異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第50話『帰還』

鵞糜がび……?何でここに…?」
ヒカリは、サナエがこの場にいることが理解できない様子でそう言った。
だが、駆けつけていたのはサナエだけではない。SSクラスの生徒は、ほぼ全員この場に集まっている。
サナエはヒカリを一瞥すると、コウジへ呼びかけた。
「塚田。云われた通り、参分待てど戻らぬから、来たぞ」
「あぁ、ありがと。 助かったよ」
2人だけで展開される会話に、ヒカリは割って入った。
「ちょ、ちょっと待って!アンタが鵞糜を呼んだの?」
「そうだ。3分経って俺と城嶺が戻らなかったら“防衛の拠点をココに移してくれ”ってな」
「な、なんでよ!」
「城嶺も痛感したろ。長時間の戦闘は持っても3分ぐらい。それ以上は体力と判断力が欠けるから続かねえからな」
実際、ヒカリとコウジは体力の限界だった。
今でこそ会話程度の余裕はあるが、先のような戦闘が続いていればもっと痛手を負っていたかもしれない。
「それに、これからS+の奴らも来るみたいだし、俺らは一旦退いて、他の奴らに任せよう」
「イヤよ!!アタシはまだやれる!アンタとは違う!!」
ヒカリは叫ぶ。
だが、それに反駁したのはコウジではなくサナエだった。
「両腕と左脚の頻繁な筋肉痙攣けいれん。長時間の集中状態による脳の疲労。左脇腹の殴打によるあざ。左前腕、右肩、両腿、右胸、背中左中部の傷。またそれに伴う失血。今の城嶺は戦闘どころか、思考すら僻僻ひがひがしい。随順ずいじゅん退け」
「で、でも……っ」
「城嶺。傲慢が過ぎるぞ。退け」
サナエに強くそう言われ、ヒカリはコウジとともに戦線から離脱した。


薄暗い部屋で───────────。
「ふふっ。面白そうな人ね…。彼のお名前は?」
1人の和服を着た少女が、微笑みながら浜曷に尋ねた。
ここは、アニュッシュ学園の地下に設えられた管制室。アテスターから入ってくる情報をモニターで確認し、教師達が状況に合わせた指示を出す。
「彼は、最近転入してきた塚田コウジ君です」
「そう…。なかなか良い才華モノを持っているのね……」
その口調には落ち着きがあり、且つ余裕のようなものもある。
長い雪のような白色の髪と、淡い碧色の瞳。長い髪は膝裏まで伸びきっており、視線は鋭利な刃物のようにモニターを貫いていた。
「こんなことせずに、出撃してはどうです?河本さん」
彼女の名は河本カナミ。
SSランク第1位。
才華名は〈掌握王女Grasping Queen〉。
映えある学園のトップであるにも関わらず、何故か出撃はおろか自室から出ることさえない。
「そうね…。彼と一度お手合わせをしたいけれど、結果は見えてるわ…」
少し残念そうな口調で、カナミが言った。
彼女の才華は非常に強力なものであるため、決闘した相手はことごとく一撃で倒されている。故に、彼女の才華の内容を知る生徒はいない。
「それじゃあ、私は寮に戻りますね。さようなら」
「はい。さようなら」
管制室からカナミの姿が消えた。静寂が管制室を満たす。
「河本さんが何もしなければ良いのですが…」
浜曷が不安そうにそう呟いた。



10分もしないうちに、サナエたちSSランクの生徒とS+ランクの生徒がオスプレイに乗り込んだ。
そして、機体は離陸し、学園へと向かった。
行きに張り詰めていた緊張感はなかった。だが、代わりに、攻撃を受けてしまった生徒達の苦悶の声が満ちていた。
無事に帰れることは嬉しいことだが、喜べるような雰囲気ではなかった。
小一時間で、機体は学園のヘリポートに着陸した。
ドアが開くと、生徒達は或いは安堵に顔を綻ばせながら友人と、或いは苦痛に悶えながら担架に乗せられ、それぞれ機体から降りていく。
機体に残ったのはコウジとヒカリの2名のみ。
すると、何者かが機体に乗り込んだ。
見やると、そこには浜曷が仁王立ちしていた。
「お二人に、お話があります」
その声には、どこか怒りが混じっていた。

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