異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第39話『激白』

「あの人はね………………アタシのママなのよ」
「………………は?」
コウジは呆然としてしまった。
「いや、母親って…。だってこの学園に入る前に城嶺の存在は消されてるだろ?」
そう。この学園に転入する生徒は必ず自分と触れ合った人間から自分の記憶を消されてしまう。そんな人間を学園に入れてしまえば、わざわざ記憶を消して秘密裏に行動している意味がなくなってしまう。
「それがね…私の場合は、ちょっとケースが特殊だったのよ」
「どういうことだ……?」
「まずは、アタシのこれまでの過去から話すわ。アタシはね───────」

             

城嶺ヒカリは、千葉県我孫子市で産声をあげた。
父はエリート銀行員、母は専業主婦。その間でヒカリはすくすくと、不自由なく育っていった。
勉強・スポーツともに成績は良く、テストで好成績を収めた日には、母が豪華な手料理を振る舞ってくれた。
そんなヒカリの大好物は、母の手作りのだし巻き玉子だった。甘くなく、白米を食べるのにちょうどいい塩気を持っている。弁当に玉子焼きが入っていると、ヒカリは大喜びをした。
だが、そんな幸せな生活は脆くも儚く崩れていった。
はじめは、ヒカリが小学校六年生の時。突然、カラオケでの点数が上がり、夜目がよく効くようになった。
今だからこそ分かるが、この現象はヒカリが無意識のうちに自身の周囲の音や光の周波数を操っていたが故に起こる現象だった。
そして、“ソレ”は起きた。
中学一年生の初夏。いつものように学校で朝清掃をしていた時。背後から声をかけられた。
「おーい、城嶺ー」
振り返ると、クラスの男子4人が立っていた。そして、その中の1人が右手を前に突き出している。
その手を見ると、ゴキブリが乗っていた。
それは本物ではなく、ただのドッキリ用のおもちゃだった。なんてことはない、ただの子供のイタズラ。だが、ヒカリにはそれがまずかった。
ヒカリは思わず悲鳴をあげて、しゃがみこんだ。だが、ヒカリは無意識に自身の喉から発せられた声を、すぐ横にあった窓ガラスの固有振動数と同期させていた。
パリィンと音を立てながら、4枚の窓ガラスが破壊された。
その破片は偶然だろうか。はたまた奇跡だろうか。もしかしたら運命かもしれないが、それぞれ4人の少年の体へと突き刺さっていった。或いは目に、或いは喉に、或いは脇腹に、或いは頸に。
少年らはいずれも重傷。
一人は左眼球の視力を失った。
一人はその喉を5針縫うも、二度と声を出せなくなった。
一人は脇腹からの失血が多く、病院へ搬送されるも死亡。
一人はガラスが頚椎に刺さってしまったことにより、その事故から約二年を経た今でも目を覚ましていない。
この事故により、ヒカリは学校で居場所を失った。
 登校しても、向けられるのは好奇の目。誰もが彼女を避け、彼女自身もまた、他者を避けるようになっていった。
 そして、『噂』という誰も打ち勝つことのできない脅威により、ヒカリはその身をどん底へと叩き込まれることとなった。
 事故から十日後のこと。仕事から帰ってきた父親の表情は、暗く淀んでいた。
 「………父さんな……仕事……クビになったよ……」
 父は俯いたまま、玄関口でそう言った。
銀行員は信用が命であり、娘が事故を起こしてしまった銀行員は信用を得られない為、ヒカリの父は所謂会社のお荷物になってしまったのだ。
 それからというもの、父は酒とタバコにふける毎日。酒が切れれば怒鳴り散らし、タバコが切れれば灰皿で母やヒカリを殴った。
 そんな城嶺家の唯一の収入は、母のパート代だった。だがその額は決して多くはなく、家族3人を支えるにはか細すぎる柱だった。
 収入の殆どは父の酒タバコにより消し飛び、母もその鬱憤をヒカリで晴らすようになっていってしまった。
 その日、ヒカリは夜な夜な母の悲鳴で目を覚ました。
 階段を降りてキッチンへ行く。

すると、血のついた酒瓶を持った父が立ってた。

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