「幸運」なことだけが頼りの最弱冒険者の話

ゼプトン

その1:僕には才能なんてない

 「いいかいアカギ、かつてこの大陸アースガルが魔の者に支配された時
その者たちから我々の先祖をお救いくださったのがこの勇者様なのだ。」
じいちゃんがかつて読んでくれたこの話を、俺はよく覚えている。
決してその勇者が大きなことを成し遂げたからだとか、ましてこの話に出てきた魔族が怖かったからではない。その勇者には特別な力は一切無かった…俺と似ていたからだ。
この話に出てくる勇者は、終始能力と呼ばれるようなものは使っていなかった。

 そんな勇者に、アカギは心底憧れた。
同時にその憧れは、将来冒険者になることを決意させたのである。
才能が無くたって、俺は勇者になれる…ただそれだけを信じて少年は生きる。


 聖界歴345年5月25日、大陸アースガルの最東端に位置するガトウ村の少年アカギはこの日、15歳の誕生日を迎えた。この世界では15歳は成人として扱われ、それはすなわち自分の職業を選択できるようになる。この世界にはありとあらゆる職業が存在する。「商人」、「鍛治師」、「運び屋」…そんな数多の職業の中で最もみんなからの尊敬を集め、誰もが憧れる職業が「冒険者」である。この少年アカギもその一人。この歳を迎えようやく冒険者としての道を歩めることに、アカギはとても喜んでいた。
 「アカギ、本当に行くのか?」アカギの父、ナタルが問いかける。
「くどいぜ親父。俺は何としても冒険者になるんだ。」アカギはそう答える。
「お前には俺の農園を継いで欲しいんだがな…。」
「バカヤロウ!何度も言わせんな!。俺はそんな低級職になるわけねえだろ!。」
アカギは突っぱねる。もともとアカギは気が強く、諦めが悪い。これまでもナタルから農家を継ぐように言われてきたが、その度に彼は反発し続けた。
「もういいだろ、俺はもう行くぜ。一刻も早く冒険者登録を済ませたいからな。」
あらかじめ用意していた荷物の入ったバッグを肩にかけ、アカギは家を飛び出していく。
「待ちなさいアカギ!まだ言うべきことは・・・」
「何だよ親父!俺は急ぐんだ!。手短に頼むよ。」
「お前は・・・お前はな・・・」ナタルは一瞬何かを伝えようとしたようだが、それをためらう様子もうかがえた。やがてナタルは再び口を開き、
「・・・いや、なんでもない。男がやると口にした以上、最後までしっかりやり遂げなさい。」
そう伝えた。
「分かってるよ。でも親父・・・今まで育ててくれてありがとな。立派に成長して、世界一の冒険者になってこの村に帰ってくるよ。」
アカギは元気よくそう答える。
「見てろよ、俺は必ずあの話の勇者のようになってみせる。」
そう自分に言い聞かせ、アカギはこの村の隣町のギルドを目指す。
春も終わり、太陽の光も強くなってきた初夏の日で
そしてこの日、彼は冒険者となるべく村を出た。あった。

 1日半歩き続け山岳を超えたところに、ギルドのある町、ザリクスはある。
「さすがにちょっと疲れた。でもとりあえず冒険者登録は済ませておきたいからな。」
疲労という重みを背負った体を無理やり動かし、ギルドへと向かう。
ギルドは町の中心に位置するため、すぐにたどり着くことができた。
「やっぱでけえな。俺の村とは大違いだな。」
ここでの自分の新たなる人生のスタートに期待と胸を踊らせ、アカギは扉を開いた。
中へ入ると屈強な男たちや可憐な美女、博識そうな魔導士たちがたくさんいた。
彼らが身につける装備を目にして、思わず見入ってしまう自分がいた。
「いかんいかん!こうしている場合じゃない!。登録をしなくては・・・」
我に帰り、アカギはカウンターへと向かう。
「こんにちは!依頼の受付でしょうか?。」ギルドの窓口を務める女性が質問する。
「いや、俺はまだ冒険者ではない。今日は登録に来たんだ。」
「あら失礼。では登録に必要な個人情報をこちらの用紙に記入をお願いします。
記入が終わりましたら、あなた様のステータスを測定いたしますので。」
「了解した。」と返事をし、黙々と記入していく。
「終わったぜ。これでいいのか?。」
「・・・はい、確認いたしました。ではステータスを測定いたしますので、こちらのアーティファクトに触れてください。」
「これがアーティファクトか・・・初めて見るぜ。」
この世界における「アーティファクト」とは、魔力を動力源とする道具のことで日常生活でも広く利用されているものであるが、アカギの住む村は最東端に位置することもあり、このような便利な道具は出回っていないのである。
「これで俺の能力を測定できる・・・ゾクゾクする。」
アカギの胸の鼓動はどんどん上がっていく。期待と不安にかられ、それらは複雑に混ざり合いアカギの脳を刺激する。そしてアカギは、そのアーティファクトに触れた。
アカギの鼓動は大きくなっていく。自分はどの程度の身体能力なのか、魔力はどのくらいか、そしてどのような能力を持っているのか・・・。期待は膨らむ一方だ。
やがて、アーティファクトから様々な文字や数字が浮かび上がってくる。
アカギはそれを見て・・・言葉を失った。
ステータスのそれぞれの項目は「A~G」でランク付けされている。
「筋力:D    敏捷性(びんしょうせい):E    柔軟:F    魔力:G    特殊能力:幸運」
「おお!俺のステータスって中々のものだな!。実は俺って天才だったりする?。」
アカギは舞い上がる。
そんな彼に、ギルド窓口の職員の女性は苦い顔をして答える。
「・・・アカギ様、このステータスはAが最上級のランクとなっております。よってあなた様のステータスはどれも平均以下ということになります。」
アカギの頭は真っ白になる。
これからの人生への期待は、その一言で粉々に崩れ去った。

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