盲者と王女の建国記
第2項26話 ベルグ攻防戦 sideエリー&ケルン
森林迷宮中部に入ろうかといったところで、停止飛行をする二人の姿があった。
屍人の集団。その統率者を発見するために、黒髪の少年と麗人の使用人は空からの捜索を行っている。
その最中、空を飛ぶ巨大なエイといった出で立ちの魔物『空鷂魚』を発見したエリーは、それに接近を試みようとしていた。
「かなりの高度に居ます。一気に上昇しますから、お腹に力を入れていて下さい」
『飛翔』の魔法で空を飛ぶエリーとケルンから、距離500Mの位置で空鷂魚は浮き沈みを繰り返している。
空間魔法『視界』で物体を認識する盲目のケルンにとっては、まだ魔物の姿は認識範囲外であり、彼が空鷂魚を認知するためには半径100Mまで近づかなければならなかった。
エリーが接近の選択肢を取ったのは、彼女が目視で観察するよりも、ケルンの魔法を用いた方がより高度な観察が可能であるからだ。
ベルグ東門前を飛び立ち、地上の屍人探索を始めた時から今までで、ケルンの空間魔法の有用性は立証されている。
「了解です……!!」
エリーの忠告にケルンがぐっと丹田に力を入れ、舌を噛まないよう口を噤む。
それを確認してから、エリーは風魔法の推進力を上向きに自分たちに対して叩きつけた。
「――っ……!!」
急激な上昇により、ケルンとエリーを重力加速度が襲う。
血の気が引いていく、眩暈が起こる前のような感覚にケルンは体を硬直させた。
二人は、高度30M程度から、一気に200Mまで垂直に上ってゆく。
『空鷂魚』より少し上――空に広がる、鈍色で10M四方の絨毯のようなその体の全容が、エリーの視界に映り込んだ。
これまで冷静を心がけていた使用人は、『空鷂魚』の上に乗っていたモノを見て、初めて驚愕で目を見開く。
「不味いッ――そういうことですか!! これなら屍人は、空を移動できる……足が遅かろうが、関係ない!!」
『空鷂魚』の上。魔族は脚が遅いという屍人の欠点を、空を移動する魔物に運ばせることで解消していた。
魔族はベルグ東門と南門を、同時に少数の屍人で襲撃。その門に注意が向いているタイミングで、ベルグ周辺に展開していた屍人を『空鷂魚』の上に乗せ撤退させていたというわけだ。
「エリーさん、何が……??」
「ケルン様。魔物の上に、屍人が乗っているのです……」
その状況を理解したケルンは、苦い顔をする。
エリーの風魔法『飛翔』で、ベルグから森林迷宮中部まで移動してくるのに、さほど時間はかかっていない。
『空鷂魚』の移動速度がエリーの魔法以上ということは無いだろうが、短時間で屍人の部隊を展開されるのは脅威だ。
エリーが門の守備を離れ、ベルグ周辺の屍人の様子を調べに来たのは、前提として移動手段が徒歩であると断じていたから。その移動方法が、遅い屍人の足であり、周辺に屍人が居なければ、暫くは安全が保障されることになる。
だが空路を使われると、いついかなる時でも門の守備は気を抜けない。しかもベルグの兵士だけでは守りが到底足りず、対空攻撃手段を持つ魔法使いも多く必要になってくるだろう。
「今の内に、俺達で落とせないですかね」
「っ……いえ、どうやら数が多すぎるようです」
エリーの視界に映ったのは。一匹の『空鷂魚』の遥か後方から一斉に浮かび上がる、無数の同種の魔物の姿だ。
――その数、優に百は下らない。
数多の『空鷂魚』は、エリーから500M先のそれを除いて、低空飛行している。高度を上げ過ぎると、空を覆う鈍色の帯がベルグからでも観測できてしまう。
低空飛行はヒト種側に、屍人の移動を悟られないための対策だろう。
「目の前の『空鷂魚』には、どうやら十匹程度の屍人が乗っていますね。後ろの大群も同様だと考えると、千以上。私単騎では到底太刀打ちできませんよ――最高速でベルグに戻らなければ、対策できずにこの大群が押し寄せてきます」
「……すみません、役に立てなくて」
「ケルン様。今は、落ち込んでいる時ではありませんよ」
ケルンの『視界』には、自分とエリー以外の何も映っていない。
魔法の認知範囲外の物体は、その輪郭すら知覚できないのだ。
彼は空間魔法を得て、人並みにはいろいろとできるようになったと思っていた。
だがどうだ、少し先の景色を見ることも、エリーの魔法のように遠距離の相手を攻撃することも出来ない。
(くそっ、こんなんじゃ全然ダメだろ。俺は何のためにここにいるんだ……!!)
視界に映った自身の顔は、感じている無力感を隠せてはいなかった。
だが、出来ないことを悔やんだところで、今は何が変わるわけでもない。
エリーの言に従って、ケルンは一度頭を振って思考を切り替える。
「魔物に何か動きは無いですか?」
「後ろの大群が、北西の方向に動き始めました!! ……かなり早いですね。ケルン様、私達もベルグに向けて移動します!!」
いうが早いか、エリーは風魔法『飛翔』に魔力を込める。
停止飛行中の二人の体を、強い風の力が叩きつける様にして運んでゆく。
「北西……? ベルグ側に進んでいるのは分かるんですけど。なんでだろう、ベルグ東門から標的を変えたのかな?」
「そういえば、南門でも同様に屍人の襲撃があったと聞きました。ヅィーオが対応しているはずですが……」
言っていて、エリーが表情を曇らせてゆく。
南門での屍人の襲撃と、大群の移動を結び付けると、おのずと嫌な予感が彼女の脳内を掻きまわした。
「……最悪を考えたら、南門が突破されそうなのかも。このタイミングで屍人を動かす理由としては、それが一番しっくり来るような気がして!!」
エリーの思考の言語化を待たず、同じ考えをケルンが口に出し。
ギリリと奥歯を噛み締めたエリーは、風魔法を自分達の斜め上から当て、加速させつつ高度を落とす。
「……ッ、もっと飛ばします!! しっかり私にしがみついて!!」
「了解で――えっ……!?」
高度が落ちたことによって、ケルンの『視界』に地上の様子が写り込む。
それが視界に写り込んだのは一瞬の事だったが、ケルンの思考速度は景色を違えず映し出した。
「どうしたのですか!?」
ケルンの動揺を見て、切羽詰まった声でエリーが問う。
「……女の子が、居ました。見た感じたぶん屍人じゃない、肌が綺麗だ。ワンピース姿で、花冠をかぶっている」
その場所は、少し開けていた。森林地域の高い木々の中で、偶然できた陽だまり。
日光を分け合うように、地面には少し背の高い花が咲いている。
ケルンの白黒の視界では、花の色までは分からない。
その花たちの中で少女は蹲り、おびえるように祈りを捧げていた。その頭には、足元の花で作ったのであろう、花冠が置かれている。
「……分かっているでしょう、戻って助けている暇はないと!!」
――「そんなわけない」という言葉を飲み込んで、エリーは厳しい声で言う。
ケルンの魔法の正確さは、エリーも実感している。だからこそ、その言葉に間違いはなく、彼が見えたといったら見えているのだ。
自分の主――リセリルカほどならばいざ知らず、エリーは自分の能力の不足を自覚している。
小さいケルンと二人ならば、『飛翔』の速度を落とさず飛行できる。だが三人となるとそうはいかない。
それに、今は一分一秒を争うような時なのだ。ヒト種一人と、都市一つ。天秤にかけるまでもない。
「……じゃあ、俺を置いていってくださいよ!! 大丈夫です、剣もある。屍人も空の上だ!!」
リセリルカならば、少女を見捨てないだろう。
少なくともケルンは、盗賊の塒で見捨てられなかった。
だからこそ、自分はこうしてここにいるのだと。だからこそ、ここで何も見なかったふりをして行ってはいけないと。
そう思うが故の、ケルンの言葉だった。
エリーはしかし、ケルンをしっかりと掴んだまま速度を落とさない。
「駄目です。お嬢様に必要なのは私ではなく、もっと未来のあるケルン様ですから。お嬢様は、それが出来るからやるのです――出来ないことをしようとあがくのは、蛮勇だ」
「できるかどうかは、やって見なければ分からないでしょう!! これは、リセに言われた言葉だ。俺がさっきの女の子を助けられるかどうかだって――」
蹲っている弱者の手を取れない。
それが途轍もない自分に対する裏切りであるかのように、ケルンはまくしたてる。
「――違う!! ……私一人では、あの数の屍人は捌けないのです。私は……純粋な魔法使いは、近接にめっぽう弱い。私には、ケルン様の助けが必要だ」
ケルンの言葉を遮って、エリーは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
エリー・グリフォンスには、風魔法しかない。なんでもできる器量など、持ち合わせていない。
自分の限界を常に把握しているからこそ、なんでも出来ない事への悔しさを感じているからこそ、判断を絶対に間違えたくないのだ。
助けられるなら。すべてを拾ってゆけるなら、と。
何度エリーは思ったか、努力したか。
無茶、無謀――そうした失敗の後には、ありありとした結果が残る。ここで言う結果とは、都市の崩壊ならびに大切な人の死だ。
それだけは、エリーは許容できない。最悪だけは、防がなければならない。
ああ、なんて恰好の悪いことだろうか。
蛮勇でも、そこには勇気がある。そんな、何か無茶をしようとしているヒトに。自分ができないから助けて欲しいということの、なんと無様なことだろうか。
それでも、エリーは言う。
恥も外聞も、必要ない。できないことは、できないのだから。
悔やんでいる暇はない。悔やむ前に頭を回せ。
恰好良くなくていい、間違えるな。
エリー・グリフォンスは、万能じゃない――なくていいから、弱いなりに不屈であれ。
不可能に対し、全面的に屈するな。せめて次善を選び取れ。
それが、自分のやり方だ。
「……ズルいですよ、その言い方」
「ごめんなさい、ですが本心です……お互い、出来ることを増やしていきましょう、強くなりましょう。したいことをやり切るために」
力なく項垂れたケルンの背を叩き、エリーは前を向く。
屍人の集団。その統率者を発見するために、黒髪の少年と麗人の使用人は空からの捜索を行っている。
その最中、空を飛ぶ巨大なエイといった出で立ちの魔物『空鷂魚』を発見したエリーは、それに接近を試みようとしていた。
「かなりの高度に居ます。一気に上昇しますから、お腹に力を入れていて下さい」
『飛翔』の魔法で空を飛ぶエリーとケルンから、距離500Mの位置で空鷂魚は浮き沈みを繰り返している。
空間魔法『視界』で物体を認識する盲目のケルンにとっては、まだ魔物の姿は認識範囲外であり、彼が空鷂魚を認知するためには半径100Mまで近づかなければならなかった。
エリーが接近の選択肢を取ったのは、彼女が目視で観察するよりも、ケルンの魔法を用いた方がより高度な観察が可能であるからだ。
ベルグ東門前を飛び立ち、地上の屍人探索を始めた時から今までで、ケルンの空間魔法の有用性は立証されている。
「了解です……!!」
エリーの忠告にケルンがぐっと丹田に力を入れ、舌を噛まないよう口を噤む。
それを確認してから、エリーは風魔法の推進力を上向きに自分たちに対して叩きつけた。
「――っ……!!」
急激な上昇により、ケルンとエリーを重力加速度が襲う。
血の気が引いていく、眩暈が起こる前のような感覚にケルンは体を硬直させた。
二人は、高度30M程度から、一気に200Mまで垂直に上ってゆく。
『空鷂魚』より少し上――空に広がる、鈍色で10M四方の絨毯のようなその体の全容が、エリーの視界に映り込んだ。
これまで冷静を心がけていた使用人は、『空鷂魚』の上に乗っていたモノを見て、初めて驚愕で目を見開く。
「不味いッ――そういうことですか!! これなら屍人は、空を移動できる……足が遅かろうが、関係ない!!」
『空鷂魚』の上。魔族は脚が遅いという屍人の欠点を、空を移動する魔物に運ばせることで解消していた。
魔族はベルグ東門と南門を、同時に少数の屍人で襲撃。その門に注意が向いているタイミングで、ベルグ周辺に展開していた屍人を『空鷂魚』の上に乗せ撤退させていたというわけだ。
「エリーさん、何が……??」
「ケルン様。魔物の上に、屍人が乗っているのです……」
その状況を理解したケルンは、苦い顔をする。
エリーの風魔法『飛翔』で、ベルグから森林迷宮中部まで移動してくるのに、さほど時間はかかっていない。
『空鷂魚』の移動速度がエリーの魔法以上ということは無いだろうが、短時間で屍人の部隊を展開されるのは脅威だ。
エリーが門の守備を離れ、ベルグ周辺の屍人の様子を調べに来たのは、前提として移動手段が徒歩であると断じていたから。その移動方法が、遅い屍人の足であり、周辺に屍人が居なければ、暫くは安全が保障されることになる。
だが空路を使われると、いついかなる時でも門の守備は気を抜けない。しかもベルグの兵士だけでは守りが到底足りず、対空攻撃手段を持つ魔法使いも多く必要になってくるだろう。
「今の内に、俺達で落とせないですかね」
「っ……いえ、どうやら数が多すぎるようです」
エリーの視界に映ったのは。一匹の『空鷂魚』の遥か後方から一斉に浮かび上がる、無数の同種の魔物の姿だ。
――その数、優に百は下らない。
数多の『空鷂魚』は、エリーから500M先のそれを除いて、低空飛行している。高度を上げ過ぎると、空を覆う鈍色の帯がベルグからでも観測できてしまう。
低空飛行はヒト種側に、屍人の移動を悟られないための対策だろう。
「目の前の『空鷂魚』には、どうやら十匹程度の屍人が乗っていますね。後ろの大群も同様だと考えると、千以上。私単騎では到底太刀打ちできませんよ――最高速でベルグに戻らなければ、対策できずにこの大群が押し寄せてきます」
「……すみません、役に立てなくて」
「ケルン様。今は、落ち込んでいる時ではありませんよ」
ケルンの『視界』には、自分とエリー以外の何も映っていない。
魔法の認知範囲外の物体は、その輪郭すら知覚できないのだ。
彼は空間魔法を得て、人並みにはいろいろとできるようになったと思っていた。
だがどうだ、少し先の景色を見ることも、エリーの魔法のように遠距離の相手を攻撃することも出来ない。
(くそっ、こんなんじゃ全然ダメだろ。俺は何のためにここにいるんだ……!!)
視界に映った自身の顔は、感じている無力感を隠せてはいなかった。
だが、出来ないことを悔やんだところで、今は何が変わるわけでもない。
エリーの言に従って、ケルンは一度頭を振って思考を切り替える。
「魔物に何か動きは無いですか?」
「後ろの大群が、北西の方向に動き始めました!! ……かなり早いですね。ケルン様、私達もベルグに向けて移動します!!」
いうが早いか、エリーは風魔法『飛翔』に魔力を込める。
停止飛行中の二人の体を、強い風の力が叩きつける様にして運んでゆく。
「北西……? ベルグ側に進んでいるのは分かるんですけど。なんでだろう、ベルグ東門から標的を変えたのかな?」
「そういえば、南門でも同様に屍人の襲撃があったと聞きました。ヅィーオが対応しているはずですが……」
言っていて、エリーが表情を曇らせてゆく。
南門での屍人の襲撃と、大群の移動を結び付けると、おのずと嫌な予感が彼女の脳内を掻きまわした。
「……最悪を考えたら、南門が突破されそうなのかも。このタイミングで屍人を動かす理由としては、それが一番しっくり来るような気がして!!」
エリーの思考の言語化を待たず、同じ考えをケルンが口に出し。
ギリリと奥歯を噛み締めたエリーは、風魔法を自分達の斜め上から当て、加速させつつ高度を落とす。
「……ッ、もっと飛ばします!! しっかり私にしがみついて!!」
「了解で――えっ……!?」
高度が落ちたことによって、ケルンの『視界』に地上の様子が写り込む。
それが視界に写り込んだのは一瞬の事だったが、ケルンの思考速度は景色を違えず映し出した。
「どうしたのですか!?」
ケルンの動揺を見て、切羽詰まった声でエリーが問う。
「……女の子が、居ました。見た感じたぶん屍人じゃない、肌が綺麗だ。ワンピース姿で、花冠をかぶっている」
その場所は、少し開けていた。森林地域の高い木々の中で、偶然できた陽だまり。
日光を分け合うように、地面には少し背の高い花が咲いている。
ケルンの白黒の視界では、花の色までは分からない。
その花たちの中で少女は蹲り、おびえるように祈りを捧げていた。その頭には、足元の花で作ったのであろう、花冠が置かれている。
「……分かっているでしょう、戻って助けている暇はないと!!」
――「そんなわけない」という言葉を飲み込んで、エリーは厳しい声で言う。
ケルンの魔法の正確さは、エリーも実感している。だからこそ、その言葉に間違いはなく、彼が見えたといったら見えているのだ。
自分の主――リセリルカほどならばいざ知らず、エリーは自分の能力の不足を自覚している。
小さいケルンと二人ならば、『飛翔』の速度を落とさず飛行できる。だが三人となるとそうはいかない。
それに、今は一分一秒を争うような時なのだ。ヒト種一人と、都市一つ。天秤にかけるまでもない。
「……じゃあ、俺を置いていってくださいよ!! 大丈夫です、剣もある。屍人も空の上だ!!」
リセリルカならば、少女を見捨てないだろう。
少なくともケルンは、盗賊の塒で見捨てられなかった。
だからこそ、自分はこうしてここにいるのだと。だからこそ、ここで何も見なかったふりをして行ってはいけないと。
そう思うが故の、ケルンの言葉だった。
エリーはしかし、ケルンをしっかりと掴んだまま速度を落とさない。
「駄目です。お嬢様に必要なのは私ではなく、もっと未来のあるケルン様ですから。お嬢様は、それが出来るからやるのです――出来ないことをしようとあがくのは、蛮勇だ」
「できるかどうかは、やって見なければ分からないでしょう!! これは、リセに言われた言葉だ。俺がさっきの女の子を助けられるかどうかだって――」
蹲っている弱者の手を取れない。
それが途轍もない自分に対する裏切りであるかのように、ケルンはまくしたてる。
「――違う!! ……私一人では、あの数の屍人は捌けないのです。私は……純粋な魔法使いは、近接にめっぽう弱い。私には、ケルン様の助けが必要だ」
ケルンの言葉を遮って、エリーは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
エリー・グリフォンスには、風魔法しかない。なんでもできる器量など、持ち合わせていない。
自分の限界を常に把握しているからこそ、なんでも出来ない事への悔しさを感じているからこそ、判断を絶対に間違えたくないのだ。
助けられるなら。すべてを拾ってゆけるなら、と。
何度エリーは思ったか、努力したか。
無茶、無謀――そうした失敗の後には、ありありとした結果が残る。ここで言う結果とは、都市の崩壊ならびに大切な人の死だ。
それだけは、エリーは許容できない。最悪だけは、防がなければならない。
ああ、なんて恰好の悪いことだろうか。
蛮勇でも、そこには勇気がある。そんな、何か無茶をしようとしているヒトに。自分ができないから助けて欲しいということの、なんと無様なことだろうか。
それでも、エリーは言う。
恥も外聞も、必要ない。できないことは、できないのだから。
悔やんでいる暇はない。悔やむ前に頭を回せ。
恰好良くなくていい、間違えるな。
エリー・グリフォンスは、万能じゃない――なくていいから、弱いなりに不屈であれ。
不可能に対し、全面的に屈するな。せめて次善を選び取れ。
それが、自分のやり方だ。
「……ズルいですよ、その言い方」
「ごめんなさい、ですが本心です……お互い、出来ることを増やしていきましょう、強くなりましょう。したいことをやり切るために」
力なく項垂れたケルンの背を叩き、エリーは前を向く。
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白石マサル
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小説家になろうにて 「自己顕示欲の強い妹にプロデュースされる事になりました」 を書いてます