異世界無双の最強管理者(チートマスター) ~リセットマラソンで最強クラス【大賢者】に転生したら世界最強~
第5話:大賢者は死の意味を知る
カレリーナ村に帰還すると、俺たちは宿に戻った。
一泊たった一万円だが、機能は十分である。シャワー付きでふかふかのベッド。テレビも備えられていて、現実世界の情報も確認できる。
結局なりゆきで、ミーシャとはその後も行動を共にしている。こんな可愛い女の子と夜を共にしていいのだろうか。
「今日もやってるのか、ワイドショー」
午後七時。テレビでは今日も特番をやっていた。
有名オンラインゲームにプレイヤー約十万人が閉じ込められたというビッグニュースは、世界を震撼させた。日本だけでなく世界中でLLO2は普及していて、文字通りの世界規模の事件である。
当事者の俺たちとしては閉じ込められていると言ってもあまり実感はないというのが偽らざる本音なのだが……。
「それにしても……ゲームクリアの条件が聖者の塔の地下百層ってどのくらい難しいんですか?」
俺たちはわけもわからずゲーム内に閉じ込められた。その数時間後には、テレビで臨時ニュースが始まったらしい。らしいというのは俺も人から聞いた話だからだ。
ともかく、このゲームから脱出するには【聖者の塔】の地下百層のラスボスを倒すこととなっている。
聖者の塔は俺もよく知っている。地下に埋まった百層に及ぶ塔。深く潜れば潜るほど敵は強くなっていく。
「地下一層でも並みの冒険者なら死ぬくらいには強い。そんなモンスターがうようよいて、二匹同時に襲われたら生きては帰れないな」
「そ、そんなに……」
ミーシャの顔は引きつっている。
「幸いゲーム内で死んでも実際に死ぬわけじゃない。何度でもやり直しは利くから、時間をかければもしかしたらクリアできるのかもしれない」
「でも、どれだけ時間がかかって……ごめんなさい」
「いや、動揺するのも理解できるよ」
地下百層をクリアできるのは、年単位、もしかしたら十年以上かかってしまうかもしれない。
そもそも【聖者の塔】はLLO2の最終コンテンツとして用意されていた。この塔をクリアした先には何があるのか、誰しもが疑問に思っていたことだった。実装されて間もないこの塔は、地下一層すら踏破されていない。
「ミナトさんはどうして落ち着いていられるんですか?」
「落ち着いて見えるか?」
「見えます」
ふむ。確かに動揺していないことは自分でもわかる。それどころか、むしろほっとしたような気さえする。
「そもそも、この条件は絶対にクリアできない種類のものじゃないってのが一つだな」
「クリアできるんですか!?」
「足りない点をプレイヤー間で補えばクリアできなくはないだろう」
報酬目当てで強豪レギオンが何度も玉砕していた。だが、LLO2には十万人のプレイヤーがいる。やり方次第で、力を合わせればどうとでもできよう。幸い死ぬことはないのだから、死んでは生き返って戦場に戻るというチキンレースで押し進めることもできなくはない。
「そしてもう一つ、俺はそこまで現実世界に未練がないんだ」
「……家族に会いたいとか思わないんですか?」
「寂しいと言えば寂しいけど、普段からほとんど会ってなかったからな。……ミーシャはどうだ?」
ミーシャは胸に手を当てた。そしてどこか寂し気に、
「私には会いたいと思える家族がいませんから」
「……そうか」
俺は何も言えなかった。きっと重い話になるのだろうし、まだ彼女のことを何も知らない俺に受け止めきれるとは思えない。
「そんなことより、夕食にしましょう!」
ミーシャは、重い空気を掃うかのように笑顔を作り、コマンド開いた。
そんな彼女を見て、俺はさらにミーシャを愛おしく思うようになっていた。
◇
翌朝。
俺たちは今日もレベル上げをしようと宿を出た。
朝の空気はとても美味しい。
村を出るには中央の広場を通り、村に四か所ある門をくぐる。
村の中にモンスターが入ってくることはないので、門番は存在しない。
俺たちはNPC商人から回復ポーションを購入し、村を出ようとしていた。
「もう嫌だ!!!! お、俺はもう死ぬうううぅぅぅ!!!!」
男性プレイヤーが広場で叫んでいた。
広場に設置されている女神像にロープを固く縛って輪状にし、自殺を試みているらしい。
「お、俺はこの世界から帰還する! 生きて帰ってテレビに出てやるぞおぉぉ!」
男性プレイヤーの周囲からは「やめとけよ……」「はやまるんじゃない」と声をかけられていた。
「うるせえ! 俺が帰還できたらお前らもやってみるといい! もうこんな世界おさらばだ!」
ゲームに閉じ込められてから三日。ついに気がおかしくなり始める者が出始めたのだ。
死ねば脱出できる。……そう思うのも無理はない。なにせ、俺たちが生きる現実世界は八方塞がりになった時でも死ぬという選択肢があるのだから。
男性プレイヤーは自ら首を吊り、宙吊りになった。
一分、二分と時間が経過する。
「うが……あがぁ……」
現実世界で首吊りをしたわけではないので、即死とはいかない。
呼吸ができないようで、苦しそうにもがき続ける。
それでも、五分が経つ頃には大人しくなっていた。
完全に制止すると、アバターが光の粒子となって弾け飛ぶ。
「まじで死にやがった……」
「今日のニュースがどうなるかだよな……」
現場を見ていた者たちも、死に対して希望を見出し始めていた。
男性プレイヤーが死亡した直後、首吊りロープの下に光の粒子が集まり、アバターが構築される。
そのアバターは、さっき自殺した男のそれだった。
「い、生き返ってます!?」
隣にいたミーシャが声を上げる。離れた場所から見ているので彼には聞こえていないはずだ。
男性プレイヤーは手をみると、茫然としていた。
「し、死んだはずなのに……なんで……」
このプレイヤーは死ねば解放されるとでも思ったのだろうか。
甘いな。ここはVRゲームの世界だ。現実の身体は目を閉じて横になっている。そんな状態で、外的要因なしで死ぬことは不可能なのだ。
現実世界では死にたかったら死ぬことができる。人は簡単に死ぬ。
だが、ゲームの世界では本当の意味で死ぬことはできない。どれだけ辛いことがあったとしても生き続けなければならない。たとえこの男のように自殺しても、何度でも蘇る。
それは、本当に死ぬよりも辛いことなのかもしれない。
「自殺でも無理か……」
誰かが小さく呟いた言葉だ。
この時、人々の間で一筋の希望だった『死』という選択肢が消えた。
これから、LLO2プレイヤーには三通りの選択肢がある。
一つ目は力を合わせて【聖者の塔】地下百層をクリアし、脱出すること。
二つ目は現実世界への帰還を諦め、この世界で生涯を全うすること。
三つ目は警察等の外的救助を待つこと。
もちろん、ゲームをクリアできる保証などどこにもない。また、現実世界への帰還を諦めれば、もう二度と会いたい人に会うことは不可能になる。
三つ目は選択肢というよりただの他力本願なのだが、絶対ないとは言えない。……しかし、それが可能ならばニュース等で救助を発表しても良いはずだ。現状では救助の目途は経っていないのだろう。
「ミナトさん……私たちはこれからどうすれば」
「ミーシャ、それを決めるのは君だ。……俺は、無理してまでこのゲームをクリアしたいとは全く思わない。こんな人間は少ないかもしれないけどな。だが、ミーシャが脱出したいというなら、俺は応援するよ」
「私は……」
ミーシャは頭を抱え、呼吸が荒くなる。
色々と思うことがあるのだろう。
「私も、現実世界に戻りたくありません。……できることなら、ここでずっとミナトさんと一緒にいたいです」
ミーシャは頬を紅潮させていた。その瞳には暗い陰があった。
一泊たった一万円だが、機能は十分である。シャワー付きでふかふかのベッド。テレビも備えられていて、現実世界の情報も確認できる。
結局なりゆきで、ミーシャとはその後も行動を共にしている。こんな可愛い女の子と夜を共にしていいのだろうか。
「今日もやってるのか、ワイドショー」
午後七時。テレビでは今日も特番をやっていた。
有名オンラインゲームにプレイヤー約十万人が閉じ込められたというビッグニュースは、世界を震撼させた。日本だけでなく世界中でLLO2は普及していて、文字通りの世界規模の事件である。
当事者の俺たちとしては閉じ込められていると言ってもあまり実感はないというのが偽らざる本音なのだが……。
「それにしても……ゲームクリアの条件が聖者の塔の地下百層ってどのくらい難しいんですか?」
俺たちはわけもわからずゲーム内に閉じ込められた。その数時間後には、テレビで臨時ニュースが始まったらしい。らしいというのは俺も人から聞いた話だからだ。
ともかく、このゲームから脱出するには【聖者の塔】の地下百層のラスボスを倒すこととなっている。
聖者の塔は俺もよく知っている。地下に埋まった百層に及ぶ塔。深く潜れば潜るほど敵は強くなっていく。
「地下一層でも並みの冒険者なら死ぬくらいには強い。そんなモンスターがうようよいて、二匹同時に襲われたら生きては帰れないな」
「そ、そんなに……」
ミーシャの顔は引きつっている。
「幸いゲーム内で死んでも実際に死ぬわけじゃない。何度でもやり直しは利くから、時間をかければもしかしたらクリアできるのかもしれない」
「でも、どれだけ時間がかかって……ごめんなさい」
「いや、動揺するのも理解できるよ」
地下百層をクリアできるのは、年単位、もしかしたら十年以上かかってしまうかもしれない。
そもそも【聖者の塔】はLLO2の最終コンテンツとして用意されていた。この塔をクリアした先には何があるのか、誰しもが疑問に思っていたことだった。実装されて間もないこの塔は、地下一層すら踏破されていない。
「ミナトさんはどうして落ち着いていられるんですか?」
「落ち着いて見えるか?」
「見えます」
ふむ。確かに動揺していないことは自分でもわかる。それどころか、むしろほっとしたような気さえする。
「そもそも、この条件は絶対にクリアできない種類のものじゃないってのが一つだな」
「クリアできるんですか!?」
「足りない点をプレイヤー間で補えばクリアできなくはないだろう」
報酬目当てで強豪レギオンが何度も玉砕していた。だが、LLO2には十万人のプレイヤーがいる。やり方次第で、力を合わせればどうとでもできよう。幸い死ぬことはないのだから、死んでは生き返って戦場に戻るというチキンレースで押し進めることもできなくはない。
「そしてもう一つ、俺はそこまで現実世界に未練がないんだ」
「……家族に会いたいとか思わないんですか?」
「寂しいと言えば寂しいけど、普段からほとんど会ってなかったからな。……ミーシャはどうだ?」
ミーシャは胸に手を当てた。そしてどこか寂し気に、
「私には会いたいと思える家族がいませんから」
「……そうか」
俺は何も言えなかった。きっと重い話になるのだろうし、まだ彼女のことを何も知らない俺に受け止めきれるとは思えない。
「そんなことより、夕食にしましょう!」
ミーシャは、重い空気を掃うかのように笑顔を作り、コマンド開いた。
そんな彼女を見て、俺はさらにミーシャを愛おしく思うようになっていた。
◇
翌朝。
俺たちは今日もレベル上げをしようと宿を出た。
朝の空気はとても美味しい。
村を出るには中央の広場を通り、村に四か所ある門をくぐる。
村の中にモンスターが入ってくることはないので、門番は存在しない。
俺たちはNPC商人から回復ポーションを購入し、村を出ようとしていた。
「もう嫌だ!!!! お、俺はもう死ぬうううぅぅぅ!!!!」
男性プレイヤーが広場で叫んでいた。
広場に設置されている女神像にロープを固く縛って輪状にし、自殺を試みているらしい。
「お、俺はこの世界から帰還する! 生きて帰ってテレビに出てやるぞおぉぉ!」
男性プレイヤーの周囲からは「やめとけよ……」「はやまるんじゃない」と声をかけられていた。
「うるせえ! 俺が帰還できたらお前らもやってみるといい! もうこんな世界おさらばだ!」
ゲームに閉じ込められてから三日。ついに気がおかしくなり始める者が出始めたのだ。
死ねば脱出できる。……そう思うのも無理はない。なにせ、俺たちが生きる現実世界は八方塞がりになった時でも死ぬという選択肢があるのだから。
男性プレイヤーは自ら首を吊り、宙吊りになった。
一分、二分と時間が経過する。
「うが……あがぁ……」
現実世界で首吊りをしたわけではないので、即死とはいかない。
呼吸ができないようで、苦しそうにもがき続ける。
それでも、五分が経つ頃には大人しくなっていた。
完全に制止すると、アバターが光の粒子となって弾け飛ぶ。
「まじで死にやがった……」
「今日のニュースがどうなるかだよな……」
現場を見ていた者たちも、死に対して希望を見出し始めていた。
男性プレイヤーが死亡した直後、首吊りロープの下に光の粒子が集まり、アバターが構築される。
そのアバターは、さっき自殺した男のそれだった。
「い、生き返ってます!?」
隣にいたミーシャが声を上げる。離れた場所から見ているので彼には聞こえていないはずだ。
男性プレイヤーは手をみると、茫然としていた。
「し、死んだはずなのに……なんで……」
このプレイヤーは死ねば解放されるとでも思ったのだろうか。
甘いな。ここはVRゲームの世界だ。現実の身体は目を閉じて横になっている。そんな状態で、外的要因なしで死ぬことは不可能なのだ。
現実世界では死にたかったら死ぬことができる。人は簡単に死ぬ。
だが、ゲームの世界では本当の意味で死ぬことはできない。どれだけ辛いことがあったとしても生き続けなければならない。たとえこの男のように自殺しても、何度でも蘇る。
それは、本当に死ぬよりも辛いことなのかもしれない。
「自殺でも無理か……」
誰かが小さく呟いた言葉だ。
この時、人々の間で一筋の希望だった『死』という選択肢が消えた。
これから、LLO2プレイヤーには三通りの選択肢がある。
一つ目は力を合わせて【聖者の塔】地下百層をクリアし、脱出すること。
二つ目は現実世界への帰還を諦め、この世界で生涯を全うすること。
三つ目は警察等の外的救助を待つこと。
もちろん、ゲームをクリアできる保証などどこにもない。また、現実世界への帰還を諦めれば、もう二度と会いたい人に会うことは不可能になる。
三つ目は選択肢というよりただの他力本願なのだが、絶対ないとは言えない。……しかし、それが可能ならばニュース等で救助を発表しても良いはずだ。現状では救助の目途は経っていないのだろう。
「ミナトさん……私たちはこれからどうすれば」
「ミーシャ、それを決めるのは君だ。……俺は、無理してまでこのゲームをクリアしたいとは全く思わない。こんな人間は少ないかもしれないけどな。だが、ミーシャが脱出したいというなら、俺は応援するよ」
「私は……」
ミーシャは頭を抱え、呼吸が荒くなる。
色々と思うことがあるのだろう。
「私も、現実世界に戻りたくありません。……できることなら、ここでずっとミナトさんと一緒にいたいです」
ミーシャは頬を紅潮させていた。その瞳には暗い陰があった。
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