異世界呼ばれたから世界でも救ってみた

黒騎士

第36節 葛藤と願望

『あの時は私もSクラスの一人として魔術師として在籍していました・・・。メンバーはそれぞれが特徴がありそれは辛くも楽しい毎日でした・・・』
学園長は昔を懐かしむ様に目を細めながら語った。
『その時も当時の学園からは桐生さん達と同じ様な説明を受けてただモンスターの脅威を退ける事だけを考えていました・・・。ですが・・・』
『ミントの素性が分かったと?』
『えぇ・・・。あの頃はミントとは名乗っていませんでした。彼女にも色々あるのでしょうから今はなにも追求しないでくださいね?・・・話がそれましたね・・・。当時のクラスは揉めました。契約者になったのは召喚者でもなく、私でもなく剣士クラスの子でした・・・。いつも明るく、リーダーシップを取って皆を引っ張っていく・・・誰もが憧れる人でした。ですが契約者との事を話すと・・・』
『まぁ周りは面白くないわな。頑張ってたのに手柄を横取りされた様なもんだしな』
『えぇ・・・そしてその時居た召喚者が学園を去ったのです・・・『こんな事なら仲間になるんじゃなかった』と言い残して・・・』
『・・・』
『それからはクラスもどこかぎこちなくなり・・・討伐の依頼が来ても誰も無気力で・・・いつも契約した子だけが駆り出されていました・・・』
『・・・』
『私も助けたかった・・・ですが周りの仲間達は行っても無駄と決めつけ動こうとせず・・・私もそれにつられて・・・今となっては後悔しかありません・・・』
『それで?』
『その後です・・・突如学園に現れたのは去っていった召喚者でした・・・周りには大量のモンスターと・・・エヴィーと言う少女でした』
エヴィーの単語に桐生は反応した。
『あいつ・・・』
『もうご存知ですね・・・ミントさんの片割れ・・・神の代行者・・・今でも思い出すと震えてきます・・・あのモンスター達を引き連れてきた召喚者の憎悪の塊の様な姿が・・・』
そこまで話すと学園長はふぅとため息を吐き、話を一区切りさせた。
『あとは・・・もう分かりますよね?』
『・・・あぁ、そっからは恐らく全面戦争になったんだろうな。で、ほぼお互いが壊滅状態。だが・・・学園長はどうやって生き残った?ましてや500年前からどうやってこの世界まで来たんだ?』
『・・・私も全線で戦いました。ですが魔力が底を尽き、諦めかけた時、突如強い、とても目も開けていられない程の光が発生し私はその光に飲まれました』
『・・・光?』
桐生は自分が体験していた事と酷似しているのかと思い話に集中し始めた。
『えぇ・・・。輝き出した光はどうなったかは分かりませんが、私は生きていました。ですが目を開け辺りを見回しても仲間もモンスターもおらず、のどかな光景だけが広がっていたのです』
『時間跳躍か・・・?』
『えぇ・・・気付いたのは街に戻ってからでした。よく行く馴染みのお店は店員が変わっており、仲が良かった友達の家には誰も住んでおらず・・・先程まで起きていた戦争の事すら無かった様に扱われました・・・誰しもが口を揃えて言うのですよ・・・『なんのこと?』と・・・』
『・・・』
『途方にくれ、とりあえず学園に戻ろうと歩き始めたら今度は憲兵に抑えられましてね・・・妙な話をしている者が居ると誰かが通報したのでしょう・・・私も抗う事もせずただついて行ったのですが案内されたのは学園でした・・・』
『・・・生き残りが居たのか?』
『いえ・・・その子は同じクラスの子の子孫でした。戦争が謎の光で終局を迎え、生き残った人達をまとめあげ再度街を復興した功績で学園長になったそうです・・・その子孫の子がひとつの魔法石を持っていました・・・。そこには私のクラスメイトが私宛に映像を残しておりました。『戦争中の光の中、貴女はどこへ消えてしまったの?私は必ず生きていると信じてこれを残します。もし見る事が出来たならどうか私の意志を引き継いで下さい・・・。』と・・・。』
学園長はそこまで話すとおもむろに立ち上がり窓枠へと近寄った。
『私もそんな物があるとは思わず、とても驚きましたが・・・その子の残した遺言に驚愕しました・・・。世界の仕組み・・・エヴィーの正体・・・神の代行者・・・恐らく桐生さんが聞いた話と同じ事を私は聞きました・・・。そしてその子はこう言ったのです・・・。『願わくばこの話は隠蔽し、冒険者や生徒で危機を救って欲しい・・・。私達だけでは何も出来ない・・・世界を救うという意味を理解していなかった・・・だからお願い・・・全てを知った上で黙認して欲しい・・・』・・・と』
『・・・』
『悩みますよね・・・その学園長も知らなかった事実ですから・・・ですが私はその言葉に従う事にしました。・・・誰も逃げたいのは一緒です・・・。ですけど逃げていた所で何も救えない・・・私は・・・この街の人達を・・・学園の生徒を・・・裏切って生きていたのです・・・』
『・・・そっから学園長になって今に至るってか』
『そうですね・・・。その間に私も家庭を持つ事が出来ましたし、娘も授かる事が出来ました・・・。主人はあの子が生まれる少し前にモンスターにやられてこの世を去ってしまいましたが・・・それでも幸せな日々を過ごしてきました・・・』
話し終わったのか学園長は再び椅子に戻ると深く腰掛け桐生を見やった。
『軽蔑されましたか?』
学園長は諦めに似た顔をしながら桐生に問いかけた。
『さっきの質問って・・・』
『ええ、仲間を取るか世界の住人を取るか・・・の意味も込めて伺いました』
『なるほどな・・・』
『通報しますか?私は既に覚悟は出来ておりますよ』
『いや?』
桐生はなんでそんな事をしなきゃならないのか分からんと言う顔で答えた。
『通報したからって世界の仕組みが変わる訳でもないし、諦めた訳でもない。学園長が必死に守ってきた事を今更覆したらそれこそ世界の終わりだわwww』
『ではどうすると?』
『ん?このままさ♪学園長のお陰でモンスターが増えてきた原因は知れ渡っていないから冒険者達も稼ぎ時だって言って頑張るだろうし、学園の生徒も自分達が頑張らなきゃって士気もあがるだろーからな。幸い、その話を知ってるのは俺とSクラスの奴らだけだ。アイツらに口止めしとけば当分は大丈夫だろ』
『・・・それでいいのですか?』
『いいも何もwww嘘も貫き通せば本当になるってなwとりあえず学園長が悩む事は無くなったってわけでいーんじゃないか?事情を知ってる人間が俺達なんだから』
桐生の言葉に学園長はうっすらと涙を浮かべながら頭を下げた。
『・・・本当にごめんなさい・・・。あなた達には苦労ばかりかけてしまいます・・・』
『よしてくれよw大してなんもしてないwww』
『それでも・・・私一人で抱える問題としてはあまりにも大き過ぎたもので・・・』
『・・・まぁそっか。そうだな。でも遅いわけじゃないからな。これからだろ』
『はい・・・そうですね・・・』
『んじゃま、学園長の裏話はこんぐらいにしよーぜwww』
桐生はヒラヒラと手を振り話を終わらせようとした。
『うし、じゃあ俺は戻るわ。邪魔したな学園長』
桐生はそう言うと立ち上がり扉まで歩いて行ったがピタリと立ち止まり学園長の方は見ずに言葉を続けた。
『俺は・・・誰も死なせないし、殺させない。それが世界を救う事に繋がるって確信があるからな。だからよ?肩の力抜いていてくれよ。学園長がそんなんじゃ周りのヤツらビビって全力なんか出せねーよwww・・・それだけ。じゃ、お邪魔しましたよっと』
独り言とも取れるような発言をして扉を開き部屋を出ていった桐生を学園長はジッと見ていた。
『世界を、子供達を、仲間を・・・お願いします・・・』
学園長の独り言は届かないと分かっていながらも伝えたい本心から出る言葉だった。

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