異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第28話『Equal Dead-Weight』

「なんだ……これ?」

「アンタはついに入ったのよ。アタシの射程内に」

ヒカリが邪な笑みを浮かべながらそう言ってきた。する
と、再び轟音が鳴り響いた。その時、俺は足元に違和感を感じた。足元を見やると、敷き詰められているタイルが細かく振動していた。そして、その振動は次第に大きくなっていく。 
やがてタイルは、砕け散った。
砕けたタイルの破片は四方八方へと飛び散る。
無論、俺の方にも。その破片はまるで弾丸の様だった。
「んなっ………!?」
俺は右手でアテスターをガードしながら後方へ跳びのき、ヒカリから距離を取った。
何が起こったのか全くわからない。まるで魔法でも使われたみたいに、勝手にタイルが砕けたのだ。だが、少なくともこれで彼女の能力には有効射程があるということが証明された。それだけでも十分といえる。だが、問題なのは彼女の能力の内容である。皆目見当もつかない。一体何をすればタイルを砕け散らせることができるのだろうか。恐らく、あの時の轟音と何かしらの関係があるのだろう。しかし、一体どんな関係があるのか。
ヒカリの能力に思案を巡らせていると、彼女はこちらを見ながらこう言った。
「今度アタシに近づけば、割れるのはタイルなんかじゃない。アンタの頭蓋骨よ」
ヒカリはこちらを睨み続けたまま、そう言った。
敵意むき出しのその視線に思わず後退りそうになる。遠距離では銃が、近距離では能力が使われてしまう。遠近一体で、自身の能力をよく理解していると考えられる。だが、今は彼女の能力を分析していく必要がある。
何だ、彼女の能力は。
触れた物体を破壊するのか?否、それであれば破壊寸前の轟音についての説明がつかない。
轟音、タイルの振動、タイルの破壊。これらから導かれる彼女の能力は………。
「その頭!撃ち抜いてやるわ!!」
そう叫んだヒカリは、銃を向けながらこちらへと駆けてきた。が、それと同等の速度で俺も逃げた。すると彼女は足を止め、俯きながら静かな怒りを露わにした。
「なに。結局私の能力が分からなくて逃げの一手?情けないわね。見ててムカつくわ」
「いや、お前の能力については既にかなり絞り込めている。お前の能力は“自身の周囲の音を近くのモノの固有振動数に同期させる”とか、そんな能力だな」
この内容であれば周囲が轟音に包まれタイルが破損したことにも説明がつく。
「お前は自分の周囲の音をタイルの固有振動数に同期させ、共振によってタイルを破壊した。違うか?」
共振現象。物体にはそれぞれ固有振動数というものがあり、その振動数(周波数)と同じ音を当てることで物体を破壊することが出来るのだ。テレビ等で声でワイングラスを割るのは、この原理を利用してグラスの固有振動数と同じ高さの声を当てることで共振を起こし、グラスを割っているのである。
「へぇー、知識は一応あるのね。でも、半分正解で半分間違いよ。いいわ、そこまで能力を絞れたことに免じてアタシの能力を教えてあげる。アタシの能力は、『アタシの周囲のあらゆる周波数を自在に操る能力』よ」
ヒカリは能力の内容を話した。それはつまり、自分の能力が把握されても負けることはないという自信があるということだろう。たしかにどんな周波数も自在に操れるのなら、どんなものでも破壊できるであろう。かなり手強い能力である。だが、かといって今のまま逃げ回り続けていても勝算はない。
「くそっ……!」
俺は歯噛みしながら一直線にヒカリへと走った。
このままヒカリのアテスターに右手で触れ、消し飛ばすしか方法は無いかもしれない。
「策もなしに突っ込むなんて、惨めよ。見せてあげるわッ!!アタシの能力の真髄をッ!!!!」
ヒカリの能力の射程圏内に入る寸前に、彼女はそう叫んだ。
そして彼女の射程圏内に入った…。だが、そこは一縷の光もない暗黒の空間だった。
一体彼女はなにをしたのか、そこは見渡す限りの暗闇。戦闘における興奮からか、次第に俺の体温も上がっていく。
「どこだ…?」
彼女の能力が使われているということは、今の俺がいる場所からヒカリまではそう離れていないということだ。しきりに周囲を見回しながらヒカリを探すが、その姿は見当たらない。まだ四月というのに汗を掻くほどに身体は温まっていた。
「アイツ…どこに逃げたんだ……」
次第に掻く汗の量が増えていく。緊張しているのだろうか。いや、だったとしてもこの発汗量はおかしい。俺は、屈んで床のタイルに触れた。
そのタイルは…高温に熱せられていた。
「まさかっ!!」
急いで側方へと飛び退き、ヒカリの射程圏外へ脱する。すると、腕組みしているヒカリの姿が見えた。
「マイクロ波……か?」
「ご明察」
光、即ち電磁波にも様々な種類がある。その一種であるマイクロ波は、電子レンジなどで食材を温めるのに使われている。原理としては、食べ物の中に含まれている水分子の固有振動数と、マイクロ波の振動数を合わせることで、水分子の振動を強め、その振動で食べ物を温めているのだ。そして、人体の約60〜70%は水分である。つまり、人間にマイクロ波を当てると血液ごと沸騰し、死に至ってしまうのだ。
「まさか、電磁波の周波数まで操れるとはな」
ヒカリにマイクロ波が出せたのは、恐らく彼女の『周波数を自在に操る』という能力において、操れるものは音だけではなく電磁波(光)も含まれていたのだろう。そして、周囲の電磁波をマイクロ波に変えて、俺の肉体を熱することができたのだ。
「アタシはこの能力を『FREEQUENCY』って呼んでるわ」
ヒカリは自慢げにそう言った。
確かにヒカリは強い。近距離であれば能力の圏内であり、遠距離なら固有武器である拳銃の射程内である。どちらを取っても彼女は強い。 が。かと言って俺の勝率がゼロになるわけではない。
人間の恐怖は未知からやってくる。構造やメカニズムを理解できたものに恐怖は生まれない。
まだ、まだ勝ち目はある。一対一の戦いにおいて、勝敗を左右するものは知能だ。バカから負けていく。
俺は目を瞑り、一度深呼吸をしてからヒカリへこう告げる。
「お前の能力を俺は知ってるのに、俺の能力をお前が知らないのは不公平だよな。だから、俺の能力も教えてやるよ」
「はぁ?別にアンタが弱いことはよく分かったからそんなのいいわよ。どうせ負けるのはアンタだし」
ヒカリは呆れたようにそう答えた。だが俺は続けた。
「俺の能力は『右手で触れたものと同じ重さのものを左手から作り出す能力』だ。そして、お前みたいに能力に名前をつけるなら、『等しい重さ』という意味で『Equal Dead-Weight』とでも呼ぼうかな」
そう言ったが、ヒカリはさらに呆れたように返す。
「わざわざ叫ぶくらいだからどんな能力かと期待したのに、まるで役に立たない能力ね。もう見てるこっちがかわいそうだから、さっさとケリを付けてあげるわ」
ヒカリは視線を鋭くすると、かかってこいと言わんばかりに人差し指を立てて自分の方へ二度曲げた。
それを見て、俺はヒカリの方へと駆けた。ヒカリも俺が駆け出したのを見て、銃を構えた。そしてトリガーを引き、発砲する。
無論、ヒカリの射程圏内に入るまでの間で彼女が発砲することは読めていた。だが、動いている標的に的中させるのは至難の技だ。俺は一撃も食らうことなく、駆けていく。
そして次第にヒカリとの距離は短くなり、彼女の射程圏内まであと一歩というところまで接近する。
「今度は最大出力のマイクロ波よッ!」
どうやら、またマイクロ波を使うようだ。無論、そんなことは読めていた、だから俺は左手を前へ突き出しながら右手で床のタイルに触れてこう叫ぶ。
「〈等重変換Equal Dead-Weight〉!!」

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