異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??
第55話『焦燥』
「コウジ君……って、どしたの?その顔。真っ白に燃え尽きた顔してるけど?」
赤髪を後頭部で一つに結えた少年が、そう声をかける。
「ああ、レンタか…。おはよう…」
机に突っ伏したコウジは、その顔を見てから呻くように答えた。
朝から暴言で心をKOされたのだ。燃え尽きた顔をしていてもおかしくはないか。
三限が終わった昼。そろそろ昼食を摂ろう。
するとそこへ、長身の少女が駆け寄る。
「塚田!大変だ!」
長く黒いポニーテールの少女の名は鵞糜サナエだ。
「おぉ…。ど、どうした?」
体を起こしながらサナエの方を見る。
その顔は蒼白で、緊急事態であることを示唆している。
「奴が……犯人が動いた…!」
「はっ!?」
「急いでくれ!現場へ向かうぞ!」
「あ、ああ!」
サナエとコウジは、急いでヘリポートのヘリに乗り込んだ。
「現場は?」
「…大阪だ」
「大阪っ!?間に合うのかよ!」
「分からぬ。だからこそ、全速で向かわねばならん」
ゆっくりと機体が持ち上がり、下向きにGがかかる。
「でも、なんで大阪に…?事件が起きてたのは糸魚川だろ?」
「奴は大勢の人を巻き込むと云っていた…。大阪で多くの人が集まる場所といえば……」
「UAJか…!」
UAJ。Universal Amusement Japanの略称で、今や世界的に人気を誇るアミューズメントパークである。
そんな場所で、傷害行為目的で才華を使えば…。
結果は火を見るよりも明らかだ。
「む…?所で、何をしておるのだ?」
俯き加減のコウジに、サナエが問いかけた。
その手にはスマートフォンが握られている。「ああ。SNSで情報を集めてんだよ。テレビや新聞なんかより断然早いからな」
「成る程な…」
サナエは感心したように頷いていた。
「それより、犯人の情報を教えてくれ」
顔も名前も知らないのに、数多の来場者の中から犯人を特定するのは不可能に近い。
「此れだ」
そう言うと、サナエはステープラーで留められた紙束をコウジに手渡した。
その紙には、ダークブルーの髪をした少年の顔が載っていた。その双眸は濃紺で、優しげな雰囲気を醸している。
そして、その顔写真の下には様々なプロフィールが記されている。
《 美那原マサタ
身長・177.4cm       体重・69kg
       生年月日・平成15年7月10日
年齢・15歳 血液型・B- 》
簡潔ではあるが、十分な情報がそこに記されている。同時に、学園の情報収集能力を改めて体感した。
その資料に目を通していると、1時間半ほどでUAJが見えてきた。
SNSで目立った情報はなかったが、サナエは焦燥感を表すように頻りに貧乏ゆすりをしていた。
「降下点だ。行くぞ」
サナエは短くそう残すと、ヘリから飛び降りた。
「おい!ちょっ、待てよ!」
大物芸能人が言ったセリフを吐きながら、コウジはその背を追った。
飛び降りてから数分で、足が地を捉えた。
なんの騒ぎも起きていないアミューズメントパークの敷地内に着陸すれば、単なる無銭入場に過ぎない。
そこで、コウジとサナエは、パークから程近いホテルの屋上に着地した。
「なあ、こっからどうするんだ?」
「手段は二通りある。其の一は、其処の扉を開け、何事も無いかの様にエントランスを抜け、現場へ向かう」
そう言いながら、サナエは左手側にある扉を指差した。どうやら、あの扉が階段に繋がっているらしい。
「その二は?」
「もう一度、此処から飛び降りる」
「………え?」
「もう一度、此処から飛び降りる」
「聞こえてるわ!」
コウジは思わず叫んだ。
ココから?飛び降りる?死んじゃうよ?
この女、さては脳筋だな?
そんな思いを秘めながら、コウジはサナエに提案する。
「と、扉から抜けようぜ…」
「ふむ。承った」
そう言うと、サナエは腰に携えられた鞘から刀を抜いた。そして、その刀で─────。
─────ジャキン、と。扉を切断した。真っ二つに。
「………………」
「行くぞ」
もはや驚きで声が出ない。
え、なに、今の?斬ったの?刀で?えっぐ…。
驚きに固まる暇もなく、サナエと共に階段を駆け下りる。そのままエントランスを抜け、ホテルからパークへと向かった。
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