異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第127話『少女。真夏の雪を従えて。』

「私は過去─────────8人の生徒を殺しました」
「……………………そマ?」
「マです」
驚いた様子で問いかけたコウジに、カナミは依然として優しい笑顔で答えた。
「そ、そっスかぁ……」
「いやマジかぁ………」
わずかな沈黙が満ちた。そこに、補足するようにヒカリが話し出す。その話し声は、アテスター越しではなく、背後から響いていた。
「才華を獲得時に2人、保護しようとしたS+ランクの生徒を1人、入学時に当時SSランク1位の生徒を1人、その後、1位の座を狙って決闘した相手を計4人。どんな攻撃も効かず、どんな相手も一撃で確実に殺す。だから、未だに誰も才華の内容を知らない。無敵の女。」
「あらあらぁ、ご丁寧にありがとうございます。ヒカリさんの仰る通りです。私が、河本カナミ。SSランク1位の者です。ふふっ。」
優しげなその笑顔の持つ意味が、いよいよもって書き換わる。
だが。
「そっか………………。まあ、関係ないよ。」
そう言ったのは、コウジだった。
「あらぁ?」
その言葉に、カナミは笑顔を崩さずに返した。
「河本さんが悪い人”だった”っていうのはよく分かったよ。でも、今の俺から言えるのは、河本さん
は、『人を救った優しい人』ってことだけだよ」
人間は、その性質が過去に依存しない。
如何に醜く、劣った経歴があったとしても、そこから輝かしい未来を掴むことは不可能ではない。
そして、逆もまた然り。
カナミが仮に8人の人間を殺した大罪人だったとしても、その罪と真摯に向き合い、善く生きようという意志を持つのなら、彼女を咎められる者はもういない。
憎むべきは罪であり、人ではない。
人を殺めたという罪は、カナミもコウジもヒカリもマサタも等量である。
「改めて、ありがとう。河本さん。」
そう言いながら、少女の身柄を受け取る。
「あらあらあらあらッ!本っっ当に、かなしいお人好しなんですねぇ。」
興奮気味に、カナミが笑った。
狂ったようなその笑顔は、確実な恐怖を全員に刻み付ける。
だが、彼女が心の奥底で『救われた』と、そう感じていたことは、彼女自身ですら気がつかなかった。
沈黙と呼べるほど長くもなく、間と呼べるほど短くもない。
そんな絶妙な虚無と、温い雫がアスファルトとぶつかる音が周囲に満ちた。
そのときだった。
マサタが、見上げてつぶやいた。
「あれ……………?雪…………?」
言われて手を出してみると、確かな結晶が手元に残って、溶けて消えた。
「ホントだ。」
「あら。まだ7月下旬なのに…」
一つの結晶が、抱えられた少女の眼瞼に付着する。
それがゆっくりと液相へ相転移し、目尻から滴った。
まるで涙のようで美しいと、マサタはそう思ってしまった。
中空そらから舞い降りて、涙を流す美美びびしい姿は、「天使」と呼ぶに相応しい。
優しくも冷たい雪が、醜悪な光景から目を塞ぐように降りるのを、その場にいる誰もが眺めていた。

コメント

コメントを書く

「学園」の人気作品

書籍化作品