えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜

平尾正和/ほーち

3-11 異世界行きの準備

 少し落ち着いたところで、陽一は花梨にすべてを話して聞かせた。
 事故にあってスキルを得たこと、スキルを使って武器や資金を得たこと、実里との出会い、異世界のこと、アラーナが異世界の人間であることなどを隠すことなく伝えた。
 すべてを知って、自分とともにいられないと花梨が感じたのなら、引き止めるつもりはない。

「あ……ああ……」

 すべてを聞き終えた花梨は、唖然とした表情で短く声を漏らす。そして――、

「あたしも連れてけー!!」

 陽一にそう訴えたのだった。

「はぁ……。お前ならそう言うと思ったよ」

 呆れたように、しかしどこか安心したように、陽一は軽く首を振りながらそう呟いた。

「あたりまえでしょーが! アンタにラノベ教えたの誰だと思ってんのよ?」
「あー、そういえばそうだったな」

 陽一は幼少期から漫画やアニメ、ゲームなどには触れてきたが、ライトノベルとは縁がなかった。
 そんな陽一にライトノベルをすすめたのが花梨だったのだ。

 花梨の思惑通り、陽一はライトノベルにどっぷりとハマった。
 後年ウェブ小説を読むようになるのだが、異世界ファンタジーに触れる下地はそのときにできたといってもいいだろう。

「ったく、あたしより先に異世界行ってんじゃないわよ。陽一のくせに!」
「なんだよそれ。ってか、いくらなんでもすんなり信じすぎじゃね?」
「そりゃ普通は信じらんないでしょうけど、こんなの渡されたら信じるしかないでしょうが!!」

 花梨は首にさげたネックレスをつまみ上げ、陽一に訴える。
 それは意思疎通の魔道具であり、本来言葉が通じるはずのないアラーナとの会話を成立させるものだった。

「っていうか、手っ取り早く納得させるために、これをあたしに渡したんでしょう?」
「まぁ、それもある、かな」

 どうやら陽一の意図などお見通しのようである。

「えっと、実里ちゃんも、異世界に行きたいんだよね……?」

 そう言って視線を向けると、実里がどこか不満げな視線を陽一に向けていた。

「あの、実里ちゃん……?」
「その……ちゃんづけは、必要ですか……?」
「はい?」
「花梨とアラーナは、呼び捨てなのに……」

 実里はうつむきがちにそう言いながら、軽く口をとがらせていた。

「えっと、呼び捨てのほうがいいのかな?」
「ん、べつに嫌ならいいですけど……」

 実里は口をとがらせたまま陽一から目を逸らした。

「あー、じゃあ……実里……?」

 実里が、バッと陽一を見る。

「……は、はい」
「おぅ……」

 少し照れながらも嬉しそうな実里の笑顔に、陽一は思わず声を漏らしてしまった。

「あら、かわいい……」
「ふふ……」

 花梨とアラーナはその様子をニヤニヤと笑みを浮かべながら眺めていた。

「じゃあ、あらためて……、花梨とその……実里、を異世界に連れていくかどうかだけど」
「行くに決まってんでしょ」
「私も、行きたいです……」
「私としてもふたりの希望を叶えてやりたいな」
「そりゃ俺だって花梨と実里ちゃ――いや、実里、の意見を尊重したいけどさ。でもなぁ……」

 陽一が花梨と実里と、そしてアラーナに視線を向ける。
 花梨は胸をそらして自身ありげな表情を、実里は不安げな表情を浮かべている。
 ふたりの様子に戸惑う陽一を見て、アラーナは少々呆れ気味だった。

「ヨーイチ殿がなにを心配しているのか知らんが、町中を歩くぐらいなら大した危険はないと思うぞ? なにもいきなりジャナの森へ行って魔物と戦う必要があるわけではないのだし」
「あー、言われてみればそれもそうか」

 陽一は自分が初めて異世界を訪れたときのことを基準に考えていたようだ。

 そしてアラーナを伴って異世界を訪れたときも、同じくジャナの森へ【帰還】したので、異世界に行くことが、すなわち魔物との戦いやサバイバルを耐え抜くということであると思いこんでしまっていたのだ。

「とりあえず宿屋に飛べば問題ないか。うん」

 陽一は独り言のように呟き、何度か頷くと、並んで座る花梨と実里のほうへ視線を向けた。

「じゃあ、朝ごはん食べたら異世界に行こうか」

 その言葉に、花梨はふふんと鼻で笑い、実里の表情はぱぁっと明るくなる。

「だから最初っからそう言ってんでしょうが」
「はい……!!」

(花梨は相変わらずだな……。にしても、実里はこんな笑顔もできるんだなぁ)

 と、陽一は心の中で呟きながら、自分も微笑んでいることに気づいた。

○●○●

「ごめんね、つき合わせちゃって」
「いや、俺が一緒のほうが早いからな」

 陽一は花梨につき添って彼女の部屋を訪れていた。
 シンプルであまり物が多くなく、しっかり片づいているが、ちゃんと生活感のある居心地のいい部屋だった。
 陽一はリビングのソファにもたれ、花梨に淹れてもらったコーヒーを飲みながらくつろいでいた。
 一方、花梨はバタバタとクローゼットや押入れを漁っている。
 そうして30分ほど経ったところで、ようやく準備が整ったようだ。

「おまたせー」
「お、そのジャージ久しぶり」

 そこには赤いジャージを身にまとった花梨が立っていた。

「ふふ、アタシにとっての戦闘服はやっぱこれでしょう」

 花梨は高校時代にアーチェリーを始め、スポーツ推薦で大学へと進学した経験がある。
 大学でもアーチェリーを続けており、彼女が着ている赤いジャージは大学のサークルで支給されるものだった。
 ジャージ以外に、左胸を覆う黒いチェストガード、左前腕にはプラスチック製のアームガードを身に着け、室内のため履いてはいないが当時使っていたのだろう、スニーカーも用意されていた。
 そして手には滑車つきの大きな弓。

「その弓なに? ごつくない?」
「これね、コンパウンドボウっていうんだけど、すごいんだよ?」

 日本のアーチェリー界では、主にリカーブボウが使われており、学生時代の花梨もそれを使っていた。

「出張でアメリカに行ったとき、話のネタにアーチェリーやってたって言ったら“これ使ってみろ”って言われてさ。で、ドハマリして買っちゃったの」

 花梨は嬉しそうに話しながらストリングを引き、空打ちをする。

「張力を25ポンドから75ポンドまで調整できるすぐれものでね。スタビライザーとスコープサイトもいちばんいいやつつけてるから、素人でもそこそこ使えるの。ま、あたしは素人じゃないけどねー」

 コンパウンドボウ本体以外に、メンテナンス用品や替えのストリング、練習用の矢数十本を受け取った陽一は、それらを【無限収納+】に収めた。

「わっ、ホントに消えちゃった……」
「いつでもだせるぞ。ほら」

 陽一の手にコンパウンドボウが現われる。

「おお! なんかちょっと綺麗になってない?」
「おう。メンテナンス機能つきだから」
「わぉ、便利ー! じゃこれもお願いー」

 再びコンパウンドボウを収納した陽一に、花梨はチェストガードとアームガードを渡し、それらも収納してもらった。

「あー、だったらこれも綺麗にしといてもらえばよかったかなぁ。ずっとしまってたから、防虫剤の匂いが結構キツいかも」

 そう言いながら、花梨はジャージの袖をクンクンと嗅ぐ。

「ん、だったらいまやってやるよ」
「いまって……ええっ!?」

 陽一は花梨の腰と尻のあたりに触れ、ジャージを【無限収納+】に収めた。

「ちょ、いや、なにすんのよっ!?」

 ジャージを脱がされた花梨が、自身を抱きしめるような姿勢で身をよじる。
 赤いジャージの下には下着とTシャツしか来ていなかった。
 Tシャツの下のブラジャーがすけて見え、ショーツはまる見え、ムッチリとした太もももあらわになった。

「んー、眼福眼福」

 花梨の肢体に関していえば、もっとあられもない姿を何度も見ている陽一だったが、これはこれでそそるものがあった。

「ばかぁっ! 早く、返しなさいよっ……!!」
「はは、悪ぃ悪ぃ」

 少し涙目になって訴える花梨をかわいく思いながら、陽一はメンテナンス機能で綺麗にしたジャージを取り出した。

「よこしなさいっ!! んもう……ったく、油断も隙もないんだから……」

 花梨はジャージをひったくると、陽一に背を向けてジャージを着始めた。

(女の人が服を脱ぐ姿ってのはいうまでもなくエロいけど、服を着る姿もこれはこれでエロいよなぁ)

 そんなこと考えながら、陽一は花梨を凝視したのだった。

「じゃ、行くよ」
「ふん。いつでもどうぞ」

 玄関で靴を履き、傍らに立つまだ少し不機嫌な花梨を抱き寄せる。
 腰に手を回しても特に抵抗がないのを確認し、陽一は『グランコート2503』へ【帰還】した。

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