旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

1-8「旅立ちの時-4」


次の日の朝。

外は青い空が広がり、太陽は燦々と輝いている。開けていた窓からは、暖かく優しい風が吹いていた。

そんな中、シャルルは身支度を調えていた。
ボロボロになってしまったコートは新しいコートに替え、帽子も新調した。

新しい旅路の時なのだ。せめて、綺麗な姿で新たな門出を迎えたい。

しかし、見栄えは変わらなかった。
そこはシャルルの拘りだ。
赤いコートと帽子だけは、どうしてもそのままがいい。

鞄の中身を確認しつつ、小さなナイフを入れた。これは今まで使っていた剣だ。少し加工して小さなナイフへと姿を変えたのだ。

今まで一緒に戦ってくれた相棒だ。置いていくのは、剣に申し訳ない。



鏡の前で、コートを羽織る。
そしてベルトを締め、師匠から貰った新しい剣を腰に下げた。

帽子をかぶり、準備万端。
いつでも出発出来る。

シャルルは今まで使っていた部屋を見渡した。数年使っていた部屋だ。この部屋にはもう戻れない。名残惜しいかと言われたら、そりゃ少しは名残惜しい。

でも、もうシャルルは弟子ではない。


___旅人だ。


机の上に置いていたチケットを手に取り鞄を背負って、シャルルは静かに部屋を出た。
そして、玄関へと歩き出す。

師匠の家の扉を開けた。
外から風が吹き込んでくる。


「___師匠。」


__シャルルは振り返らない。
後ろに師匠が居ることは分かっていた。
でも、もしも今振り返ったら、きっと此処から出られなくなる気がしたから。

「何じゃシャル。」

師匠は大きくなった弟子の背中を、暖かい目で見詰めていた。振り返らなくともシャルルには分かる。いつものように、優しい声だ。

「私...私ね__。」

「うむ、もう何も言わんでいい。お前の事じゃ。くだらん心配でもしとるんじゃろう。...___大丈夫じゃ。胸を張って行けば良い。何処までも。世界の果てまでな」

「うん...!」

シャルルは前を真っ直ぐに向いた。
振り返り、思いっきり師匠を抱き締めたい気持ちもあるが、それをねじ伏せる。


「それじゃあ師匠_。いってきます。」


「ああ。さらばじゃ。旅人よ__。」


大きな一歩を踏み出して、シャルルは歩き始めた。これまでの外出とは違うのだ。もう此処には帰ってこない。


ここには沢山の思い出があった。
辛い事、楽しい事、苦しい事、嬉しかった事。数え出すときりが無い。


そんな沢山の思い出に、涙を流したくなる気持ちを必死に押さえ、シャルルは笑顔で歩いて行く。

そんな弟子の背中を小さくなるまで、師匠は見守っていた。

「シャルロット...。我が弟子ながら、立派になりよったの...。」

師匠の小さな呟きを、風がかき消してしまったのだった。

______。

___。












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