旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

2-4「飛行艇ブルースカイ」


不安と様々な疑問を胸に、シャルルは二日目の夜を過ごした。順調にいけば、明日の昼頃にはブルースカイの目的地である、ケルト帝国へと到着するはずだ。

そうなれば、もう空飛ぶ魚の魔物も、魔女だと名乗ったルーシェとも合わないですむ。
飛行艇に乗ってから随分、行き先不安な要素が沢山あったが、ここまでだろう。ケルト帝国についたらまずは何をしようかと、思考を楽しい方へと持って行く。


そうでもしなければ、また眠れぬ夜となりそうだったからだ。それでも、シャルルは今日の出来事を手帳へと書き記した。もしろん絵も描いてある。あの大きな魚影と、ルーシェの絵だ。

一応、一応...。もしかしたら?万が一があるかもしれない。いやないと思いたいが、もしもの為に、と。後は嫌な思い出だが、大切な旅の記憶だ。残しておいて損は無い。

シャルルは部屋の机に置かれていたケルト帝国のパンフレットに手を伸ばす。そういえば、一度も読んでいない。ピラリと1枚目を開いた。


______。.
さて、シャルルと飛行艇が向かっている次の目的地。ケルト帝国の話をしよう。

ケルト帝国、とはアルケナード大陸にある大きな商業都市だ。大陸で最も西側の海に面しており、ここでも新鮮な魚介類は有名な特産物である。デオールの街の周りにある海とは、海水温が違うために捕れる魚も種類も違う。


商業都市なだけあり、飛行艇ブルースカイの開発国でもある。デオールの街と雰囲気はよく似ているが、大きな違いと言えば、街の真ん中を大きな川が流れている事だろう。そして移動手段として船を用いている事も上げられる。


美味しい物を探すならケルト帝国!と太鼓判を押されるほどグルメも豊富。食べ歩きなら是非デオール帝国で!

ケルト帝国に関してはこんな所だ。
__________。.

ある程度目を通し、シャルルはパンフレットをまた机にと置いた。夕飯の時間になり、シャルルは食堂へと向かった。指定された時間は八時頃。

しかしシャルルはあまり今、人と会いたくない気分だった。ルームサービスを頼めるならそれでも良いが、そんなサービスはブルースカイには無い。


特にあのルーシェとは会いたくなかった。
今までの人生の中で、一番狂気を醸し出していたのではなかろうか...。まだ魔物の方がましかも知れないと思うほどに、シャルルはトラウマとなっていた。

一緒に夕食でも__。と言う気分にはならない。もっとまともな人と、出会いたい物だ。


だがそんな心配とは裏腹に、特に何事も無く夕食を食べ終えた。朝に心配してくれた食堂のおばちゃんが、シャルルがしっかり完食したのを見て安心そうに笑っている。

ごちそうさまーと声をかける。

「もう大丈夫?あの後眠れたかしら?」

「うん、しっかり眠れたよ!ありがとねおばちゃん」

「それは何よりね!貴女まだまだ若いんだからしっかり食べないと!」

「うん、色々ありがと!」

また明日と別れを告げて部屋へと戻る。
もう明日には到着だ。部屋を軽く片付けて、降りるときにバタバタしないようにしっかり準備しなければ!


自室に戻り部屋の明かりをつける。
ぼんやりと明るいランタンだ。


鞄の中身をチェック。
クローゼットの中をチェック。
ベルトもチェック。
そして師匠から貰った剣をチェック。
ストックされた小瓶と、虹の砂もチェック。


全部ある、大丈夫!あとは降りるときに忘れ物だけないようにするだけだ。部屋の掃除を軽く済ませると、今日は早めに寝よう、とランタンの火を消した。布団に入り、シャルルは久し振りにゆっくりと眠りについたのだった。



_________。○

同じ日の夜。
『???』にて___。

「どうだった。あの子は。」
暗闇から聞こえる男性の声。

「ふふふ...想像以上に素敵な子だったわ...」
とルーシェの不気味な笑い声。

「そうか...お前の事だ。早々に手を出すのではないかと思ったが___。」


「あらやだ...。いくら私でも出会い頭にそんな事しないわよ...?それに__。まだまだあの子は熟していないんだもの...。食べちゃいたい位に...可愛いかったのはあるけど...」


「まったく...お前と言う奴は...趣味の悪い。少しは自重したらどうだ。」

「ふふふ、何とでも言うと良いわ...?私は私のしたいようにするだけだもの...。それに、自重を知らない私と手を組もうなんて言い出したのはあなたよ?___。」

「分かった。分かったよルーシェ...。」

「ふふふ...ふて腐れて可愛い...。ふふふふ...あぁ...楽しみねぇ...凄く楽しみ...あぁ...本当に楽しみだわ...!」

舞を踊るような仕草の中、狂気に満ちた赤い瞳が、月明かりに照らされて闇夜に映る。そしてルーシェの手には、いつの間に出したのかグラシアの実が一つ。ふと立ち止まればそれを見詰めながら一口囓った。

「ふふふ...甘い果実は....やっぱり熟してから食べるのが一番よねぇ...。ねぇ...?シャルちゃん___?」

不気味なほど大きな月の下。
ルーシェの笑みは絶え間なく続いていた。
__________○。。。______


その日。
シャルルは夢を見た。

幼い頃の記憶をたどる夢。
所々抜けてしまっているけれど。

とても幸せな夢を見た。
それは現実ではないのかもしれない。

幼いシャルルと、両親が。
暖かなスープを作り、談笑しながら食卓を囲むような淡い夢__。

両親と、花の咲く丘で一緒に遊び回るような儚い夢。

しかしシャルルには、幼い頃の記憶が無かった。もしかしたら、シャルルの理想が夢となったのかもしれない。

偽りだとしても、淡く儚い夢だとしても。
シャルルにとっては、幸せな夢だった。

.........○。_______...。






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