異世界呼ばれたから世界でも救ってみた

黒騎士

第27節 二人の気持ち

ベルとの一件が終わり、数日が経過するとSクラスの雰囲気は以前より明るくなっていた。多少の言い合いはあるがベルも桐生も本気で喧嘩する事は無くなっていた。だが、新たな問題も出てきた。
『どうしたんだろうね?リコル・・・。』
『えぇ・・・。顔を出すには出しますが・・・以前の様に絡んで来ることも無くなり、周りとも距離を置いている様に思えます』
『大方勇人に負け続けたのが堪えたんでしょ?レイナとも離されちゃったしね』
『・・・心配』
『まぁ静かでいいけどなwww』
Sクラスの面々はそれぞれに話していた。桐生も気付いていたが、リコルが今までと様子が変わったのだ。桐生が来てからは大人しくなったが、周りと距離を置くような態度は取っていなかったのだ。いつもの高飛車な態度もなくなり人間が変わったのかと心配になる人間が出る程だった。
『なんかあったのは間違いないだろうけど本人が話さないなら放っといていいんじゃないか?』
桐生は大して問題視せずに話を終わらせた。
『それよりもこの収集はなんなんだ?誰か理由とか聞いてないのか?』
そう。今桐生達が居るのは学園長室前の廊下だった。遡る事1時間前、桐生達Sクラスの生徒は各々の授業へ出る為廊下を歩いていた。するとメイド長のミカが現れ、至急学園長室前まで行く様にと言伝を伝えたのだった。
『なんにも聞いてないよ?ね?』
レイナがそう答え、他のメンバーにも振り返るが皆、同じ様なリアクションを取るだけだった。
『入ってろとも言われていないし、なんなんだろうな』
桐生がボソッと小言を零すと同時に目の前の学園長室の扉が開いた。
『皆さん、お揃いですね?』
中から現れたのは勿論学園長なのだがその顔は普段の顔付きよりも険しくなっていた。
『ではこの場でお話します。本来なら中でお話したいのですが、少々込み合っておりまして。こんな所でごめんなさいね?』
そう話す学園長は普段通りでいようと努めているのが手に取るように伝わった。
『・・・なんかあったのか?』
『えぇ・・・。リコルさんの件ですが・・・。』
そこまで話すと全員が顔を固くした。何かあったのかと身構えたのだった。
『・・・本校を辞めました。理由については話してくれませんでしたが、本人から辞めると申告されまして・・・。勿論引き止めましたが願い及ばず・・・』
そこまで話すと学園長は一つため息を出した。
『つきましては今後のSクラスですが今いるあなた達だけになります。これからも多忙な任務などあるかと思いますが、無理をせずに協力し合って乗り越えてくださいね?』
全員は突然の事に思考が追い付かなかったが学園長の話に頭を下げる事だけは出来た。
『お話は以上ですけど、他になにかありますか?』
その問いに誰も答えることが無く、学園長は静かに部屋に戻って行った。
『リコルが・・・』
『いきなりだね・・・』
『別にいいんじゃない?辞めたければ辞めれば?』
『確かにな。アイツ、辞めたって皇族なんだからそれなりに忙しいだろうよ』
『・・・』
各々が感想を零している中、桐生だけは納得がいっていない様子だった。
『勇人?』
『ん?あぁ。辞めるのは別にいいけど、なんか急過ぎないか?と考えてた。』
『?どうゆうこと?』
『いや、確証はないからなんとも言えないけどよ。・・・なんか腑に落ちなくてな』
桐生は先程まで居た学園長の場所をじっと見ながら考え事に没頭した。
ー。
ーー。
ーーー。
リコルが学園を去った話はすぐさま学園中で噂になった。あるものは驚き、あるものは静かに喜んでいた。その中には原因は桐生にあるのではと噂する者もいた。そんは噂も我関せずといった顔で過ごす桐生とSクラスは普段通りに過ごしていた。
『毎日毎日勉強で飽きてきたぞ、おいwww』
と、桐生が机に突っ伏して文句を言った。それもそのはず。図書館での一件以来外部での任務がないのだ。あるにはあるが、Sクラスが出るまでもなく、Aクラス、Bクラスでの対応で済む案件のためもっぱら暇であったのだ。
『仕方ないでしょ?逆に私たちだけで討伐なんかこなしてたら身が持たないわよ』
『平和なのはいい事だけど、でも、ちょっとね・・・』
否定するベルに肯定するレイナ。その背後では苦笑いのリィムと話を聞いていないのか本に没頭するミント。全く興味が無いのか他のクラスの女の子にナンパするレオンが居た。
『あー、なまっちまうな・・・。なんかテンション上がる事ないかなwww』
桐生が無理難題を問いかけていると扉の方からジェイクがやってきた。
『なんだ、お前ら?暇なのか?』
ジェイクはSクラスの面々を見回しながらそう聞いてきた。
『暇で、暇で、暇すぎるw』
『コイツだけよ、騒いでるのは』
『あはは・・・。でもなんもないですからね↓↓』
『確かにお前らが出る幕はないんだよなぁ・・・。もっぱらAとBの奴らで足りるし、冒険者も居るからなぁ』
そう言うと頭をポリポリとかいて苦笑いを浮かべるジェイクだった。
『ま、それだけ世の中が平和なんだから有難く休んでればいーんだwww』
と、話を終わらせるように言うとその場を去っていった。
『・・・暇だ、寝る』
桐生はまた同じ様に机に突っ伏した。余程暇なのだろうかそのまま寝始めてしまった。リィムはクラスの女子達となにやら話していた。
『騒いでたと思ったら今度は寝てるし・・・。ホンットに自由な奴ね』
『それが勇人のいい所だよ♪』
『・・・』
『な、なに??ベル??』
『前から思ってたんだけどさぁ・・・』
『う、うん?』
『あんた・・・惚れてるでしょ?』
と、ベルは寝始めて寝息を立て始めた桐生を見ながらレイナに聞いた。
『ふぇっ!?!?』
『・・・その反応。やっぱりね』
『な、なんでそんな事言い始めるの?!?!』
『だって見てて分かりやすいもの。・・・鉄壁の壁のレイナを陥落させるなんてこいつ・・・なんかしたの?』
『・・・///』
『あ、あんたまさかっ!?』
『な、なんもしてないよっ!』
『じゃあさっきの間は何よ?』
『・・・その・・・。』
レイナは答えず、指で髪先をクルクルと捻り始めた。
『まぁ、いいわ。つまり私たちはライバルね』
『えっ?!』
『私も気になるもの。まだそれがレイナが思ってる事と同じかは分からないけど』
『・・・』
『大丈夫よ。お互いが気付いたなら正々堂々勝負しようじゃない。・・・それとも諦める?』
その言葉にレイナは首をブンブンと振った。
『なら、この話は二人だけの秘密ね?・・・お互い恨みっこなしで勝負しましょ?』
ベルの提案にレイナは小さくコクンと頭を傾けるのだった。
『お前ら!喜んでいいのか分からんが集合だっ!全員急いで学園長室まで行け!』
と、突然先程去っていったジェイクが血相を変えて教室に戻ってきた。一大事なのだろうと判断したレオンとリィムはすぐさま教室から出て行き、残ったレイナとベルもその後に続く様に出ていこうとしたが・・・。
『ちょ、ちょっと勇人っ!?起きてっ!?』
『あんたっ!本気で寝てんじゃないわよっ!』
二人の怒声に桐生はモゾモゾと動くが起きる気配は無く、ベルは魔力を集中し始めた。
『ちょ、ちょっとベル・・・?!』
『大丈夫!加減はするから!・・・おぉぉぉきぃぃぃろぉぉぉぉ!!!』
加減はどこへ行ったのか教室で派手な雷撃魔法を放つと桐生はその攻撃をモロに食らうのだった。
『あだだだだだだだ!!!???』
『起きた!?起きたわね?!さぁ行くわよ!』
ベルは起きた事を確認すると教室から走って出ていった。レイナは心配なのか桐生を見ながらオロオロとしていた。
『・・・ってーな。目覚ましにしちゃ強くねーかよwww』
雷撃を受けた桐生はさほどダメージがないのか立ち上がると教室から出ていこうとした。
『ん?レイナ?何してんだ?行くぞ?』
『う、うん・・・?』
レイナも続く様に教室を出ようとすると後ろからガラガラと音がしたので振り返った。そこには先程まで桐生が座っていた机と椅子が見るも無惨な状態で崩れ落ちていた。
『・・・加減・・・www?ってなんともない勇人ってやっぱ凄いんだね・・・』
レイナは独り言を零しながら桐生の後を追って行った。

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