えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜
2-6 気まずい訪問
はっと我に返った陽一は、めくっていた布団をかけ直し、慌てて寝室を出た。
そして、ドアフォンと連携させているスマートフォンのアプリを起動させる。
「花梨……!?」
スマートフォンのモニターにはマンションのエントランスにいる花梨の顔が映し出されていた。
「……はい」
アプリ上で『応答』をタップしたあと、陽一はできるだけ落ち着いた声で応えた。
『あ、陽一ー? あたし、花梨だけど』
「うん。どうした?」
『えっと……、前に住所教えてくれてたからさ、来たんだけど……、まずかった?』
陽一の声色からなにかを察したのか、花梨は少し申し訳なさそうに応えた。
「あー、いや……」
寝室の扉を見ながら、陽一は思案していた。
たしかにあまりいいタイミングとはいえない。
『あの、都合が悪いなら出直すよ……?』
(いまは出直してもらったほうがいいか?)
しかし、ここで花梨に帰ってもらったら、このあと自分はなにをするのだろうか。
先ほどは花梨が鳴らしてくれたドアチャイムのおかげで我に返り、一線を越えずにすんだわけだが、次はどうなるだろうか。
『……なんか、タイミング悪かったみたいね。次は事前に連絡入れるわ』
「待って!!」
思わず呼び止めてしまったが、なにか考えがあってのことではない。
しかし、呼び止めてしまった以上、やはり帰ってくれなどと言えるはずもなく――、
「と、とりあえず……上がって」
『いいの……?』
「……うん」
結局陽一は花梨を通してしまうのだった。
マンション入り口のオートロックを解除したあと、陽一は自分の股間が我慢汁で濡れていることを思い出し、花梨が部屋に到着するまでにパンツとズボンを穿き替えておいた。
さらに、玄関から寝室まで姫騎士が垂らした愛液が床を濡らしていたので、それも拭いておく。
――ピンポン。
今度は部屋のドアチャイムが鳴り、陽一は花梨を迎え入れた。
「いらっしゃい」
「うん……。急にごめんね?」
玄関に立つ花梨は、申し訳なさそうに眉根を下げて陽一を見上げていた。
「いや、いいタイミングで来てくれたよ、ホント」
「いいタイミング……?」
「ああ、いや、なんでもない。じゃ、あがって」
「うん、おじゃまします」
部屋に上がった花梨が一瞬眉をひそめたのだが、陽一はそれに気づかなかった。
「お茶でいい? コーヒー淹れようか?」
「ううん、お茶でいいよ」
陽一は冷蔵庫からペットボトルのお茶を2本取り出すと、リビングのソファに座ってもらった花梨の隣に腰かけた。
「ありがと。にしても、すっごい綺麗な部屋ねぇ。家賃とか大丈夫?」
「開口一番家賃の心配かよ」
「そりゃ心配もするでしょうよ。ずっとあの部屋に住んでた男がこんないい部屋に引っ越してんだもん」
「まぁ、仕事がうまくいっててね。当面は問題なさそうだから思い切ってさ」
「そっか」
取り留めのない会話をしているふたりだったが、双方とも落ち着きがない。
花梨はやたらと室内をキョロキョロと見回し、たまに陽一と視線が交錯すると慌てて顔を逸らす、というのを何度か繰り返していた。
陽一は寝室にいる姫騎士の存在を隠しているので、平静を装《よそお》いきれていないのだろうなという自覚はあったのだが、花梨の落ち着きのなさがどうにも腑に落ちない。
「ねぇ、陽一……」
しばらく雑談を続けていたふたりだったが、徐々に口数が減ってきたところで、花梨がふと切り出した。
「お邪魔だったら、あたし帰るよ……?」
そう言って陽一のほうを見る花梨は、心なしか頬が赤く染まっており、普段以上に目が潤んでいるように見えた。
「ど、どうしたんだよ、急に?」
「あの、さ……。陽一は気づいてないかもしれないけど……」
そこで一度言葉を切った花梨は、頬をさらに赤らめ、視線を陽一から外した。
「匂い、すごいよ……?」
「匂い?」
「うん。その……言いにくいんだけど、女の人の……エッチな匂い、っていうのかな……」
少しうつむき加減になった花梨が、申し訳なさそうに上目遣いでそう告げてきた。
「あー……」
言われてみれば、姫騎士はかなり汗をかいていたうえに、いろいろと大変な状態だったことを思い出す。
女性のほうがこういった香りには敏感だということもあり、花梨は部屋に入った瞬間から室内に充満する匂いの存在に気づいていたようだった。
「あの、さ。もしかして、いるの……?」
花梨が寝室のドアを見てそう言ったので、陽一は観念することにした。
「……うん」
その返事を受けた花梨は、慌てて立ち上がった。
「じゃ、じゃあ! あたし、帰るね!!」
うっすらと目尻に涙をたたえた花梨の手を、陽一は咄嗟につかんだ。
「待ってくれ」
「ちょ……、べつに、責めてるわけじゃないからっ!! あたしのことなんかほっといてさ、その――」
「だから待てって!!」
「ひっ……」
思わず怒鳴ってしまった陽一の声に、花梨は怯えたように身を縮めた。
「ごめん……、大きな声出して」
「……ううん」
少しこわばっていた花梨の身体から力が抜けるのを感じた陽一は、彼女の手首を離した。
「ちょっと、わけありでさ……。もし嫌じゃなければ、花梨には力を貸してほしい」
このまま花梨を帰してしまってはいろいろとまずいことに陽一は気づいた。
まず第一に、花梨に誤解されてしまうこと。
べつに恋人同士ではなく、どちらかといえば都合のいい身体だけの関係を続けているふたりだったが、身勝手な理屈であると理解しながらも、へんに誤解されるのは避けたかった。
第二に、ここで花梨を帰してしまってはまた姫騎士とふたりきりになってしまうということ。
先ほどは花梨がタイミングよく訪ねてくれたおかげで一線を越えずに済んだが、次はもう無理だろう。
一線を越えたところで姫騎士は文句を言うまいが、陽一のほうはそれなりに罪悪感を抱くことになりそうなので、できれば避けたかった。
となれば、ここはもう花梨に頼るのがいちばんいいのではないかと、様々な要因で少なからず冷静さを欠いた陽一はそう考えてしまった。
「とりあえず、見てもらったほうが早いか……。きて」
陽一は諦めたように、あるいは少し安堵したように息を吐いたあと、花梨を連れて寝室に入った。
「むぅ……、なに、これ……?」
寝室の扉を開けた瞬間、充満していた匂いに襲われた花梨が表情を険しくした。
なるほど、ここまで匂いが充満してしまえば、陽一にも花梨の言わんとしていることがなんとなく理解できた。
「この娘《こ》なんだけど……」
「……きれい」
眉をひそめていた花梨が、姫騎士の姿を見るなり表情を緩め、そう呟いた。
そして、ドアフォンと連携させているスマートフォンのアプリを起動させる。
「花梨……!?」
スマートフォンのモニターにはマンションのエントランスにいる花梨の顔が映し出されていた。
「……はい」
アプリ上で『応答』をタップしたあと、陽一はできるだけ落ち着いた声で応えた。
『あ、陽一ー? あたし、花梨だけど』
「うん。どうした?」
『えっと……、前に住所教えてくれてたからさ、来たんだけど……、まずかった?』
陽一の声色からなにかを察したのか、花梨は少し申し訳なさそうに応えた。
「あー、いや……」
寝室の扉を見ながら、陽一は思案していた。
たしかにあまりいいタイミングとはいえない。
『あの、都合が悪いなら出直すよ……?』
(いまは出直してもらったほうがいいか?)
しかし、ここで花梨に帰ってもらったら、このあと自分はなにをするのだろうか。
先ほどは花梨が鳴らしてくれたドアチャイムのおかげで我に返り、一線を越えずにすんだわけだが、次はどうなるだろうか。
『……なんか、タイミング悪かったみたいね。次は事前に連絡入れるわ』
「待って!!」
思わず呼び止めてしまったが、なにか考えがあってのことではない。
しかし、呼び止めてしまった以上、やはり帰ってくれなどと言えるはずもなく――、
「と、とりあえず……上がって」
『いいの……?』
「……うん」
結局陽一は花梨を通してしまうのだった。
マンション入り口のオートロックを解除したあと、陽一は自分の股間が我慢汁で濡れていることを思い出し、花梨が部屋に到着するまでにパンツとズボンを穿き替えておいた。
さらに、玄関から寝室まで姫騎士が垂らした愛液が床を濡らしていたので、それも拭いておく。
――ピンポン。
今度は部屋のドアチャイムが鳴り、陽一は花梨を迎え入れた。
「いらっしゃい」
「うん……。急にごめんね?」
玄関に立つ花梨は、申し訳なさそうに眉根を下げて陽一を見上げていた。
「いや、いいタイミングで来てくれたよ、ホント」
「いいタイミング……?」
「ああ、いや、なんでもない。じゃ、あがって」
「うん、おじゃまします」
部屋に上がった花梨が一瞬眉をひそめたのだが、陽一はそれに気づかなかった。
「お茶でいい? コーヒー淹れようか?」
「ううん、お茶でいいよ」
陽一は冷蔵庫からペットボトルのお茶を2本取り出すと、リビングのソファに座ってもらった花梨の隣に腰かけた。
「ありがと。にしても、すっごい綺麗な部屋ねぇ。家賃とか大丈夫?」
「開口一番家賃の心配かよ」
「そりゃ心配もするでしょうよ。ずっとあの部屋に住んでた男がこんないい部屋に引っ越してんだもん」
「まぁ、仕事がうまくいっててね。当面は問題なさそうだから思い切ってさ」
「そっか」
取り留めのない会話をしているふたりだったが、双方とも落ち着きがない。
花梨はやたらと室内をキョロキョロと見回し、たまに陽一と視線が交錯すると慌てて顔を逸らす、というのを何度か繰り返していた。
陽一は寝室にいる姫騎士の存在を隠しているので、平静を装《よそお》いきれていないのだろうなという自覚はあったのだが、花梨の落ち着きのなさがどうにも腑に落ちない。
「ねぇ、陽一……」
しばらく雑談を続けていたふたりだったが、徐々に口数が減ってきたところで、花梨がふと切り出した。
「お邪魔だったら、あたし帰るよ……?」
そう言って陽一のほうを見る花梨は、心なしか頬が赤く染まっており、普段以上に目が潤んでいるように見えた。
「ど、どうしたんだよ、急に?」
「あの、さ……。陽一は気づいてないかもしれないけど……」
そこで一度言葉を切った花梨は、頬をさらに赤らめ、視線を陽一から外した。
「匂い、すごいよ……?」
「匂い?」
「うん。その……言いにくいんだけど、女の人の……エッチな匂い、っていうのかな……」
少しうつむき加減になった花梨が、申し訳なさそうに上目遣いでそう告げてきた。
「あー……」
言われてみれば、姫騎士はかなり汗をかいていたうえに、いろいろと大変な状態だったことを思い出す。
女性のほうがこういった香りには敏感だということもあり、花梨は部屋に入った瞬間から室内に充満する匂いの存在に気づいていたようだった。
「あの、さ。もしかして、いるの……?」
花梨が寝室のドアを見てそう言ったので、陽一は観念することにした。
「……うん」
その返事を受けた花梨は、慌てて立ち上がった。
「じゃ、じゃあ! あたし、帰るね!!」
うっすらと目尻に涙をたたえた花梨の手を、陽一は咄嗟につかんだ。
「待ってくれ」
「ちょ……、べつに、責めてるわけじゃないからっ!! あたしのことなんかほっといてさ、その――」
「だから待てって!!」
「ひっ……」
思わず怒鳴ってしまった陽一の声に、花梨は怯えたように身を縮めた。
「ごめん……、大きな声出して」
「……ううん」
少しこわばっていた花梨の身体から力が抜けるのを感じた陽一は、彼女の手首を離した。
「ちょっと、わけありでさ……。もし嫌じゃなければ、花梨には力を貸してほしい」
このまま花梨を帰してしまってはいろいろとまずいことに陽一は気づいた。
まず第一に、花梨に誤解されてしまうこと。
べつに恋人同士ではなく、どちらかといえば都合のいい身体だけの関係を続けているふたりだったが、身勝手な理屈であると理解しながらも、へんに誤解されるのは避けたかった。
第二に、ここで花梨を帰してしまってはまた姫騎士とふたりきりになってしまうということ。
先ほどは花梨がタイミングよく訪ねてくれたおかげで一線を越えずに済んだが、次はもう無理だろう。
一線を越えたところで姫騎士は文句を言うまいが、陽一のほうはそれなりに罪悪感を抱くことになりそうなので、できれば避けたかった。
となれば、ここはもう花梨に頼るのがいちばんいいのではないかと、様々な要因で少なからず冷静さを欠いた陽一はそう考えてしまった。
「とりあえず、見てもらったほうが早いか……。きて」
陽一は諦めたように、あるいは少し安堵したように息を吐いたあと、花梨を連れて寝室に入った。
「むぅ……、なに、これ……?」
寝室の扉を開けた瞬間、充満していた匂いに襲われた花梨が表情を険しくした。
なるほど、ここまで匂いが充満してしまえば、陽一にも花梨の言わんとしていることがなんとなく理解できた。
「この娘《こ》なんだけど……」
「……きれい」
眉をひそめていた花梨が、姫騎士の姿を見るなり表情を緩め、そう呟いた。
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