えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜
3-4 実里に打ち明ける
結局陽一はいろいろと考えあぐねた結果、実里にすべてを話すことにした。
事故にあったことから管理者とのこと、スキルや異世界のことなどを、順を追って説明していった。
「まぁ一緒に暮らすんならいずれ話すことになってたと思うし、それがちょっと早まっただけだから。アラーナ、そういじけるなって」
アラーナは先ほどからジャージ姿のまま膝を抱えてうつむいていた。
考えなしに魔道具を実里に渡してしまったことが、どうやら陽一の迷惑に当たる行為だということに気づいたためである。
「すまぬ。ミサト殿も混乱させてしまったようだし……」
「だから、過ぎたことはもういいって。むしろ実里ちゃんに事情説明する機会をくれてありがとな、うん」
「むぅ……」
その発言が自分を気遣ってのこととわかるだけに、アラーナは胸のあたりが締めつけられるようだった。
いっそ怒ってくれでもしたらもう少し感情のやり場もあるのだろうが、陽一はこのことでこれ以上アラーナを責めないだろう。
胸に渦巻くなんともしがたい感情は自分で処理するしかないようだ。
怒ってほしいと思うこと自体、陽一に対する甘えであろう。
さて、陽一から説明を受けた実里だが、無表情のままである。
ここを訪れたときは珍しく感情を表に出していたのだが、陽一の説明を聞くにつれ、いつもの無表情に戻っていった。
そしてひととおり話を聞き終えたいまもまだ無表情のままなのだが――。
(目がキラッキラしてるようにみえるのは気のせいだろうか?)
陽一を見る実里の目は輝き、無表情ながらも鼻息が荒いように感じられなくもない。
しかし、それ以上の反応がない。
それはそうだろう。
いきなり異世界だのスキルだのと言われて理解できるほうがおかしいのである。
いずれ詳しい説明は必要だろうが、とにかく一度落ち着いてもらったほうがいいだろう。
「えーっと、そうだ。これ」
と、陽一は【無限収納+】から紙袋をいくつか取り出した。
それは以前実里が陽一の部屋を訪れた際、デパートで購入した服や化粧品の類だった。
「前、置いていったよ……ね……?」
「あ……あ……」
実里が口を大きく開け、陽一が取り出した紙袋を指差す。
突然なにもないところから紙袋が現われたことに対する驚きかと思われたが……。
「アイテムボックス!!」
「いや、イケるクチ!?」
聞けば実里にはスマートフォンをいじるぐらいしか娯楽がなく、与えられていたそれもMVNO――いわゆる格安SIMを利用するタイプのもので、1日あたり100MB前後のデータ容量しかなかったらしい。
義弟による一種の束縛であろう。
ゲームをするにも動画を見るにも少なすぎる容量である。
そこでたどり着いたのがウェブ小説と呼ばれるものであった。
テキストデータのみのウェブ小説であればデータ容量をあまり消費することもないし、仮に速度制限がかかっても読み込みが少し遅くなる程度なので、時間のあり余っていた実里にとっては大した問題ではない。
ウェブ小説を読んでいればいずれファンタジーもののライトノベルに行き当たるのは必然であり、実里はあり余る時間の大半を脳内の幻想世界で過ごしていたのである。
「えっと、じゃあさっきの説明でだいたいわかってもらえた感じ?」
「はい、なんとなく」
単に言葉だけの説明では、実里も理解はできなかっただろう。
しかし、目の前に見たこともない絶世の美女がいて、その女性が意味不明な言葉を喋っていて、さらに渡された魔道具とやらでその言葉がわかるようになり、そのうえなにもないところから物が出現する様子を見たのである。
フィクションを元にしているとはいえ事前知識があれば、まぁ理解できなくもないのであろう。
「……もしかしてだけど、その、異世界に行きたいとか」
「行きたいです」
「だよねぇ……」
詳しい事情は知らないものの、現実逃避のようなかたちで陽一のもとを訪れた実里のことである。
異世界というものに忌避感がないのであれば、そこが逃避先の延長線上にあってもおかしくはあるまい。
実際陽一も自身がいまの状況にいたる前は生活に困窮していた、未来の見えないワープアである。
現実から逃げたいという実里の気持ちはわからなくもないのだった。
「行きたいというのであれば連れていってやればよい」
現在意思疎通の魔道具はアラーナが装備している。
なので、陽一と実里の会話は理解できる。
「いや、でもなぁ」
【世渡上手】があるので、実里を異世界につれていくこと自体は問題ないだろう。
しかし、ただの一般人である実里が、異世界でどんな危険にあうかわからない以上、慎重にならざるを得まい。
「ミサト殿のことは私が命に変えても守ってみせる。だから、彼女の願いを聞き入れてやってもいいのではないか?」
その申し出には先ほどの失態の埋め合わせのような意味もあるのだろう。
陽一としてもそれがわかるだけに、アラーナの言葉を聞き入れてやりたいとは思う。
護身用に銃を持たせればなんとかなるのかもしれないが、果たして実里に使いこなせるかどうか、微妙なところである。
「とりあえず実里ちゃんの異世界行きはもう少し考えるとして……、アラーナ」
「なんだ?」
「その、意思疎通の魔道具ってのは簡単に手に入るものなの?」
「多少値は張るが道具屋でもギルドでも売っているぞ」
「とりあえずそれを用意するのが先決だな」
あまり実里を待たせるのもよくないのと、着替えるのも面倒ということで、陽一とアラーナはジャージの上からローブだけを羽織った。
「すぐに戻ってくるから待ってて」
目の前からふたりの姿が消え、実里は目をみはった。
待っているあいだに実里はラフな部屋着に着替え、いつものようにウェブ小説の世界に没頭しようとした。
「あ……」
しかし、ここに来る前、持っていたスマートフォンを叩き壊したことを思い出した。
結局実里はなにをするでもなくぼんやりと過ごした。
以前はこうやってなにもせずぼうっとしているだけでも、時間はあっという間に過ぎていったのだが、いまは時間が経つのが異常に長く感じられた。
30分と経たずに陽一とアラーナは戻ってきたのだが、実里は永遠に近い時間の流れを感じており、無事ふたりが自分の前に現われたことに、思わず涙が出そうになった。
「ごめん、待たせちゃった……?」
陽一からすればたかが30分程度という感覚だったので、思いのほか自分たちの帰りを待ちわびていた様子の実里に、少し戸惑った。
「いいえ。大丈夫です」
実里はそう言いながら、いつもの無表情に戻り、軽く首を振った。
「ピアス、大丈夫?」
意思疎通の魔道具だが、行動の邪魔にならず、外れにくいピアスタイプがやはり人気であり、アラーナもそのタイプのものを利用している。
とりあえず陽一はピアスタイプのものとネックレスタイプのものを購入していた。
「大丈夫です」
「えっと、ピアッサー……、買ってくるか」
さすがにこちらの世界でローブを羽織ったまま出歩くわけにもいかず、陽一は上はジャージのまま、下だけデニムに穿き替えた。
「悪いけど、留守番よろしく」
「うむ、任せておけ」
「はい」
すでに意思疎通の魔道具は実里に手渡しているので、アラーナとの会話は可能である。
もしかすると初対面同士で居心地の悪い思いをさせるかもが、一緒に住むのだから早めに慣れておいてもらったほうがいいだろうと思い、陽一はひとりで近くのディスカウントショップへ出かけた。
「お待たせ」
30分ほどでピアッサーを買って帰宅すると、陽一はアラーナと実里になにやら熱のこもった視線を向けられた気がした。
ふたりでなにを話していたのか気になるところだが、それを聞くのはなんとなく野暮な気がしたので、早速実里の耳にピアスを着けることにした。
「っつ……!!」
耳たぶに穴を開ける瞬間、少しだけ実里の顔が苦痛に歪んだが、それ以上どうということもなく無事ピアスを装着できたのだった。
購入した魔道具だが、最高級のものを用意した。
ピアスタイプのもので金貨5枚、ネックレスは金貨8枚だった。
実里に対するプレゼントの意味もあるので気合いを入れて高級品を買った、という気持ちがゼロではないが、どちらかというと性能を重視した結果である。
物によって精度が異なるということもあるが、重要なのは動力源であった。
魔道具である以上、その動力源として魔力が必要なはずである。
しかしこの世界に魔力はない。
にもかかわらず、アラーナのピアスは問題なく動作していた。
これを【鑑定+】で調べたところ、アラーナが身に着けていたピアスはピアスポスト(耳に通す針の部分)がミスリル製で、本体はオリハルコンでできた最高級品であることと、その動力の仕組みがわかった。
ミスリルは魔力伝導率が高く、オリハルコンは魔力を蓄積する性質がある。
この魔道具は使用者の魔力を、ミスリル製のピアスポストを通じてオリハルコンの本体に貯めるというかたちで動力を得ているのである。
ほかの金属でも魔力を通したり蓄積したりできないわけではないが、効率が悪くなるぶん消費魔力も大きくなるのだった。
実里はこちらの世界の住人のため魔力を持たない――実際には持っているがまだ陽一も本人も知らない――が、ピアス本体に蓄積できる魔力だけでもひと月、オリハルコン含有量が多いネックレスタイプなら半年ほどは使用可能なようなので、アラーナに魔力を貯めておいてもらっていた。
事故にあったことから管理者とのこと、スキルや異世界のことなどを、順を追って説明していった。
「まぁ一緒に暮らすんならいずれ話すことになってたと思うし、それがちょっと早まっただけだから。アラーナ、そういじけるなって」
アラーナは先ほどからジャージ姿のまま膝を抱えてうつむいていた。
考えなしに魔道具を実里に渡してしまったことが、どうやら陽一の迷惑に当たる行為だということに気づいたためである。
「すまぬ。ミサト殿も混乱させてしまったようだし……」
「だから、過ぎたことはもういいって。むしろ実里ちゃんに事情説明する機会をくれてありがとな、うん」
「むぅ……」
その発言が自分を気遣ってのこととわかるだけに、アラーナは胸のあたりが締めつけられるようだった。
いっそ怒ってくれでもしたらもう少し感情のやり場もあるのだろうが、陽一はこのことでこれ以上アラーナを責めないだろう。
胸に渦巻くなんともしがたい感情は自分で処理するしかないようだ。
怒ってほしいと思うこと自体、陽一に対する甘えであろう。
さて、陽一から説明を受けた実里だが、無表情のままである。
ここを訪れたときは珍しく感情を表に出していたのだが、陽一の説明を聞くにつれ、いつもの無表情に戻っていった。
そしてひととおり話を聞き終えたいまもまだ無表情のままなのだが――。
(目がキラッキラしてるようにみえるのは気のせいだろうか?)
陽一を見る実里の目は輝き、無表情ながらも鼻息が荒いように感じられなくもない。
しかし、それ以上の反応がない。
それはそうだろう。
いきなり異世界だのスキルだのと言われて理解できるほうがおかしいのである。
いずれ詳しい説明は必要だろうが、とにかく一度落ち着いてもらったほうがいいだろう。
「えーっと、そうだ。これ」
と、陽一は【無限収納+】から紙袋をいくつか取り出した。
それは以前実里が陽一の部屋を訪れた際、デパートで購入した服や化粧品の類だった。
「前、置いていったよ……ね……?」
「あ……あ……」
実里が口を大きく開け、陽一が取り出した紙袋を指差す。
突然なにもないところから紙袋が現われたことに対する驚きかと思われたが……。
「アイテムボックス!!」
「いや、イケるクチ!?」
聞けば実里にはスマートフォンをいじるぐらいしか娯楽がなく、与えられていたそれもMVNO――いわゆる格安SIMを利用するタイプのもので、1日あたり100MB前後のデータ容量しかなかったらしい。
義弟による一種の束縛であろう。
ゲームをするにも動画を見るにも少なすぎる容量である。
そこでたどり着いたのがウェブ小説と呼ばれるものであった。
テキストデータのみのウェブ小説であればデータ容量をあまり消費することもないし、仮に速度制限がかかっても読み込みが少し遅くなる程度なので、時間のあり余っていた実里にとっては大した問題ではない。
ウェブ小説を読んでいればいずれファンタジーもののライトノベルに行き当たるのは必然であり、実里はあり余る時間の大半を脳内の幻想世界で過ごしていたのである。
「えっと、じゃあさっきの説明でだいたいわかってもらえた感じ?」
「はい、なんとなく」
単に言葉だけの説明では、実里も理解はできなかっただろう。
しかし、目の前に見たこともない絶世の美女がいて、その女性が意味不明な言葉を喋っていて、さらに渡された魔道具とやらでその言葉がわかるようになり、そのうえなにもないところから物が出現する様子を見たのである。
フィクションを元にしているとはいえ事前知識があれば、まぁ理解できなくもないのであろう。
「……もしかしてだけど、その、異世界に行きたいとか」
「行きたいです」
「だよねぇ……」
詳しい事情は知らないものの、現実逃避のようなかたちで陽一のもとを訪れた実里のことである。
異世界というものに忌避感がないのであれば、そこが逃避先の延長線上にあってもおかしくはあるまい。
実際陽一も自身がいまの状況にいたる前は生活に困窮していた、未来の見えないワープアである。
現実から逃げたいという実里の気持ちはわからなくもないのだった。
「行きたいというのであれば連れていってやればよい」
現在意思疎通の魔道具はアラーナが装備している。
なので、陽一と実里の会話は理解できる。
「いや、でもなぁ」
【世渡上手】があるので、実里を異世界につれていくこと自体は問題ないだろう。
しかし、ただの一般人である実里が、異世界でどんな危険にあうかわからない以上、慎重にならざるを得まい。
「ミサト殿のことは私が命に変えても守ってみせる。だから、彼女の願いを聞き入れてやってもいいのではないか?」
その申し出には先ほどの失態の埋め合わせのような意味もあるのだろう。
陽一としてもそれがわかるだけに、アラーナの言葉を聞き入れてやりたいとは思う。
護身用に銃を持たせればなんとかなるのかもしれないが、果たして実里に使いこなせるかどうか、微妙なところである。
「とりあえず実里ちゃんの異世界行きはもう少し考えるとして……、アラーナ」
「なんだ?」
「その、意思疎通の魔道具ってのは簡単に手に入るものなの?」
「多少値は張るが道具屋でもギルドでも売っているぞ」
「とりあえずそれを用意するのが先決だな」
あまり実里を待たせるのもよくないのと、着替えるのも面倒ということで、陽一とアラーナはジャージの上からローブだけを羽織った。
「すぐに戻ってくるから待ってて」
目の前からふたりの姿が消え、実里は目をみはった。
待っているあいだに実里はラフな部屋着に着替え、いつものようにウェブ小説の世界に没頭しようとした。
「あ……」
しかし、ここに来る前、持っていたスマートフォンを叩き壊したことを思い出した。
結局実里はなにをするでもなくぼんやりと過ごした。
以前はこうやってなにもせずぼうっとしているだけでも、時間はあっという間に過ぎていったのだが、いまは時間が経つのが異常に長く感じられた。
30分と経たずに陽一とアラーナは戻ってきたのだが、実里は永遠に近い時間の流れを感じており、無事ふたりが自分の前に現われたことに、思わず涙が出そうになった。
「ごめん、待たせちゃった……?」
陽一からすればたかが30分程度という感覚だったので、思いのほか自分たちの帰りを待ちわびていた様子の実里に、少し戸惑った。
「いいえ。大丈夫です」
実里はそう言いながら、いつもの無表情に戻り、軽く首を振った。
「ピアス、大丈夫?」
意思疎通の魔道具だが、行動の邪魔にならず、外れにくいピアスタイプがやはり人気であり、アラーナもそのタイプのものを利用している。
とりあえず陽一はピアスタイプのものとネックレスタイプのものを購入していた。
「大丈夫です」
「えっと、ピアッサー……、買ってくるか」
さすがにこちらの世界でローブを羽織ったまま出歩くわけにもいかず、陽一は上はジャージのまま、下だけデニムに穿き替えた。
「悪いけど、留守番よろしく」
「うむ、任せておけ」
「はい」
すでに意思疎通の魔道具は実里に手渡しているので、アラーナとの会話は可能である。
もしかすると初対面同士で居心地の悪い思いをさせるかもが、一緒に住むのだから早めに慣れておいてもらったほうがいいだろうと思い、陽一はひとりで近くのディスカウントショップへ出かけた。
「お待たせ」
30分ほどでピアッサーを買って帰宅すると、陽一はアラーナと実里になにやら熱のこもった視線を向けられた気がした。
ふたりでなにを話していたのか気になるところだが、それを聞くのはなんとなく野暮な気がしたので、早速実里の耳にピアスを着けることにした。
「っつ……!!」
耳たぶに穴を開ける瞬間、少しだけ実里の顔が苦痛に歪んだが、それ以上どうということもなく無事ピアスを装着できたのだった。
購入した魔道具だが、最高級のものを用意した。
ピアスタイプのもので金貨5枚、ネックレスは金貨8枚だった。
実里に対するプレゼントの意味もあるので気合いを入れて高級品を買った、という気持ちがゼロではないが、どちらかというと性能を重視した結果である。
物によって精度が異なるということもあるが、重要なのは動力源であった。
魔道具である以上、その動力源として魔力が必要なはずである。
しかしこの世界に魔力はない。
にもかかわらず、アラーナのピアスは問題なく動作していた。
これを【鑑定+】で調べたところ、アラーナが身に着けていたピアスはピアスポスト(耳に通す針の部分)がミスリル製で、本体はオリハルコンでできた最高級品であることと、その動力の仕組みがわかった。
ミスリルは魔力伝導率が高く、オリハルコンは魔力を蓄積する性質がある。
この魔道具は使用者の魔力を、ミスリル製のピアスポストを通じてオリハルコンの本体に貯めるというかたちで動力を得ているのである。
ほかの金属でも魔力を通したり蓄積したりできないわけではないが、効率が悪くなるぶん消費魔力も大きくなるのだった。
実里はこちらの世界の住人のため魔力を持たない――実際には持っているがまだ陽一も本人も知らない――が、ピアス本体に蓄積できる魔力だけでもひと月、オリハルコン含有量が多いネックレスタイプなら半年ほどは使用可能なようなので、アラーナに魔力を貯めておいてもらっていた。
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