えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜
3-3 実里との再会と新たな問題
「つまり、あの仕事が嫌になったから俺のところに来た、と?」
「……はい。ごめんなさい」
実里はすべてを打ち明けるつもりで陽一のもとを訪れた。
抱きついた勢いで、すべてをぶちまけようとしたそのとき、部屋の奥から顔を出した銀髪の女性に目を奪われてしまった。
(綺麗な人……)
それはテレビや映画ですら見たことがないような、美しい女性だった。
ラフなジャージ姿でいることから、彼女が陽一と親しい関係であることも容易に伺い知れる。
虚を突かれ、勢いを失った実里は、一部を隠して事情を説明した。
――自分のように卑しい女が陽一のそばにいるのはふさわしくないと思い、なにも言わずに姿を消したが、いざ仕事に復帰しようとしたところ、どうしてもそれが嫌になったので、飛び出してきたのだと。
義弟のことや陽一に抱いた想いは伏せたままで。
「いや、べつに謝らなくてもいいよ、うん。嫌な仕事を無理に続けるのもアレだしね」
「迷惑……ですよね?」
実里はちらりと銀髪の女性を見た。
その女性は、自分の男のもとへ知らない女がいきなり訪ねてきたというのに、怒るそぶりも見せず、多少興味深げに実里と陽一の様子を見ているだけだった。
「ああ、いや……、どうだろ」
陽一もちらりと銀髪の女性――アラーナのほうを見た。
アラーナはきょとんと陽一を見返したあと、ニッコリと微笑んだ。
「まぁ、あれだ。俺を頼ってくれたのは嬉しいし、力にはなりたいと思うけど……」
そこで陽一がもう一度アラーナをちらりと見る。すると彼女はしかめっ面になった。
「なんだ、ヨーイチ殿。先ほどから煮え切らぬ態度ではないか」
そう言ってアラーナが口を開くと、それを見た実里が眉をひそめ、首を傾げる。
「いや、まぁ、その……ねぇ?」
続けて陽一がアラーナに返すと、今度は実里の目が大きく見開かれ、彼女はなにか言いたげに少し口を開けたが、ふたりの会話に口を挟むことに遠慮したのか、うつむいた。
「事情を察するに、その娘は妓楼から逃げてヨーイチ殿を頼ってきたのだろう?」
「あー、まぁ、そうなる……かな?」
「であれば、ここで見捨てるという選択肢はないと思うのだが?」
「そりゃそうなんだけどさぁ。でも、俺と実里ちゃんは、その……」
「べつに私はそこをとやかくいうつもりはないぞ」
「いや、最初はそうだったんだけど……」
「……ふむ、普通に男女の関係だったと?」
「えーっと……はい」
方便としてそこを偽ることもできたが、それはしたくなかった。
アラーナを前にそんなことを考えるのは不誠実だと自覚はしているものの。
「あの!!」
しばらく難しい表情で陽一とアラーナのやり取りを眺めていた実里だったが、意を決したように大きな声を上げ、その場で頭を下げた。
「迷惑なのはわかっています。でも、もうほかの男の人に触られるのは嫌なんです。お願いします。なんでもします。どんな立場でもいいから、私をここに置いてください」
「ちょっと、実里ちゃん!?」
陽一は実里とアラーナのあいだでオタオタと視線を行き来させていた。
「ヨーイチ殿」
「あ、はい、なんでしょ?」
慌てふためく陽一に対し、アラーナは随分と落ち着いているようだ。
「……ミサト殿、だったか? 彼女が先に関係を持っていたというのであれば、私のほうが側室ということでも一向にかまわんのだが」
「へ?」
陽一はオタオタしていた動きを止め、驚いた表情でアラーナを見た。
「いや、その……いいの?」
「いいもなにも、ふたりは愛し合っていたのだろう?」
「あ、いやぁ……まぁ、少なくとも、俺は……」
「ミサト殿の話を聞く限り、彼女もヨーイチ殿を愛していたのだろう。だからこそ身を引いたものの、結局恋焦がれてここに来たというわけではないのかな」
「そう、かなぁ」
陽一の頬がだらしなく緩む。
「どう聞いてもそうだろう。であれば、ここで彼女を拒絶するという選択肢はないと思うがな」
「その、アラーナはいいの?」
「私がどうこうより、ヨーイチ殿がどうしたいかだな」
「俺は……、実里ちゃんを見捨てたくない。その、アラーナの前でこんなことを言うのはどうかとも思うんだけど、俺はいまでも、実里ちゃんが好きなんだと、思う」
その言葉に、アラーナが優しく微笑む。
「なら決まりじゃないか。というか、最初から決まっていたのではないかな」
「あー、うん。そうかもね。でも、ありがとう、アラーナ」
「ふふん。べつに礼を言われるようなことではないがな」
そこで陽一は頭を下げ続けている実里の肩をポンと叩いた。
「というわけで、オッケーです」
実里はガバッと身体を起こし、陽一とアラーナを交互に見た。
涙をこらえていたのか、目は真っ赤に充血している。
「いいんですか?」
「うん。まぁ聞いてのとおりだけど」
実里が困惑したように首を傾げる。
「ようこそ。実里ちゃんさえよければいつまででもいていいよ」
「あ……あ……」
実里の目尻から涙があふれた。
「ありがとうございます!!」
実里は再び頭を下げ、肩を震わせながら泣き始めた。
アラーナが陽一の背中をポンっと叩き、視線で行動を促す。
陽一は実里の隣に座り、震える肩を抱き寄せた。
アラーナはその様子を、嬉しそうに眺めていた。
○●○●
「えっと、あらためて紹介しとくね」
実里が落ち着いたところで、自己紹介タイムとなった。
「実里ちゃん、こちらアラーナ」
実里は少し気後れしたような視線をアラーナに送った。
「アラーナ、こちら実里ちゃん」
「うむ、よろしくな、ミサト殿」
アラーナは悠然とした表情のまま、実里に手を差し出した。
実里はどこか戸惑った様子で、おずおずとその手を取り、ふたりは握手した。
「あの……陽一さん。アラーナさんのご出身は……?」
握手を終えたあと、実里が少し申し訳なさそうな様子で陽一に尋ねた。
「あー……」
ハリウッド女優顔負けの美貌に綺麗な銀髪のアラーナは、どう見ても日本人には見えない。
気になっても仕方がないことではあるが、さてどう説明したことか。
陽一はそう思い悩んでいたが、問題はまったく別のところにあった。
「英語なら……ちょっとはわかるんですけど、その、全然聞いたことない言葉だし」
「はい?」
「陽一さんも、すごく流暢に喋ってるので少し驚いたんですが……」
「え? え?」
どうやら実里は異世界の言葉が理解できないようである。
「そっか……【言語理解+】。ん? いや、待てよ……」
陽一は眉をひそめながらアラーナを見た。
「アラーナは実里ちゃんの言ってること理解できるんだよな?」
「無論だ」
「実里ちゃんはアラーナの言葉……というか、俺とアラーナの会話が理解できないらしいんだけど」
「ふむう。おそらくはこれのおかげかな」
アラーナは耳たぶにはめ込んでいる小さなピアスを、ピンと指で弾いた。
「それは?」
「意思疎通の魔道具だ」
異世界には多種多様な人種が存在する。
それこそ顔の形状が獣そのままのような者もいるのである。
そして、顔や口の形によってはどう頑張っても発音できない、種族固有の言葉というものがある。
そのため、異世界では意思疎通の魔道具を使って会話を行なうことが多い。
意思を直接汲み取るので、翻訳とは根本的に原理が異なり、そのおかげで異世界人であるアラーナにとって、日本語のような未知の言語にも対応できているのだ。
「つまり、念話みたいなもんってこと?」
「原理はな。長い年月をかけて改良に改良が重ねられ、いまは言葉を発した際の意思を正確に汲み取り、耳から聞こえるような錯覚を起こし、普通に会話しているのと変わらない状態を作り出せるようになっているのだ」
「じゃあ、機能を制限しなければ相手の心が読めるってこと?」
「ああ、いや、語弊があったな。私も専門家ではないので詳しいことは言えないが、言葉として発している意思と、例えば心の中だけで呟く意思というのは波長が違うとかなんとかでだな。言葉で発したことは比較的汲み取りやすいのだ」
「ふむふむ」
「私が言いたかったのは、昔は発している言葉と汲み取られる意思のあいだに多少齟齬があったのと、その汲み取った意志を直接頭に届けていたのが、いまはかなり正確に、かつ擬似的な音声として届けることができるようになった、というところだな」
説明しながら、アラーナはピアスを取り外し、実里に手渡した。
「どうだ、ミサト殿。私の言葉がわかるのではないか?」
意思疎通の魔道具は身に着けていれば効果を発揮する。
ピアスであっても、わざわざ耳に刺す必要はないのである。
アラーナの場合は行動の邪魔にならないという理由でピアスタイプのものを選んでいたのだった。
「え? え? なんで……?」
突然アラーナの言葉が理解できるようになった実里が、目を見開き、戸惑いの声を上げる。
「ふふ。それは意思疎通の魔道具だからな。かわりに私はミサト殿がなにを言っているのかさっぱりわからなくなったがな」
「まどう……ぐ……?」
実里は困ったような表情で陽一を見た。
「あー……」
まずいことになったと、陽一は頭を抱えた。
「……はい。ごめんなさい」
実里はすべてを打ち明けるつもりで陽一のもとを訪れた。
抱きついた勢いで、すべてをぶちまけようとしたそのとき、部屋の奥から顔を出した銀髪の女性に目を奪われてしまった。
(綺麗な人……)
それはテレビや映画ですら見たことがないような、美しい女性だった。
ラフなジャージ姿でいることから、彼女が陽一と親しい関係であることも容易に伺い知れる。
虚を突かれ、勢いを失った実里は、一部を隠して事情を説明した。
――自分のように卑しい女が陽一のそばにいるのはふさわしくないと思い、なにも言わずに姿を消したが、いざ仕事に復帰しようとしたところ、どうしてもそれが嫌になったので、飛び出してきたのだと。
義弟のことや陽一に抱いた想いは伏せたままで。
「いや、べつに謝らなくてもいいよ、うん。嫌な仕事を無理に続けるのもアレだしね」
「迷惑……ですよね?」
実里はちらりと銀髪の女性を見た。
その女性は、自分の男のもとへ知らない女がいきなり訪ねてきたというのに、怒るそぶりも見せず、多少興味深げに実里と陽一の様子を見ているだけだった。
「ああ、いや……、どうだろ」
陽一もちらりと銀髪の女性――アラーナのほうを見た。
アラーナはきょとんと陽一を見返したあと、ニッコリと微笑んだ。
「まぁ、あれだ。俺を頼ってくれたのは嬉しいし、力にはなりたいと思うけど……」
そこで陽一がもう一度アラーナをちらりと見る。すると彼女はしかめっ面になった。
「なんだ、ヨーイチ殿。先ほどから煮え切らぬ態度ではないか」
そう言ってアラーナが口を開くと、それを見た実里が眉をひそめ、首を傾げる。
「いや、まぁ、その……ねぇ?」
続けて陽一がアラーナに返すと、今度は実里の目が大きく見開かれ、彼女はなにか言いたげに少し口を開けたが、ふたりの会話に口を挟むことに遠慮したのか、うつむいた。
「事情を察するに、その娘は妓楼から逃げてヨーイチ殿を頼ってきたのだろう?」
「あー、まぁ、そうなる……かな?」
「であれば、ここで見捨てるという選択肢はないと思うのだが?」
「そりゃそうなんだけどさぁ。でも、俺と実里ちゃんは、その……」
「べつに私はそこをとやかくいうつもりはないぞ」
「いや、最初はそうだったんだけど……」
「……ふむ、普通に男女の関係だったと?」
「えーっと……はい」
方便としてそこを偽ることもできたが、それはしたくなかった。
アラーナを前にそんなことを考えるのは不誠実だと自覚はしているものの。
「あの!!」
しばらく難しい表情で陽一とアラーナのやり取りを眺めていた実里だったが、意を決したように大きな声を上げ、その場で頭を下げた。
「迷惑なのはわかっています。でも、もうほかの男の人に触られるのは嫌なんです。お願いします。なんでもします。どんな立場でもいいから、私をここに置いてください」
「ちょっと、実里ちゃん!?」
陽一は実里とアラーナのあいだでオタオタと視線を行き来させていた。
「ヨーイチ殿」
「あ、はい、なんでしょ?」
慌てふためく陽一に対し、アラーナは随分と落ち着いているようだ。
「……ミサト殿、だったか? 彼女が先に関係を持っていたというのであれば、私のほうが側室ということでも一向にかまわんのだが」
「へ?」
陽一はオタオタしていた動きを止め、驚いた表情でアラーナを見た。
「いや、その……いいの?」
「いいもなにも、ふたりは愛し合っていたのだろう?」
「あ、いやぁ……まぁ、少なくとも、俺は……」
「ミサト殿の話を聞く限り、彼女もヨーイチ殿を愛していたのだろう。だからこそ身を引いたものの、結局恋焦がれてここに来たというわけではないのかな」
「そう、かなぁ」
陽一の頬がだらしなく緩む。
「どう聞いてもそうだろう。であれば、ここで彼女を拒絶するという選択肢はないと思うがな」
「その、アラーナはいいの?」
「私がどうこうより、ヨーイチ殿がどうしたいかだな」
「俺は……、実里ちゃんを見捨てたくない。その、アラーナの前でこんなことを言うのはどうかとも思うんだけど、俺はいまでも、実里ちゃんが好きなんだと、思う」
その言葉に、アラーナが優しく微笑む。
「なら決まりじゃないか。というか、最初から決まっていたのではないかな」
「あー、うん。そうかもね。でも、ありがとう、アラーナ」
「ふふん。べつに礼を言われるようなことではないがな」
そこで陽一は頭を下げ続けている実里の肩をポンと叩いた。
「というわけで、オッケーです」
実里はガバッと身体を起こし、陽一とアラーナを交互に見た。
涙をこらえていたのか、目は真っ赤に充血している。
「いいんですか?」
「うん。まぁ聞いてのとおりだけど」
実里が困惑したように首を傾げる。
「ようこそ。実里ちゃんさえよければいつまででもいていいよ」
「あ……あ……」
実里の目尻から涙があふれた。
「ありがとうございます!!」
実里は再び頭を下げ、肩を震わせながら泣き始めた。
アラーナが陽一の背中をポンっと叩き、視線で行動を促す。
陽一は実里の隣に座り、震える肩を抱き寄せた。
アラーナはその様子を、嬉しそうに眺めていた。
○●○●
「えっと、あらためて紹介しとくね」
実里が落ち着いたところで、自己紹介タイムとなった。
「実里ちゃん、こちらアラーナ」
実里は少し気後れしたような視線をアラーナに送った。
「アラーナ、こちら実里ちゃん」
「うむ、よろしくな、ミサト殿」
アラーナは悠然とした表情のまま、実里に手を差し出した。
実里はどこか戸惑った様子で、おずおずとその手を取り、ふたりは握手した。
「あの……陽一さん。アラーナさんのご出身は……?」
握手を終えたあと、実里が少し申し訳なさそうな様子で陽一に尋ねた。
「あー……」
ハリウッド女優顔負けの美貌に綺麗な銀髪のアラーナは、どう見ても日本人には見えない。
気になっても仕方がないことではあるが、さてどう説明したことか。
陽一はそう思い悩んでいたが、問題はまったく別のところにあった。
「英語なら……ちょっとはわかるんですけど、その、全然聞いたことない言葉だし」
「はい?」
「陽一さんも、すごく流暢に喋ってるので少し驚いたんですが……」
「え? え?」
どうやら実里は異世界の言葉が理解できないようである。
「そっか……【言語理解+】。ん? いや、待てよ……」
陽一は眉をひそめながらアラーナを見た。
「アラーナは実里ちゃんの言ってること理解できるんだよな?」
「無論だ」
「実里ちゃんはアラーナの言葉……というか、俺とアラーナの会話が理解できないらしいんだけど」
「ふむう。おそらくはこれのおかげかな」
アラーナは耳たぶにはめ込んでいる小さなピアスを、ピンと指で弾いた。
「それは?」
「意思疎通の魔道具だ」
異世界には多種多様な人種が存在する。
それこそ顔の形状が獣そのままのような者もいるのである。
そして、顔や口の形によってはどう頑張っても発音できない、種族固有の言葉というものがある。
そのため、異世界では意思疎通の魔道具を使って会話を行なうことが多い。
意思を直接汲み取るので、翻訳とは根本的に原理が異なり、そのおかげで異世界人であるアラーナにとって、日本語のような未知の言語にも対応できているのだ。
「つまり、念話みたいなもんってこと?」
「原理はな。長い年月をかけて改良に改良が重ねられ、いまは言葉を発した際の意思を正確に汲み取り、耳から聞こえるような錯覚を起こし、普通に会話しているのと変わらない状態を作り出せるようになっているのだ」
「じゃあ、機能を制限しなければ相手の心が読めるってこと?」
「ああ、いや、語弊があったな。私も専門家ではないので詳しいことは言えないが、言葉として発している意思と、例えば心の中だけで呟く意思というのは波長が違うとかなんとかでだな。言葉で発したことは比較的汲み取りやすいのだ」
「ふむふむ」
「私が言いたかったのは、昔は発している言葉と汲み取られる意思のあいだに多少齟齬があったのと、その汲み取った意志を直接頭に届けていたのが、いまはかなり正確に、かつ擬似的な音声として届けることができるようになった、というところだな」
説明しながら、アラーナはピアスを取り外し、実里に手渡した。
「どうだ、ミサト殿。私の言葉がわかるのではないか?」
意思疎通の魔道具は身に着けていれば効果を発揮する。
ピアスであっても、わざわざ耳に刺す必要はないのである。
アラーナの場合は行動の邪魔にならないという理由でピアスタイプのものを選んでいたのだった。
「え? え? なんで……?」
突然アラーナの言葉が理解できるようになった実里が、目を見開き、戸惑いの声を上げる。
「ふふ。それは意思疎通の魔道具だからな。かわりに私はミサト殿がなにを言っているのかさっぱりわからなくなったがな」
「まどう……ぐ……?」
実里は困ったような表情で陽一を見た。
「あー……」
まずいことになったと、陽一は頭を抱えた。
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