えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜

平尾正和/ほーち

4-4 カジノのお誘い

「アラーナって、ギャンブル好きなの?」

 食後、ソファの上に膝を立てて座り、ちびちびとカフェオレを飲んでいたアラーナに陽一が問いかけた。

「き……嫌いではないかな」
(あ……、これ絶対好きなやつだ)

 恥ずかしげに目をそらしながら答えるアラーナを見て、陽一はそう予想した。

「実里は?」
「私は……、あんまり興味ないですね」

 実里は今日一度も馬券を買わなかったので、それは本心からの答えなのだろう。
 まぁ競馬場内での買い食いなどは楽しんでいたようなので、今日一日の同行に不満があったということはなさそうだが。

「花梨はどう?」
「んー、カードとかは嫌いじゃないけどねぇ。日本ではやんないかな」
「じゃあ海外ではやるんだ?」
「まぁ出張で行けばつき合いでやることもあるのよね。中には面白いゲームもあるかな」

 そんなやりとりに、アラーナが軽く首を傾げる。
「賭けごとが、どうかしたのか?」

「いや、そろそろ銃弾の補充がしたいと思ってさ」
「それが賭けごととなんの関係があるのだ?」
「この国じゃ手に入りづらいものが多くてね。だったら一度海外に行くのもありなのかなって」
「……ふむ。それで?」
「海外には賭けごとで成り立ってる町が――」
「よしっ、行こう!!」

 と、少し食い気味に返事をするアラーナであった。

「あ、実里はどうなの? あんまりギャンブルとか興味なさそうだけど……」
「賭けごとの町って、あそこですよね?」

 陽一は米国にある有名な町の名を告げ、詳しく話を聞きたがったアラーナに町のことを簡単に説明した。

「ほう、砂漠に突如現われる町とは、なにやら我がメイルグラードに通じるものがあるな」
「たしかに、言われてみればそうかも。で、実里的にどう?」
「そこなら行ってみたいです」

 聞けば実里は海外ドラマをそこそこ見るようで、その町のカジノホテルを舞台にした少し古いドラマや、科学捜査をテーマにしたドラマを好み、実際にどんなところか見てみたいのだという。
 ギャンブルの町というが、カジノ以外にもサーカスやコンサートといったショーなどの娯楽も充実しているので、行けば誰でも楽しめるという話は陽一も小耳に挟んだことがあった。

「花梨は行ったことある?」
「もちろん! なんならあたしが案内したげるわよ?」
「おお、そりゃ心強い」

 しかし、そこでふと実里の表情が沈む。

「あ、でも私パスポート持ってないです……」
「あちゃー……。そりゃまずいわね」

 花梨はそう言ったが、陽一はとくに気にした様子もなく口を開いた。

「それをいうならアラーナは戸籍すらないからね。その辺は心配しなくていいよ」

 陽一自身は、以前申請していたパスポートはすでに受け取っているので、パスポートを持っている花梨とふたりでまず渡航する。
 あとは適当なホテルをとってホームポイント設定したうえで【帰還+】を使ってふたりを連れていく、というのが陽一の計画だった。

「お、いまから空港に行ったらちょうど乗れそうな便があるなぁ」

 スマートフォンで適当に検索をかけていたところ、ぼちぼち空港に向かって搭乗手続きをすればちょうど乗れそうな時間に出発する便があったので、陽一はそのままチケットを取った。

「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
「いや行ってくるって、あんた荷物とかどうすんのよ」

 ちょっとそこまで行ってくる、という感覚で玄関に向かう陽一を花梨が呆れた様子でひきとめる。

「荷物? 必要な物は【無限収納+】に入ってるからべつにいらないだろ?」
「手ぶらで渡航する気? あと向こうでの滞在先は?」
「着いてから考えればいいんじゃない? モーテルとかさ」
「はいアウトー!」

 花梨が親指を立てた拳を陽一に突きつける。

「アウトって……なんでだよ?」
「あのねぇ。テロが横行する昨今、滞在先も決めてない手ぶらのアジア系外国人なんて怪しすぎるに決まってんでしょうが!!」
「そういうもん?」
「そういうもん!」

 海外旅行に行く際は、かならず滞在先と滞在期間、滞在目的を明らかにし、それに応じた荷物を用意しておく必要があるのだ。

「へええ。外国ってそういうところ厳しいのな」
「なに言ってるのよ……。外国人が日本に入るときだって同じくらい厳しいに決まってるじゃない。入国管理ってそういうもんよ?」
「うむうむ。私も何度か帝国に行ったことはあるが、国際機関である冒険者ギルドに所属していても、入国手続きは面倒だったな」

 と、異世界においてだが国境を越えたことのあるアラーナは感心したようにそう言って何度も頷く。
 一方、海外旅行経験のない実里はよくわからず首を傾げるにとどまった。

「じゃあホテルはあたしがいい感じのところとっておくから、荷物は途中のディスカウントショップで適当にそろえましょうか」
「わかった。任せる」

 そう言って陽一と花梨は立ち上がり、玄関へと向かった。

「あの、お気をつけて」
「うむ、ヨーイチ殿、カリン、気をつけてな。留守は私たちに任せてくれ」
「ああ。明日には迎えにこれると思うから」
「ふたりとも、またあとでね」

 そう言い残し、陽一と花梨は部屋を出ていくのだった。

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