異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??
第74話『傭聘』
「罪人でも咎人でも良いです!でも!悪人にはなりたくないんです!俺は俺の正義を曲げたくないんです!」
血と涙で顔面を汚しながら、マサタは叫んだ。
その言葉を耳にしたコウジは、顔を俯かせ、肩を震わせた。
「………そ…かが………」
小さな声で何かを呟く。だが、独り言にも等しいその声量は、マサタが聞き取るには不十分だった。
だが、マサタはその発言を聞き返さなかった。
理由は単純。
コウジが、それを再び叫んだから。
「こんのぉ!クソバカがぁあぁあああああああああ!」
顔を上げたコウジは、喉が裂けるほどの大声で叫んだ。
「へっ?」
思わず小さな声が漏れるが、コウジは構わずに続けた。
「何が正義だ!何が悪だ!アホかボケぇ!良いかぁ!?どんなに高潔で高尚で潔白な理由があろうとなぁ!“他人を傷つけた時点で悪”なんだよ!」
小学校でも教わるような、単純な話だ。
『人を傷つけてはいけない』。
他者を傷つけてはならない。
他者を苦しめてはならない。
他者を困らせてはならない。
そこに至るまでの過程に如何なる理由があろうと、だ。
「正義も悪も変わんねぇよ!お前がどんなにスゲぇ正義でも!鵞糜を斬ったお前は悪だ!」
コウジは怒鳴るようにマサタへ叫ぶ。
しかし、マサタは思った。
他人を傷つけた時点で悪なのなら、この世のどこに正義があるのか。
正義とは、一体何か。
「じゃあ!正義ってなんだよ!」
対抗するように、マサタは自身の心を声に乗せた。
それに対し、コウジはゆっくりとマサタに歩み寄り、目前で屈んで答えた。
「いいか?正義は、お前の中に始まって、お前の中で終わるもんだ。要は自己満だな」
そう言うコウジからは、先刻のような荒々しさが抜け、授業を行う教師の様な落ち着きがあった。
でもな、と、コウジは続ける。
「多分、お前は勘違いしてる。悪と対峙するのが“正義”だと思ってるんじゃないか?悪は正義を包含してんだ。悪の反対は『善』だ」
「で、でも。この世に悪人しかいないって言う事実は変わらないんじゃ…」
「その通りだ。人を傷つけない人なんていないし、悪人に善行はできない。でも、過去に悪いことをしただけの“罪人”なら善行はできるだろ?過去なんて関係ないんだよ」
「じゃあ俺に!またあの時みたいに!他人に搾取されるためだけの存在になれって言うんですか!?」
マサタが涙ぐみながら叫ぶ。
善行は即ち、自己犠牲である。
他者に“善く”することによって、他者にとって『都合が“良く”』なるのだ。
だとしたら、善行をするだけでは、いじめられていたあの時の様になってしまう。
他者に蹂躙され、搾取されるだけのサンドバッグだったあの頃に。
「お前のためにある命を、全部他人に使えってわけじゃない。でも、目の前で苦しんでる人に手を差し伸べるのは、そんなに面倒じゃないし、お前にとっても損にはならないだろ?」
「お、俺は、それがしたかったんだ!でも!お前らがそれを邪魔したんだろ!?」
「違うな。お前がしたのは、加害者への制裁だ。俺が言ってんのは、被害者の救済だ」
マサタはいじめの加害者の情報を掲示板で募り、その加害者に報いを受けさせてきた。
だが、それは善行ではない。
毒を以て毒を制するだけなら、永遠に毒は抜けない。
マサタのとった行動の結果として、いじめという柵から解放された人間も少なからず存在している。
しかし、それによって彼らの傷が癒える訳でも無ければ、マサタの行動が許される訳でもない。
少し考えてから、コウジはこう言った。
「聖アニュッシュ学園に来い」
「…………………………はっ?」
マサタが目を白黒させる。
だがその発言は、マサタの『自分と同じ境遇の人間を救うために行動できる力』を見込んでのものであった。
「ココなら、俺がお前の悩みも後悔も全部聞いてやれるからな。それに何より、お前なら才華が暴走して困ってる人を放っておかないだろ?」
「い、良いんですか…?こんなことした、俺が……?」
戸惑った様にマサタが尋ねる。
「俺の話聞いてたか?『過去なんて関係ない』んだよ」
コウジはそう言って、マサタに微笑みかける。
「良いよな?みんな?」
そしてコウジは周囲を見渡す。
すると、ヒカリ、ハナ、レンタが寄って来る。
「アタシは別になんでもいいわよ」
ヒカリは少し素っ気なく。
「じゃあ!もうお友達だねー!」
ハナは快活に。
「鵞糜さんは生きていたけど、彼女にしたことは無くならないからね。これからちゃんと頑張らないと、罪滅ぼしはできないからね」
レンタは厳しく。
それぞれが、新入生としてマサタを受け入れた。
「あぁ………っ!あ、ありがとうございますっ!」
マサタは何の比喩でもなく、泣いて喜んだ。
血と涙で顔面を汚しながら、マサタは叫んだ。
その言葉を耳にしたコウジは、顔を俯かせ、肩を震わせた。
「………そ…かが………」
小さな声で何かを呟く。だが、独り言にも等しいその声量は、マサタが聞き取るには不十分だった。
だが、マサタはその発言を聞き返さなかった。
理由は単純。
コウジが、それを再び叫んだから。
「こんのぉ!クソバカがぁあぁあああああああああ!」
顔を上げたコウジは、喉が裂けるほどの大声で叫んだ。
「へっ?」
思わず小さな声が漏れるが、コウジは構わずに続けた。
「何が正義だ!何が悪だ!アホかボケぇ!良いかぁ!?どんなに高潔で高尚で潔白な理由があろうとなぁ!“他人を傷つけた時点で悪”なんだよ!」
小学校でも教わるような、単純な話だ。
『人を傷つけてはいけない』。
他者を傷つけてはならない。
他者を苦しめてはならない。
他者を困らせてはならない。
そこに至るまでの過程に如何なる理由があろうと、だ。
「正義も悪も変わんねぇよ!お前がどんなにスゲぇ正義でも!鵞糜を斬ったお前は悪だ!」
コウジは怒鳴るようにマサタへ叫ぶ。
しかし、マサタは思った。
他人を傷つけた時点で悪なのなら、この世のどこに正義があるのか。
正義とは、一体何か。
「じゃあ!正義ってなんだよ!」
対抗するように、マサタは自身の心を声に乗せた。
それに対し、コウジはゆっくりとマサタに歩み寄り、目前で屈んで答えた。
「いいか?正義は、お前の中に始まって、お前の中で終わるもんだ。要は自己満だな」
そう言うコウジからは、先刻のような荒々しさが抜け、授業を行う教師の様な落ち着きがあった。
でもな、と、コウジは続ける。
「多分、お前は勘違いしてる。悪と対峙するのが“正義”だと思ってるんじゃないか?悪は正義を包含してんだ。悪の反対は『善』だ」
「で、でも。この世に悪人しかいないって言う事実は変わらないんじゃ…」
「その通りだ。人を傷つけない人なんていないし、悪人に善行はできない。でも、過去に悪いことをしただけの“罪人”なら善行はできるだろ?過去なんて関係ないんだよ」
「じゃあ俺に!またあの時みたいに!他人に搾取されるためだけの存在になれって言うんですか!?」
マサタが涙ぐみながら叫ぶ。
善行は即ち、自己犠牲である。
他者に“善く”することによって、他者にとって『都合が“良く”』なるのだ。
だとしたら、善行をするだけでは、いじめられていたあの時の様になってしまう。
他者に蹂躙され、搾取されるだけのサンドバッグだったあの頃に。
「お前のためにある命を、全部他人に使えってわけじゃない。でも、目の前で苦しんでる人に手を差し伸べるのは、そんなに面倒じゃないし、お前にとっても損にはならないだろ?」
「お、俺は、それがしたかったんだ!でも!お前らがそれを邪魔したんだろ!?」
「違うな。お前がしたのは、加害者への制裁だ。俺が言ってんのは、被害者の救済だ」
マサタはいじめの加害者の情報を掲示板で募り、その加害者に報いを受けさせてきた。
だが、それは善行ではない。
毒を以て毒を制するだけなら、永遠に毒は抜けない。
マサタのとった行動の結果として、いじめという柵から解放された人間も少なからず存在している。
しかし、それによって彼らの傷が癒える訳でも無ければ、マサタの行動が許される訳でもない。
少し考えてから、コウジはこう言った。
「聖アニュッシュ学園に来い」
「…………………………はっ?」
マサタが目を白黒させる。
だがその発言は、マサタの『自分と同じ境遇の人間を救うために行動できる力』を見込んでのものであった。
「ココなら、俺がお前の悩みも後悔も全部聞いてやれるからな。それに何より、お前なら才華が暴走して困ってる人を放っておかないだろ?」
「い、良いんですか…?こんなことした、俺が……?」
戸惑った様にマサタが尋ねる。
「俺の話聞いてたか?『過去なんて関係ない』んだよ」
コウジはそう言って、マサタに微笑みかける。
「良いよな?みんな?」
そしてコウジは周囲を見渡す。
すると、ヒカリ、ハナ、レンタが寄って来る。
「アタシは別になんでもいいわよ」
ヒカリは少し素っ気なく。
「じゃあ!もうお友達だねー!」
ハナは快活に。
「鵞糜さんは生きていたけど、彼女にしたことは無くならないからね。これからちゃんと頑張らないと、罪滅ぼしはできないからね」
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