異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第126話『逢着』

四人の頭脳の回転よりずっと速く、これまでで最大の爆風が吹き抜けた。
その爆風により、雨粒が弾丸のように背中を撃ち抜いた。
唖然とする彼らを尻目に、少女は地球と引かれ合う。
その至極当然の現象を目の当たりにして、ようやくコウジはマサタに続いて駆け出した。

未だ気持ちを伝えていない想い人を、死なせる訳にはいかない。
きっとこのときのために、この才華がある。
彼女の真下に行き、その肉体に触れられれば、2 次元へと転送でき、救出と拘束を同時に果たせる。
仮にそれができなかったとしても、彼女の落下予測地点に、時間軸のない3次元空間を展開できれば、彼女は地面に叩きつけられずに済むだろう。
走りながらそんなことを考えていたが、とうとう間に合わないことを悟ったマサタは、彼女の落下するであろう地点に3次元空間を展開しようとする。
しかし、それは阻まれた。
展開しようとしたその空間に、見知らぬ人影が立っていたのだ。
それに一瞬意識を向けるも、直ぐに判断を修正し、その人影の直上に3次元空間を展開しようとする。
「開華……!〈境界Manif───」
「美那原ッ!!止まりなさい!!」
「……はっ?」
突然アテスター越しに聞こえたヒカリの叫び声に、マサタは思わず足を止めた。
瞬間。少女は、終端速度で地面へと墜落した────────かに思えた。
「開華…〈掌握王女Grasping Queen〉…………」
その人影の綺麗な声音が、その場にいた四人の耳へと届いた。
その声から、その人影が女性であると確信する。
決して大声ではないが、確かに聞こえる、よく通る声。
駆け寄ることで、その姿がよく見えるようになる。
美しい薔薇の意匠が施された着物と帯、膝丈まで伸びた絹のような白髪、オーロラを閉じ込めたような美しい碧眼。美貌と呼ぶに相応しい目鼻立ち。
だが、何より驚くべきだったのは、人影が全く動じることなく、黒髪の少女を抱きとめていることだった。
「コウジ!マサタ!そいつに近寄らないでっ!」
悲痛なヒカリの叫びが、アテスター越しに響く。
それとほぼ同時、マサタの横に駆けつけたコウジが並んだ。
彼女は何者か、何故彼女を受け止められたのか、才華は何か、様々な疑問がマサタの脳内を巡る。
だが、マサタの思考より先に、コウジは動いていた。
「ありがとう。君が受け止めてなかったら、その子もコイツも死んでたよ」
そう言って、彼女の元へ歩み寄りながら、マサタを指さす。
「ちょっ…っ!何言ってスか!」
「えぇー?マサタはなんだかんだ後追いしそうだし……」
「そうそう。『お前が死んだら、俺も死ぬ卍』ってな!いや誰が付き合いたてのカップルだよ」
「んもぅ!マサちゃんのためにも死ねないっ!はぁ〜とっ!」
「ふざけないでよ!!いますぐそこから離れて!」
空気を茶化す二人に、より一層激しい剣幕でヒカリが叫んだ。
「なな、なんだよヒカリ。どうした、そんなにヤバいのか?」
「そいつ………そいつが、河本カナミよ…」
河本カナミ、SSランク1位。
それ即ち、学園内最強の少女。
コウジもマサタも、彼女と対面するのはこれが初めてだ。ましてやヒカリがこんなにも警戒心をむき出しにしている。警戒しない方がおかしいだろう。
しかし、それを意に介さないのが、この二人だ。
「へぇー、おっけー。わかった。」
「……へっ?」
容易い調子で返って来たコウジの言葉に、ヒカリは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「えーっと、河本さん?取り敢えずその子、こっちで引き受けるよ。」
「運搬も拘束も、俺らに任しといて!多分なんとかできるから!」
ヒカリの言葉を全く無視して、迷わず河本カナミに話しかける。
それはヒカリを信用していないのではなく、自分たちが絶対に負けないという確信に基づくものである。
「っ!……ちょっ───────」
アテスター越しのヒカリの声は、依然として困惑している。
「あら。やっぱり優しいんですね。でも良いんですか?城嶺さんや鵞糜さんに止められているんでしょう?」
カナミは、その美しい声でようやく答えた。
「その通りだよ。なぜかは知らないけど、河本さんに近寄るなって言って聞かなくてね。嫉妬かなぁ?」
「ぶち抜くぞクソ野郎」
「すみませんでした」
ヒカリもだんだんとこの空気感に馴染みつつある。
「とにかく、ふざけてる場合じゃないわ。河本カナミはね…………」
そのヒカリの声と重なるように、カナミは語り出した。
「私は過去─────────8人の生徒を殺しました」

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