異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第77話『昼餐』

「なあ、譬聆って、どんなヤツなんだ?」
「あまり、良い噂は聞かないね」
昼休み。屋上で弁当を突きながら、コウジがマサタに問いかけた。
レンタとコウジとヒカリの三人は、決まって屋上で食事をとっている。
レンタはコンビニで購入したサンドイッチを齧る。
カツサンドのサクサクとした衣の音が、コウジの耳まで届く。みずみずしいレタスの音も混じって、咀嚼音だけで空腹になりそうだ。
だが、コウジにも弁当がある。
寮室でヒカリが毎朝、弁当を作ってくれているのだ。
内容は昨日の夕食の唐揚げ、だし巻き卵、プチトマト、ブロッコリー、そしてちくわである。
「具体的には…どんな噂なんだ?」
ちくわを口に放り、コウジが問いかけた。
だが、コウジの意識は直ぐに、ちくわに持っていかれた。
そのちくわは、ただのちくわではなかった。
空洞部分に、シソで巻かれたキュウリが詰められていたのだ。
噛み締めるほどに爽やかなシソの香りが鼻を抜ける。
その爽快感は、キュウリの歯応えと相乗効果をなして、コウジの心と腹を満たしていく。
もう一つ、それをつまんで口へ運ぶ。
今度は、先ほどとは少し異なる味だった。
爽やかで、少し特徴的なその味の正体は────梅だ。
ペースト状にされた梅が、ちくわの下に潜んでいたのだ。
その爽やかな味は、口内に残った唐揚げの肉汁をリセットする。
そして、リセットされると言うことは、ゼロからもう一度唐揚げを味わえると言うことである。
そんな無限の循環を楽しんでいると、レンタが話を始めた。
「まず、この学園には、彼の支配下にある人がたくさんいるんだ」
「そうなのか」
「うん。彼ってああいう性格でしょ?だから、人から恨みを買うんだよ。本人も無意識らしいけど。それで、怒った人たちが彼に決闘を挑んだり、闇討ちをしようとするんだけど、みんな負けちゃうんだ」
「そんなに強いのか?」
「まあ、学園で三番目に強いわけだからね」
それで、とレンタが続ける。
「彼は自分に歯向かった相手を徹底的に痛ぶって、罵って、自分の支配下に置くんだ。恐怖と苦痛で逆らえないようにしてるんだよ」
「なるほどな………」
「しかも彼、自分に楯突いた人をいたぶる時、自分で手を下さないんだ」
「どういうことだ?」
「楯突いた人と最も親しかった生徒にやらせるんだよ。そうすれば、二人まとめて支配できるからね」
「そんな……最低だな…」
「転入前の学校でもそんなことをしていたらしいよ。まあ、所詮は噂だけどね。でも、信憑性は決して薄くないね」
アツシのことを話していくたびに、コウジの中でのマサタへの不安感は増していった。
「天性のいじめっ子ってことね…」
呟くようにヒカリが言った。
「いいや、それとは違うかな。彼の行動に適当な表現があるとしたら─────────────独裁、かな」
ヒカリの言葉にレンタが返した。
確かに、話を聞く限りではそうだろう。
いじめとは、弱者の集団が自身の優越感や満足の為だけに他者を攻撃することである。つまり、複数の人間が個人を虐げることだ。
対してアツシのそれは、自身にあだなす存在を返り討ちにした上で自分の支配下に置いている。それ即ち、個人のもとに大量の人間が屈服させられているのだ。
根本的なヒエラルキーの形が異なる。
畏怖の対象であるアツシに、逆らえる者はいないのだ。
それは、それだけアツシが強いからだ。
戦闘能力は学園で3番目、そして、支配力に関して言えば学園最強。
かなり手強いだろう。何よりも、負けた先が恐ろしい。
「マサタに………勝算はあるのか?」
不安が声から滲んでいるのを、精一杯気付かないふりをしながらレンタに問いかけた。
「どうだろう…。でも、美那原くんの才華なら、勝ち目はゼロじゃないと思うよ」
「アイツ、大丈夫かな……」
コウジは心底心配そうに声を漏らした。

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