学生時代

Me-ya

泣かないで、マイ・ラブ15

-彼と私は嘘の彼氏と彼女。

それは分かっている事だった。

-彼には好きな人がいる。

それも分かっている事だった。

なのに……………。

彼に優しく笑いかけられただけで。

彼に話しかけられただけで。

彼に名前を呼ばれただけで。

朝、一緒に歩くキャンパス内。

昼、学食で一緒に食べるランチの時間。

授業が終わり、一緒に帰る電車の中。

勘違いをしそうになる。

彼の楽しそうな笑顔や優しい話し声が嘘とは思えなくて。

………もしかして、彼も私を好きなんじゃないか、と。

思った事が何度もある。

でも。

それは、全て勘違い。

だって……………。

「………じゃ、今日は一緒に帰れないけど」

「……………うん、分かってる。水曜日だもんね……いつもの図書室に行くんでしょ?」

「うん。じゃ」

「……あ………今晩、LINEするから!!」

私の好きな笑顔で踵を返す治夫に声をかけた私に、振り返る事もなく手を振って応え、図書室へと走って行く後ろ姿。

-別に用事があったわけじゃない。

ただ、図書室へ行く前に立ち止まって私を振り返って見て欲しかっただけ。

ただ、それだけだった。

(………振り返るどころか、立ち止まる事さえしてくれなかったけどさ………)

………分かっていた事だけど。

-今日は水曜日。

治夫は図書室で、好きな人から送られた手紙を読み返す日。

いつも治夫はこの日になると、いそいそと1人で図書室へと向かう。

1回、私も治夫について図書室へ行こうとした事がある。

-その時の治夫の顔。

それまでの優しかった笑顔が嘘のように、表情をなくした瞳で私の顔を見た。

その時の治夫の顔………。

-ゾッとした。

頭を殴られたみたいに、一気に現実に返った。

それまでの浮かれた気分が、一瞬で吹き飛んだ。

-やっぱり、私達は嘘の彼と彼女。

-本当の彼と彼女にはなれない。

-なる事はできない。

それが現実。

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