異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第71話『卒遽』

学園中が真っ赤に染まる。
それはペンキではなく、赤い光。
サイレンのライトによって、赤く照らし出されているのだ。
その様は、まるでこの世の終わり。
だが事実、世界を滅ぼせるだけの力を持った者が、まさしく世界規模での争いを繰り広げようとしていた。

『侵入者多数!侵入者多数!総員警戒態勢!』
突然の音声に驚きつつ、コウジは首の後ろにあるアテスターのボタンに触れ、回線を浜曷に繋いだ。
「侵入者って誰です!?」
「それが……全員、美那原マサタなんです…」
「はぁ!?どういうことですか!」
「それはこちらも分かりかねます。ですが、現在確認出来ていることは、侵入している者が全員美那原マサタと容姿が一致しており、能力も同じであるということです」
その二人の会話に、レンタが割り入る。
「標的が不特定多数なら、さっきの先生の計画は使えません。だから、僕たちで勝手にやらせてもらいますよ」
そう言うと、レンタは勢いよく駆け出した。
「おいっ!ちょ、どこ行くんだよ!レンタ!」
駆けるレンタの背に叫び声を投げる。レンタは振り返らずに答える。
「まずは、SSの教室に行ってみんなと合流する!みんなとなら何とかできるかもしれない!」
そう言った瞬間、レンタの姿が消える。
同時に、レンタの周囲のガラスが割れ、コンクリートの壁や床が大きく歪む。
「っ!?レンタ!?」
突然レンタが消えてしまったことに目を白黒させていると、隣のヒカリが声を掛けてきた。
「行っちゃったわね…。アンタはどうするの?」
「俺は……………。美那原に聞きたいことがある……」
「なら、行くわよ。平佐名の言う通り、今は協力が最優先よ。レナは時計塔の頂上から、SSの教室を援護射撃して」
「分かりました」
指示を受けたレナは、敬礼をしてから今し方歩いてきた道を走って引き返した。
それを見届け、ヒカリとコウジは目を合わせ、共に教室へと向かった。

「みんな!大丈───」
勢いよく教室の扉を開けると、その衝撃的な光景が飛び込んでくる。
教室中に飛び散った血飛沫。
それに相反するように、落ち着いて自分の席に着いているSSクラスの生徒たち。
そして何より目を引いたのは──────────教卓の上に積み上げられた“3人のマサタ”の死体だった。
きっとこれは、彼らがやったのだろう。
単独でも強力なマサタが3人襲いかかってきたのを、彼らは返り討ちにして見せたのだ。
コウジはSSクラスの強さと恐ろしさ。その両面を思い知らされた。
コウジが唖然としていると、着席していた生徒が2名、こちらへ向かってきた。
「お二人は、お怪我はありませんか?」
そう話しかけてきたのは、輝く粟色のセミロングの少女。萩澤キョウカだ。
その大きな両目は若葉のような緑色をしており、話し方や口調も相まって、とても純粋で清楚な雰囲気を醸している。
「ええ、アタシたちは大丈夫よ。そっちこそ大丈夫だったの?」
ヒカリがそう問う。それに返したのは、長身の少年。
「大丈夫だぜ。ただ、美那原の才華、めんどくせぇよ」
爽やかなスカイブルーの髪と、澄んだ青緑色の双眸。スポーツマンと呼ぶに相応しい、堅実で情熱的な雰囲気がある。彼の名前は舵咫散トモキだ。
「何とかしないとな…」
そう言いながら教室を見渡す。
そこで、コウジは異変に気がついた。
「あれ……。レンタは…?」
「ああ、平佐名なら、学園長室に行ったぜ」
そう言うとトモキは教室の南窓を指差した。
アニュッシュ学園の構造上、南窓からは職員室や会議室が覗けるのだが、そこから学園長室も望むことができる。
だがそこから見える学園長室は、普段とは大きく異なっていた。
ドアが拉げ、廊下と部屋を区分する壁が壊れてしまっている。
「多分、平佐名と美那原はあそこで殺りあってるだろうよ」
大きく露わになったその部屋には、遠目からでも分かるほど、血飛沫が撒き散らされていた。
「…………ヤバい!」
そう叫び、コウジは学園長室へと走った。

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