異世界呼ばれたから世界でも救ってみた

黒騎士

第29節 仲間の存在

夜、Sクラスが中庭に集まり始めた頃に学園長は馬車の御者と共に現れた。二頭で引くタイプの物の為、かなり大きめな馬車だった。
『皆さん、揃いましたか?』
『後はレオン君だけです、学園長』
リィムが集合場所に現れないレオンを心配してキョロキョロと辺りを見回していた。
『・・・そうですか。ですがあまり時間を掛ける訳には行きませんね・・・。桐生君?すみませんがレオン君を呼びに行って貰っても宜しいですか?』
『あぁ、いいっすよ』
『私も行く!』
桐生が返事をするとその隣からレイナが同行を求めた。
『えぇ、構いませんよ?ではお二人共よろしくお願いしますね』
学園長が許可を出すと桐生とレイナはレオンの部屋に向かい走り出した。
ー。
ーー。
ーーー。
コンコンっ!
『おい、レオン?いつまで寝てんだ?もう集合して行く時間だぞ?』
桐生がノックをしながら扉越しに話しかけるが中からは返事が無かった。
『?もしかしてすれ違ったか?』
『それなら多分念話で学園長から報告が来るはずだけど・・・』
『だよな・・・おい、レオン!?』
今度は先ほどよりも強めに扉をノックするが変わらず応答は無かった。
『まさか・・・っ?!』
桐生は何か気付いたのか扉を開け放とうとドアノブを掴んだが鍵が掛かっており入る事は叶わなかった。すると後ろから剣士クラスの生徒が話し掛けてきた。
『レオンならちょっと前に出てったぞ?』
『なんだって!?』
『嘘・・・!?』
『ホントだって。なんかスゲー怖い表情だったから何かあったのかって聞いたら見逃してくれってだけ言って外に行っちまった』
『アイツ・・・』
『なぁ勇人?もしかして何かあったのか?アイツ、剣なんか背負って行ったから任務なんだろうけどあそこまで真剣な顔になったのは初めて見たぞ』
『間違いないな・・・』
『うん・・・』
『なんだ?』
『詳しく説明はしてらんねぇ。情報ありがとな』
『ありがとう!』
二人は来た道をまた走って戻り始めた。
『なんだってんだよ・・・?』
一人残された生徒はポカーンとしていたが、聞こうにも二人とも居なくなってしまったのでとりあえず自室に戻るのだった。
『やばい、アイツ先に行きやがった!』
戻るなり桐生は学園長も含め全員に報告した。
『なんですって?』
『はぁ!?』
『そんな・・・』
『・・・』
全員が驚愕している中、学園長が話し始めた。
『・・・急いで出発した方が良いですね。もしもの事が起きてしまうのだけは避けたいですし。』
『だな・・・。皆、行けるか?』
学園長の言葉に続き、桐生がクラスメイトを見回すと力強く頷く姿がそこにはあった。
『うし、じゃあ行くか!』
その言葉を合図に全員が馬車に乗り込み、出発した。後方では学園長が静かにその後ろ姿を見送っていた。
『頼みましたよ・・・。必ず皆さんで帰ってきてください・・・。』
ー。
ーー。
ーーー。
学園を離れ、幾分の時間が過ぎた頃レイナがふと、話し始めた。
『レオン・・・無事だといいね・・・』
それに返事を返したのはベルだった。
『無事でいてもらわなきゃ困るわよ。・・・アイツ独断でこんな事して。絶対燃やす』
ベルはそう決意したのか手のひらに魔力を貯め始めた。
『と、いいつつもベルさんもたまに独断で行動しますよね?・・・人の振り見て我が振り直せとはまさに、この事ですねw』
リィムが笑いながら話すとベルもバツが悪かったのか魔力を消してブスっとした顔を取った。
『そ、それは・・・』
『それに、前回はミントさんも、ですよ?』
リィムはここぞとばかりにミントにも矛先を向けた。
『・・・反省してるから同じ事はしない』
『が、学級長・・・エグいよ・・・』
レイナは苦笑いを浮かべながらリィムに答えた。
『私は・・・皆さんみたいに行動する意思がなくて・・・逆に羨ましい時があります・・・』
と、今度はリィムが自虐の様に語り始めた。全員が何処と無く無口になる中桐生が話を始めた。
『なぁ、ちょっと俺の話を聞いてくれないか?』
そう言うと全員が桐生を見た。
『俺は・・・ここに来る前にある所で仕事をしていたんだが・・・そこじゃいっつも仕事を回されて困ってる奴が居たんだ。まあそいつはリィムみたいに自分の意思が弱くて言われればやるしか出来なかった奴なんだが・・・。で、俺はそんなそいつが可哀想で手伝う様にしたんだ』
その話に皆が食い付いてきたのを桐生は感じ取った。
『そしたらよ?今度はそいつも俺に仕事を預ける様になったんだよ。まぁ俺がやれば他の奴は早く帰れるからそこはいいけど、協力ってそんな事か?』
問われ、全員が考えている中リィムが答えた。
『それは・・・違うと思います。困ってる人が居たら助ける勇人君の行動は凄く良い事ですが、それを利用しているのは協力ではなく他の人と同じ事をしているだけです』
その返事に桐生は内心『俺もこの世界に来て変わったなwww』と思いながら話を進めた。
『そう。そこが重要だ。誰かがやるからいいや、とかそんな気持ちで居たら絶対チームワークなんて生まれない。俺はこの世界にきてそう思える様になったんだ。・・・なんてったって自分の命が掛かってるからなwww』
そこまで話すと皆がウンウンと頷き始めた。
『今回、レオンは独断で動いた。それは悪い事でもあるけどそれなりに理由もあるはずだ。そしてベルもミントもやった時は同じ理由だったんじゃないのか?』
二人は頷いて話を聞いていた。
『だから・・・。ちゃんとお互い話し合おう。どうしたいのか、何がしたいのか、回復したいのか、下がりたいのか、攻撃したいのか、分からなかったら死んじまった冒険者達みたいな結果にいずれなっちまう。・・・恐らくエヴィーみたいな強い奴を相手にするなら今のままじゃ勝てないのはそこだと思う。』
桐生は話を一旦区切ると全員を見た。各々考えている事は別として、何が言いたいのかは伝わった様だった。
『自分一人で戦ってる訳じゃない。背中を守ってくれる仲間の存在を大事にしよう。それが協力って事だし、チームワークってことに繋がるはずだから』
桐生が締めくくると全員が力強く頷いた。
『まぁ堅い話はここいらで辞めて・・・独断で動いたレオンを助けたら何かしら罰則が必要だなwww』
桐生は悪い顔をしながら何にしようかと持ち掛けた。
『全員に街でご飯でも奢らせる?』
ベルも悪い顔だった。
『買い物の荷物持ちとかw?』
レイナも笑いながら答えた。
『やはりここは自分の過ちを償う為にみっちりと教会で懺悔をしましょうか』
リィムがメガネを光らせながら怖い事を言い始めた。
『・・・一日服従』
ミントがいつもよりも数倍明るい声でエグい内容を提案した。
『お前らwww良いねぇwwwじゃあ、全部やってもらうかwww』
最後に桐生が提案したことに全員が賛成した。
『・・・なら、なんとしてもアイツを助けないとね』
その言葉に誰しもが決意を新たにしたのか強い眼差しで答えた。外は次第に明るくなり始め、また新たな一日が始まる事を告げていた。後数刻すれば目的地まで着く事に桐生は一人、レオンを心配していた。
『(レオン・・・生きてろよ・・・。必ず助けてやる。だから・・・死ぬんじゃねーぞ)』

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