異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第111話『奇手』

その晩、ハナは帰宅した。
何も知らぬ、無垢なる心で。
そして、雑誌のことを両親に問いただされ、それに逆上したハナは家を飛び出した。
ハナが逆上するのは想定外だったが、レナの目的は達成されたのだ。
何も、問題はない。
そう、レナの目的は───────────ハナを”この無能な両親の元から解放”すること。
あの日、少女が落とした雑誌の表紙を見たとき、確信した。
ハナがモデル活動を行っていること知れば、両親はほぼ間違いなくハナにそれをやめさせようとするだろう。
そして、こう切り出す筈だ。
「どうしてもモデル活動がしたいのなら、家を出て行け」と。
あの頑固で無能で自己中心的な男なら、そう言う可能性が高い。
だが、きっとハナにとって、これほど甘美な言葉はないだろう。
当然だ。自分のしたいことで生活ができ、尚且つ、あの忌々しい両親からも解放されるのだ。
今の、心が擦り切れたハナなら、その提案を飲むはずだ。
ハナが一刻も早い解放を望んでいることなど、分かりきっている。
ならば、それに必要な環境を整えてあげるのが、姉として、旅立つ妹を見送る者としての責務だろう。
不自然に雑誌を露出させず、最も自然に、両親にハナのモデル活動を知らせる。
この場合、「ハナがモデル活動をしている」という事実を端的に告げるよりも、その仮説を両親に立てさせる方が良いだろう。
人は、自分で立てた仮説や、自分の導き出した答えを盲目的に信用しやすい傾向にある。
しかし、如何にして気づかせるか。
提示するのではなく、あくまでも発見させる。
ならば、両親のどちらかが、ハナの部屋へと入る機会を作るしかない。
否、わざわざ作らなくとも、最初からそれは存在していた。
部屋の清掃だ。
家の掃除は、必ず両親のどちらかが行っている。
頻度は二、三日に一度。
この、部屋を掃除する日に、僅かな雑誌の片鱗を覗かせることで、両親はハナがモデルをしていることに気が付くだろう。
そうすれば、ハナは晴れて自由だ。
先刻、何も問題はないと言った。
だが、一つだけ問題があるとすれば、それは、レナが少し寂しくなってしまうことだ。
レナは、ハナに対して羨望や嫉妬を抱いていた。
だがそれらは全て、尊敬へと変わっていった。
自分とは違う。自分にできないことをハナはやってのけ、ハナにできないことを私ができる。
そう思っていた。
しかし、旅立っていくハナの背中は、とても逞しかった。
きっと彼女なら、どんな窮地も切り抜けていけてしまうだろう。
ああ、折角の旅立ちと解放なのに、こんなに悲しくてごめんなさい。
でも、こうでもしなきゃ、この人達はあなたが壊れるまで、あなたを傷つけるから。
閉まった玄関扉の向こうに見える緑色の髪が、やけに寂しそうだったのは、気のせいだろうか。

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