異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第117話『姉妹』

「ううん。何でもないわ」
下手な微笑を作って誤魔化すレナ。
きっと、誤魔化すということは言いたくない事なのだろう。自身の好奇心や満足の為に、他者に無理や不快感を強いることはあってはならない。
そう考えたハナは、議題を海へと還す。
「海ね―、色々やりたいよね!バーベキューしたいね!」
「いいわね。それ」
「うん!フランクフルトとスペアリブを多めに買おうね!」
「ちゃんとかぼちゃとピーマンも買うのよ」
「うぅ……アレ好きじゃないんだよね…」
「文句言わないの」
「わかった………。お姉ちゃんが言うなら、買うしかないよね!」
「ふふ。それでいいのよ」
満足げに、レナは頷いた。
それは、ハナが自分の指示に従ったことに対する満足感ではない。
こんなにも楽しくて充実した時間を二人で過ごすのは久々で、実際に海へ赴かずとも、こうして会話をする。
ただ、それだけで満足してしまっているのだ。
「バーベキューが終わったら、観覧車に乗りたいね。三人で、水平線に沈む太陽が見たいね」
「いいわね、水平線………。綺麗よね」
ハナはその提案の根底に、父に壊残されてしまった祥子との記憶を沁み込ませた。
「うん……。それでね、夜にはみんなで花火もしたいよね!ロケット花火に、打ち上げ花火!もちろん線香花火もね!」
それを悟られないようにと、自身の願望を、欲望を、希望を、羨望を、全て詰め込んだ予定を組み上げていく。
「花火、何年ぶりかしら……。」
何も知らないレナは、その提案一つ一つへと思いを馳せていく。
そのレナの反応を見るたびに、なんだか自分勝手に彼女を振り回しているようで、靄のような罪悪感や不安感、孤独感が胸中を煙らせた。
そんな感覚を抱いていることをレナに悟られないよう、必死で話題を生み続ける。
「線香花火で競争もしたいね!誰が優勝するんだろうね?」
「私、負けちゃうなぁ」
小さな声で、レナが呟く。
それは、今まで見たことないような、弱気なレナの姿だ。
「えぇ!?始まる前から弱気じゃだめだよね!」
驚いたようなふりをしてみるが、もう目の前の彼女がレナであると信じられない。
そのくらい、レナは今まで見たことないような多くの表情を、この短時間で露呈させた。
「ハナの言うとおりね。一応最後まで足搔くわ」
レナは、ハナの言葉を素直に受け止め、俯き加減に微笑した。
「うん。それでこそお姉ちゃんだよね!じゃあね、花火が終わったらね……えっとね…えっとね…………」
ふと、言葉が喉を通らなくなる。
思っていることと、言いたいことが、反発する。
次第にその表情からは喜びが姿を消し、陰鬱な電気信号が、表情筋を操った。
「どうしたの?」
またしても、レナがハナの顔を覗く。
その動作さえも、今はハナの胸中の不安感を煽った。
「いやね、あのね。お姉ちゃん、私のこと……嫌いだよね?」
自分でも驚いてしまうくらい、簡潔に、単純に、その気持ちを言い表した。
今まで自分の胸にわだかまっていた不安感の正体は、「自分は姉に嫌われているのではないのだろうか」というものだ。
それゆえに、レナは自分の為に気を使っているのではないのだろうか、とか、陰では自分のことを悪く言っていたりするのだろうか、とか、本当は今すぐにでも自分の元を去りたいのではないのだろうか、などといった不安感が脳内で幾度も反響してしまうのだろう。
「─────────────ふふっ。大嫌いよ」
優しく微笑みながら、犀利で残酷なその言葉を、喉元から吐き出した。
「そ、そっか………」
分かってはいたのだ。
それでも、自分の中での憶測と実際に確認する事象では、大きな差異がある。
レナの口から無慈悲に放たれたその言葉を、今一度噛み締める。
頭の中で何度も反響するその言葉は、脳内を過る度に少しずつ心を傷つける。
しかし、そんなハナを知ってか知らずか、レナが言葉を続ける。
「非合理的だし、無計画だし、余計なことをするし、怪我は多いし、駄弁ってばかりだし、料理は下手だし、部屋は汚いし…」
その口からつらつらと自分への不満が投げつけられ、返答に困り、地面しか見られなくなってしまう。しかし。
「でもね…………」
と、レナは続けた。
その言葉に、思わず身構えてしまう。
そんなハナの心配をよそに、レナは言った。
「人の心配が出来て、優しくて、気が利いて、面白くて、逞しくて、友達も多くて、人望があって、話し上手で………。ハナは私にないものをいっぱい持ってるわ。私はきっと、あなたに憧れていたのだと思うわ。」
「………へっ?」
その予想外の言葉に、ハナは思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
そんなハナの声に、レナは反応を示す事は無かった。
その代わりかは分からないが、レナは踵を返して、ハナに背を向けて歩き出した。
「ふふふっ。じゃあ、私は行くわね」
後背にそんな言葉を放つ。
「まっ、待って!待ってお姉ちゃんッ!!」
その背へと手を伸ばし、必死に呼び止める。
だが、自分が追う倍の速度でレナの背は遠ざかっていく。
「待ってェエエ!」
喉の奥が焼けるように痛む。が、それも意に介さず、力の限りに叫んだ。
その要望が叶ったのか、それとも偶然なのか、レナは足を止めた。
そして、振り返りざまにこう言った。
「ハナ………×××××××××××××××××××××」

「異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く