさんとデュエットしたなぁ。懐かしい。あの後、ロミーさん達とは2、3回、カラオケに行ったね。飲み会も何度か・・・でも谷口や他にもバタバタと人が辞めていって、飲み会もあれ以来、誘われなくなったし、誘い辛くなって、僕自身が部下達に嫌われたのかと思ってたけど・・・」
「ろ、ロミちゃん、目が泳いでる!」
「無理に思い出そうとしなくていいんだって。ロミー。また体調悪くなる、リラックスしよう、ほら、これ美味しいよ。あーん♪」
「はむっ。もぐもぐ」
ジャックにシュークリームを食べさせてもらい、頭をなでられながら心を落ち着かせようと試みる。
「輝についての事も一部忘れてしまっているようだねぇ。ロミー、ここクリームついてる」
そう言うと、ジャックは親指でクリームを取り、ペロリと舐めた。
「んっ!」
私は恥ずかしくて項垂れた。 
「お前の記憶の事は、何となく、聞いたけど、災難だったな。」
災難、そんな言葉一つで済むのだろうか・・・
私の記憶はどうして無くなったのか・・・
「あのさ、俺この間ギルドで"記憶の泉"の話を聞いたんだ。そこへ行って、水を飲むと、失った記憶が蘇るらしい」
「そこに行けば、ロミちゃんの記憶が戻るかもしれないわね」
・・・なんか胡散臭い、いや、ゲームの世界なら普通か・・・
「年でぼけちまった爺さんにそこの泉の水を飲ませたら元気になって帰ってきたって」
「ロミー、私は君に記憶を取り戻してもらいたい。胡散臭い話だけど、行く価値はあると思わないか?」
私はこのジャックの少し悲しげな表情に弱い。
「うん、行きたい!"記憶の泉"に行きたい!ジャックの事、ちゃんと思い出したい!」
谷口くんがニヤニヤしながら私を見ていた。
「何ですか」
「いやー、失った恋人の記憶を取り戻しに行くって、なんかいいなぁって。愛されてんだなぁ橘ぁ(ニヤニヤ)」
「か、からかわないでよ!」
「(ロミちゃん、恋人という部分は否定はしないのね)」
「(恋人っていうのは否定しないんだ、ロミーさん)」
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