異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第36話『区分』


「ですから、塚田君の寮室はこの507号室です。城嶺さんと相部屋です」
「ち、ちょっ、ちょっと待ってください!!」
「なんでよりによってコイツなのよ!」
ヒカリとコウジが口々に浜曷へ不平を言う。
「ですが。現在、相部屋が可能なのは城嶺さんのみなのです」
浜曷は落ち着いた様子でそう言う。
「コイツと相部屋になるくらいなら死んだほうがマシよ!」
ヒカリが怒りながらそう言うと、浜曷が途端に真剣な口調で言う。
「なら、死んでみますか?あなたの固有武器で、自分のこめかみを撃ち抜けば簡単に死ねます。あなたは今死にますか?」
「そ、それは………」
「最近では『死』と言う言葉が風化していると思います。“死ね”とか“殺す”とか、あまりにも命を軽くみていると思えます。そして、そんな言葉を口走る者に限って、その最期を迎える時に“死にたくない”と喚くのです」
浜曷の真剣な様子に二人は押し黙る。
「“死ね”や“殺す”と言った言葉を軽々と口に出す人間は、精神的にとても弱いと言えるでしょう。人間の持つ最大の力は『言葉』です。言葉はあなた方の才華を凌駕する力を持っています。その『言葉』でしか相手に威嚇や攻撃ができないのは、他に何も力を持たない無力な者なのです。簡単に命を終わらせる発言をしないでください。もしそんな言葉を使うのなら、それは“私は無力なクズです”という自己紹介と受け取っておきます」
時間にしてわずか1分にも満たないその言葉には、どこか哲学じみたものが込められていた。
「もう一度言います。本日より507号室は、塚田コウジ・城嶺ヒカリの両名の相部屋となりました。拒否権はありません。相互に協力し、生活してください」
そう言うと、浜曷は背を向けて立ち去ってしまった。
「なあ………入ってもいいか?」
コウジがヒカリへ尋ねる。
「………………ほら、寒いからさっさと入りなさいよ」
ヒカリに促されリビングルームに入ると、大きなシャンデリアがそこにはあった。テーブルは大理石調で、床に敷かれたカーペットはペルシャ絨毯を彷彿とさせるデザインで全てが高級感にあふれた空間だった。
「………………すげぇな」
「それより、部屋の区分をするわよ」
「あ、ああ」
コウジとヒカリは、テーブルにて対峙する様に座った。
「SSランクの寮はキッチン、バス、トイレ2つ、ダイニング、他に5つの部屋って構造になってるわ」
ヒカリが雑紙の裏にサラサラと略的な見取図を記す。
「贅沢だな……」
「そう。アンタには贅沢すぎるから、アンタは玄関とトイレ。私はそれ以外。それじゃ」
「待て待て待て!!おかしいだろ!!なんだよ玄関って!」
玄関とトイレという極限スペースのみで生活を行うことは不可能であるし、何よりもヒカリの言った通りに事が進むのが癪だった。
「なに、不満でもあるの?」
「不満しかねえよ!玄関だけで生活できるわけねえだろ!!」
コウジは叫んだ。
「トイレもあるじゃない」
「そういう事じゃねえよ!」
激しい論争を続けた結果、コウジは2部屋、ヒカリは3部屋という区分になった。トイレはそれぞれ別のトイレを使うことに決定し、そのほかのスペースは共用という形になった。
こうして、ヒカリとコウジの珍妙な相部屋生活が始まった。

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