不老不死とは私のことです
入学式編 11話
13:00。
昼食をとった後はメイド服から、用意してあった私服に着替えて、学園へ向かうため車に乗り込む。着替えるのが面倒なので最初から私服で良いじゃないかとも思うけど、私服で下手にウロウロしていると、うっかり西園寺家御庭番部隊に蜂の巣にされかねないので要注意だ。
顔パスとか以前に、そういうマニュアルと使用人教育が徹底されているのだ。疑わしき者は、ガンガン撃つべし撃つべし!(銃=GUNだけに)
どうせ西園寺の敵は身内か外かを問わず常に履いて捨てるほどいる。襲撃なんぞ日常の光景の1つなので、これは割と死活問題だった。
ちなみに、発見者が私でも不審者は確認する前に蜂の巣にするので悪しからず。(その時の適用マニュアルによって細かな差あり)
一緒に乗り込んだ車の後部座席で、柚様が着替えた私にコメントをした。
「わーっ!す、雀ちゃんの私服、か可愛いねぇ!えーと、ほらこの猫さん柄とか!」
……が、隠しきれない無理矢理感が見える。まあ気持ちは分からなくもないです。護衛として助手席に座る私は苦笑する。
「柚さ──柚。別に、無理して褒めなくてもいいです……いや、いいよ」
「うっ……」
ほら見ろ即言葉に詰まるんじゃないですかっ!……とは言わない。
むしろ私もこの柄どうかと思ってるし。何しろ父のお土産なのだ。この男親特有のサプライズしとけば何でもいいだろ?的な思考はやめて欲しい。
基本買ってくれる服にサプライズなど要らないのだ。全国の父親諸君にはここを覚えていて欲しいものです。「いや、渡した時は喜んでたよ?」だって?ならばその服が今どこにあるか調べてみるのだ。多分八割の確率でその後1回も着られてない。
例えそれが奇跡的に流行りのデザインだとしても、サプライズで買ってこられた服を着こなせるのなんてなぁ、そんなのモデル並の美女しかいねーんだよっ!ということを是非頭に刻んで欲しい。
そして夢を壊すようでアレだけど、ほとんどの場合は救いようのないセンスなので、服を一緒に買いに行く(という名目の無言の財布役に徹する)ことが1番喜ばれると思いますです、ハイ。
ちなみに、別の車に別れて乗り込んだクロエは、なんてことはないジーンズに、これまたなんてことはないトレーナー姿だった。
……くっ。何故かクロエだけなんかシャレオツに見えたのは私の素材の問題ではなく、Tシャツの柄のせいであって欲しい。例え、クロエのバックスタイルに、私のTシャツとよく似た変な猫が描かれているような気がしても、それはきっと気の所為なのだ。
「別に、汚れるからこの格好にしただけで、このTシャツが気に入ってるわけじゃありませ……ない」
今着ているものとは別に、普通の服も用意してあるのだ。ちなみにそれは今回のために新しく買ったものなので、着るのを結構楽しみにしている。
「雀ちゃんは早くその口調に慣れようね……そうなの?」
あれ、今日お掃除する予定なんてあったっけ?と柚様は首を傾げた。
「ちょっと汚れるお掃除」
「えっ?」
思いがけない返事だったのか、柚様が理解できないという顔をした。ああ、しまったな。別にこれは言う必要は無かったか。
「いえ、柚さ──柚は気にしなくていい」
掃除って言っても、ちょっとした社会のお掃除ですから。
ふぅん、と柚様が納得しきれないけど無理やり納得した、とでも言いたそうな返事を返した瞬間だった。
「──っ?!きゃ、な、なに?!」
車体が大きく揺れ、エンジン音がその唸りの表情を変える。軽く振り返って柚様に怪我が無さそうなことを確認すると同時に、運転手に目配せした。運転手が頷き返す。
車の揺れが激しいという事は、タイヤをやられでもしたのか。
「雀様、襲撃者です」
「分かってる」
助手席の窓を大きく開け放ち、身を乗り出して後ろを見た。
「おっと」
すかさず銃撃の連続。ここ日本の法律をなんと心得る!?歴とした銃刀法違反ですよ、もうっ!
だけど相手の武器種は分かった。あの形からするにドイツ製の自動小銃だろう。連射のスピードと、口径から見て異能者との戦闘も視野に入れた高級品である。
……ただのゴロツキじゃないな。
装備から見える敵さんの資金力に、私は舌打ちした。
「──クロエ、襲撃」
「ああ、見えてるよ」
あらかじめ分け合ってつけていたインカムを通してクロエに通信を入れた。位置から言えば、クロエは私たちの3台後ろの車に乗っているから、より良く状況が見えていることだろう。
「こちらから見える襲撃は、すぐ後ろの黒セダン1台。間違いない?」
「それと、さらに2台白いワゴン車も追加した方がいいかもしれないね……武器の用意してるみたいだよ」
「チッ」
随分と大所帯でやってきてるみたいだ。
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