旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

「自由への代償『上』」


馬車の周りには、いつしか人が集まり始めていた。この光景はケルト帝国でも見たことがある光景だ。様々な荷物が馬車へと運ばれ、積まれて行く光景は、シャルルが護衛した際と同じだ。

その様子を、シャルルとナーシャは眺めていた。

「ねぇにゃる...。」

「んー?どうしたの?」

「...少しね、少しだけ怖いの」

「怖いって...馬車が怖いの?」

「うん...。」

ナーシャは俯いて、フードの裾を握りしめた。シャルルはなんとなく察する。

そうだ...この子はきっと、誘拐された時に馬車に乗せられてきたのだろう...と。

シャルルはナーシャに目線を合わせるように屈むと、フードの上からではあるが頭を撫でた。ナーシャの表情は相変わらず曇ったままだ。

シャルルは笑顔で、ナーシャを撫で続ける。

「大丈夫だよナーシャ。この人達は私を助けてくれた人達だから。ナーシャはまだ会って間もないし...見た目も怖い人が多いから怖いかも知れないけど...。でも...。」


「大丈夫、私を信じて___?」


その言葉に、ナーシャの表情が少しだけ明るくなった。そしてナーシャはシャルルに抱き着いて小さな声で耳元で言った。


「にゃる...。うん。分かった」

「よしよし、良い子良い子ー。」

ゆっくりと撫でながら、シャルルは立ち上がり周りを見渡した。1度深呼吸して、今回の作戦を思い出す。


___。。。____。。。。____。。

「。__同日、正午過ぎ。
ギルドハウスにて__。」

ケイはヴェデルディア王国の地図を広げ、ギルドハウスから関所までのルートを記していく。シャルルとナーシャと、今回の作戦に参加するギルドメンバーが集まり、地図を眺める。そんな中、ナーシャは布団の上でお休み中だ。

「皆集まってくれてありがとね。今回の仕事は、商人の護衛と二人の護衛となるわ。改めて聞いておくけど...、今回はもし何かトラブルがあれば最悪の場合牢獄に送られる可能性がある仕事よ。それでも私に協力してくれる?」

部屋にいるギルドのメンバーは、顔を合わせながら「もちろんだ」「ケイの頼みならなんのそのだ」「俺達に任せとけ」など前向きな人達ばかりだった。

「...ありがとう。今回は私も行くから、関所に関しては問題なく出国出来るはずよ。出国までのルートはいつも使ってる街道。怪しまれることは無いはずだけど...でも一番の危険ポイントは、国を出た後___。」

「国を出た後なの?てっきり出るまでが大変かなと思ってたのだけど...。」

「そうよシャルちゃん。もしも街中で、騎士団や雇われたギルドが商人を襲ったとしたら、それこそヴェデルディア王国騎士団の信頼に傷が付くわ。」

「でも、盗賊がーとか、誘拐犯だーとか何癖つけられないかな...。」

「だからこそ、そうならない為に今回は強力な助っ人を頼んであるから、安心して?」

ケイは微笑みながらそう言った。
シャルルはケイがそう言うのならと、小さく頷く。

「それで、国を出てからが問題になるのだけど...。そこからはいつ戦闘になってもおかしくないわ。敵は誰だか分からない。もしかしたら、私達の知るギルドかもしれないし、騎士団かもしれない...。」

「騎士団相手に遅れはとらねぇよ。俺達はヴェデルディア王国随一の冒険者ギルドだぜ?」と一人の男が言うと、皆そうだそうだと笑みを浮かべる。その様子にケイとシャルルは笑みを浮かべた。

「頼もしいわね...。でも最悪の場合戦闘になるって話であって、何事も無ければ二人を無事に送り届ける事が出来るはず。そうしたら、ケルト帝国に行ってゆっくり休んで貰って良いわ。」

そいつはいいや!みっちり豪遊してやるぜと、また笑い声が響き渡る。

「シャルちゃんとナーシャちゃんは、月光花の丘とリアクト街道の別れ小道でお別れになるわね...。ごめんね、本来なら迷いの森まで案内してあげたいんだけど。」

「いえいえ、ここまでしていただいてるし、それ以上の贅沢は出来ないです、ありがとね」

シャルルは笑顔で答えた。
案内まで頼むとなれば流石に頼りすぎだと思ってしまう。しかも今回は逃がして貰うために危険を犯そうと言うのだ。これ以上の贅沢は出来ない。

「...それじゃ、今回の作戦の流れは以上ね。細かい所はまた資料を渡すから目を通しておいて。解散!」

とケイが言うと、ぞろぞろと部屋からギルドのメンバーが部屋を後にしていく。
部屋に残ったのはシャルルとナーシャ。そしてケイの三人だ。

「シャルちゃん。一つだけ良いかな?」

「ん、どうかしました?」

「無事にビーストの村についても...。決してビーストの皆を怒らないであげてね。きっと、色々な言葉を言われるかもしれないけど...。争いを起こしたのは人間で、彼等に罪はないの。」

「うん...。分かってる。」

「ん...分かってくれてるなら良いの。迷いの森の何処かにビーストの村があるはずだから。」

「え、そうなの?」

シャルルはキョトンとした表情を浮かべた。
ケイも驚いたような表情を浮かべる

「...え?!迷いの森へ行くって言うからてっきりビーストの村へ向かうのかなって思ってたけど___」

「あはは...まぁ身を隠すなら迷いの森かなって。それに迷いの森に用事があったから...」

「はぁー...シャルちゃんは本当に行き当たりばったりって言うかなんて言うか...。良い?冒険者になろうとしてるのか分からないけど、しっかりしないと大変なことになるんだからね?」

「はーい...肝に銘じます。」

「それがシャルちゃんの良いところなのかもしれないけどね?...。本当に気を付けてね。」

ケイはナーシャを抱き寄せてそう言った。
シャルルはなんとも不思議な気持ちだった。
家族や両親を知らないシャルルは、ケイが母親なのではないかと思ってしまう。
自称伝説の旅人のお爺さんしか、シャルルにとっての身内は居なかったのだが。

家族とはきっとこんな、暖かな物なのかなと
シャルルは想像しながらシャルルも軽く抱き締める。

「色々ありがとねケイ。」

「...気にしないで。」

ケイはさっと手を離すと、部屋の外への出て行くのであった。











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