異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第122話『聡耳』

「俺、ちょっと行ってくる」
離陸間近のオスプレイの中で、マサタは立ち上がりながら呟いた。
「おい待てッ!」
そこに透かさず、コウジが待ったをかける。
「なんスか?」
「一人で突っ込むなんて無茶だ!今は俺らも撤退だ!」
マサタは制止に対して反抗的な態度を取ったが、無論コウジとて理由なく制止した訳ではない。
「先輩らは撤退してりゃ良いじゃねえっスか。俺は行きます」
しかし、これで引き下がるマサタではない。一向に撤退する様子を見せない。
「てめェ!話聞いてたのかァ?!あの【排斥対象イントゥルージョン】をブチ殺す方法を俺らは知らねェンだよォ!てめェ一人で突ッ込ンで、死体増やして、何がおもしれェンだァ?」
そこで、喧嘩腰な口調のアツシが、マサタを抑止しようとする。
それに続いて、マサタの姉であるサナエも加わった。
「マサタ。譬聆ひれいの言う通りだ。お前のみで行ったとて、何の解決にもならぬ。撤退するぞ」
やや棘のある言い方で、サナエはマサタを強く抑止しようとする。
しかし、それで折れてしまうほど、マサタの決心は弱くなかった。
「あぁッ!るッセえなあ!行くっつってんだろ!」
激昂し、そう吐き捨てたマサタは、足早に駆け出した。
そのマサタを、ヒカリが止めた。
「どうして?どうしてそこまで行きたがるの?」
その素朴な疑問は、その場にいる誰もが胸中に抱いていたものである。
「惚れた女が危ねえんスよ。行かないなんて選択肢はねえっスよ」
切羽詰まったその様子は、発言の信憑性を高めるに足るものだった。
「そんな動機が通用するなら、浜曷先生が実姉のレナを止めるわけがないでしょ。バカなコトやめて、戻りなさい」
「そうだ。気持ちは分かるが、マサタが一人でどうにかできる相手じゃないんだ。今は戻ろう?な?」
ヒカリの制止にコウジも加わる。
このままマサタが単独で特攻したとして、死体が増えて終わるだけなのは火を見るよりも明らかだ。
また、マサタの才華は非常に強力であるため、失うのは非常に惜しい。
そしてなにより、大切な友人を失うのは悲しいし、寂しい事である。
それだけは絶対に避けたい。
「でも……っ!」
マサタが反駁しようとしたその時、轟音にも似た叫び声がその場にいる全員の耳を劈いた。
「!?」
「なんだ…………今の……………?」


全身に力がみなぎる。まるで、神にでもなったかのような全能感。
きっとこの感覚を味わえば、他のどんなことも些末に感じてしまうだろう。
しかし、この全能感も、愛する家族の死の前では、蒲公英タンポポの綿毛のように軽く吹き飛んでしまう。
ハナは、自身に何が起きたかもわからず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
謎の激痛に苛まれたかと思えば、先ほどまで自身が負っていた傷が嘘のように消失していたのだ。
だが、現実は変わらなかった。
「…………………………………」
右手に握られた冷たいレナの左手が、その切断面から悲しく血液を滴らせるのを見て、姉の死が夢でないことを理解してしまう。
ハナは、果てしのない罪悪感と、自己嫌悪、そして虚脱感を、その一身で背負った。
そこで、気が付いたのだ。
ハナは、民間人を守るために戦い、負傷した。
そして、そんなハナを救うために、レナは時間を稼ごうと果敢に戦い、犠牲になった。
きっとこの場に悪い者はいないのだ。誰も、何も、悪くない。
きっと、天上で笑う神が、遊び半分で書き上げたシナリオに従っただけなのだ。
いや、と。自身の脳内で展開された理論に対して反駁する。反例を挙げた。
目の前で気持ち悪く蠢く、あの巨躯は、アイツは。
アイツだけは救いようのない、完全悪だ。
アイツのせいで、付近の建築物が倒壊した。
アイツのせいで、親友が負傷した。
アイツのせいで、アイツのせいで、アイツのせいで。
アイツのせいで、姉が、レナが─────────────────────────。
そうだ。
どれもこれも。全て。
幾本もの触腕をビチビチと蠢かせ、嘲笑するかのような咆哮を上げている巨大な【排斥対象】に、眼球の焦点を合わせる。
「…………………………………………お前の………所為せいだ」
ハナは、排斥対象を睨みながらそう呟くと、軽く地を蹴った。

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