旅人少女の冒険綺譚
1-5「試練の洞窟-2」
奥へと走り続けるシャルルだが、どうも様子がおかしいと気が付いたのは、洞窟の中枢に差し掛かった時だった。
本来であれば、頻繁に魔物が出てくる試練の洞窟。しかし、最初に出くわした三匹の魔物以外、遭遇していない。
シャルルにとっては好都合なのだが、流石に何かがおかしいと足を止めた。
走ってきた道を振り返る。ここまでは一本道だったはずだ。迷うことはない。
シャルルは腰に下げた剣の鞘を握り、剣をいつでも抜けるように警戒した。ふと嫌な予感がしたからである。
剣を構えながら前へとゆっくりと進むと、広い場所に出た。天井も、今まで来た道に比べれば高い。
シャルルが広場の真ん中へと差し掛かった時、嫌な予感は見事的中してしまう。
「やっぱりこうなるよね...どおりで魔物が出てこないと思った」
シャルルを中心として、黒い靄が吹き上がる。そして次々と魔物が姿を現した。
シャルルは剣を抜くと、周りを見渡しながら剣を構える。
魔物の数は、今までよりもかなり多い。シャルルを囲むように現れた魔物たちは、威嚇しながら攻撃を仕掛けようと身構えている。
シャルルも、当たりを見ながら油断しないように剣先を魔物達に向け、威嚇を仕返す。
油断を見せれば、いつ攻撃されてもおかしくはない。まさに一触即発だ。
激戦になるなと覚悟を決めて、シャルルは唾を飲み込んだ。これだけの相手。しかしここを超えなければ少年の期待も、自分の依頼もこなすことは出来ない。
やってやる。やらねば!
自分の為に。少年の為に。
深呼吸をして、集中力を高める。
魔物が一匹飛び掛かってくると、周りの魔物も一斉に飛び掛かった。
___試練の洞窟。
シャルルに降りかかる試練は、これからが本番を迎えようとしていた__。
_______。
一方、シャルルの帰りを待つ少年は、切り株の上に座り、空を眺めていた。時折落ち着かない様子で当たりを見渡したり、切り株の周りを歩いたり。どうもシャルルが心配な様子だ。
洞窟の奥から、たまに聞こえてくる魔物の咆哮。その声にビクリと体をはねさせつつも、少年はシャルルを待っていた。
「僕にも戦う力があればな...うぅ...怖いよ...シャルルお姉ちゃん...」
非力な少年は、虹の砂の入った小瓶を両手で握りしめ、ぽつりと呟いた。
助けられてばかりで申し訳ない気持ち。
助けたくても助けられない不甲斐ない気持ち。魔物に対する恐怖__。
そしてただ無事を祈ることしか出来ないもどかしい気持ち。様々な気持ちが少年の心を掻き乱した。
「これは私の大切な物だから__。」
シャルルに託された小さな小瓶を、少年は抱き締める。
どうか無事でありますように__。
祈ることしか出来ないのなら、祈るしかないと少年は心に決め、切り株の上でただ空に、シャルルの無事を祈り続けるのだった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
1359
-
-
58
-
-
267
-
-
841
-
-
26950
-
-
4
-
-
768
-
-
11128
-
-
52
コメント