異世界呼ばれたから世界でも救ってみた

黒騎士

第20節 脱落者

そこを表現するなら混沌としていた。周囲は瘴気により空気が重く、夜の闇に近いほど暗くなっていた。そしてなにより桐生達が驚いたのはモンスターの少なさだった。ベルの話によれば瘴気が発生した場所ではモンスターの出現率はかなりだそうだ。だが今いる場所ではモンスターはおろか虫の一匹も湧いてこなかった。・・・足元をよく見るまでは。辺りの床には所々モンスターの死骸が転がっていた。あるものは身体が別れており、あるものは焦げてなんだったのかすら判別出来ないほどに。
『これは・・・ミントがやったのか?』
桐生はその場で死んでいるウルフらしきものを見ながらレイナに聞いた。
『多分・・・。あの子は召喚した従者を使って戦うスタイルだから色んな死体があるのも分かるけど・・・』
不安そうにレイナは辺りを見回した。
『急ぎましょう・・・。これだけの戦闘をしたのならミントさんの魔力量が心配です』
『そうね。ちょっとこの量を自分で置き換えてもそろそろ魔力切れになりそうかなって不安になるもの』
『勇人、行こうぜ。可愛い子が死んでる姿なんざ見たくねぇ』
『あぁ、そうだな』
そう言って立ち上がりかけた時に桐生は奥からこちらに向けて放つ殺気を感じた。
『皆、気をつけろ。どうやら歓迎してくれるヤツらが来たようだ』
その言葉に全員が武器を握り前方を注視した。
『オオオオオオオオオオ・・・』
その声はひとつではなく何重にも重なって聞えた。かなりの量の敵が来たのか全員が背中合わせになり、息を張りつめた。
『なに、この声・・・』
『ビビってんじゃないわよ』
『皆さん、注意してください』
『へへっ、腕がなるぜ』
『そうやってくたばるなよwww?』
構えているとその声の主が現れた。ボロボロの衣服をまとい、足を引きずりながらこちらに向かう集団。その数は20は居るだろう。桐生は敵の情報を見るべくスキルを発動させた。
『視認情報』
スキルの発動によりモンスターの情報が桐生に伝わった。
『グール・・・アンデッド系モンスター。攻撃の中で注意するのは・・・毒か。弱点は火、光、癒し、無・・・か。』
『そんな事まで出来るんですか?』
『・・・ふん』
『すげぇな勇人』
『何回見ても便利だよね』
『人を役立つキッチン道具みたいに言うんじゃねぇwww勝てなきゃ意味ねーんだぞw』
『そうよ、勝たなきゃ先に進めない。こんな所で負けてたらミントに笑われるわよ?』
『だな、じゃあいっちょやっか!』
その掛け声を合図に全員が走り出した。桐生、レイナ、レオンは前衛、ベル、リィムは後衛で構えるスタイルになった。
『はぁぁぁあっ!』
『せいっ!!』
『うるぁ!』
三人は目の前の三匹に対して各々の攻撃をしかけたが、倒せたのは桐生のみだった。桐生の拳でグールは粉砕したが残りの二匹はダメージを与えてはいるもののまだ倒すまで至らなかった。
『燃えたくなかったらどきなさい!・・・炎の壁よ、我が目前の敵を焼き返せ!ファイアウォール!!』
後方からベルの呪文だろう。発動を確認すると三人はその場をさり衝撃に備えた。すると先程戦っていた場所から2メートルはあるであろう、炎の壁が出現し、手負いのグール達を焼き尽くした。
『グォォォォォ!!』
グール達はその炎の壁に焼かれてのたうち回っていたが、倒すまで至らなかった数体が後方に向け液状の物を吐き出した。
『気をつけろっ!』
『大丈夫ですっ!・・・聖なる加護よ、不浄なる物から我らを守りたまえ・・・バリアーっ!』
リィムが加護を発動するとベルとリィムを守るように結界が発生した。液状の物はその結界に当たるとジュワジュワと音を立ててその場に落ちた。
『これは・・・?!皆さん気をつけて下さい!恐らく毒性の物です!』
リィムが注意を促すと前衛組は気を引き締めるのであった。
『こいつら・・・』
『数が多すぎる・・・』
レオンとレイナは互いに背中を合わせグールの群れを睨みつけた。
『どうする?このままここで戦っても良いいけど、さっきみたいに学級長達が危険になっちまう』
『うん・・・。勇人っ!』
レイナが声をかけた先で桐生はグール達を相手にしていた。声に気付いたのか牽制しながら二人の場所まで戻ると耳を傾けた。
『どした?』
『このままじゃリィムやベルが危ないかもって話してたんだけど』
『だな。・・・スピードに自信があるのはどっちだ?』
『レイナっちの方が速いはずだ。俺はどっちかって言えばパワーで押してく方だから』
『ならレオンは後衛と前衛の中間で頼む。レイナは俺と一緒に前衛だ。さっきよりは前に行っても大丈夫だと思う。取りこぼしてもレオンやベル達がいるからウチらの役目は相手の体力を削るのが良いだろう』
『『了解っ!』』
二人は同時に返事をすると即座に配置に着いた。それに気付いたのか後衛の二人はレオンに合わせるように距離を作り、再度詠唱に入るのだった。
『こっちは任せとけ!』
レオンの声に頷くと桐生達は更にグールの群れに向かい進んで行った。
『スピードって言ってたけどそんなに私動けないよ?』
『そこは俺がカバーするさ。・・・風の精霊よ、疾風の如き速さを我が身に・・・クイック!』
桐生が補助魔法をレイナに発動するとレイナはその変化に驚いた。
『な、にこれ・・・!?凄い身体が軽い!』
『補助魔法のひとつで対象のスピードを上げるものだ。・・・やれそうか?』
『うん・・・、これなら・・・!』
レイナは答えると同時に駆けると先程までのスピードの倍は早かった。近くまで来ていたグールを抜き去る瞬間にレイナが細剣で切り刻んだのを桐生は数えていた。
『6回か。大したもんだなw』
『よく数えてたねwww?!・・・うん、これなら大丈夫。ありがとう、勇人♪!』
レイナが振り返りながらお礼を言ってるその背後からグールが襲いかかろうとしていたのを見ていた桐生は咄嗟に駆けた。そして次の瞬間にはグールは粉々になっていた。
『み、見えない・・・何回攻撃したの?』
『ん?んー、16回?』
桐生があっけらかんと答えるとレイナはただただ呆然としていた。
『やっぱりすごいね・・・勇人は』
『そうでもないさ。さて、話してないで戦いますか』
『うん!早くミントを追わないと・・・っ!』
二人は互いに死角を庇うように立ち回り、グールを攻撃していった。桐生は倒す事が出来ていたがレイナはやはり力不足なのだろう。何体かのグールが二人を抜けて後方に向かって行った。
『ここは通さねぇよ!』
しかし作戦通りにレオンが後方で待機していたおかげで討ち漏らしたグールはレオンによって倒されて行った。その場はレオンだけでなく更に後方からリィムとベルの援護があった為戦闘は先程よりも容易に進み遂に最後のグールだけが残った。
『じゃぁな?死人は死人らしく寝てろっ!』
トドメを桐生が刺すと辺りには再び静寂が訪れた。
『やれやれ・・・もう居ないな?』
桐生が辺りを見回すが気配が無いことから戦闘は終わった事を察した。
『皆、大丈夫か?』
『当たり前よ』
『うん、大丈夫♪』
『ピンピンしてるぜ♪』
三人はまだまだ行けるのか余裕のある返事をしていたが・・・。
ドサッ・・・!
ベルの隣でリィムが突然倒れた。
『リィムっ!?』
『おい、大丈夫かっ?!』
桐生達は倒れたリィムに駆け寄りそっと抱くとその顔に全員が驚愕した。
『おいおい・・・マジか・・・』
『瘴気にやられたわね・・・』
『学級長大丈夫っ?!』
『こいつはヤベーな・・・』
その顔は生気がなく真っ白に変わっていた。恐らく先程の戦闘の時加護の力を使い過ぎて結界が弱くなったのだろう。意識は朦朧としており誰が見てもこれ以上の探索は難しい事を物語っていた。
『皆さん・・・ごめんなさい・・・』
リィムは力なく謝罪を述べた。ここで足でまといになってしまう自分が悔しいのだろうか。その手には力が入り震えているのを桐生だけが見る事が出来た。
『どうしよう・・・学級長がいないんじゃ回復や瘴気の結界も貼れない・・・』
『ベル嬢は結界とか回復って出来ないのか?』
『わ、私は加護は使えないわよ・・・ずっと攻撃魔法しか勉強してなかったし・・・』
三人ともその場でどうしようか悩んでいたが桐生がその解決策を考え、みんなに伝えた。
『俺が加護と回復をしよう。学級長に関しては逆召喚掛けて地上まで届けてやる。恐らく扉の近くにはミュゼか学園長が瘴気の封印で居るだろうからな。ここで瘴気を吸うからヤバいならこっから出りゃあ治るんだよな?』
桐生が同意を求めるようにベルを見やった。
『え、えぇ。まずは体内の瘴気を取り除く必要があるけどどっちみちここじゃやれないから』
その答えに桐生は頷くと逆召喚の準備に入った。三人はいきなりの話についていけず桐生をただ見守るだけだった。
『学級長、聞こえるか?』
その言葉に薄く目を開くと声のした方へ視線を向けた。焦点はあってはいないが、桐生が話しかけた事は理解していたようだった。
『今から逆召喚で扉の辺りまで送る。悪いがそこで治療してもらうんだ。分かるか?』
桐生が言い切るとリィムは弱々しくだが頷いた。その返事を受け、桐生は立ち上がると魔力を魔方陣に注ぎ込み始めた。
『後は俺らに任せて休めよ?・・・ご苦労さん。ちゃんとミントもつれて行くから安心しなwww』
桐生は笑いながらリィムに語りかけ逆召喚を発動した。眩い光が部屋を包むが一瞬で消え、その場には横たわるリィムの姿はなく光も消えていた。
『さて・・・ヤバいのは変わりないから慎重に行くか』
その言葉に全員は強く頷くとまた更に奥を目指すのだった。ーーーー。

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